1. はじめに
男女平等参画社会の実現に向け、世界ではさまざまな施策が進んでいます。1985年「国際婦人の10年最終年世界会議」がナイロビで開催され、「2000年に向けての婦人の地位向上のための将来戦略(ナイロビ将来戦略)」が採択されて以降、1995年には北京において「第4回世界女性会議」が開催され、「ナイロビ将来戦略」の第2回の見直しと評価を行うとともに、12の重大問題領域と戦略目標を掲げた「行動綱領」と世界の女性の地位向上をめざす「北京宣言」が採択されました。
国においては、「男女共同参画2000年プラン」が策定され、「男女共同参画社会基本法」が1999年6月に成立・施行されました。これを受けて、各地方自治体においても「男女平等基本条例」制定の動きが顕在化しています。
大阪市では、1998年3月に「大阪市男女共同参画プラン」が制定されましたが条例化には至っておらず、労働組合としてもひきつづき求めていかなければなりません。
このようななか、自治労は1995年の定期大会で、「男女がともに担う自治労計画」を策定しました。これは、中央執行委員や大会代議員等に女性が参画する目標を20%と設定し、その達成に向けて、努力をするというものです。この決定に伴い、自治労大阪府本部も1995年に委員会を設置し、1996年には、自治労の計画に沿って、大阪府本部における女性の参画推進計画を策定しています。大阪市職も同じく「男女がともに担う市職行動計画」を策定し、1999年度には、各支部での適正な女性参画の目標率を設定し、その実現にむけて第1期・第2期の各3年、計6年間で計画の達成を計るよう求めています。都市整備局支部でも「男女がともに担う支部行動計画」を策定し、2000年度から組合役員への女性の参画や、各種集会への女性の参加を促していきます。
以上のように、世界や国内やまた労働組合の場でも女性の積極的な参加、参画をうながす条件整備が進められています。
大阪市の女性の採用もここ数年増加しており、その影響を受け、都市整備局支部では、1989年には29人であった女性部の人数が、2000年4月には80人となりました。
しかし、私たちの職場は技術職員が多く、女性が増え続けた現在でも男性の比率が86%(大阪市職全体59.8%)とまだまだ男性の比率が多い職場となっています。このことは、業務配分の中で「男女間の役割分担意識」が生まれる土壌となっていました。
そんな中、ここ数年で3倍に増加した女性職員の職域拡大が求められており、事務職は「庶務関係」の仕事から企画立案的業務への移行や、技術職は、内勤中心の設計業務から外勤中心の工事監理への移行などの対応をせまられてきました。また、この10年間の職場内の変化は大きく、年齢間の意識の違いや、男性職員だけでなく、女性職員にもとまどいが生まれさまざまな問題点が生じてきました。
以上の点から、都市整備局支部は、男女間や年齢間の意識の差違を埋めていくため、管理職への問いかけの一方で、支部独自に女性職員の仕事のあり方や、ハード面の現場事務所等の改善、また、妊娠出産時における工事監理業務の検討会など各種の取り組みを行っています。
今回自治研集会で、都市整備局支部での取り組みを報告します。
2. 女性組合員の人数
1989年には、29人であった女性組合員の数は2000年4月現在80人となっております。その数の増加は、図1~3のとおりです。また、2000年度の全体の組合員数は、568名であり、内訳は事務職212人、建築職212人、電気職78人、機械職52人、土木職が14人となっています。そのうち女性職員80人の内訳は、事務職40人、建築職38人、電気職、機械職は各1人となっています。
従って、全体の女性の比率は14%であっても、事務職、建築職は約20%をしめており、とくに職域拡大が急務の課題となっています。
3. 取り組みについて
基本的な進め方として、
(1) 現在の女性のおかれている歴史について学習をし、今後の問題点について女性部全員の共有化をはかる。
(2) 男性も含めた職員全員のアンケートを実施し、問題点の整理を図る。
(3) アンケート等からでた結果に基づいて各種学習会を開催する。
(4) 外勤のための職場環境の問題点を整理し、改善を図る。
以上4点を柱に下記のとおり取り組みを行ってきました。
1995年10月31日の第14回支部年次大会で、「男女共同共生社会づくりの推進と運動の拡大について」が承認され、運動拡大のために「女性問題研究会(仮称)」の設置が提案、確認されました。「女性問題研究会(仮称)」はその後の自治研推進委員会で「男女共生研究会」と名称を変更し、上記の4点の柱をもとに学習会やアンケートを実施してきました。
まず1995年度は、女性間の問題意識のずれを解消するため、女性をとりまく世界情勢や国内情勢、またこれらを基に大阪市はどのように歩んでいこうとしているのか、また、労働組合のスタンスはどうなっているのか、女性部全員を対象に数回に分けて勉強会を開催してきました。講師は「男女共生研究会」の中から選出し、身近な問題も含めて学習し、女性組合員の意識の共有化を図りました。また、この学習会には男性も出席し、さまざまな観点からの意見交換会を行いました。この意見交換会で、男女の意識の違い、また、男女を問わず年齢による意識の違いがあるということがはっきり解りました。
