自治労「アジア子どもの家」プロジェクト
― 名古屋での取り組み ―

愛知県本部/自治労名古屋市労働組合・アジア子どもの家プロジェクト

 

1. 「アジア子どもの家プロジェクト」のスタート

<動員型から自主的参加の運動へ>
 「プロジェクト」のきっかけは、自治労の「子どもの家」事業(ベトナム・ラオス・カンボジア)であった。この事業は、労働組合による国際連帯/支援活動に新たな質をもたらした、と言える。
 95~96年の事業開始の時期に、中央本部による調査や「まんが集団」のベトナムツアーに自治労名古屋から組合員が参加した。帰国後、ツアー参加者と市立図書館勤務の組合員がカンボジアやラオスの現状を話し合う中で、「子どもの家」を通した具体的な活動をスタートさせよう、ということになった。96年10月のことであった。
 運動を始めるにあたり、従来の動員型の運動ではなく、関心のある組合員の自主的な参加による活動を目指すことにした。そのため組合内ボランティア組織として、加入手続きも、規約も、代表者もつくらなかった。
 具体的な活動の内容としては次の項目があげられた。
 Ⅰ 図書館活動の支援のため絵本を送る。そのために組合員の家庭にある絵本を集める。
 Ⅱ 現地へのスタディツアーを行う。
 Ⅲ 廃車予定の移動図書館車を、必要としている国に寄贈する。
 Ⅳ SVA(シャンティ国際ボランティア会)のクラフト商品の販売などにより活動資金を確保する。
 例会として月2回(現在は月1回)夜間に設けたが(会場は組合本部)、絵本の翻訳シール貼りを中心とすることは現在も同じだ。例会への参加は自由。毎回10名前後が参加している。毎回の例会の前にニュースを発行し、一度でも参加したことがある組合員に配布している。
 自治労名古屋の場合、局ごとに支部をつくっているが、「プロジェクト」の参加者はいくつかの局にまたがり、組合全体の横断的な活動の場になっている。

2. だれもが参加できる運動

<絵本にシールを貼る/絵本を仲立ちに子どもたちと触れ合う>
 ラオス・カンボジアを訪れた組合員から伝えられたのは、不足している児童書の状況だった。それは自治労の「子どもの家」でも同じだ。現地で出版される児童書も、これを子どもたちに伝える役割の図書館も、書店も極めて少ない。
 しかし言葉の問題があるので、ただ日本から本を送ればいいというものではない。そこで「子どもの家」の運営で自治労と提携しているSVAが作成していた翻訳シールを使うことにした。翻訳シールとは日本語絵本の文字部分の形に合わせて、ラオス語またはカンボジア語に翻訳したものだ。これをコピーし、文字部分を切り取って絵本に糊付けする。現地で子どもたちに読まれることを想像しながら…。
 翻訳シールを貼ることは誰でもできるので、機関紙などで取り上げられるうちに参加者が増え、県内の自治労の他組合からの参加者もでてきた。また夜の例会には出られなくても家庭でシール貼りをやってみたい、という希望も寄せられるようになった。最近では市民からの問い合わせや見学希望も出ており、どのような接点を持っていくかが課題である。
 翻訳シールが用意されているのは約50タイトルの絵本で、組合員に呼びかけて家庭で眠っているこれらの絵本をカンパしてもらった。しかしカンパだけでは絵本が十分揃わないので、購入資金を確保するためにSVAのクラフト商品の販売を、組合の催しの際に行うようにした。

3. 絵本を送る運動の意味を確認

<スタディツアーで理解と友好を深める>
 これまで97年にカンボジア、98年と2000年にはラオスへスタディツアーを開催し、組合員が絵本を「子どもの家」やSVAの現地事務所に届けた。図書室で、移動図書館で、スラムや農村の小学校でのお話会で、翻訳シールを貼った絵本が子どもたちに歓迎され、活発に利用されていることを実際に見て、絵本を送る運動の意味を確かめることができた。あわせて見学だけではなく、大型紙芝居や人形劇の人形などを現地スタッフや子どもたちと共同で制作することを通して交流することができた。
 2000年のツアーでは、現在進めている移動図書館運営支援も含めた今後の協力のあり方を考えることもあり、ラオスの図書館事情を調査することを目的の1つとした。ラオスでは地方自治体による公共図書館設置が法制化されておらず、また国立図書館でさえ図書の不足に悩んでいることがわかった。一方、図書館職員による子どもたちへの絵本の読みきかせや様々な行事は、名古屋の市立図書館よりずっと活発に行われており、ツアー参加者の大半が図書館勤務であったことから学ぶところが大きかった。

