市民参加の介護・介護保険を
― 介護保険施行の前・後 ―

おおみやの介護保険を進める会

 

1. 「2001年合併」目前の大宮市

 大宮市は、今年5月1日にまち開きの行われたさいたま新都心を抱え、企業・銀行が集中する県下有数の商業都市であり、市の中心部にある大宮駅は、東北・上越新幹線、長野新幹線、高崎・宇都宮両線、埼京線、新交通システム・ニューシャトル、東武野田線の駅として、交通の要所となっている。
 そして、さいたま新都心が大宮、浦和、与野の3市にまたがっていることから、合併話が持ち上がり、来年(2001年)5月1日の合併をめざして、行政の現場では様々な調整が進められており、「各種事務事業の取り扱い」は28項目311件となっている。
 現在は新市の組織についても論議が始まり、現行よりもスリム化した12部体制とする方針で、今後は8,000人を超す職員をどう配置するかが課題となる。
 2000年8月1日現在、大宮市の総人口456,724人、浦和市の総人口486,357人、与野市の総人口83,310人で、合併すれば、人口約100万人の大都市「さいたま市」となる。
 大宮市の65歳以上の高齢者人口は、昭和45年には12,557人(4.7%)だったのが、平成6年には43,574人(10.3%)と、12年には59,979人(13.3%)と増加の一途である。また、大宮市では16年の高齢者人口は71,830人(14.7%)、そのうち、前期高齢者(65~74歳)は44,811人(9.27%)、後期高齢者(75歳以上)は27,019人(5.5%)と推計している。

2. おおみやの介護保険を進める会のこれまでの取り組み

 自治体単位でサービスが決められる介護保険の施行を前にした1998年3月に大宮市職労と大宮公共ユニオン(社会福祉協議会と社会福祉事業団の組合)が事務局を担い、組合と市民が一緒になって、自分たちの住む市の介護保険をより良いものにしていこうと会を結成した。介護保険を中心とした高齢者福祉についての勉強会や市への要望を出すことが活動の殆どで、会はゆるやかな集まりで会員は30名程度である。

1998年3月 結成集会/講演会
4月 介護保険に関する市のスケジュール等高齢者福祉について市に文書で質問
5月 講演会
6月 「要援護高齢者等実態調査の調査項目」に関する質問及び要望書を提出
7月 大宮市長選挙への立候補者に対する政策アンケートを実施、回答を得た。
7月 講演会
1999年1月 「介護保険事業計画」等についての要望書提出
3月 介護保険ホットライン実施(2日間)
7月 市民法制局準備会の総合介護条例(仮称)を学ぶ会
10月 講演会「よりよい介護保険をめざして」
          第一部 「総合介護条例の作り方」
               講師 日本女子大学助教授 堀越栄子さん
          第二部 「介護保険の使い方~申請からサービス利用まで」
               講師 大宮市保健福祉部次長 小林昇さん
                会員による寸劇をやりながら、小林次長に介護保険の使い方をコメントしてもらうというやり方で好評だった。
12月 「総合介護条例」の制定要望も含め、1999年1月の要望事項を再度提出
(要望事項及び回答・評価、現状については別紙のとおり)
2000年2月 上記要望書の回答についての評価・検討、問題点の整理
8月 介護保険課等に対するヒアリング実施

 

 以上が、会が主体となった活動であるが、他の高齢者福祉に関する団体の勉強会にも参加している。特に、3月に開催された「さいたま介護保険サポーター研修講座」(さいたまNPOセンターが埼玉県からの委託により実施)に会員の中からも参加し、その後、「大宮介護保険サポーターズクラブ」が結成され参加している。

