はじめに
児童福祉法の改正後、厚生省は少子化対策を推進すべく、保育制度の弾力化・規制緩和を進めており、保育現場に大きな影響を与えている。特に乳児保育の一般化・延長保育の実施、さらに定員数を超える入所枠の拡大等による短時間勤務保育士の増加が、正規職員と臨時職員との軋轢を生み、互いに、精神的・肉体的疲労感があるという。
そこで、県本部社会福祉部では、1999年度及び2000年度、県内の公立保育所・児童館、公立幼稚園を対象に職場実態調査を実施した。調査対象保育所等は211施設で、このような調査を実施できるもの全市町村に労働組合が組織されているからこそできた調査である。そして、この調査結果をもとに、いま、公立保育所が抱えている悩み・問題点などを探り、意見具申していきながら、保育運動を進めている。
1. 保育所・児童館の統廃合が現実的に
入所児の減により統廃合することになった保育所から「まさか、保育所がなくなるなんて。」思わなかったという。子どもを産まなくなったのが、理由のひとつであるが、実は、過疎地から都市への移動。3世代同居を拒否し(できず)、若者が都市へ流れたと考えられる。その保育所では、保育士の配置転換が提案されているという。
一方、都市部では、乳児保育の希望が多く、乳児保育する基準で建てた保育所ではないため、部屋の改造・付け足しをしている保育所もあるものの、大方、老朽化した建物では受け入れることができず、大規模な保育所を建て、周辺保育所を統合するといったことも行われている。
ところが、少子化対策といいながら、自治体側の財政難・コスト高を理由に、児童の健全育成に対する公的責任を放棄するような、住民の意志を無視した、一方的な統廃合が多くみられ、必ずしも統廃合が悪いとは思わないが、住民無視の統廃合には、反対していかざるを得ない。
2. 問題意識の共有化
1997年6月、児童福祉法が改正されるということで、「保育制度がどう変わるのか。」「保育職場にもたらす影響は。」など、不安だけが先行していた。また、「統廃合問題」が議論されるなかで、保育士の職種替え(配置転換)にどう対処したらいいのか。悩んでいた。そのような状況のなか、社会福祉部としても、総支部オルグや単組学習会を通じ、改正の留意点について報告し、問題点などを説明しながら、「問題意識を持って、行動しよう。」と呼びかけてきた。その結果、県内に村山・最北・置賜・庄内の4総支部があるが、まだ社会福祉部が組織されていなかった庄内総支部に、当時の総支部事務局長の努力もあって、1997年、新たに総支部社会福祉部が組織され、県本部社会福祉部は、県内全市町村を網羅する組織となった。
3. 保育所等職場労働条件実態調査の実施
「問題意識」が高まる中、各総支部の協力により、県内公立保育所等の職場実態・労働条件調査を実施した。調査の目的は、①自身の職場実態を知ること。②他の職場実態を知ること。の2点であるが、当然ながら、都市部と過疎地では保育所の定数や受入れ児童数によって実態は違うし、抱えている問題も違う。調査表には、入所児童と保育士の配置状況のほか、延長保育による保育時間。臨時・パートの配置。休息・休憩時間の取り方。労働安全衛生の実施方法について。また地域ニーズに応じた保育の実施状況などを記入させ、改善したいことなども合わせて記入していただいた。保育所を運営していくには、厚生省が示した最低基準(共通基準)がある。この調査表に記入することによって、自身の職場実態を知り、厚生省基準と照らし合わせられ、他の保育所の状況もわかるということで、たいへん参考になるという。
そして、この調査結果を基にした学習会として、県内保育職場の保育士など保育に携わる職員の参加を呼びかけ「山形県本部保育集会」を開催してきた。
4. 保育所の悩み~保育職場実態調査から~
保育集会は、県内保育士が一堂に会して、「よりよい保育を提供するために、どうするか。」を基本テーマに討論する学習会である。それぞれ人口集中地や過疎地など保育所設置実態に違いがあるものの、それぞれに抱える悩み、不平、不満、憤りを打ちあけながら、子育ち支援を真剣に話し合える場があるということは、職場を見直すきっかけになると好評である。
① 保育職場・労働条件実態調査の結果から
(1) 保育所定員に対し保育士の配置(充足度)はどうか。