4. 物だけでなく運営の支援を

<移動図書館車の寄贈とその運営支援>
 97年には市立図書館で移動図書館車が買い替えになることから、廃車となったマイクロバスをラオス国立図書館に寄贈した。ラオスでは地域の公共図書館がきわめて少ないため、国立図書館が首都周辺の農村を移動図書館で巡回している。従来使っていた車両が不調なため、寄贈したバスはその代わりになるものだ。
 通常は廃車となる車両は売り払いとなるところを、名古屋市当局も趣旨を理解し、無償譲渡としてくれた。ただ輸送費と補修費が必要なことから、組合員にカンパを募ったところ予想以上の額が集まった。
 移動図書館車は自治労名古屋「まんが集団」によって楽しく動物の絵が塗装し直され、現地で子どもたちに親しまれていることは、スタディツアーで確かめることができた。
 また移動図書館の運営を継続して支援するために、会員制の「ラオスの移動図書館を支える会」を結成した。

5. 共に学び合う/双方向の交流

 スタディツアーを重ねる中で、私たちが日本から訪れるだけでなく現地スタッフにも日本に来てもらおう、という構想がふくらんできた。
 実現したのは今年の2月。愛知県本部再建10周年の記念事業としてであったが、「プロジェクト」はその中心となって準備・受け入れにあたった。来日したのはラオスSVA事務所の図書館担当スタッフで、約10日間にわたって名古屋市と常滑市で図書館を中心に研修した。市立図書館で子どもたちに「おはなし」をしたり、図書館職員といっしょに紙芝居の講義を受けたり、多彩な研修スケジュールをこなした。私たちがラオスの図書館活動に学ぶものがあったのと同様に、彼女にとってこの研修が大きな刺激になったことは今年6月のツアーの際に聞くことができた。
 共に学び合う関係は、一方的なスタディツアーによる訪問ではなく、双方向の交流により初めて深められていくのではないか。こうした双方向の交流は財政的には困難も多いが、得るものの大きさは計り知れない。継続的に実現できる体制の検討が課題と言えよう。
 またカンボジアやラオスは人材育成が大きな課題であり、日本への研修とともに日本からの長期人材派遣を望む声がある。そうした支援に応える体制整備として、長期ボランティア休暇制度の確立も新たな課題である。

6. 今後の方向と課題

 引き続き、翻訳シールを貼る「絵本を送る運動」と、絵本購入資金の確保のためクラフト商品の販売を行っていきたい。並行して参加者の拡大、県内他組合の組合員や市民・NGOとの共同作業を追究していく。ラオス・カンボジアとの双方向の交流の継続のほか、具体化しているわけではないが共同運営の拠点(図書館)づくりの可能性を考えていきたい。そのために県本部・中央本部と連携をとりながら活動を進めていく。
 また自治労名古屋のアンケート(資料1)に見るように、組合員には多様な問題意識がある。そうした組合員の思いを実現するために、労働組合が環境整備をしていくことが求められる。労働組合運動の新たな広がりのためにも、自治労本部が組合員の自主的活動を支援することを望みたい。「子どもの家」事業に関して言えば、全国の単組やグループで支援の活動をしている例はかなりの数になっていると思われる。一度、国際交流にかかわっている自治労単組・グループの意見交換と交流の場をつくっていただければ、と考えている。