男女共生研究会では、これらの意見と自治労のアンケートを参考に同じく1995年に全職員を対象に「男女協働共生社会に向けての組合員意識調査」を実施しました。このときのアンケート調査では女性職員が男性職員の1割弱しかいなかったため、本当に組合員全体の実状や、意識調査ができるか懸念されてはいましたが、予想以上の成果を得る事ができました。
このなかで、まだまだ、役割分担意識が浸透している事、長時間労働にはばまれ、家族的責任と就労的責任をお互いに背負うことが困難になっていることもクローズアップされました。今後はこれらを基に組合員のニーズにあった学習会を開催していく事としました。
1996年度からは、アンケートを基にした学習会の開催や、長時間労働が、男女共生を進めるためにネックになっているという回答が多かった点から、「どうすれば時間外労働が減らせるか?」というテーマで自治研究推進委員会や男女共生研究会の中で討論してきました。具体的には時間外労働が1ヵ月40時間を越えるときや、ノー残業デーの事前協議の徹底・事務の改善・業務を進めるための係員会議でのスケジュール調整の取り組み・パーソナルコンピュータの活用などについて問題点や今後の方向性について討論しました。
また、学習会開催にあたっては、いろいろな意見の人がいてこそ男女共生社会につながる事を基本におき、できる限り参加型で行う事としました。
学習会は次のとおりです。
● 1996年
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「性差について」「現代日本の女性と男性の意識と課題」「役割分担意識再考」「社会的な私と私の内側」の4つを柱に学習会を開催。
生まれたばかりの赤ん坊では、男と女の違いはたいしてないが、親からのしつけや回りの環境などにより「女らしさ」「男らしさ」などが形成され、それが、持って生まれた男女の違いと思い込んでいる事が多い事。固定的な役割分担意識は、お互いにその状況に満足しているのであれば関与しない方が良いが、個人の人格や特性を無視した役割分担は、今の時代に合わない。これからは適切な役割分担が必要であり、固定的・古典的役割分担の払拭が必要としめくくった。
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● 1997年
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「男女共生フォーラム これが私の生きる道?」と題して、ロールプレイング方式で役割固定の3人(①仕事一筋、滅私奉公型タイプ・②優柔不断でどちらにもなびくタイプ・③ジェンダーを自覚しており、5時から以降は私の時間)のパネラーを演じ、この3人が「どんな時に年休をとるか」「つきあい残業も含めて、時間外労働についてどう考えているか」「パソコン導入についてどう思うか」というテーマで意見をたたかわせ、それを聞いている参加者にもそれぞれ意見を求めていく参加型学習会を開催。
大学の助教授を講師に招き、客観的な立場から参加者の意見をまとめていただきながら、大きくは地方分権の話や、自治体行政の改革についてもふれていただいた。「これが私の生きる道?」では明確な答えはないが、1人の中にも上記の3人が混在している状態があり、さまざまな生き方をお互いが認め合い、理解しながら、支え合うことが肝要である。学習会を開催する事や、また支部で発行する情報紙などで意見を提供する事により、一人ひとりが「共生」を考える時間を持つ事に意義があるとした。
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● 1998年
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普段職場でみかける光景を客観的に見て、どうすればいいのか意見をだしてもらうため、自主ビデオを作成し、職場の状況(①仕事中に保育園から電話があり、急遽女性職員が帰宅を迫られたとき、②仕事で急遽時間外労働(とくに帰宅が何時になるかわからない場合)を必要としたとき、③都道府県や国など上部組織が法律を改定し、今までには無い決裁を作成しようとするとき)・宴会の状況(①仕事が終わってちょっと1杯……というとき)を題材に学習会を開催した。
ビデオは脚本・演出・出演を男女共生研究会のメンバーで行う事により、メンバー自身の学習効果も高く、また、学習会参加者を小人数・男女役割分担意識の強い傾向にある35歳以上の組合員を対象に意見交換会を行う。 すべての状態に正解はないものの、何気なく見過ごしている状態が多く、活発な意見交換会となった。参加者からの希望は、年齢層の若い人がどう考えているか意見交換したいというものが多数を占めた。
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● 1999年
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1999年4月に改正男女雇用機会均等法が施行され、セクシュアルハラスメントについて事業主に配慮義務が盛り込まれた。支部でもセクシュアルハラスメントについて考えるため、「セクシュアルハラスメント」のビデオを鑑賞後ワークショップ方式で、問題点について意見交換を行った。ワークショップ方式は小人数で意見交換ができ、また後で全員に発表するため、問題点がたくさん指摘され、どちらかといえば環境型のセクシュアルハラスメントについて質問が多く出た。男性がセクシュアルハラスメントであると認識していなくても、女性は不快感を持っている場合もありお互い意見交換を行った。
