1. はじめに
池田町職員労働組合自治研推進委員会は1984年に発足し、職場における労働環境等の調査・学習をし、職場環境の改善を図ることを中心として活動してきました。そして1990年からは「見つめよう池田町」を基本テーマに掲げ、視点を広げて様々な問題に取り組んできましたが、1999年度は「環境」を大きなテーマとして活動を開始しました。
ちょうどこの頃は、所沢市の「ダイオキシンに汚染された野菜」報道に端を発した産業廃棄物処理場とダイオキシンの問題がマスコミで大きく取り扱われており、また当町においては管内に先駆けてごみの分別収集を本格化した時期でもありました。
そこで、研究の中心テーマを「ごみ処理とダイオキシン問題」とし、1年間で以下のような活動に取り組みました。
① 管内施設見学・管内で最も大規模で国内でも最先端のごみ処理施設である帯広市の「くりりんセンター」を視察すると共に、当町におけるごみ処理問題を再確認するために、「池田町リサイクルセンター」を見学しました。
② 道外研修(施設視察)……大阪府「豊中市伊丹市クリーンランド」においては主に職員組合としての取り組みについて、三重県「桑名広域清掃事業組合」では主に単独で施設を持てない小規模市町村でのごみの高度処理・広域処理について視察研修を行いました。
③ 学習会……帯広畜産大学の中野益男教授を講師に招き、「ダイオキシン汚染の中でどのように身を守るか」をテーマに、組合員のみならず一般町民も対象とした学習会を開催しました。
④ 自然探索会……町内の身近な自然を再認識するために、当町在住の高枚教諭に講師と案内をお願いし、組合員とその家族を対象として清見ヶ丘公園内の自然ウォッチングを実施しました。
⑤ アンケート調査……住民に対して、ごみ処理とダイオキシンについてのアンケート調査を実施し、町民の問題に対する関心度・実際の対応等について調査・分析を行いました。
以上の活動及び調査分析結果は'99自治研推進委員会報告として冊子にまとめ、活動の総括としました。ここでは最も中心的な活動として取り組んだ「⑤アンケート調査」について、以下に報告いたします。
なお、この調査分析結果については紙面の関係上、グラフ・表の大部分を省略しており、本文についても主要な部分のみを再編集してボリュームを約4分の1に抑えていますので、少々読み取りにくい面があろうかと存じますが、ご容赦ください。
2. アンケート調査(ごみ処理とダイオキシン問題について)
(1) 調査にあたって
1999年自治研活動のテーマ、「ごみ処理とダイオキシン」の活動計画をたてる中、町内住民の方々の本問題に対する意識はどのようになっているか調べてみたいとの声が上がり、アンケート調査を行うこととなりました。
アンケートの設問については、全11問で構成し、大きく分けて、①環境問題、ダイオキシンに対する関心度調査、② 実際にごみ、ダイオキシン問題と直面し実生活の中でどのような対応をしているかの調査、③ダイオキシン問題に対しての将来にわたる問題点、及びその解決策、の3点について設問間の関連性を考慮し、設問、及び配列順を推敲し、設定しました。
(2) 調査方法
町職員および町内の主な事業所等にアンケートを持参し趣旨を説明、後日回収しました。
また、自営業及び主婦層の回答を得るため、町内大手スーパーマーケット内において、買い物客を対象に直接アンケートを行いました。
(3) 回答者数及び内訳
全体で1,015件の回答があり、町民の10%以上のデータを集めることができました。年齢性別で見ると、10代の回答者が少なく性別に偏りが見られるものの、全般的には老若男女に大きな隔たりなく採取することができ、調査対象としてはほぼ理想的なデータとなりました。
採取場所別回答者数
採取場所 |
回答者数 |
比率 |
大手スーパー内 |
337 |
33.2% |
各 職
場 |
510 |
50.2% |
町 職
員 |
167 |
16.5% |
不 明 |
1 |
0.1% |
計 |
1,015 |
|
男女年代別グラフ
(4) 設問内容と回答結果
① 「環境問題に関心がありますか」
イ とても関心がある=397 ロ 少し関心がある=479 ハ 特に関心がない=108
ニ 自分には関係ない=19
② 「環境問題であなたは今一番何に関心がありますか」(複数回答)
イ オゾン層の破壊=259 ロ 地球の温暖化=318 ハ 野生生物の減少=86 二 海水汚染=66
ホ 熱帯雨林の破壊=58 へ ごみ問題=496
ト その他=22(ダイオキシン、河川水資源、森林伐採、環境ホルモン etc.)