保育所定員より超えて入所させている保育所は、県都山形市及び周辺市町などで、ほかは定員に満たない保育所が多い。その中で、保育士の配置であるが、各保育所とも最低基準はクリアしているものの、自治労基準(それぞれ保育士1人に対し、0歳児2人。1歳児3人。2歳児4人。3歳児10人。4歳児20人。5歳児20人)に達していない保育所が80%を超える。また乳児保育にかかる分など、臨時保育士(短時間勤務保育士)で対応している保育所がほとんどで、正規職員と臨時職員が同数か、臨時職員が多い保育所もある。
(2) 延長保育の実態と対応
早朝7:30から夕方6:00まで保育所を開所している保育所が多い。しかし夕方7:00以降も受け入れている保育所もあるが少ない。延長保育というよりは、補助金の対象にならない時間外保育を行っている保育所が多い。また職員体制は、正規保育士と臨時保育士の複数体制で対応している保育所が多い。
(3) 乳児保育の受入れ
県内44市町村の中、26市町が乳児を受け入れている。受け入れていない市町村は、申し込みがないということもあるが、受入れ体制が整っていない事情がある。
(4) 保育所で抱えている問題点及び要望
保育所で抱えている問題 ~実態調査の中から~
● 保育室が足りず、2クラスで一緒に一つの部屋で使用している状態である。0・1歳児の入所が増えてきているのでゆとりある環境を望みたい(都市部)。
● オープン形式の園舎に一時的保育児も混ざっての保育活動なので狭く、常に全体が不安な状態の繰り返しである。保育室に余裕がほしい。また年齢別定員がないため、年齢別のクラスの職員配置に毎年悩んでいる(都市部)。
● 待機児童解消のため、定員オーバーして入所、3歳未満児の入所も多くなっており、乳児室が狭くなり以上児保育室も使用せざるを得ず、保育室が足りない状況である。また途中入所する際、誕生日を迎えてからの入所させることも多々あるので、保母の配置基準も大変厳しい状況である(都市部)。
● 日々(時間内でも)ミーティングを行うようにしているが、時間外となると臨時保育士は同席できない。あるいは、途中までの同席となるので、打ち合わせしたつもりが伝わっておらず、また臨時保育士も増えているので、意思統一ならない時もある(都市部)。
● 4・5歳児混同クラスなので、大切な発達段階を課題が多い。(児童館)
● 給食の調理業務が委託なので、仕事内容からして正職員の調理師を配置してほしい。(児童館)
● 週休(振休)を消化するのが手一杯で年休も生休もなかなかとれない。(町村部)
● 正規の職員が少なく、社会福祉協議会職員と臨時の職員に頼っている。身分も給与状況も保障も全く違い、立場の違うもの同志の集団になっており、保育への考え方もまとまらず、正直バラバラ状態である。年休・休息も十分でなく正規職員の人員の増が望まれる。(町村部)
● 保護者の子育ての考え方が変化、職員との意見の食違いが多くなっている。(都市部)
② 保育集会で出された主な問題点から
● 共稼ぎ世帯の増大により人員体制の整備が不十分ななかで、朝夕時間を延長して保育を実施していることが多い。そして、延長保育時間の対応は時間外手当支給でなく時差出勤となっているが、早朝出た場合など実際は夕方5時前に帰宅するのは難しい。
● 休息・休憩時間について12:00~13:00となっているところや、第1グループ(13:30~14:15)と第2グループ(14:15~15:00)の2班に分けてやっているところがある。しかし、入所児が午睡に入ってもなかなか子どもが寝付けないなど休憩時間はなかなか取れない。
● 正規職員より臨時・パート職員が多くなっている保育所が多く賃金支給日や年休などの権利行使にあたって人間関係など気まずい思いをしている。
● 園児数の減少などを理由に統廃合問題が出されている。白鷹町では4つの保育園を1つに統廃合する提案を受けている。
● 障害児について、認定になっていない児の場合、親に認定を受けてほしいとはなかなか言えない。
③ 改善に向けての意見
● 休息・休憩時間がなかなか取れないという問題について、山形市職などでは、労働安全衛生委員会のなかで年1回の健康診断や産業医の保育所巡回などを通じ2班に分けて休憩時間を取るようにしている。産業医は保育所巡回のなかで「子どもから離れて休憩しないと心と体が休憩したことにならない」と指摘し、これを受けて休憩を取るようにしている。各単組においてもこの取り組みに学び休憩を取れるようにしていこう。
