自治体改革は現場から……
― 久留米市「17種分別制度」の取り組みを通して ―

福岡県本部/久留米市従業員労働組合連合会

 

1. 街の朝の風景

 「おはようございます」「朝からまた、おおごつですね」ずらりと並べられた回収容器の前で、緑色の腕章をつけた地元当番の人とガチャガチャという音をたてながら、空き缶やビンを持ってきた住民が挨拶をかわす。
 98年4月、「容器包装リサイクル法」に基づく「17種分別制度」が実施され、2年半が経過し、この街に、こんな朝の風景がすっかり定着した。福岡県久留米市、「菜の花の遥かに黄なり筑後川」と夏目漱石の詩にうたわれる九州一の大河に育まれた筑紫平野の中央に位置する、ゴム工業、商業を中心に発展してきた人口約23万の街である。
 制度が実施される数ヵ月前、折しもダイオキシン問題などで、ごみ問題が急速に一般の関心事となり始めた頃、福岡県下第3の都市が先進的とも言える分別リサイクルの制度を開始するとあって、「17種分別制度」は、新聞・テレビ等の地元マスコミから頻繁に取り上げられた。
 マスコミの報道は、それまでの分別に加え、ペットボトル、牛乳パック、ビンを色別に3種に分け、ビンやペットボトルは「中を水ですすいで、キャップを取って」出さなければならないといった、排出時に手間のかかる分別制度に対し、「問題点は積み残し…」「果たして、うまくいくのか」など懸念を示す内容が大半を占めていた。
 しかし、「17分別制度」は地域コミュニティのなかに概ね定着している。そして、久留米市の至る所で、あの「街の朝の風景」が見られる…

2. 積み重ねてきた布石

 17種分別制度の種別は、①燃やせるごみ、②燃やせないごみ、③ビン(茶)、④ビン(無色)、⑤ビン(その他)、⑥空きカン、⑦ペットボトル、⑧小金属、⑨有害ごみ、⑩新聞紙、⑪雑誌類、⑫ダンボール、⑬布類、⑭牛乳パック、⑮粗大(金属)、⑯粗大(可燃)、⑰粗大(不燃)となる。
 当然のことではあるが、これだけの分別回収を一足飛びに実施したわけではない。「ごみ減量・リサイクルの推進」という方針に基づき、本市では、ひとつ一つ布石を積み重ねてきた。
  ● 91年 …… 空き缶、空きビン、古紙の分別回収
  ● 91年 …… 事業系ごみの許可制度
  ● 93年 …… 家庭系ごみの有料指定袋制度・ごみ集積所登録制度
  ● 94年 …… リサイクルホットラインの設置
  ● 96年 …… 古着、古布の分別回収・公共施設からの樹木の剪定枝リサイクル
  ● 97年 …… 事業系ごみの有料指定袋制度・粗大ごみ戸別単品有料制度
  ● 98年 …… 容器包装リサイクル法に基づく17分別制度
 このような「ごみ減量・リサイクルの推進」という基本方針の具体化の背景に、現行の埋立地に搬入可能な焼却灰などの量が、残りわずかとなりながらも、新規埋立地の建設をめぐって、地元住民との話し合いがつかず着工の目処が立たないといった、本市が抱える最終処分場の問題があったことは否めない。また、ごみの有料指定袋制度などについても様々な議論があるところだと思う。だが間違いなく「17種分別制度」は、積み重ねてきた布石の上に成り立っている。

3. 「委託には、絶対反対」

 97年秋、「17分別制度」への対応をめぐり、清掃現場はまさしく大きな岐路に立たされ混沌としていた。
 本市においても、行財政改革の推進が叫ばれるなかで、分別品目が広がるからといって、増員を求めることは困難な状況にあった。必然、新たな分別品目の収集を選択するならば、既存業務(可燃ごみの収集)を委託せざる得ないということになる。それまでの直営堅持の方針に基づくならば、既存業務の委託には反対の姿勢で臨まなければならない。清掃現場の職場論議でも、「委託には、絶対反対」という意見が大勢であった。
 しかし、本当にそれで良いのか。自治体現場は、これから何を担っていくべきなのか。環境政策として、資源循環リサイクル型の社会システムの構築を図ろうとする時、自治体現場が既存業務にのみ固執していて良いはずはない。考えぬいたあげく「これまで直営収集してきた可燃ごみの収集の一部を委託し、リサイクルへ方向転換を図る」という方針に至った。清掃現場が、資源循環リサイクル型社会システムの構築の一翼を担っていくことの価値は大きい。具体的業務を想定しても、分別が複雑であれば住民との対話が求められ、地域に根ざした業務を作り上げられるのではないか。それが、この先職場を守る手段となり得るのではないかと考えた。
 それでも職場論議は、難航を極めた。「一部でも委託を許せばコスト論でやられる」「先を見通すならば、リサイクルに進むべきだ」職場の意見は大きく分かれた。こうした職場論議は延べ17回に及んだ。(17分別だから17回やったというわけではないが…)
 その結果、「リサイクルの方向転換」という方針に沿って、現行業務に付加価値をつけていくことの必要性や多様な住民ニーズに応えうる質の高い現場作業への転換を図るという共通認識に立ち、職場合意に至ったのは年を越した1月中旬であった。