③ 「あなたの家ではごみ焼却炉や空き地などでごみを燃やすことがありますか」
イ いつも燃やしている=121 ロ ときどき燃やしている=370 ハ 燃やしていない=335
ニ 焼却炉は持っていない=179 ホ 無回答=10
④ 「前問でイ、ロと答えた方にご質問いたします。燃やしているごみはどのようなごみですか」(複数回答)
イ 紙類=429 ロ 木の枝や木製品など=228 ハ ビニール類=50 ニ プラスチック類=37
ホ 発泡スチロール類=31 へ その他(燃えるものすべて)=8
⑤ 「第3問でイ、ロと答えた方にご質問いたします。今後はごみ焼却をどうしますか」
イ 今後も続ける=152 ロ いずれ燃やさないようにする=277 ハ 今すぐにでもやめたい=48
無回答=24
⑥ 「ダイオキシンを知っていますか」
イ よく知っている=393 ロ なんとなく知っている=519 ハ 名前は聞いたことがある=79
ニ 全く知らない=14
⑦ 「家族でダイオキシン問題について話し合いますか」
イ 良く話す=192 ロ テレビで話題になった時のみ=413 ハ あまり話さない=251
二 話したことがない=149
⑧ 「ダイオキシンの発生原因を知っていますか」
イ 良く知っている=298 ロ 少し知っている=581 ハ ほとんど知らない=124
⑨ 「ダイオキシンを出さない為にあなたが心がけていることは何ですか」
イ プラスチック類を燃やさない=508 ロ プラスチック容器のものを極力買わない=71
ハ 徹底的にごみを分別する=493 ニ ほとんど考えていない=79
ホ その他=19(施設新規又は更新・改築、紙類のみ分別している、ごみを減らす、絶対紙しか燃やさないようにする、etc.)
⑩ 「あなたは、ダイオキシン問題で今どのようなことを心配していますか?」
イ 人体への影響=691 ロ 母乳への影響=215 ハ 次世代への影響=469
ニ 大気汚染からの影響=292 ホ 食物への影響=406
へ その他=23(男性精子の減少、人間以外の生物への影響、生態系の破壊、自分のこと、心配していない etc)
⑪ 「そこでダイオキシン問題を解決するためには、今後何に期待しますか?」
イ 行政(国や自治体など)の政策=604 ロ 住民の自助努力=568 ハ 民間企業の協力=327
ニ 国際的な国家相互の協力=210
ホ その他=39(一人ひとりの意識向上、ドイツなど先進国の方式を参考とする、ダイオキシンを発生させる物質の製造中止または生産企業責任による回収、処理技術の充実、「イ、ロ、ハ、ニ」が相互協力する、何も期待していない etc.)
(5) 回答結果の分析
① 問題に対する関心度と知識(設問①、②、⑥、⑦、⑧)
全体的にごみ問題やダイオキシンに対する関心度は高い割合を示し、またダイオキシンの発生原因についても9割近くの人が「知っている」との回答でした。これは当時の一連のマスコミ報道と当町におけるごみ分別収集の本格化といったプラス要素を差し引いても、住民のこの問題に対する意識は非常に高いと判断できる結果となりました。しかし、どの設問においても年齢層が低くなるにしたがって“関心がない”“知らない”といった回答が多くなる傾向がはっきりと現れており、その点では将来に不安を残す結果であったと言えます。
② 実生活における対応(設問③、④、⑤、⑨)
ごみの焼却については、その頻度は別として、普段の生活においてごみを焼却していると答えている人と、「燃やしていない」、「焼却炉は持っていない」と答えている人が、ほぼ半々という結果なりました。さらに、他の設問で“ごみ問題に関心がある”あるいは“ダイオキシンの発生原因を知っている”と回答した人までもが、この質問ではその半数以上が、頻度はともかくごみを「燃やしている」と答えています。
このことは、家庭のごみ減量化を奨励し、焼却炉を積極的に斡旋してきたという過去における本町の政策が、今も習慣として根付いているというのが1つの要因として考えられます。
また、職業別に見ると、“自営業”においてごみを自宅で焼却している割合が高いという傾向が見られました。これは、事業所(農業含む)から出るごみは、産業廃棄物とされ当然ながら一般家庭から出るごみとは区別され、回収がされないということが、主な要因と思われます。
家庭で燃やされているゴミの内容 グラフ
家庭で燃やされているごみの内容を見てみると、燃やしているのが「紙類」のみ、或いは「木の枝や木製品」のみ、または、「紙類」と「木の枝や木製品」のみと答えている人が、じつに全体の86%にのぼり、「紙類」、「木の枝や木製品」の他に、いわゆるダイオキシンの発生原因とされる「ビニール類」、「プラスチック類」、「発泡スチロール類」を含むごみを燃やしている人は、全体の12%程度です。
今後もごみ焼却を続けるのか? という設問に対しては、55%の人が、「いずれ燃やさないようにする」と答え、10%は、「今すぐにでもやめたい」と答えており、現在ごみ焼却を行っている人でも、それに対する問題意識はある程度持っているようです。
