1. はじめに
2000年2月3日、東京都は「平成11年度包括外部監査結果報告」を発表しました。この外部監査は、東京都包括外部監査人 筆谷勇氏(公認会計士)により実施されたものです。この報告について、「無駄が多い実態が浮き彫りに」等と報道されました。
2. 外部監査制度の導入
外部監査制度は、1997年6月の「地方自治法の一部改正」により導入されました。都道府県、政令指定都市、中核市については、実施が義務づけられており、区市町村については、条例を定めることにより、任意に導入することが可能な制度です。
外部監査制度の導入は、「地方分権の推進に伴い、国が行ってきた地方公共団体の行政に関与が減少するとともに、地方公共団体の自己決定、自己責任が強く求められることとなり、地方公共団体の行政を執行する体制の整備が必要とされている。『監査機能の充実』については、これまでも地方分権の推進との関連において議論されてきたものであり、今回の改正もこうした流れの中で、地方制度調査会での論議等を踏まえ、今回の制度化が図られたものである。」と説明されています。
当時、カラ出張、カラ会議などの予算の不適切な執行がマスコミで報道され、しかも監査事務局での不適切な執行も報道されるなど、監査機能の充実が求められていたことも制度導入の背景にあります。
東京都においても、住民参加制度研究会報告書(1996年8月)などで、外部監査制度の研究が行われていましたが、今回実施された外部監査は、東京都が独自に導入したものではなく、国の法改正を受けて導入されたものです。
そして、平成11年度第1回都議会定例会で東京都外部監査契約に基づく監査に関する条例案が可決されました。
東京都が実施する以前に、国の法改正を受けて、山梨、広島、北海道では平成10年度から実施されています。
3. 外部監査制度の概要
外部監査は、「地方公共団体の組織に属さない外部の専門的な知識を有する者により監査を行うことで、監査機能の独立性・専門性を一層充実する。」「外部の目を導入することにより、地方公共団体の監査機能に対する住民の信頼が向上することが期待される。」とされています。
外部監査制度は、地方公共団体と外部監査を受ける外部監査人(一私人)により、当該地方公共団体が監査を受ける制度です。
おそらく、行政機関から独立した立場で行う監査が外部監査、行政機関自身が行う監査が内部監査という考え方なのだと思われます。
従来の監査委員も議会の同意を得て首長が選任するものであり、行政委員会として独立性をもっているはずですが、外部監査の導入にあたって、監査委員による監査は、内部監査に位置づけられるものと考えられます。
4. 監査対象
外部監査には、包括外部監査と個別外部監査があります。今回、東京都が実施したのは、包括外部監査です。
外部監査の対象は、<表1>のとおりであり、包括外部監査の財務監査のみが法律により東京都に義務づけられています。東京都では、外部監査に積極的に取り組むため、任意で行う財政的案所団体等に対する監査及び全ての個別外部監査を、条例により導入しています。
包括外部監査について、実際にどの業務を監査するかは、契約した外部監査人が東京都の財務・組織等を調査した上で、必要と判断したものが対象になります。
<表1>
外部監査の種類 |
対 象 |
導入 |
包 括
外 部
監 査 |
①財務監査
(随時監査) |
財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理のうちから、最小の経費で最大の効果、組織の合理化の観点から必要と認める特定のテーマ |
*
義務 |
②財政的援助団体等の監査 |
補助金等交付団体、出資団体、借入金の元本又は利子の支払を保証しているもの、信託の受託者、公の施設の管理を委託しているもの |
任意 |
個 別
外 部
監 査 |
①事務の監査請求によるもの |
地方公共団体の事務及び機関委任事務(選挙権を有する者の50分の1以上の署名をもって請求) |
〃 |
②議会の請求によるもの |
地方教団体の事務及び機関委任事務(一部除く) |
〃 |
③長の要求によるもの |
地方公共団体の事務及び機関委任事務 |
〃 |
④長の要求による財政的援助団体等に対するもの |
補助金等交付団体、出資団体、借入金の元本又は利子の支払を保証しているもの、信託の受託者、公の施設の管理を委託しているもの |
〃 |
⑤住民監査請求によるもの |
長、委員会、委員又は職員についての違法又は不当な財務会計上の行為又は怠る事実 |
〃 |
* 都道府県、政令指定都市、中核市の場合。他の市町村(特別区を含む。)はすべて任意導入となる。
5. 監査委員監査と外部監査
外部監査が導入されて監査委員による監査がなくなるわけではありません。
外部監査と監査委員による監査では、対象範囲が異なります。その対象範囲の異同については、<表2>のとおりです。
監査委員による監査は、網羅的で行政監査、決算審査まで含みますが、外部監査は、随時的、特定のテーマに限られたものです。
