「川西市子どもの人権オンブズパーソン」制度について

兵庫県本部/自治労川西市職員労働組合


 1998年12月、全国的な注目の中、市議会において「川西市子どもの人権オンブズパーソン」条例が全会一致で可決されました。条例制定までの経過は、次項の表に記しています。
 なぜ、このような条例が、全国に先駆けてつくられたのか。何か特別な事情があったのか。(例えば、「いじめ」等による自殺者が複数出たとか、川西市が突出して不登校生徒等が多いとか)しかし、そのようなことは特別ありませんでした。
  「オンブズパーソン」とは、いわゆる「~オンブズマン」と同義語ですが、われわれがよく耳にするのは、「市民オンブズマン」という言葉で、イメージとしては、行政を監視、チェックする団体というものではないでしょうか。われわれ自治体で働く者にとっては、良くも悪くも、意識させられるものとなっています。(近年、特にこれらの市民団体から「手当」問題などでよく追求されているように)
  「子どもの人権オンブズパーソン」は、市民団体ではなく、市長の付属機関(行政内組織)です。また、広い意味では、行政等の監視・チェック機構ととらえられますが、どちらかというと、子どもの人権を擁護していくための機構ととらえたほうが的確かと思います。
 例えば、自分が、何か人権を侵された時、どうするか。おとなであれば、既存の行政組織(例えば、市町村の人権担当部局)や地方法務局の人権擁護局などがあり、また、それらに伴う電話相談窓口もあります。犯罪に近いものであれば、警察、裁判所へということもあります。子ども自身もしくは、子どもの代弁者(保護者)としてであれば、まずは教師や学校、親というのが考えられます。
 しかし、現実には、特に子どもたちにとっては、電話相談以外の既存の窓口(教師、親も含め)へ相談することはたいへん少ないものとなっています。(様々な理由があろう)
 そこで、その空間を埋めるものとして、官製機関ではありますが、第三者機関としての立場で相談等を受け、必要に応じて、関係諸機関等に対して、勧告・意見表明等ができるというもの(それなりの権限をもつ)の必要性が生じたのではないでしょうか。
 相談開始後この10月で1年4ヵ月が経ちますが、オンブズパーソンの年次報告によりますと1999年6月~12月までの7ヵ月間で、相談件数は92件・300回(内、子ども92回、おとな208回)ということです。
 客観的に見ますと、この制度もそれなりに機能・活用されているように思います。
 最近では、別項の新聞記事のように、中学生の部活動中の死亡事件に関して、関係機関に「勧告・意見表明」したことが記事になりました。
 組合としては、この条例制定等に何ら関与していませんが、市民にとって、子どもたちにとって利益に適う制度として、また、川西の教育や地方自治にとってもより豊かになっていくことを願いながら、客観的な立場から見守っていきたいと思います。

 

川西市子どもの人権オンブズパーソン条例制定までのあゆみ

1989年 子どもの権利条約を国連が全会一致で採択
1994年 子どもの権利条約を日本でも批准(4月より発効
国内では「いじめ」による子どもの自殺が多発
1995年 川西市教育委員会で「いじめ」問題等の抜本的対策の検討に着手
4月:「子どもの人権と教育」検討委員会(会長:上杉京大教授)設置
10月:同検討委員会「子どもの人権と教育についての提言」
→公的・社会的な子育ての支援、子どもの自主活動への支援を推進することなどと共に、子どもの人権を護る第三者機関として、オンブズパーソン制度創設を教育委員会に提案。子どもの人権尊重と確保を強く求める。
1996年 川西市教育委員会、提言の具体化に向けた取り組みに着手
1997年 5月:オンブズパーソン制度検討委員会(会長:白石京大教授設置)
6月:国連子どもの権利委員会が日本政府に22項目の勧告
→日本での子どもの権利条約の実施状況に関し22項目の懸念事項を表明。オンブズパーソンの創設等を求める。
9月:同検討委員会「川西市における子どもの人権オンブズパーソン制度のあり方について」を教育委員会に答申。
→オンブズパーソンの役割を、公的・社会的な「子どもの代弁者」「子どもの擁護者」「公的良心の喚起者」「子どもを支援するコーディネーター」と位置づける。
1998年 12月:川西市議会が全会一致で「川西市子どもの人権オンブズパーソン条例」を制定
→子どもの人権を護るために、子どもやおとなからの相談を受け、学校を含む市の機関に、調査、勧告、意見表明ができる権限、市民に公表する権限等をもつオンブズパーソンを市長の付属機関として設置すること等が定められる。
1999年 3月23日:条例施行
4月~5月:オンブズパーソン事務局体制確立
6月:相談・申し立て受付開始