3. これまでの成果とこれからの課題 ― 市民参加をキーワードとして ―

(1) これまでの成果
  私たちは、自分たちの住むまちの介護保険をより良いものにしたい。そのためには、市には情報を公開してもらい、私たちも勉強して、より具体的な提言をしていきたいと考えて要望も出してきた。さらに、ぜひ当事者の声を聞いて施策に生かしてほしい旨も要望してきた。
  その結果、市側の努力もあって、介護保険事業計画策定等専門部会の議事録だけではなく、提出されたすべての資料が公開されてきた。会員の中に市民公募委員がいたので、委員会に私たちの考え方を反映できたことは評価できることだと思う。
  しかし、この介護保険事業計画策定等専門部会は事業計画策定までの期限付きの委員会だったので、「介護保険施行後は、介護保険の運営を推進し、見守る委員会を市民参画の下に設置してほしい」と要望した。今年7月28日には、市民代表、団体代表、学識経験者等19名で構成される介護保険運営協議会が設置された。協議会の所掌事項は、①介護保険サービスの確保・向上に関する事項、②要介護認定の適正な実施に関する事項、③その他介護保険制度の円滑かつ適切な運営に関する事項、となっている。言うまでもなく、介護保険事業計画の進行管理は、この協議会で行われるものだと考えるが、市民代表は市報を通じて公募があり6名の方が参加されており、市民参加という点では評価できるが、協議会の内容は公開されていない。
  当事者の声を聞くということでは、介護保険スタート後の6月に、介護保険導入以前からサービスを利用していた在宅の要介護者の5%程度(130人)を対象に、在宅介護支援センター(12ヵ所)相談員による「サービス利用状況調査」が行われた。
  今後、市としては介護認定審査会委員の増員、薬剤師会の協力を得て「まちかど介護相談薬局」を38ヵ所に設置、保険料徴収説明会(市内18公民館ですべて土・日曜日に実施)サービス利用意向調査、ケアマネージャー連絡協議会設置、サービス事業者連絡協議会設置等を予定しているとの事であり、私たちの要望は市側に真摯に受けとめられてきたと言える。

(2) これからの課題
  私たちは、自治体の責任として、介護保険の質を担保するために、ホームヘルパーやケアマネージャーの研修の実施を要望してきたが、ぜひ実現させてほしいし、サービス事業者についての詳しい情報も公開してほしい。私たち市民も、安心して介護保険を利用したいし、育てていきたい。
  私たちが、会として市に要望を提出して介護保険の運営に反映させることはいうまでもないが、「介護保険に関する市民や保健・医療・福祉関係者などの意見・要望等を介護保険制度に反映させ、介護保険制度の円滑かつ適切な運営を図る」ことを目的とした介護保険運営協議会を市民が直接、お互いに意見を交換し合う場とすることは、介護保険制度をより良いものとして定着させていくために大変重要であるので、公開されるよう求めていきたい。また、浦和市にはこのような組織はないので、せっかく設置された介護保険運営協議会が合併までの命ということにならないよう、新市においても設置し、公開のもとに市民参画できるよう求めていきたい。
  高齢者の基本的人権を保障し、高齢者が住み慣れた町で希望をもって安心して暮らしていけるように、介護保険制度の充実及びサービスの質や内容の向上、介護保険サービス以外の地域福祉サービスの推進等、高齢者の自立支援を基本とした政策の実現に向け、市に自治体としての責任を求めていきたい。
  そして、これからは合併したがために市民サービスが低下したということのないよう、新市の市域となる現浦和・与野市の福祉関係団体にも呼びかけ、市民参画のもとに制度に規定されることのない「人」を大事にする福祉の実現に向けて、連携して取り組んでいきたいと思う。
  大宮市においては、高齢者福祉の最たる担い手であるホーム・ヘルパーは、在宅ケアサービス公社に属する登録ヘルパーとして位置づけられており、一人の自立した働き手としての処遇がされていない。ホーム・ヘルプに携わる人が安定した雇用を保証され、この仕事で「食べていかれる」ような条件作りも、もう一つの進める会の課題である。働く人の安定なしに、高齢者のよりよい生活は望むべくもない。ホーム・ヘルパーとして働く人の多くは女性であり、女性の平均年齢の高さを考えると、女性にとっては介護してもされても、どちらの立場にたっても切実な問題である。
  なお、2001年からは高齢再任用制度がスタートするが、それとの整合性を含めて、短時間公務員制度(パート)の確立を進めることが大切である。

おおみやの介護保険を進める会(埼玉)