本年2月6日に行われた京都市長選挙は、現職の桝本頼兼市長と共産党などが支持する井上吉郎氏との事実上の一騎打ちで行われた。結果は桝本氏が28万5千票、井上氏が21万票と7万票の大差をつけ圧勝した。前回は同じ顔触れで11行政区の内、左京区、北区、右京区の3行政区で井上氏がリードしたが、今回は全行政区で桝本氏が勝利をするという結果になった。このことは桝本市政の4年間が率直に市民に評価された結果であるといえるであろう。本稿では、今回の市長選挙の中で焦点となった政策論争のうち廃棄物行政いわゆる「ごみ問題」を取り上げてみたい。まず、市民がごみ問題に対し、どのような意識を持っているのかについて、我々自治労京都市職が行った市民アンケートを参照しながら明らかにしたい。また、井上陣営がどういった問題を指摘したのか、それに対し京都市政の現状はどういった現状であるのかを示していきたい。そして、地方自治の政策遂行と市民に対する情報公開とパートナーシップのあり方の方向性の問題提起が若干でも明らかになれば幸いである。
1. 市民に関心が高いごみ問題
99年11月に行った自治労京都市職が行った市民アンケートの結果(中間集約)のうち、設問のうち「Q5今後京都市政はどの分野を充実すべきだと思われますか」の部分と自由記入欄の結果を取り上げ、ごみ問題に対する意識を分析していきたい。
「Q5 今後京都市政はどの分野を充実すべきだと思われますか」
この設問は、3項目選択であるので、パーセント合計は300%になる。
全 体 |
1位 |
道路・交通網の整備 |
40.3% |
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2位 |
高齢者福祉の充実 |
36.4% |
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3位 |
ごみ対策 |
31.2% |
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4位 |
環境対策 |
29.4% |
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5位 |
保健医療の充実 |
26.9% |
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6位 |
産業の振興 |
21.2% |
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7位 |
住環境の整備 |
17.3% |
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8位 |
観光の振興 |
14.9% |
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9位 |
教育の充実 |
13.9% |
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10位 |
障害者福祉の充実 |
11.5% |
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男 性 |
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女 性 |
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1位 |
道路・交通網の整備 |
46.6% |
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高齢者福祉の充実 |
46.3% |
2位 |
高齢者福祉の充実 |
31.9% |
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ごみ対策 |
36.2% |
3位 |
環境対策 |
30.5% |
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保健医療の充実 |
33.7% |
4位 |
ごみ対策 |
28.9% |
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環境対策 |
27.2% |
5位 |
産業の振興 |
24.3% |
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道路・交通網の整備 |
26.7% |
6位 |
保健医療の充実 |
23.8% |
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教育の充実 |
17.9% |
7位 |
住環境の整備 |
18.4% |
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障害者福祉の充実 |
16.9% |
8位 |
観光の振興 |
14.9% |
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住環境の整備 |
15.2% |
「ごみ対策」について、全体では3位であり充実すべき課題として関心が高い。
アンケート自由記入欄 ごみ問題に関する記入の一部抜粋
○ 京都市は、ごみ対策が全然進んでいないので、分別収集ができるようにしてほしい。環境会議も京都で行われたことがあるのに、これではがっかりだ。(女性、20歳代、学生)
