母子保健活動の取り組み
 ― 母と子と父そして人にやさしいまち・光をめざして ―

 山口県本部/光市役所職員労働組合


 光市では、母子保健事業を展開するなかで、「おっぱい育児」を核として事業を進めてきた。その経過と内容、今後の課題について述べたい。
 光市は、山口県の東南部周南工業特別地域の東部に位置し、瀬戸内海国立公園を一部に含む、人口48,000人の都市である。
 出生数446名、出生率9.6%(平成10年)で、ほぼ、全国と同レベルである。老齢化率18.8%(平成12年7月1日現在)で、少子高齢化は避けられない事態といえる。
 母子保健事業の母乳育児推進活動から、おっぱい育児推進活動へと変化していった経過について述べる。

光市地図

1. 母乳育児推進活動の開始(昭和51年~62年頃)

 昭和51年より、母乳栄養の重要性について着目し、母子保健活動の重点目標として掲げ、母乳育児についての勉強会を実施、保健婦の資質を高めていった。加えて、母子保健推進員(昭和45年より活動開始)への研修を行い、広く市民へ周知するような方策をとった。
 昭和55年には、3ヵ月児健康診査時の母乳栄養率が52.7%(全国34.6%)、昭和62年には、71.4%を記録した。

2. 母乳育児推進により顕在化してきた問題点とその対策(昭和58年~平成4年頃)

 母乳育児を推進するに当たり、訪問・育児相談などの場で問題が顕在化してきた。
 母乳が出ていると信じて疑わず、乳児が脱水寸前になったケース、母乳にこだわるあまり母親が育児不安に陥ったケース、疾病により母乳が与えられないため母親が引け目を感じるケース、周囲の意見に惑わされて自分の育児ができず悩むケースなど、母乳育児を成功させるためには育児環境が大きな鍵になっていることを認識することとなった。
 市内の医療機関との勉強会を実施したり、妊娠届出時に母子保健サービスについてのリーフレット「母と子のしおり」や「赤ちゃん誕生連絡票」の配布を開始した。このことから母親が母乳のことや育児のことで困った時に、すぐに訪問や電話などで関われるようにした。又、母親教室でOB会を結成していくことや、母子保健推進協議会の「子育て輪づくり運動」をサポートすることで、母親同志の仲間づくりを積極的に進めていった。

3. 「おっぱいまつり」の開催・おっぱい都市宣言(平成5年~7年頃)

 保健婦が母乳育児を進める上で、育児環境が重要であると認識を深めていった頃、市制50周年のイベントとして人口定住対策と母子保健の向上をテーマとし、平成6年3月「おっぱいまつり」を開催することとなった。「おっぱい」というインパクトのある言葉のおかげで、世間の注目を集めたのも事実であろう。
 このことから、市議会での、「おっぱい都市宣言」(平成7年3月24日決議)へと発展していくこととなった。

4. 「おっぱい都市宣言」後の母子保健活動(平成7年~現在)

 栄養面のみについて考えた母乳育児でなく、母と子のふれあいをも含めた母乳育児の推進について強く意識することで、「おっぱい育児=母乳が出る出ないに関わらず、胸・おっぱいで子どもを抱きしめ、赤ちゃんと見つめ合い、語りかけ豊かな心を持って子育てをしよう」という趣旨の保健活動へと内容を高めてきた。
 平成8年の母子保健計画策定にも反映することで、平成9年地域保健法施行に伴う母子保健事業の移譲の際にも光市のオリジナルな面を大切にできたと思う。

5. 現在の光市の母子保健活動(特徴的なものについて)

① 母子健康手帳の交付
  母子保健における最初の接遇の場として考え、大切にしている。おっぱいルームと呼んでいるスペースで、落ち着いたムードの中、母子保健施策についての説明や、妊娠中の問題点や、妊婦の悩みなどを把握し、支援を行っている。

