労働運動の現場から「本来の地方自治の在り方」を求めて!
― 「公務労働拡大」の中間総括 ―

広島県本部/福山市職員労働組合


1. はじめに

 ① 今日の「行政」を「市民と職場との関係性」という「視点」で見た場合、「市民の側」から見ると、「身近でない・スピーディーな仕事をしてくれない・仕事のやり方が見るからに非効率である」ことなどを理由とする不平・不満が、「行政改革」攻撃(人員削減・コスト論・効率性)を支え、結果として、当局の「委託化」の推進を許しています。一方、私たち「職場の側」から見ると、職場の「合理化であり、切り捨てでしかあり得ない」ということに集約できます。そして、これらがそのまま「今日的な厳しい情勢」や「運動の混迷・困難さ」の中に現れています。
 ② こうした情勢の中で、私たちの運動は、「『行政改革は住民福祉』を切り捨てるもの」としてたたかいを展開していますが、「市民の側」から見れば、労働組合が「相も変わらず『より怠慢』で『より非効率』を主張している!」「『優雅な公務員像』というものを求めている以外のなにものでもない!」という内容としてしか映っていないのではないでしょうか。この結果が、市民に身近な行政(現場)を「消滅」(合理化)させているとするならば、市民にとって「地方自治」そのものが「存在する意味」はなくなり、「何もしない」・単に「支配する」だけの機関(行政)となり兼ねないという現実があるのではないでしょうか。
 ③ こうした現実を踏まえ、どう運動を展開すれば、「公務」労働者としての「展望のもてる運動」になるのか? ということを摸索しながら今日まで積み上げてきた結果として、「公務労働の拡大」(自治体改革)の取り組みにつなげることができました。ここに至るまでの福山市職労の取り組みについて報告します。

2. 「行政改革」にたたかった歴史(成功例・失敗例)

(1) 保育所の取り組み
  こうした運動を先行させていた保育所は、「行政改革による福祉政策の後退」が始まった82年頃から、延長保育、障害児保育、全員入所、年齢引き下げ・ことばの相談室の開設、アレルギー食(除去・代替食)などの取り組みを進める中で、「当局のやるべき課題」「今でも大変なのに」という意識を克服し、「公立保育所の危機は自分自身の危機」「本来、公立保育所の設置は市民要求であった」ということを基点として実現させてきました。近年の少子化対策においても一時保育事業、地域子育て応援センター事業、などを積極的に取り入れるとともに、休日保育の実施などさらなる充実もさせ、少子化の進む中で措置児童数を増加させてきました。もちろん、労働条件を後退させない取り組みも同時に行ってきました。
  しかし、38万人都市で公立62所・私立36所の保育所数を抱える当局は、保護者の願い・子どもたちの育つ権利の確立にむけた、私たちのこうした実践や運動に異論を挟まない(めない)ものの、「多い公立保育所・多い市職員」に対する行政改革を推進する立場にあるのも事実です。引き続き、そうした状況を克服するため、子どもたち、保護者の姿・実態を見つめる中から、必要な保育を見つけだす取り組み(実態調査=自己点検)を積極的に進めています。

(2) 地域支部〔松永建設(土木現場)〕の取り組み
  与えられた仕事をこなすだけでは、本庁職場と統合され兼ねない・すべてを業者委託にされ兼ねないということから、「地域の要望に適切に応えられるのは地域の職場から」とする取り組みを、草刈り・剪定・道路補修・道路舗装・不法投棄物の処理などとして実施し、委託費の削減だけでなく、すぐやる職場の位置づけを築きました。

(3) 養護教諭の取り組み
  福山市の場合、県費養護教諭の配置がなされない小・中学校で補充・補完として、また幼稚園36園(92年当時)で、最大60人が市費養護教諭として配置されていました。しかし、その必要性が年々薄くなり、結果として95年度には行き場のない過員という状況になりました。そうした状況を踏まえ、組合は養護教諭としての新しい仕事を摸索する中で、中学校の不登校児(生徒)対策としてのスクールカウンセリング・プロジェクトの発足を当局に提起し、96年度プロジェクトの発足に労使合意させることができました。民間教育(専門)機関である福山東林館の全面協力により、不登校児(生徒)への取り組みは、96年度12校16人(相談件数186件、不登校取り組み件数129件)であったものが、99年度17校・22人(577件、249件)と成果を上げるとともに、2000年度は18校・24人体制で臨んでいます。養護としての仕事の枠を超え、他市で例を見ない福山市独自の取り組みを展開しています。