● 延長(早朝)保育を行っているところが多いが早出(7:20など)当番は最低2名必要だが中には1名のところもある。子どもなど何か緊急事態が生じた場合対応できないので最低2名配置できる人員体制を要求する。
● どこの保育所でも延長保育をはじめとしたニーズが強まっているが、やはり人員や休憩問題が課題となっている。よりよい保育ニーズに対応するためには保育士のよりよい労働条件を整備することが重要である。山形市職や川西町職などは保育士同志の話合いから問題点や課題を整理し単組3役と一緒に部長・課長交渉を年2回実施している。すべて要求が解決するわけではないが要求し続けることが大事であるし、保育所の問題を単組全体の問題に押し上げるため頑張ろう。
● よりよい保育を考えると、職員は様々な年代と、男女が混ざり合っている方が、子どものためにはよいようだ(民間と公立を比べた場合)保育時間の競争や保育料の競争より、保育の質の向上をあげていった方がよいのではないか。
● 統合により、建物は大変立派になるのだが、使いにくい問題が出てくる。見た目の立派さより、実際に働く職員が設計時点から使いやすいものを要望していかなければならない。
5. 働きやすい職場環境整備に向けて
① 働きやすい職場環境整備
ア 延長保育による時差出勤により、職員間のミーティングが十分取れないという。また臨時・パート職員とのギクシャクした関係もある。保育所内でのトラブルがもとで入所児に影響を与えることではいけない。チームワークのよさがよりよい保育を提供していく。
イ 施設整備を保育士側から提言できるようにするため、日ごろから予算執行側との交渉などができる関係を築いておく。
ウ 市町村間、保育所間の情報不足。社会福祉部単組間交流を行い、問題意識の共有化を図っていく。
② 政策的課題
ア 最低基準の改善を、厚生省に要求することも必要だが、保育士の配置基準などは、厚生省のおおむねの基準があるが、各市町村とも、独自基準を作成し要求して底上げを図ることが先決である。
イ 保育ニーズに対応するため、保育所自ら保護者や地域にアンケート調査を実施するなどして、主体性を持って公立保育所の存在感をアピールしていく。
6. 保育運動と労働運動
山形県には、公立保育所しかない町村がある。それらは、地域の児童センター的な役割を担い、地域に支えられて保育をしている。制度的にどうあれ、地域の子どもが全員入所するわけだから、幼稚園、児童館どちらでもいい。今「保育一元化」が各地で議論され実施されているが、すでに、保育一元化が行われているといった感じである。町村部では、少子化の中、独立清算を考えるならば、民間保育所や私立幼稚園が新たに進出はしてくることはまず考えられない。これまでどおり、既存の公立保育所が、中心となって子育ち支援を行っていくことにかわりないので、地域ニーズに応えていきながら、地域に根差した保育運動を展開していかなければならない。
一方都市部では、公立保育所、民間保育所、私立幼稚園、ベビーホテル、児童館など多様な施設があり、どこの児童施設に子どもを入所させるか、保護者が選ぶことができる。公立は定員を超えるところが多く、受入れ対応に苦慮している状況なので、保育所整備と保育士の適正な人員配置を要求し、よりよい保育を提供していく運動を継続していきながら、保育所に入りたくても入れない子どものためにも子育て支援センターの充実を図っていかなければならない。
少子化がますます進行し、また保育制度の弾力化・規制緩和が進むことで、新たな問題が発生することもあるが、それらは、保育職場の労働環境を整備することによってある程度解決できることが多い。しかし、今後の課題として、公立だけ身分保証が十分されており、労働環境の改善を訴えても、民間は、まだまだ劣悪な職場環境・労働条件のなかで働いている。民間の労働環境を整備していかなければ、公立もよくなっていかない。今後は、民間と連携して、すべての保育士等の労働環境改善に取り組まなければならない。
いま、公立保育所では様々な問題・課題を抱えながら、職場環境・労働条件の改善を求めて運動している。すべて、子どもたちのために。よりよい保育を提供するために。
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