○ ごみは分別して出すようにするべきだと思う。今のままではごみの量も全く減らないだろう。(女性、10歳代、左京区、学生)
○ ごみ収集(分別)に対する取り組みが、他の市町村に比べ遅れているように思われる。(女性、20歳代、伏見区)
○ 環境対策として、ごみ分類を今以上に細分すべきだ。焼却して野山に捨てずリサイクルすること。(男性、40歳代、伏見区)
○ 「ごみ」についてなんですが、もっと分別し、もっとごみを減らしていくようにして頂きたい。どんな立派な埋め立て地をつくっても、すぐに一杯になってしまう気がします。(女性、20歳代、南区)
○ ごみ対策が非常に遅れていると思う。燃えるごみ、燃えないごみ、空きビン色別回収など早急に細分別ごみ回収をしてほしい。ダイオキシン問題が起こってから、対策を立てるのでなく歴史ある都市として他の都市の手本となるべき対策を立ててほしい。早くしないと意味がない。(女性、30歳代、西京区、主婦)
等、分別に関する記載 42件
○ ごみのポイ捨て、大型ごみの不法投棄等に厳しい罰則を設けて、シンガポールの様な美しい都市にして欲しい。(男性、50歳代、下京区)
○ 京都はとってもごみの多い町です。タバコの吸い殻など道路に一杯です。罰金を取ってでもきれいにしてほしい。それに緑が少ない、最近特に(女性、40歳代、右京区、自営業・自由業)
○ タバコの投げすてなど何とか対処できないのか!?(男性、30歳代、北区、会社員・公務員)
○ タバコ、ごみ等のポイ捨てに罰則の条例を(男性、50歳代、上京区)
○ 地域を巻き込んでの町並美化キャンペーンが必要。電柱、並木、フェンス、電話ボックスなど、公共(半公共)物に貼紙、カンバンが所かまわず貼ってある。市、地域、NTT、関電などと協力体制を取り、一掃キャンペーンが必要。又、条例化も必要!(男性、50歳代、南区)
○ 「京都を日本一美しい街に」をスローガンに行政を考えて欲しい。(男性、30歳代、西京区)
等、まち美化に関する記載 18件
○ 大型ごみについてもっと処理しやすい改善に努めてほしい。(男性、40歳代、北区)
○ 不法投棄や不法駐車を厳しく取締まっていただきたい。(男性、30歳代、右京区)
○ 環境、ダイオキシン対策として取り組んで頂きたいこと。生ごみ処理対策の推進と肥料ごみの提供対策、推進。生ごみ処理機の家庭設置対策及び、ごみの出量抑制と肥料ごみの家庭利用及び家庭使用不可の場合の週回収制度推進及び肥料活用方(男性、70歳代、西京区、無職)
○ ごみ対策が都市の割に遅れている。もっと生産者と消費者両方に責任感を持たせるべきである。市政を活性化させるには今後増加が確実なお年寄りと、多くの大学をかかえる利点を生かして学生の地方自治への積極的な参加をうながすべきである。(男性、20歳代、上京区、学生)
○ ごみ減量対策として、肉・魚のパック販売をやめ、ビニール販売にしていく様にしていってほしい。ドイツなどの外国の様に徹底的にごみ減量対策に取り組んでほしいです。(女性、20歳代、南区)
○ ごみ再利用効率up
ごみ焼却炉+発電設備で有効利用。(男性、50歳代、南区)
等、ごみ問題全般に関する記載 31件
上記のアンケート自由記入欄では、大別して、「ごみの分別」「まち美化」について多くの意見が出されている。特に、極めて多く出されている「ごみの分別」については、3種混合収集(カン・ビン・ペットボトル)について、混合収集の結果再資源化がなされていないという誤解にもとづく意見が多く、分別収集とリサイクルの現状の正確な市民の理解を得る必要がある。
2. 市長選挙での争点
井上陣営は、「ごみ減量・循環型社会へ ― 時代遅れのごみ行政を抜本的に転換」として、「COP3開催都市でありながら、現市政は、燃えるごみも燃えないごみも一緒に燃やすごみ行政に何の反省もありません。徹底したごみの減量化と分別・リサイクルを進め、環境に優しい町づくりへ転換します。」と主張した。特に、缶・ビン・ペットボトルの混合収集について、混合収集をすることによりあたかも再資源化=リサイクルされていないかの主張が展開された。
3. 京都市のごみ(廃棄物)行政の現状
新京都市ごみ減量・リサイクル行動計画「京・めぐるアクションプラン」を1999年8月に策定し、「リサイクルをすすめ、ごみを出さない循環型社会、ポスト消費社会『環境共生型都市・京都』」をめざしている。具体的目標として、ごみの減量目標を1997年度レベルから2010年度に15%削減(家庭系で10%、事業系で20%)を目標に、ごみ処理量を777,790トンから661,000 トンに減らす計画である。
(1) ごみの分別について
① 分別について
現在、3種混合袋出収集であるが、南部資源リサイクルセンターや横大路学園において、アルミ缶・スチール缶・茶色ビン・無色ビン・その他のビン・ペットボトルに選別処理し、すべて資源として活用している。その際に、ビンが割れていても、リサイクルには問題がない。
② 3種混合収集について
カン・ビン・ペットボトルを品目別に収集するのは大都市部においては困難な問題である。収集するためのスペースの確保、人員・車両の整備コストが膨大になる。現に、政令指定都市において、カン・ビン・ペットボトルの完全な分別収集を行っているところは少ない。
また、3種品目別収集をおこなったとしても、ハンガーやフライパン等違うものが入っていることがあるので、手作業による分別は必要である。したがって、3種混合収集をおこなったうえで、選別処理を行う方法は、現段階では極めて妥当な方法である。