(4) 幼稚園の取り組み
  公立離れの進む幼稚園36園(90年)は、毎年園児の作品展・町内会への園だより配布(年4回)・給食の実施・保育時間の見直し・全員研修会・園区の廃止、などの取り組みと対策の充実を図ってきました。園児数はやや増加しているものの市民の私立幼稚園志向は変化することはなく、園児数が10人をきる園が存在することとなり、当局はこうした園の廃園を実施し、2000年度は29園となっており、引き続く廃園が心配されています。「制度を良くすることや保育の良さを宣伝する」ことなどに討議や取り組みが集中しやすかったことを踏まえ、子どもを中心にして自らを問う活動が求められています。

(5) 加茂病院の教訓
  加茂病院(40床)は、周辺の宅地開発に伴い人口が増加し、開業医も多く開院し、従前の病院としての持つ意味は年々薄れ、この病院を赤字体質の病院としました。この間、組合は労働条件改善を進めるとともに、「患者の減少」は「加茂病院存続の危機」ということを呼び掛けましたが、現場組合員の「今のままがいい」とする意識の中で効果はなく、96年診療所への移行が提案され、97年10月から実施されました。現状を放置した医師の体質もありましたが、組合に目先の改善だけを求める職場実態の中では、有効な手法を見いだすことができませんでした。しかし、医師が替わり職員が減少して再出発となった診療所は、皮肉にも患者数が増加しています。

(6) 公民館の取り組み
  公民館は、新しい社会教育像を求めて新たな体制を作りましたが、まだ新しい体制の理念は機能していないばかりか、実質的体制は後退しています。

3. 97年現業統一闘争以降の現業職場の「公務労働の拡大」の本格的な取り組み

(1) 現業職場の97年以前の状況
  現業部門は、常に公務からの切り捨て攻撃にさらされ続けています。攻撃にはその都度対応しつつ、現業活性化などの理論武装も行ってきました。また、必要な労働条件の改善も、当局との力関係の中で行ってきました。「職場を守る」ため、清掃の収集区域の見直し、学校給食の米飯の導入・幼稚園給食の実施・食器の改善、保育所調理のアレルギー対策、市民病院における適時給食の実施などの取り組みを行ってきました。しかし、松永建設の先行した取り組みはあるものの、総じて理論に基づく行政改革攻撃に対応することが主力でした。

(2) 97年以降のいわゆる「公務労働の拡大」の本格的な取り組み
 ① 学校技術(用務)職場の取り組み
   小・中・高の各校に配置(1~2人)される技術員は、その仕事のあり方で批判の対象とされ続けてきました。集団での仕事のあり方について7年を超える労使委員会で多くの討議を行ってきましたが、各校(個人)の都合が先行し、具体化していませんでした。討議ばかりで具体化しないことに対して、98年2~3月にかけて樹木の剪定(幼稚園18ヵ所)を「共同作業」(概ね10人程度)として実施しました。やってみると、1~2人でやるより遥かに効率的で、人件費を含めても業者へ委託するより安くできるということが明らかになり、4月から学校技術員の業務の一つであった庁内連絡体制を整備(公文書送達業務の見直しとセット)し、「共同作業」が実施できる体制を確保する中で本格的にスタートさせていきました。
   4月以降、各校から出された作業要請(学校要望)を自ら計画実施できる体制をも確立したうえで、各校(個別)でできにくかった作業を共同で実施し、多くの成果をあげています。加えて夏休みは、平日においては到底できない「大掛かりなもの・日数を要するもの」などが連日作業により実施できました。このように、共同作業として「公務労働の拡大」をやり始めると、作業要請の量は膨大になり、中には、行政としてなぜ放置していたのかわからない作業要請も含まれていました。今、自分たちが批判されていた理由とその克服の道を見つけつつあります。三期休業中の「共同作業」は、学校ばかりでなく他の施設からも引っ張りだことなっています。
   そして、本格実施から3年目の今年は、「現場部門」における調整・段取り・仕上げ、「事務部門」における計画書・報告書の作成・支払までの処理などが、ごく自然な形でできるようになり当局や関係課から大きな評価を得ています。