参考資料1


ラオスにおける教育・図書館の現状

1. ラオス人民民主共和国(Lao People's Democratic Republic)の基本指標(99)
 ○ 面 積:23.68万平方キロメートル(日本の本州の面積程度)
 ○ 行 政:16県、1特別市、1特別地域(141郡-10,089村-799,000世帯)
 ○ 人 口:総数5,091.1千人(男2,516千人、女2,575千人、人口密度21人/平方キロ)
      年齢別 0-4  801.4千人(15.7%)、5-14 1,450.2千人(28.5%)
          15-64 2,648.9千人(52.0%)、65以上  190.6千人( 3.7%)
      首都ヴィエンチャン 583千人
 ○ GDP:国民1人当たり98GDP:261$(タイ 1,834$、日本34,302$)
      GDP99実質ベース:1,065,817Mi11.kip(成長率7.0%)
 ○ 産業構造:(GDP99実質ベース)農林水産業52.2%、製造業22.0%、サービス業25.2%、(農業人ロ85.5%(95、10歳以上))
 ○ 国家財攻:(99-00経済社会計画)経済成長率5%
       歳入規模1兆6,800億KIP、歳出規模2兆7,000億KIP
 ○ 為替レート:1$=7,850KIP(00.6)
2. 教 育

事       項 1985年 1990年 1995年 1999年
小学校 箇所 7,470 6,316 7,591 9,204
先生・千人 18.1 22.0 24.6 27.0
中学校 箇所 495 682 705 748
先生・千人 4.5 7.4 7.7 7.7
小中学校 生徒・千人 564.6 662.2 842.0 1,019.8
高校 箇所 68 119 129 178
生徒・千人 20.1 33.3 44.6 62.6
先生・千人 1.4 2.6 2.8 3.3
大学 箇所 8 3 3 1
学生・千人 5.2 3.4 4.3 7.4

 (1) 教育制度は、5(小学校、6歳から)、3(中学校)、3(高校)、4(大学)制で義務教育は5年である。(公的教育費:1996年対GNP比2.5%)
 (2) 小学校は、全体の85%の村に建設されているが、5年制の整備された学校は43%にとどまっている。これは旧体制では農村部の多くが6年制のうちの前期3年制の学校が多かったことや資金不足で改善が困難、交通手段等がないために2~3年でやめてしまうなどの事情によるといわれる。(学校施設はスタディツアーで見た限り整っていない。)このような現状から、学校整備に向けた環境づくりが大きな課題となっている。なお、中学校を設置している村は11%である。
 (3) 就学率は年々高まっているが、出席率は低く、中退する者が多く小学校を卒業する者は入学時の42%にとどまるという(*95-96)。
   なお、識字率(97-98、15歳以上)は男性82%、女性55%で農村部で低い。
   *小学校1年入学(100)→小学校修了(42)→中学校進学(38)→中学校修了(20)→高校進学(16)→高校修了(9)
 (4) 教員は、各県に均等に配置する方針だが、県内は必ずしもそうなっていない。
 (5) 学校等教育にかける時間は、都市部で4時間、地方では2~3時間程度である。
 (6) 教科書はほとんどの村で使用されているが、地方によっては困難なところもある。
3. 図書館
 (1) 図書館の現状は下記のようになっている(学校図書室も含めた数値とみられる)。

事       項 1985年 1990年 1995年 1999年
図書館 箇   所 24 70 76 107
冊数・千冊 47 257 54 273
巡回文庫 箇   所   300 1,897 3,933

 (2) 学校図書館はもちろんのこと、公共図書館整備の遅れは著しい。また、図書数の絶対的不足に見舞われている。
 (3) 巡回文庫は図書館の不足を補う役割を果たしており回数は多いが主として首都付近の巡回となっている。
 (4) これらの現状は予算不足、出版事情が良くないなどの要因によっていると思われる。自治労名古屋と立川市職労が国立図書館に送った移動図書館車は大いに活用されているが、ラオス全土でのハード、ソフト両面に渡る図書館整備が課題となっている。
 (5) 国立図書館が行っている移動図書館サービス(94年7月に開始)
  ○ 99年末までに20ヵ所で行ってきた。(現在5ヵ所で実施中)
  ○ 20ヵ所の実績:利用者61,731人、貸出サービス9,860人、登録会員1,851人
  ○ 99年の実績:利用者19,176人、貸出サービス2,198人、登録会員 514人
  *移動図書館車・名古屋号の書籍数881冊(ラオス語339冊、タイ図書238冊、日本図書250冊、英語図書54冊)
   なお、国立図書館は、蔵書数300,000冊、職員46人、予算13.6万ドルで運営されているが、ラオスの図書館ネットワークの中心としての役割を担っていくには多くの課題が横たわっているようだ。
 (6) そのため、ラオス政府は、まず、全小学校に「図書箱」を配付するという「読書推進運動」に力を入れるとして5ヵ年計画(1996~2000年度)で実施することとしてきた。計画の進捗率は経済的危機等の影響もあって高まらず(現在5,300校に配置)、さらに計画期間を3ヵ年延長して取り組むとしている。
  (この資料は、スタディツアー調査、ラオス政府統計、SVA、JETRO、OVTAなどの資料により作成)