(2) リサイクルの先進的な取り組みについて
① 廃食用油(使用済みテンプラ油)の回収、リサイクルについて廃食用油(使用済みテンプラ油)の回収は、1997年から全国に先駆けて回収をおこない、再生されたバイオディーゼル燃料を使用している。
回収は、1999年12月現在、拠点数は502か所であり、回収量は約10万リットルである。2001年には全市で、回収し47万リットルの目標である。
活用方法としては、ごみ収集車全車両(約220台)の燃料として使っている。また、試験的に市バス(2台)にも導入し、今後、利用拡大を検討している。
廃食用油(使用済みテンプラ油)の燃料は、窒素酸化物の大幅な軽減、二酸化炭素の軽減に役立ち、環境にやさしい燃料である。
廃食用油について、慣習から再生、再生品の利用にいたるまでのリサイクルの輪を完結させているのは京都市だけである。
② バイオガス化技術実証研究プラントについて
生ごみのリサイクルとして、バイオガスの研究がおこなわれている。生ごみをバイオガス化するというもので、完成すれば、バイオガスが発電や燃料に使用されるとともに、発酵後のものから堆肥が得られるというものである。
(3) ダイオキシン対策
京都市のクリーンセンターは、1999年度中にダイオキシン対策が完了し、環境庁の2002年基準を満たすこととなる。
京都市全体としては、7月に策定した「京都市ダイオキシン類対策推進計画」に基づき、対策がおこなわれている。
(4) まち美化推進の取り組みについて
「美化推進条例」(1997年策定)にもとづき、「京都市美化推進協会」を設立し、ボランティア団体と協力し美化活動に取り組んでいる。また「まち美化住民協定」で門掃きや町内清掃を推進している。
また、個人ボランティアの育成と観光客に対する啓発を進めるため、「友・遊美化パスポート事業」を推進している。
ごみのポイ捨てについては、監視パトロールの強化を行うとともに、不法投棄防止のため、職員によるクリーンアップチームを結成している。
4. ごみ問題を巡る課題
家庭から出される廃棄物=ごみの分別収集について、京都市が現に行っている施策と市民の意識の間に大きな乖離が見て取れる。
市民アンケートの自由記入欄に書かれている分別収集に関する記載をみていると、大変な誤解があるようだ。缶・ビン・ペットボトルの混合収集をすることにより、殆どが焼却に回され、リサイクルされないとの認識があるようだ。事実は、資源リサイクルセンターで再資源化が図られほぼ全てがリサイクルされている。したがって混合収集することがリサイクルの妨げになっている事実はないのである。さらに、廃食用油のリサイクルについては、規模も大きく、何よりもリサイクルされた燃料をパッカー車(ごみ収集車)で活用する等、リサイクルの輪が完成しているのは大都市では京都市だけである。
では、この事実と市民の意識との乖離は何が原因であろうか。まず、分別収集に対する大きな誤解があるようだ。京都市職として7年前にも市政アンケートを行ったことがあるが、その時によせられた市民の声にも「分別収集」に関するものがあった。「可燃(燃える)ごみ」と「不燃(燃えない)ごみ」の分別を京都市はしていないという指摘である。リサイクルする品種を定めた「容器包装リサイクル法」に基づき分別収集している現在と違い、分別収集している市町村の多くは「可燃(燃える)ごみ」と「不燃(燃えない)ごみ」との分別収集であった。リサイクルするにあたっては、ビンを例にとってみても、ガラスの色や形状によって、リサイクルする方法も違うし、リサイクルに適しないものもある。したがって機械的にするか手でするかは別にして細かく確実に選別した上でないとリサイクルできないのである。「可燃ごみ」「不燃ごみ」の分別の場合、「可燃ごみ」は当然、焼却に回される。「不燃ごみ」については、ビン・金属類を始め様々な種類の不燃物が混合して出されており、選別は事実上不可能であり、殆どの場合、リサイクルに回されるのではなく、そのまま最終処分地である埋め立て地に埋め立てられるのである。当時、京都市は「燃えるごみ」「燃えないごみ」の分別はしておらず、清掃工場(現クリーンセンター)において焼却していた。これは「燃えないごみ」として集められたものでも燃やすことによって確実に容積がへり、埋め立て量が少なくなることが大きな理由である。一方で、市町村が「可燃ごみ」「不燃ごみ」の分別をしている理由の大きな割合を占めるのが、「清掃工場」の焼却能力不足によるところが多い。リサイクルする為ではなく、自治体の都合によって分別をしているのである。したがってごみ減量・リサイクルの観点から見て、「可燃ごみ」「不燃ごみ」の分別は進んだ状態であるとは決していえない。
現在の京都市の分別の収集方法である缶・ビン・ペットボトルの混合収集に対する誤解として、混合していることによりリサイクルがされていないという誤解が生じている。現実は、缶・ビン・ペットボトルの選別はもとよりビンの色の違いによる選別も資源リサイクルセンターにおいて機械的に行い、リサイクルされるのが現状である。したがって、こういった誤解を招かない為に、いかに市民に分別と再資源化の事実を正確に伝える方法が求められる。ここで、京都市が標榜している「市民と行政のパートナーシップ」の本当のあり方が問われるのである。自治体と市民とのギャップが生じないようにする為に、様々な方法について自治体はもとより、自治体の労働組合の取り組みとして真剣に検討が求められる。
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