ごみ焼却を「今後も続ける」と答えている30%の人に着目していくと、この内の80%以上の人は第8問「ダイオキシンの発生原因を知っていますか?」の問いに“良く知っている”あるいは“少し知っている”と答えています。また、「今後も続ける」としながらも、ダイオキシンについてある程度は知っているということのもう1つの裏付けとして、その人達の90%近くが、第9問では、「プラスチック類を燃やさない」、「ごみを分別する」等を心がけていると答えており、ダイオキシンの発生原因がプラスチック類等を燃やすことにあるということについては、きちんと認識しているということがわかります。
実際は、「紙」であっても、印刷物のインクや紙そのものに含まれている漂白剤等が燃えることによってダイオキシンは発生することがわかっており、上述の結果は望ましいものであるとは言えませんが、「ビニール・プラスチック類は燃やしてはいけない」という意識が多くの人に浸透していることは伺えます。
今後、メディアや関係機関によりダイオキシンの発生原因について正しい情報が浸透し、行政或いは企業レベルでの総合的なごみ処理の体制が充実していくことによって、家庭におけるごみ処理方法が望ましいものに変わっていくというひとつの可能性は読み取ることができます。
③ 問題点とその解決策に対する意識(設同⑩、⑪)
「ダイオキシンでどのようなことが心配か?」との設問には、複数解答設問のうちもっとも多い回答数が得られ平均して1人2.07の回答をしています。この事からもダイオキシンのさまざまな影響を認識していることがうかがえます。特に、ダイオキシンの人体特に脂肪分への蓄積や後年までの影響については、様々なニュースソースから広く知られるところとなったことから、多くの方々の関心事となっているようです。
「ダイオキシン問題を解決するために、何に期待するか?」年代別回答グラフ
最後の「ダイオキシン問題を解決するために、何に期待するか?」という設問では、正直なところイ(行政への期待)という回答が圧倒的に多いだろうと予想していましたが、ロ(住民の自助努力)、ハ(民間企業の協力)にも全体の30%以上の人が期待をしています。特にイとロは各年代、男女別で拮抗しており、50代では数が逆転していることからもわかるとおり、ダイオキシン問題は単一の解決法では対処できない様々な問題が絡み合っていることを、多くの人が認識しているという結果が出ました。
公害問題の多くは通常被害者と加害者が明確化しており、裁判等で争われるなどしていますが、ことダイオキシンについてはそれらが明確化されておらず、汚染の被害者である住民自体が汚染原因物質を作り出す加害者的側面があることを多くの人が認識しているものと思われます。イと答えた人のうち住民も努力しなければと答えた人が55%おり、ロと答えた人のうち42%の方はイに○をつけていませんでした。
このことから、この問題に関しては、日本人的な「おカミまかせ」の考えは希薄であると思われます。様々なメディアからの情報、町でのごみ収集方法の改正等をとおして、自分自体の既成概念の変更を余儀なくされている現状であることが、認識として着実に広まっているといえます。
3. おわりに
日頃、行政サービスの仕事をしている我々ですが、ごみ問題やダイオキシンについては、認識度、関心度に個人レベルでかなりの違いがあり、現在、行政サービスの大きな問題の1つであるにもかかわらず、住民の考えについては漠然とした認識しか持ち合わせていません。そうした現状に立って、今回住民の皆さんの考え方を調査したことは、職組レベルにとどまらず非常に有益なことであったとあらためて感じています。
分析内容についての総括ですが、総体的には本問題については、多くの方が関心をよせていることがわかりました。しかし、メディアの情報量の増大から知識としては知っていても、今までの生活様式、慣習などから、ごみ、ダイオキシンを減らしていく積極的な行動にまだまだ繋がっていっていないことが読み取れます。行政の政策や具体策も、様々な制約から決定的なものを出せずにいるのが実態だと思います。そうした中、個々人が正確な情報を取捨選択し、地域生活の改善、ひいてはエコロジカルなものの見方、及び行動を養っていくことが大変重要になってくるものと思われます。
また、多くの方が関心を持っているといっても年代間の温度差はかなりあることがわかりました。若年層の関心のなさが目立つことは、10代では、アンケート対象が年齢の低い小中学生が大半だったことを割り引いても、大変懸念されるところです。
先進国のドイツでは、行政、民間企業、住民、教育、が四身一体となって、問題に取り組んでいます。ダイオキシンは蓄積していく毒物であり、未来に渡っての対策の充実が必要となってくることから、今ある目先の問題を対処療法的に改善していくだけでなく、教育現場での正しい知識の啓蒙は、これからも大変重要かつ急務になってくると考えられます。
インターネット上では、行政サイド、市民サイド、企業サイドで様々な取り組みがなされていることを膨大な情報量で見ることができます。しかし、それぞれが協力しあう体制作りや、一体となって問題解決に向かう方法論の熟成はまだまだ希薄であると思われます。
第11問の回答でもあったとおり、それぞれが利害を超えて解決に一致団結する土壌を早急に整備する必要があるのではないでしょうか。 |