1. はじめに
「ISO14001」とは、国際標準化機構が定める環境管理の国際規格で、企業や行政機関が環境へ与える影響をできるだけ減らしていこうとするシステム、いわゆる環境マネジメントシステム(EMS)の公式認証基準を規定したものです。
岩手県では、認証取得による効果を、①事務・事業における直接的・間接的な環境負荷の低減、②職員の環境意識の向上、③事務・事業の効率化、コストの削減、④市町村や企業への波及、⑤イメージアップ、県民の信頼感の向上の5点を掲げ、1998年度に認証取得への取り組みを開始しました。
ISO14001では、環境マネジメントシステムを運用させるための要素として、計画(Plan)、実施(Do)、監視・評価(Check)、見直し・改善(Action)の基本的な枠組みを繰り返しながら改善、継続させ環境保全活動を向上させていくことを目指しています。このPDCAのサイクルは、品質管理システムに関する国際規格ISO9000にも共通しますが、共に他のISO規格と比較して特徴的なのは、行政機関や企業など各々の組織に適した独自のシステムを構築できる点にあります。
2. 経 過
1999年5月から岩手県は、県行政において環境に影響を与える要素(環境側面)にどのようなものがあるかを調査し、併せて、環境影響評価を行い、9月に環境方針策定と同時に、111項目の環境目的・目標及び環境マネジメントプログラムを設定しました。このプログラムの中には、1997年10月の庁議決定から現在も取り組まれている「県庁エコ・セービング・アクション」(省エネ・省資源実践行動)も組み入れ継続性を持たせた取り組みがなされています。
全職員を対象とした環境マネジメントシステム運用の研修や内部環境監査員(各部局の課長補佐級の職員)研修等を経て、10月1日からは環境マネジメントシステムの運用を開始しました。職場では、環境管理責任者(生活環境部長)が作成した環境目的等を達成するための手順書に従い、確認者・担当者が点検を行いシステムの確実な運用を徹底しました。
内部環境監査、監視、測定をもとに、12月には知事によるシステムの見直しを行い審査登録機関による審査が開始されました。1回目の審査の対象は、各部局長等を中心に、①システム審査、②環境側面調査、③内部環境監査の審査を実施し、さらに1月下旬に行われた2回目の審査では、知事及び各部局長等を対象に、①トップインタビュー、②各部審査が行われ、2000年2月4日にISO14001の認証登録が行われました。
1999年度は、本庁の知事部局をシステムの適用範囲として認証取得しましたが、2000年度は、本庁の各委員会をはじめ盛岡・水沢・宮古・二戸の地方振興局に認証範囲の拡大を行い、さらに、2001年度には、残りの地方振興局等への展開を計画しています。
2000年3月末現在、ISO14001を認証取得した都道府県は、本庁レベルのもので本県を含めて11都府県あり、県内の市町村では金ヶ崎町(1999. 2.23)、宮古市(2000. 3.15)があります。また、県内で2000年度中の認証取得を目指している市町村に、花巻市、北上市、水沢市、前沢町、胆沢町、東和町、花泉町、滝沢村があります。
3. 現状と課題
住民の環境保護に対する関心が高まっている中で、岩手県がISO14001の認証を取得したことは、時代の要請に適った対応であり冒頭に記述した効果も期待できることから評価できるものと思われます。しかし、残念ながら現段階においては、環境マネジメントプログラムを取り組む職員の意識は受動的と言わざるを得ない状況です。
ISO14001は環境マネジメントシステムの運用をトップダウン方式で行うことが有効であるとの基本的な考えで規定されています。ISO14001. 4. 2においては、最高経営層が環境方針を定めることを規定し、同時に最高経営層の責任を明確にしています。岩手県においては、1998年9月の知事による認証取得宣言に端を発し、99年9月の環境方針策定に至るまで職員の意思とは全く別な立場から取り組まれたものでした。そのため、職員研修や手順書に沿った確認・点検も上層部からの指示という受け止めが強く、環境目的・目標、及び環境プログラムを一人ひとりが理解していない状況が伺えます。
さらに、職員の受動的な対応を生んでいる要因の一つに岩手県環境管理組織が考えられます。岩手県環境管理組織図(別紙)を見てもわかるとおり環境管理総括者(知事)から環境推進員(各室課長)までの階層が複数であり、さらに、環境管理委員会やシステム検討委員会等の意思形成も考えると、果して、各職場段階で意識と取り組みが徹底されるのか疑問が残ります。また、職場からのシステムの見直し・改善の声が経営層にきちんと届くかどうかも疑問です。実際に、各職場で手順書に沿って確認・点検を行っているのは、組織図の一番下に記載されている環境推進員のさらに下で働いている職員です。
このように、ISO14001の基本的な問題と環境管理組織のヒエラルキーが、現場での受動的な取り組みとして現れていると考えられます。事実、手順書に沿って職場の確認・点検を毎日実施することになっていますが、これを行わず、まとめて1週間分を記録しているという職場がありました。また、「上の方から通知がきて、○○○はダメ、○○○はどうしろと指示され、やらされているという感じだが、それでも従っていれば無難。」という感想を寄せた職員もいました。社会的な注目を集める「環境保護・省エネ」という言葉に理解を示しながらも、職場での取り組みに何か納得のいかないものがあることは事実のようです。
4. 課題解決へ向けて
環境マネジメントシステムを、最終的に実現するのは各職場で業務に携わる職員であり、職員全員の理解のもとで取り組めるよう改めて各階層毎の研修を行い、環境方針、目的、目標を徹底する必要があります。当然、環境に負荷を与える業務を行う全ての職員が対象となるべきであり、臨時的任用職員や非常勤職員を含むのは言うまでもありません。環境ISOが、組織の構成員に自覚を求めているのは、品質ISO(ISO9000s)とは異なり、職員の主体的な行動を求めているからです。
また、ISO14001.4.4.3で求められているコミュニケーションのうち、内部コミュニケーションのあり方として、職場からの改善提案を容易に出来るよう工夫する必要があります。岩手県の場合、改善提案の様式は文書化され各職場に配付されていますが、環境マネジメントシステムの運用について、全体的にはまだ理解が不足しており活用されていないようです。環境ISOのために業務をやらされているという被害者意識では、環境マネジメントシステムが形骸化し、ISO14001の主旨であるPDCAのサイクルを維持することはできません。職員の自覚と士気を促すために経営層と職員の双方向のコミュニケーションが必要です。
5. おわりに
従来、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染等という言葉は、地域的な環境問題として捉えられてきました。環境問題を地球規模で考えるようになったのは、二酸化炭素の排出による地球温暖化や、フロンガスによるオゾン層破壊、ダイオキシンによる生態系への悪影響等、が注目されるようになったつい最近のことです。環境問題への国際的な関心の高まりが、1996年の環境ISO制定へと繋がりました。ISO14001が発行されてまだ数年しか経過していないにもかかわらず、自治体や企業が環境ISOを注目しているのは、地球環境の保護は勿論のこと、環境保護に対する住民の意識が高まっている中で、行政や企業活動が、対住民、対顧客、対企業との信頼関係にまで影響を及ぼすとの認識にあるからです。私たちの生活が、物質的な豊かさを求め続ける限り環境に負荷を与える要素は尽きることがなく、際限なく対応策も講じていかなければなりません。ISO14001は、組織における環境管理の一つの手段に過ぎません。資源を大切にする、生活の中で環境に配慮する、今、一人ひとりに自覚が求められています。
21世紀を目前に、澄んだ水と緑と空気を後世に伝えることは、今、生きている私たちだけに出来ることであり、私たちが果たさなければならない責務です。
(別紙)
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