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また、職域拡大で1993年度から、内勤中心の設計業務であった女性技術職員(建築)が外勤中心の工事監理業務に配属されました。男性ばかりの職場に女性が配属される事により、被服や現場事務所のあり方が問われるようになりました。
被服は女性用作業服は作られていたものの、形・デザインの改善をさせるとともに、サイズの豊富化や女性には貸与されなかった夏用長袖シャツの支給も勝ち取ってきました。安全靴は小さいサイズがないため、既製品を加工させて急場をしのぎ、今後は小さいサイズの安全靴をつくるよう改善を図ってきました。
現場事務所については、女性技術職員が担当する事務所のみ、応急的に更衣室に鍵をつけたり、外部の便所に囲いを設けたり、歩く動線を考え便所の男女の位置替え等で対応してきました。
しかし、工事課に配属される女性の数が増加すると同時に現場間の異動もあり、男性の現場を女性が担当するとまた、急遽対応策をとらざるを得ないという問題点も多数報告されるようになりました。そこで、1997年から職場環境改善を視点に置き、女性が働きやすい職場環境は当然男性も働きやすいとの考え方から、建築工事標準仕様書が改訂される時期に合わせ、検討会議を開催し、職場環境の改善を図る事としました。
具体的には女性技術職員を中心に20㎡程度の現場事務所を対象として問題点を抽出しました。その後担当課長と協議を行い、現場事務所の大きさで問題点を整理の上、標準仕様書を改訂しました。特に事務室のあり方や更衣室及び便所は男女別に事務所内に2ヵ所設けること、階段の手すりや階段の裏に目隠し用の板張りを施すこと等を盛り込んだ形で、標準仕様書を改訂しました。
このことにより今までの監理事務所のあり方が問われ、更衣室や便所の問題だけでなく、事務室の面積や備品等の整理も同時に行う事ができ、現在は女性だけでなく男性にとっても快適な職場環境となり効果が上がっています。
工事課の主な業務は現場監理であり、工事中の現場に妊婦が立会するのは極めて危険なことから妊娠中の業務を整理するために、現在は「工事課女性技術職員職場条件整備検討委員会」を設置して、工事課で女性職員が妊娠した場合の仕事のあり方について検討を行っています。
検討委員会のもとに、工事課の職員で構成したワーキンググループで工事課の業務の内容や、その中で危険な業務はどのくらいを占めているのかをレポートとしてまとめています。このレポートをもとに労働組合と職制とで設置している検討委員会で、妊娠中の業務内容を検討していきます。検討委員会は外勤中心の工事課から女性を締め出す事無く、安心して妊娠・出産に取り組みながらかつ家庭的責任と就業的責任を果たすにはどうあるべきか議論を進めています。
4. 今後の取り組みについて
以上のような経過を踏まえながら、私たちの職場では少しずつではありますが、成果をあげており、いかに男女が共生して家庭的責任・就業的責任を担っていくかをテーマに取り組んでいます。
前記の「工事課女性技術職員職場条件整備検討委員会」はともすれば女性を職場から締め出してしまう結果がでてしまう可能性を秘めているからこそ、労働組合としても主体的に取り組み、働く環境づくりや職域拡大に取り組まなければなりません。
支部は、要員交渉のさい、①女性のあとは必ず女性を採用すること、②女性技術職員の職場の条件整備を整えること、③企画立案業務に女性の参画を促すこと等を職制に対して訴えてきました。今までの要員交渉の成果もあり、この間「女性の後は女性の採用を」というのはもちろんのこと女性の採用は私たちの職場を見る限り増加傾向にあります。
また、支部が策定した「男女がともに担う支部行動計画」では、①大会代議員は総数として代議員の女性の比率を20%とすること、②支部委員は総数として15%以上の女性参加をめざすこと、③各種集会・会議・講座の参加は各班の構成比率に見合った女性参加を要請すること、④各種集会・会議・講座を分煙とし、女性が参加しやすいよう早期の日程周知や、終了時間の明記など行うこと、⑤各種上部団体にも職場の構成比率にあった女性の参加をめざすこと等が提案され、可決・決定しています。今後はこの計画にもとづき、第1期として2000年9月から2003年8月まで取り組みを進めます。また2003年9月から2006年8月には第1期の進捗状況を把握、公表するとともに課題整理を行います。
そのほか育児休業制度が法律化されることにより、出産しても退社することなく働きつづける女性も増え、「大阪市男女共同参画プラン」に基づき、長期雇用が増えた結果として、女性の管理職も増加しています。
男女が共生していく社会の先には、全ての人が「共生」できる社会が広がっています。そのためにはお互いのさまざまな生き方を認め合い、支えあうことが重要であります。
組合員全員が現状を認識し、「総論賛成・各論反対」になることなく自ら進んで「役割分担」を払拭し家庭的責任と就業的責任を男女ともに築いていけるよう今後いっそう取り組みを強めます。
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