 

川西市子どもの人権オンブズパーソン事務局体制

*オンブズパーソン:3名(大学教授・弁護士・子ども情報研究センター副所長)特別公務員・非常勤(週2日程度)
*調査相談専門員:3名(市嘱託職員→公募により採用)非常勤(週4日)
*専  任  職  員:2名(課長級1名・係長級1名)

● 事務局は市庁舎内にあり、組織的には、生活・人権部 人権推進室の所管となる

 

川西市子どもの人権オンブズパーソン条例

平成10(1998)年12月22日
川 西 市 条 例 第 24 号

第1章 総 則

(目 的)
第1条
 この条例は、すべての子どもが人間として尊ばれる社会を実現することが子どもに対するおとなの責務であるとの自覚にたち、かつ、次代を担う子どもの人権の尊重は社会の発展に不可欠な要件であることを深く認識し、本市における児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という。)の積極的な普及に努めるとともに、川西市子どもの人権オンブズパーソン(以下「オンブズパーソン」という。)を設置し、もって一人一人の子どもの人権を尊重し、及び確保することを目的とする。
(子どもの人権の尊重)
第2条
 すべての子どもは、権利行使の主体者として尊重され、いかなる差別もなく子どもの権利条約に基づく権利及び自由を保障される。
2 本市及び市民は、子どもの権利条約に基づき、子どもに係るすべての活動において子どもの最善の利益を主として考慮し、子どもの人権が正当に擁護されるよう不断に努めなければならない。
3 本市は、子どもの権利条約に基づき、子どもの教育についての権利及び教育の目的を深く認識し、すべての人の基本的人権と自由を尊重し、自己の権利を正当に行使することができる子どもの育成を促進するとともに、子どもの人権の侵害に対しては、適切かつ具体的な救済に努めるものとする。
(定 義)
第3条
 この条例で「子ども」とは、子どもの権利条約第1条本文に規定する、18歳未満のすべての者及び規則で定める者をいう。
2 この条例において「子どもの人権案件」とは、本市内に在住、在学又は在勤する子どもの人権に係る事項(以下「本市内の子どもの人権に係る事項」という。)のうち、本市内に在住、在学又は在勤する子ども又はおとな(以下「本市内の子ども又はおとな」という。)から擁護及び救済の申立てを受けてオンブズパーソンが調査し、処理する案件並びにオンブズパーソンが自己の発意により擁護及び救済が必要と判断して調査し、処理する案件をいう。
3 この条例において「市の機関」とは、市長その他の執行機関その他法律の規定に基づき本市に置かれる機関(議会を除く。)若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法令により独立に権限を行使することを認められたものをいう。