<「共同作業」の具体>
各種貼替   (Pタイル・壁クロス・床カーペット・ノンスリップシートなど)
各種塗装   (小・中学校の廊下・教室の壁、プール、保育所・幼稚園の破風板など)
工 作 物  (小・中学校を中心とした各施設のごみ集積場、動物小屋、倉庫など)
そ の 他  (パンフレットスタンドなど)
花の提供   (プランターに移植など)
公共施設の樹木管理  (剪定、草刈り、伐採など)

   など基本的にはできるもの「すべて」を対象に実施しています。
 ② 清掃職場の取り組み
   行政改革のなかで「効率化・委託化」が顕著になっている清掃職場では、98年4月から収集車の大型化とし尿の委託化が実施されることとなり、結果として多くの余剰人員を抱えるという状況が生まれました。そこで、市民要求がありながらも放置されていたロードスイーバー(道路清掃)、不法投棄対策、公園の草刈りなどの仕事を98年1月からスタートさせましたが、いざやろうとしたとき「なぜ自分たちがやらなければならないのか」などの「疑問・不満」がだされ、スムーズなものになりませんでした。しかし、学技との共同作業(市民病院の剪定作業)に参加する中で、自らの「怠慢」さに気付き「主体性・積極性」がでてきました。以降、水路の清掃・公共施設のグリストラップの清掃などを要求し実施させました。結果として、委託費の削減と市民要求に対応する仕事の創造が行われるとともに、行政としてもこうした仕事に対する人員確保の必要性を認識しつつあります。
 ③ 学校給食職場の取り組み
   小学校だけの単独校方式の学校給食は、アレルギー食の対応や一部での中学校への配食・幼稚園への配食などを実施してきましたが、98年4月から給食を食べる現場(教室)へ入ることをスタートさせました。99年の「三期休業」中からは学校での環境整備を含む仕事を中心に、「共同作業」としての取り組みをスタートし、子どもたちや教職員などの反応も良く、「学校教育の一環としての学校給食」の足掛かりとなりつつあります。
 ④ 建設・土木職場の取り組み
   通常業務の範囲外とされていた小・中学校の「通路・駐車場」の舗装をすることからスタートさせました。
   先行していた松永建設の取り組みを生かし、今まで枠外とされていた公共施設の舗装や維持補修作業に当たり、委託費の削減と「すぐやってくれる」との実績をあげています。
 ⑤ 公文書送達業務(見直し)の取り組み
   縦割りで非効率的に運営されていた業務連絡を98年4月から見直しを図り、集中化(98年3月以前252施設135人⇒2000年7月以降316施設19人で実施)することで、施設単位・支所単位で行われていた公文書送達業務を整理し、安定的な送達業務体制の完成ができつつあります。
 ⑥ その他の取り組み
   保育所調理職場においては、これまでアレルギーのある子どもへの対応などの取り組みができていたにもかかわらず、「公務労働拡大」の提案に対して、その意味が十分に理解できていないという状況にあります。
   また病院職場では、単に「仕事を増やすこと」という受け止めにより、スタートに混乱をきたしましたが、先行する他部署と取り組みについて交流する中で、少しずつではありますが具体化が進んでいます。

(3) 「公務労働拡大」の財政効率化の具体例の一部
 ① 松永支部保育所職場から「保育所進入路の舗装」にかかわる職場要求→児童部回答「路盤まで実施」→支部へ協議→松永建設課対応
  ○1997.1/18~21→実質2日間で実施

L=50.0m強  W=3.0m  A=150.0㎡強  累積額=731,000円
原材料、砕石・合材=179,000円  掘削=123,600円  合計=302,600円  差し引き=428,400円

 ② 公民館事務室の内鍵の設置について教育委員会から担当執行委員へ協議→委員長
  ● 議長と協議→枚永支部学校技術員(10人)と議論・確認→松永支部学校技術員対応(松永5ヵ所を1人で対応→全体では18ヵ所)
  ○1997.11.28→実質3/8時間で実施