② 母親教室、母親教室OB会
  母親教室では、母乳育児のための正しい情報を伝達できるよう配慮している点、教育委員会と連携し、光市青少年を育成する市民会議との合同講座を設けている点、教室生同志が情報交換や仲間づくりができるよう配慮している点が特徴的である。
  母親教室で知り合った妊婦さんが、出産後も継続して集うことができるよう、母親教室のOB会育成についてサポートしている。平成4年度から開始し現在は17グループが活動している。

③ 新生児訪問
  母乳育児を成功させるためには、新生児訪問が重要であると考え、出生児の情報を早期に把握するための工夫を重ねてきた。母子健康手帳交付時に「赤ちゃん誕生連絡票」を渡し、出産後に郵送してもらっている。又、出生届け出時に、戸籍住民係の職員より「赤ちゃん誕生連絡票」の提出を促してもらっている。
  「赤ちゃん誕生連絡票」の配布を開始した昭和63年には連絡票の提出数は9件であったが、平成10年度には、353件となり、訪問実施数が115件、電話での保健指導数が238件と実績を上げてきている。

④ 思春期保健事業
  平成9年度より思春期保健事業を開始する。毎年1校、市内の中学校を指定校とし生徒とその保護者を対象とした、「思春期講演会」と「赤ちゃんとのふれあい体験学習」を実施している。今年度は、指定校以外の中学校からふれあい体験の希望があり保健センターで実施している育児学級(離乳食教室)と組合せての実施となった。中学生はもちろん、若い母親にとっても非常に貴重な体験となっている。

⑤ 地区組織への働きかけ
  母子保健に主に関わり、ボランティアとして活動して地区組織として、「光市母子保健推進協議会」の存在がある。その他の健康づくりのための地区組織として、「光市連合婦人会」「光市食生活改善推進協議会」がある。この3団体が「健康をつくる婦人の会」を形づくっている。おっぱい都市宣言の主旨についての啓発活動については、これらの団体が中心的役割を担っている。

⑥ おっぱい関係事業
 ● おっぱいまつり
  毎年1回「世界母乳週間」に合わせて実施している。平成6年3月に第1回のおっぱいまつりを開催。今年度で7回目の開催となる。協力団体も増え、市民への「おっぱい育児」推進のためのイベントとして好評である。
 ● おっぱい電話相談
  母乳についての悩み、育児についての悩みなど、気軽に電話相談を利用できるよう積極的にPRしている。
 ● おっぱいのうた、おっぱい体操
  初回のおっぱいまつりの催し物の1つとして、来場者による「おっぱいのうた」(平成8年に手直しして、「みつめあって~おっぱいのうた~」となる)を制作するその曲を使って3種類の体操を創作している。1つは、妊産婦や成人向けの母乳がよく出る体操、肩凝り予防体操、1つは乳児向けの赤ちゃん体操、もう1つは幼児とのふれあいのための体操となっている。対象に応じて衛生教育の場で活用している。

6. 光市の母子保健活動における今後の課題

 光市においては、「おっぱい育児」について少しずつ住民の理解が得られてきていると思う。しかしまだ本当の主旨については十分とはいえない。
 今後の具体的な母子保健活動として
 ① 保健活動を通しておっぱい育児の主旨を広く市民に啓発する。
 ② 思春期保健事業、「乳児と中高生とのふれあい体験学習」の拡大充実
 ③ 母親教室OB会の育成援助、活性化への援助
 ④ 地区組織の育成、活性化を図る。
 ⑤ 母親の援助者として、的確な情報が提供できるような職員としての資質を高める。
 ⑥ 関係部署の密接な連絡調整を図り、継続的かつ統一的な保健サービスが提供できるようなネットワークづくりを推進していく。
 環境づくりは、国県市といった行政のみならず、企業・地域さらには、市民一人ひとりを含めた社会全体で子育て支援を実践することが重要であろう。
 母と子と父そして人にやさしいまちが実現できるような“光市”をめざして今後も母子保健活動に取り組んでいきたい。

光市母子保健体系図