第2章 オンプズパーソンの設置等

(オンブズパーソンの設置)
第4条
 地方自治法(昭和22年法律第67号)第138条の4第3項の規定に基づく市長の附属機関として、オンブズパーソンを置く。
(オンブズパーソンの組織等)
第5条
 オンプズパーソンの定数は、3人以上5人以下とする。
2 オンブズパーソンのうち1人を代表オンブズパーソンとし、オンブズパーソンの互選によりこれを定める。
3 オンブズパーソンは、人格が高潔で、社会的信望が厚く、子どもの人権問題に関し優れた識見を有する者で、次条に規定するオンプズパーソンの職務の遂行について利害関係を有しないもののうちから、市長が委嘱する。
4 オンブズパーソンの任期は、2年とする。
5 オンブズパーソンは再任されることができる。ただし、連続して6年を超えて再任されることはできない。
6 市長は、オンブズパーソンが心身の故障のため職務の遂行ができないと認められる場合又は職務上の義務違反その他オンブズパーソンとして明らかにふさわしくない行為があると認められる場合を除いては、そのオンブズパーソンを解職することができない。
(オンブズパーソンの職務)
第6条
 オンブズパーソンは、次に掲げる事項を所掌し、子どもの人権案件の解決に当たる。
 ① 子どもの人権侵害の救済に関すること。
 ② 子どもの人権の擁護及び人権侵害の防止に関すること。
 ③ 前2号に掲げるもののほか、子どもの人権の擁護のため必要な制度の改善等の提言に関すること。
(オンブズパーソンの責務)
第7条
 オンブズパーソンは、子どもの利益の擁護者及び代弁者として、並びに公的良心の喚起者として、本市内の子どもの人権に係る事項についての相談に応じ、又は子どもの人権案件を調査し、公平かつ適切にその職務を遂行しなければならない。
2 オンブズパーソンは、その職務の遂行に当たっては、関係する市の機関との連携を図り、相互の職務の円滑な遂行に努めなければならない。
3 オンブズパーソンは、その地位を政党又は政治的目的のために利用してはならない。
4 オンブズパーソンは、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
(市の機関の責務)
第8条
 市の機関は、オンブズパーソンの職務の遂行に関し、その独立性を尊重し、積極的に協力、援助しなければならない。
(兼職等の禁止)
第9条
 オンブズパーソンは、衆議院議員若しくは参議院議員、地方公共同体の議会の議員若しくは長又は政党その他の政治団体の役員と兼ねることができない。
2 オンブズパーソンは、本市に対し請負をする企業その他これに準ずる団体の役員又はオンブズパーソンの職務の遂行について利害関係を有する職業等と兼ねることができない。