鍵1個の購入価格=1,640円  業者が実施した場合1個につき10,640円
松永で5ヵ所   業者= 53,200円   直営= 8,200円   差し引き= 45,000円
全体で18ヵ所  業者=191,520円  直営=29,520円  差し引き=162,000円

 ③ 宮前保育所屋根破風板塗装替 → 児童部から支部へ協議 → 松永支部学校技術員対応
  ○1997.12/11、12、15、16、17→実質1日7/8時間で実施

積算額=495,000円  塗料等原材料合計=63,150円  差し引き=431,850円

 ④ 合計(①②③)

  積 算 額 材 料 費 業者請負 直営・業者計 差し引き
合   計 1,417,520円 271,670円 123,600円 395,270円 1,022,250円

 ⑤ 年間推定仕事量(金額)

年  度 積算額(実績) 材料費(実績) 推定年間仕事量
97 年 度  23,134,940円  3,828,149円 ――――
98 年 度 118,361,385円 17,661,170円 2億円を超え3億円以内
99 年 度 125,024,580円 17,480,140円 2億円を超え3億円以内

4. 「公務労働の拡大」の「積み上げ」から見えてきたもの

 ① 具体的に作業を実践しなければ当局も市民も説得できないこと。
   そのためには、「すぐやる」ことに労働組合がかかわり、「責任」を持ち最後までやり切ること。
   やりやすい条件のあるものから・市民の必要度の高いものから実施し、業者との無用なトラブルを避け、誇張した宣伝は控え、良いものができるようになるまでは「沈黙」しておくこと。
 ② 「行革」の本質や自治体改革の必要性などを、いくら論理的に分析し、説明してもそれだけでは何も解決しないこと。
   具体的な作業(実践)の中のみにしか、「行革」における市民と公務との「接点・答え」は見いだすことができないこと。
 ③ 市民が行政に求めているものは、「行政」や「公務員」が必要なのではなく、「生活していく上で、困ることのないようにしてもらいたい」=「自分たちにとって必要な『行政サービス』がどれだけ受けられるか」ということに集約できること。
   市民から必要とされなくなった「仕事」は、「職場ごと消滅」せざるを得ないこと。
 ④ 私たち(公務労働者)が、「仕事」を「しているか? いないか?」また、「内容が良いか? 悪いか?」は「市民」が決めること。
 ⑤ 公務労働は、市民生活のあらゆる「必要」に対応することが「任務」として求められているがゆえに、これを基点としての公務の「幅・在り方」が問われていること。
 ⑥ 自治体改革を進めていくうえで、ベストの「論理や運動論」のみを求める討議では、理論的過ぎて現実的になり得ないがゆえに、多数派への発展性が少ないこと。

5. 自治体改革にむけて

 ① 厳しい情勢の中で、ただ単に自らの「賃金・労働条件を守り、職場を守る」だけのたたかいでは、市民から見れば、公務員の「エゴ」としか捉えてもらえず、職場も労働条件も守ることは「でき得ない」と思います。
 ② 福山市の場合、当局・議会・マスコミ・市民の感性が「市職労は悪玉」であり、「民間委託にすることが行政改革である」とするところにあるにもかかわらず、私たちの運動が、このことに「迫り・変える」取り組みになり得なかったがゆえに、市民を巻き込んだ運動の展開に至りませんでした。
 ③ こうしたことから私たちは、当局・議会やマスコミの「行政改革は、仕事・人を減らすこと」とする攻撃に対して、「当局や議会が無視できない・『市民の必要』に応える」ことを中心に、今日までできていなかった仕事を見つけだし、具体化することにより、「攻撃」をかわしつつ、市民が「生活していく上で困ることのない」行政をめざして取り組む中から、私たちの側が「具体的な行動を適して意識を改革していく以外『やりようがない』」ということを、この間の経験の中からし学びました。本当の意味での「『自治体改革』=『市民のための行政』は、『現場』にしかない」と感じています。引き続き、「現場」から市民本位の行政の在り方を、いわゆる本庁職場も巻き込んだ運動として、追求していかなければならないと痛感しています。