4. ゴミュニティの確立

 リサイクルを進めるには、大雑把に言ってしまえば2通りの方法に分けられる。1つは、排出段階では規制をかけず「ごちゃ混ぜ」でも良いから、とにかく集め中間処理の段階で磁気選別機などを使いリサイクルする方法。RDFのように処理の段階でエネルギー化し利用する方法やガス化溶融炉なども、これに当てはまると思う。もう1つは、徹底した分別排出と分別収集によってリサイクルを進めていく方法。本市の「17分別制度」はこちらに当たる。それぞれに利点、欠点を併せ持っているのだろうから、どちらが良いなどと言うつもりはない。
 そして、一概には言えないのだろうが、大規模な処理施設の建設が可能な大都市は前者を選択し、地域コミュニティがしっかりしている町村は後者を選択する傾向にあるのではないだろうか。ここで中規模都市は、前者か後者か難しい選択を迫られる。
 本市は、後者を選択した。人口規模およそ23万、中心部と周辺部で都市と田舎の側面を持つ本市において、排出段階での細やかな分別を徹底するためには、市民ひとり一人のリサイクルに対する意識を高める働きかけはもちろん、分別排出などへの協力を図る地域組織を備えなければならない。このような考え方から「住民協力体制」というプランが生まれ、17種分別制度の実施に合わせて準備を進めた。
 住民協力体制は、町内会等の範囲(概ね150世帯)で推薦され、市が委嘱(非常勤特別職員)した「分別推進員」を中心に構成される。分別推進員は、ごみ減量・リサイクルなど、市の環境行政に関する情報を地域に伝える。また、ごみ集積所の利用世帯を単位とした地元の代表者・責任者と連絡を図り、地域の要望などを市に伝える。そこで分別推進員を軸に、ごみに関するあらゆる情報が飛び交うネットワークが生まれる。言わば、コミュニティならぬ<ゴミュニティ組織>である。とすれば、冒頭の「街の朝の風景」で、住民の間で交わされる会話は、ゴミュニケーションと言えるのかもしれない…

5. いま現場で ……

 17分別制度の実施にあたって、清掃現場は燃やせるごみの収集の一部を委託し、空き缶やビン、ペットボトルなどの資源物は直営収集を始めた。前述したように、その判断に至るには、徹底的な職場議論という生みの苦しみがあった。
 しかし、制度実施後、現場作業員からは「暑いなか、ご苦労様」などと住民に声を掛けられることが多くなったと聞く。また、現場の意識が少しずつ変わり、今では排出指導月間を設けていて、「街の朝の風景」の中に現場作業員の姿もある。聞く所によると、100枚の理路整然とした排出方法のチラシより、「せからしかろばってん、分けてくれんの」という現場の一言のほうが住民には効くらしい。ゴミュニティのなかに清掃現場が根付こうとしている。
 また、ごみ処理量が3年連続で減少し、資源化率が徐々に向上し19%台となった背景には、ゴミュニティ組織の機能化による住民の排出協力があり、その影には住民の排出を補おうと、ビンのキャップなどの不適物を丹念に取り除きながら収集する現場の地道な努力がある。
 分別制度への慣れによる減量意識の薄れからか、ごみ量のリバウンド現象が生じていることや排出のルールが、なかなか守られない集積所があるなど、まだまだ課題も多い。しかし、この制度の成否の鍵は、住民と清掃現場が手をつなぎ合うことが出来るか否かに在り続けるはずだ。
 97年「容器包装リサイクル法」の施行、98年「家電リサイクル法」99年「循環型社会形成推進基本法」の制定などによって、環境行政はこれからも大きな変化を遂げるに違いない。法や制度の見直しが住民には、なかなか届かない中で、自治体現場は、法や制度と地域住民との掛け橋になり得るのではないだろうか。現場が変わることで地域が変わる。現場から始める自治体改革。今ほんの少しだけ、その可能性を感じている。