 

参考資料2


自治労名古屋「アジア子どもの家」プロジェクトの主な活動経過

1995. 自治労国際連帯事業(自治労結成40周年記念事業)としてベトナム・カンボジア・ラオスに「子どもの家」を建設することを決定、事業着手に入る。
 *ベトナム(ハイフォン) 「子どもの家」…95.8.12開所
 *ラオス(ヴィエンチャン)「子どもの家」…96.7.9開所
 *カンボジア(プノンペン)「子どもの家」…97.5.6開所
1995.5.14~23 自治労「アジア子どもの家」プロジェクト調査団(ラオス、カンボジア)に参加(1名)
1996.2 自治労まんが集団の「お絵かき教室」カリキュラム作成のためのベトナムスタディツアーに参加(1名)
1996.2 教育支部が「アジアの図書館を考える集い」を開催
1996.10 教育支部として、絵本を贈る運動の取り組みを開始
1996.10 自治労名古屋「アジア子どもの家」プロジェクト設置
 *毎月、定例日を設け、絵本の翻訳シール貼り作業等を行う
 *その後、他単組、市民も参加
1996.11 カンボジアへ絵本を贈る運動(翻訳シールを貼付)開始
1996.11.10~15 大都市共闘総務部会ベトナム・子どもの家スタディツア-に参加(1名)
1996.12 カンボジア・子どもの家に自主訪問(2名)
 *カンボジア子どもの家へ絵本20冊を持参
1997.4.23 講演会「ラオスの図書館活動から見えるもの」(講師:SVAヴィエンチャン事務所長吉川健治さん)を開催
1997.6.23~30 カンボジア・子どもの家スタディツアーを実施(8人参加)
 *翻訳シールを貼付した絵本150冊持参
 *移動図書館活動用バイク募金に協力
 *紙人形劇
1997.7.5~14 自治労まんが集団のベトナム・子どもの家スタディツアーに参加(2名)
1998.3 ラオスに贈る移動図書館車の改修・ラオス輸送経費カンパ活動(361,334円)を実施
1998.3.28 移動図書館車船積み(5月ラオス着)
1998.6.1~8 ラオス・子どもの家スタディツアーを実施(7人参加)
 *移動図書館車贈呈式
 *移動書館車活動運営資金カンパ
 *翻訳シールを貼付した絵本250冊持参
 *大型紙芝居ワークショップ
 *こどもやスタッフとの交流
1999.4 翻訳シールを貼付した絵本100冊をラオス・子どもの家へ送付
1999.6 「ラオスの移動図書館車を支える会」を結成。運営資金協力カンパ活動を開始
1999.10.26 カンボジアからのストーリーテラー、マオ・チャントンさんの講演会を開催(アジア絵本を届けるみんなのキャラバン活動の一環)
1999.12.23~31 ラオス・子どもの家を自主訪問(5名)
 *翻訳シールを貼付した絵本60冊持参
2000.1.31 自治労愛知県本部10周年記念事業としてラオスから図書館研修としてブアチャン・タナボンさん(SVAスタッフ)を招く。その主軸となって取り組む。
2000.5.11 ラオスからのストーリーテラー、ミンチェンさんの講演会を開催
(アジア絵本を届けるみんなのキャラバン活動の一環)
2000.6.26~7.3 ラオス・子どもの家スタディツアーを実施(8人参加)
 *翻訳シールを貼付した絵本、画集等150冊持参
 *移動図書館調査
 *図書館、大学図書館等の調査
 *子どもの家での交流
 *国立図書館スタッフとの意見交換会
 *SVAスタッフとの意見交換会
2000.7.4 ラオス政府情報文化省大臣から自治労名古屋に感謝状の授与

 

参考資料3