1. はじめに
琵琶湖は、日本一大きな近畿の水がめです。その琵琶湖があります滋賀県東部に位置する人口5,800人余りの「小さなキラリとした町」それが滋賀県愛東町です。
この町で、全国でも初めての試みがスタートしました。それは、「イエロー菜の花エコ・プロジェクト」です。この取り組みは、自治労環境パイロット自治体事業がきっかけです。
このプロジェクトは、菜の花を栽培し、そこから収穫したナタネ油を食用油として使ったあと、ディーゼル車の燃料に使用しようとするものです。
2. 琵琶湖保全の石けん運動から
愛東町では、昭和56年、「愛の田園[まち]あいとう消費生活学習グループ」が誕生し、母なる琵琶湖の水質保全を目的に、廃食油を回収して石けんづくりが行われるようになりました。その後、昭和60年、広域の最終処分場が処理能力を越える事態に直面し、「もっとごみの量を減らすことはできないのか、ただごみを集めて処理するだけでよいのか」といった地域の問題解決のために、そのグループと幾度となく話し合いを行い、グループと協働の二人三脚での本格的な資源回収が始まりました。この時期に、廃食油も既に回収していました。当時は、グループ員全員と行政の担当課職員、また町内の若者有志集団「愛援隊」のメンバーの総勢40人が、毎月第2日曜日に24集落へ引き取りに行っていました。
現在では、資源になるものを各家庭で、缶類はアルミ、スチールの2種類、瓶類は無色、茶、緑(青)、黒の4色、廃乾電池、牛乳パック、ペットボトル、そして廃食油に分類し、集落単位で直接に町のストックヤードに持ち込まれています。このストックヤードには、廃食油を石けんにする機械と、バイオ燃料にするプラントも併設されているので、ごみが資源にリサイクルされる仕組みを真近に見られ、ほとんどの住民がそのことを知っています。今も住民あげての学習会が実施されたり、れでぃす愛ランド(町婦人会)の支部長および副支部長の「清掃センター」と「瓶を再利用している施設工場」への見学会が継続されています。そのようなことで、住民生活リズムに「あいとうリサイクルシステム」が定着しました。
3. 環境パイロット自治体事業の取り組み
平成6年の秋、町役場労働組合が、更なる地球環境保全を視野に入れた施策を町へ提言するために、労働組合の本部が提唱する「環境パイロット自治体事業」に取り組むことになりました。
その事業の具体的な内容を検討する会議(同年10月11日)で、滋賀県環境生活協同組合の藤井絢子理事長から「廃食油からディーデル燃料にしては」と提案されたのがきっかけで、平成8年3月末にそのプラントを導入しました。
その背景には、当時、廃食油から石けんを作るという運動が、石けん使用率の低下から、集めるだけ赤字になるという状況にあり、環境生協では廃食油の燃料化の研究が始まっていたことがあります。
今まで、私たちの町では、ごみの減量およびリサイクル化について取り組んできましたが、住民すべてが本当にこの町のために考え行動してきたかというと自信がなかった。そこで、この町を知り、自分たちはどうしたらよいかを考えるきっかけになるようにと、この環境パイロット自治体事業を取り組み決意をしました。
そして、私たちは、地域の環境を見つめ、先人たちが残した文化の伝統および自然を未来の子どもたちへ継承し、愛東町らしい農村文化を育む義務がある。今回の事業で3つ、①地域循環型社会を確立する、②環境に優しい農村社会を確立する、③成熟した市民となり、その市民のネットワークをつくる、を目標に実施しました。
6つの行動計画を立てましたが、その内2つの「あいとうエコロジー講座の開催」「BDF(廃食油燃料化)」に取り組みました。
「あいとうエコロジー講座」は、6つのテーマ(わが町を知ろう、ごみとは何か、暮らしと環境の歴史:公開講座、市民と環境、リサイクルとは、暮らしの中の環境保全)で6日間、当時大阪大学基礎工学部教員の森住明弘氏と当時大阪市立大学工学部教員の五百井正樹氏を講師に開催しました。(別添資料参考)
そして、もう1つ行ったことは、現在の廃食油の燃料化です。具体的に取り組むために、幾度かこのことについての学習会を行いました。「実際に走るだろうか」とだれもが思いました。そして、環境庁、滋賀県の支援を受けてプラントを購入することになりました。本格的に行うにつれて、課題の税金・車検・燃料の基準などが見え隠れしてきました。
そして、国内にもこのような取り組みをされている事を知り、また、研究実験に取り組んでいる政策科学研究所の呼び掛けで、一堂に会したこともありました。メンバーは、染谷商店・長野油脂・愛東町などでした。
4. 春を呼ぶ花、菜の花で車が走る