第3章 救済の申立て及び処理等

(救済の申立て等)
第10条
 子ども及びおとなは、何人も本市内の子どもの人権に係る事項についてオンブズパーソンに相談することができる。
2 本市内の子ども又はおとなは、個人の資格において、本市内の子どもの人権に係る事項について、オンブズパーソンに擁護及び救済を申立てることができる。
3 前項の申立ては、口頭又は文書ですることができる。
4 第2項の申立ては、代理人によってすることができる。
(調査等)
第11条
 オンブズパーソンは、前条第2項の申立てを審査し、当該申立てが本市内の子ども又はおとなから行われ、その内容が本市内の子どもの人権に係る事項であって、かつ、第6条各号のいずれかに該当すると認める場合は、該申立てに係る調査を実施することができる。
2 オンブズパーソンは、前条第2項の申立てが救済等を必要とする子ども又はその保護者以外の者から行われた場合においては、当該子ども又は保護者の同意を得て調査しなければならない。ただし、当該子どもが置かれている状況等を考慮し、オンブズパーソンが特別の必要があると認めるときは、この限りではない。
3 オンブズパーソンは、本市内の子どもの人権に係る事項についての相談又は匿名の擁護及び救済の申立てその他の独自に入手した情報等が第6条各号のいずれかに関するものであると認める場合は、当該情報等に係る調査を自己の発意により調査することができる。
4 オンブズパーソンは、前条第2項の申立て又は独自に入手した情報等の内容が次の各号のいずれかに該当すると認める場合は、当該申立てに係る調査又は当該情報等に係る調査を実施することができない。
 ① 重大な虚偽があることが明らかである場合
 ② オンブズパーソンの身分に関する事項である場合
 ③ 議会の権限に属する事項である場合
 ④ 前3号に掲げるもののほか、調査することが相当でないことが明らかである場合
5 オンブズパーソンは、第1項又は第3項の調査を開始した後においても、その必要がないと認めるときは、当該調査を中止し、又は打ち切ることができる。
(調査の方法)
第12条
 オンブズパーソンは、必要があると認めるときは、関係する市の機関に説明を求め、その保有する関係書類その他の記録を閲覧し、又はその写しの提出を求めることができる。
2 オンブズパーソンは、必要があると認めるときは、市民等に対し、資料の提出、説明その他必要な協力を求めることができる。
3 オンブズパーソンは、必要があると認めるときは、専門的又は技術的な事項について、専門的機関に対し調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる。この場合において、オンブズパーソンは、依頼した事項の秘密の保持に努めなければならない。
(申立人への通知)
第13条
 オンブズパーソンは、第11条第1項の規定する審査の結果について、これを速やかに第10条第2項の申立てをした者(以下「申立人」という。)に通知しなければならない。
2 オンブズパーソンは、第10条第2項の申立てについて、第11条第1項の規定により実施した調査を中止し、又は打ち切るときは、その旨を申立人に通知しなければならない。
3 オンブズパーソンは、第10条第2項の申立てを受け、第11条第1項の規定により調査を実施した子どもの人権案件について、これを第15条から第18条までの規定により処理したときは、その概要を申立人に通知しなければならない。
4 前3項に規定する通知は、申立人にとって適切な方法により行うものとする。
(市の機関への通知)
第14条
 オンブズパーソンは、子どもの人権案件の調査を開始するときは、関係する市の機関に対し、その旨を通知するものとする。
2 オンブズパーソンは、第11条第5項の規定により、子どもの人権案件の調査を中止し、又は打ち切ったときは、前項の規定により通知した関係する市の機関に対し、その旨を通知するものとする。
3 オンブズパーソンは、次条から第18条までの規定による子どもの人権案件の処理を行ったときは、その概要を必要と認める市の機関に通知するものとする。
(勧告、意見表明等)
第15条
 オンブズパーソンは、子どもの人権案件の調査の結果、擁護及び救済の必要があると認めるときは、関係する市の機関に対し、是正等の措置を講ずるよう勧告し、又は是正等申入れ書を提出することができる。
2 オンブズパーソンは、子どもの人権案件の調査の結果、制度の見直しの必要があると認めるときは、関係する市の機関に対し、当該制度の見直し等を図るよう意見表明し、又は改善等申入書を提出することができる。
3 前2項の規定により勧告、意見表明等を受けた市の機関は、これを尊重しなければならない。
(是正等の要望及び結果通知)
第16条
 オンブズパーソンは、子どもの人権案件の調査の結果、必要があると認めるときは、市民等に対し、是正等の要望を行うことができる。
2 オンブズパーソンは、子どもの人権案件の調査の結果、前条に規定する勧告、意見表明等又は前項の規定する是正等の要望の必要がないと認める場合においても、第13条の規定による申立人への通知のほかに、関係機関及び関係人に対し、断所見を付した調査結果を文書で通知することができる。
(報 告)
第17条
 オンブズパーソンは、第15条に規定する勧告、意見表明等を行ったときは、当該勧告、意見表明等を行った市の機関に対し、是正等の措置等について報告を求めることができる。
2 前項の規定により報告を求められた市の機関は、第15条第1項の規定する勧告等に係る報告については当該報告を求められた日から40日以内に、同条第2項に規定する意見表明等に係る報告については当該報告を求められた日から60日以内に、オンブズパーソンに対し是正等の措置等について報告するものとする。
3 市の機関は、前項に規定する報告を行う場合において、是正等の措置等を講ずることのできないときは、オンブズパーソンに対し、理由を示さなければならない。
(公 表)
第18条
 オンブズパーソンは、その総意において必要があると認めるときは、第15条に規定する勧告、意見表明等の内容を、公表することができるものとする。
2 オンブズパーソンは、その総意において必要があると認めるときは、前条第2項の報告及び同条第3項の理由を、公表することができるものとする。
3 オンブズパーソンは、前2項に規定する公表を行う場合においては、個人情報の保護について最大限の配慮をしなければならない。

第4章 補 則

(事務局)
第19条
 オンブズパーソンに関する事務を処理するため、事務局を置く。
2 オンブズパーソンの命を受け、その職務の遂行を補助するため、調査相談専門員を置く。
(運営状況等の報告及び公表)
第20条
 オンブズパーソンは、毎年、この条例の運営状況等について、市長に文書で報告するとともに、これを公表する。
(子ども及び市民への広報等)
第21条
 市の機関は、子ども及び市民にこの条例の趣旨及び内容を広く知らせるとともに、子どもがオンブズパーソンヘの相談並びに擁護及び救済の申立てを容易に行うことができるために、必要な施策の推進に努めるものとする。
(委 任)
第22条
 この条例の施行に関し必要な事項は、市長が定める。

付 則

 この条例は、規則で定める日から施行する。

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