外部監査人が行う随時の財務監査と監査委員の行う随時の財務監査と重複する可能性がありますが、相互に支障をきたさないように配慮することになっています。
<表2>
監査委員の監査 |
外部監査人の監査 |
監査の種類 |
地方自治法の規定 |
包 括 |
個 別 |
財 務
監 査 |
定期監査 |
199条1項、4項 |
─ |
─ |
随時監査 |
199条1項、5項 |
○ |
─ |
行政監査 |
199条2項 |
─ |
─ |
財政的援助団体等の監査 |
199条7項 |
*○ |
─ |
決算審査 |
233条2項 |
─ |
─ |
例月出納検査 |
235条の2 1項 |
─ |
─ |
基金運用状況審査 |
241条5項 |
─ |
─ |
指定金融機関等の監査 |
235条の2 2項 |
─ |
─ |
事務の監査請求による監査 |
75条1項 |
─ |
*○ |
議会の請求による監査 |
98条2項 |
─ |
*○ |
長の要求による監査 |
199条6項 |
─ |
*○ |
長の要求による財政的援助団体等監査 |
199条7項 |
─ |
*○ |
住民監査請求による監査 |
242条1項 |
─ |
*○ |
主務大臣の要求による監査 |
199条6項 |
─ |
─ |
職員の賠償責任監査 |
243条の2 3項 |
─ |
─ |
特別区及び市町村の長、委員会等の要求による監査 |
245条5項 |
─ |
─ |
*印は条例で規定すれば実施可能
6. 外部監査の体制
(1) 外部監査人の資格
外部監査契約を結べるものは、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者であって、①弁護士、②公認会計士、③国の会計検査又は地方公共団体の監査等に従事した者で政令に定めるもの(公務精通者)です。必要がある場合は、税理士も外部監査人として契約を結べます。
(2) 補助者
監査委員の監査の場合、行政職員である監査事務局職員が監査を補佐することになります。外部監査は、行政職員以外の者を補助者とすることになります。補助者の選任にあたっては、補助者の氏名、住所、補助させる理由等を記載した書面を監査委員会に提出し、協議し、監査委員は補助するものの氏名等を公表します。補助者は外部監査人と同様に守秘義務が課せられます。
平成11年度の外部監査では補助者は24人に上りました。
(3) 実行性の確保
外部監査人の監査結果については、事務局(東京都総務局行政監察室)で公表することになります。この監査による指摘事項については、監査対象から措置計画をだしてもらうことになります。そして、監査委員の方で、その措置計画の実施結果について報告をもらうことになります。従って、監査委員との協力の下で、指摘事項の確実な実施が確保されることになります。
7. 東京都が実施した平成11年度外部監査に対する評価
(1) アカウンタビリティのひとつとしての外部監査の実現を目指して
地方自治体への住民参加の前提として、当該自治体の行っている行政施策、財政状況等について、正確な情報が住民に示される必要があります。また、自治体として、効率的/効果的な行政の展開を行っていることを住民に説明する責任があります。
外部監査は、自治体の行政及び財政が適正かつ効率的に執行されているか監査し、不正や腐敗を防止するとともに効率の向上を図るものと考えられます。
その意味で、外部監査は、行政評価や自治体におけるバランスシートの作成などと連動する課題と考えます。
(2) 外部監査の対象選定上の課題
平成11年度の東京都の外部監査が実施された事業は、①東京都の経営する病院の経営管理、②土地(未利用地)の運用管理、③公の施設等の管理、④出資団体の経営管理であり、どちらかといえば民間企業に適用される手法で把握しやすい事業が中心でした。その意味で、民間企業との対比で捉えにくい行政における外部監査のあり方が今後問われていくものと考えます。
(3) 財政危機対策との連動の問題
平成11年度の東京都の外部監査に関係して、衛生局では、診療を受けながら医療費が支払われていない「医業未収金」についての「未収金回収特別班」を設置しました。外部監査が、徴収強化につながっています。今回の衛生局の措置が、生活困窮者に対する徴収強化につながるものであれば、問題です。
また、行政評価も行政考査と同様のものが実施され、定数削減、予算削減の手段として行われています。そして、バランスシートも多摩ニュータウン開発事業の切り捨ての手段として利用されています。
本来は、住民へのアカウンタビリティの一環として考えられるべき外部監査、行政評価、バランスシートの開発において、都財政危機の下で、本来の目的とは離れて、行政の縮小切り捨ての手段や都民に対する負担の強化の手段として活用されている危険性を強く感じるものです。
(4) 自治労都庁職として政策研究活動
自治労都庁職は、こうした傾向に反対し、外部監査や行政評価が本来の目的に従って運用されるように求め、政策制度対策委員会を設置して活動しています。 |