燃料化を始めて、3年目を迎えたその年の10月、環境生協の藤井理事長から「ドイツのように、菜の花で車を走らせよう」と新たな提案を受けました。これが、新しいリサイクルシステム「イエロー菜の花エコ・プロジェクト」の始まりです。
1年目の平成11年産の菜の花は、わずか30アールからの栽培となりました。この取り組みを子どもたちの環境学習の機会とするために、愛東町子ども会「なんでもチャレンジ隊」にも、苗の植え付けから、刈り取り、搾油を体験し、その油から燃料化する「小さな実験」を行ってもらいました。
国内での菜種2大産地の1つの青森県横浜町へも、県職員と町長、担当課長と一緒に視察研修に出向きました。この地域は、馬鈴薯の産地でその裏作として、なんと200ヘクタールも栽培されていて、機械による省力化などを勉強してきました。
2年目の平成12年産菜の花は、230アールの休耕田に栽培しました。その1ヵ所は、滋賀県の「湖国菜の花エコプロジェクト」事業の一環での栽培実験事業に、地元の下中野営農組合が取り組まれました。
また、もう1ヵ所として、マーガレットステーション周辺農地の約100アールの休耕田にも栽培しました。春の連休時期には、例年以上の多くの方が町を訪れました。開花期間中、ステーションへの来館者が昨年比138.9%、売り上げが昨年比139.6%と菜の花効果がありました。
その可愛く黄色い花のじゅうたんも、いつしか実を付け、収穫の時期を迎えました。下中野営農組合が栽培した分については、すべてを大型汎用コンバインにより収穫をしました。マーガレットステーション周辺の菜の花の内30アールは、手作業による刈り取り体験を行い、約20名の方々が参加され、初めての体験に心地よい汗を流されました。
下中野営農組合が取り組まれたものについては、1,600㎏のほとんどの菜種を出荷しました。また、ステーション裏分は、2回に分けて搾油を行いました。その1回は、子どもたちの環境学習会として、搾油工場見学や試食会、また、環境生協の藤井理事長のミニ環境講座などを行いました。町内外の小学生を中心に20名余りが参加されました。
5. ちっちゃな取り組みですが
クリーンで持続可能なエネルギー転換は21世紀の地球的な課題と言われています。
このプロジェクトは、地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出量削減に大きく寄与する環境に対する負荷の低いシステムです。この植物系バイオ燃料は、アルコールと触媒によってエステル化した人工合成燃料です。また、石油から作られる軽油代替燃料として使われ、脱石油社会の構築に欠くことのできない資源です。これらの燃料によって、排出される二酸化炭素は、植物の炭素同化作用によって短周期で資源として再生されるため、地球温暖化ガス削減に大きく寄与されると言われています。
さらに、燃料中には硫黄分がほとんど含まれないため酸性雨の原因の1つである硫黄酸化物がほとんど排出されず、また、燃料中に酸素を含んでいるため黒煙の発生が抑えられるなどの特徴もあります。ただ、排気ガスは、本当に天ぷらの匂いがします。でも、懐かしさも感じます。
6. 農家にはどう言えば、でも未来の子どもたちのために
今、一番の問題は、菜の花を栽培する農地の確保です。菜の花の栽培だけでは採算ベースに合わない。そのような状況では、農家の方に菜の花栽培を奨励することは難しい。そして、環境問題として取り組んでいることの理解を得るのも大変です。
今は先が見えていませんが、地域の課題を解決することから始まれば、やがて地球環境の保全につながることを信じていたいものです。少しでもこのことに関心のある農家と膝を突き合わせ、「なぜ、今このような取り組みをしているのか」「もっとよい知恵がないか」などを徹底討論したいと思っています。
滋賀県でも「夢のある提案で、未来に向けた実験だ」とエールを送ってくれ、このことは進める上で大きな支えになっています。
いつしか、「春になると、一面に咲き乱れる黄色い菜の花に誘われてたくさんの人が訪れる。田んぼの畦道のあちらこちらで話し声が聞こえる、そんな町に!」こんな夢物語を真面目にプラス思考で実現のために取り組みたいと思います。
7. 最後に、子どもの環境学習の大切さと
このプロジェクトは、本当に小さな循環ですがモデルづくりと思っています。今、多くの課題を抱えている農業へどうアプローチするかを模索中ですが、農村の愛東町の子どもたちですら、土と触れ合う機会がほとんどないのが現状です。農業って何だろうかを子どもたちと考える題材に、このプロジュクトにしたいと思います。 |