ゆうやけの里・地域福祉フォーラムは、東京八王子市の恩方地区ではぐくまれている地域自治研活動です。1997年の3月に自治労都職労民生局支部八王子福祉園分会が呼びかけて第1回のフォーラムがもたれてからの3年半の活動で、私たちの期待をはるかに上回る豊かな出会いと確かな地域の住民とのネットワークが生み出されてきています。
1. はじめた動機
~フォーラム呼びかけ文より~
東京都八王子市恩方地区周辺には様々な福祉施設・医療機関が集中しています。
しかし、残念ながらそれぞれの施設相互のつながりや近隣住民の方々との交流の機会は極めて不十分なものに終わってきました。
25年前にこの地に開設された都立八王子福祉園も今大きな転機をむかえています。施設の全面立て替えを含む抜本的改革にどう取り組むのかが最大の課題です。利用者の地域生活の場として、そして地域福祉の拠点としていくための具体的な改革の処方箋の作成が急務となっています。地域の関係者の皆さんの率直なご意見を聞かせていただき課題を共有していきたいと思っております。
恩方に恩方市民センターが開設して1年がたちました。そして、恩方地区住民評議会をはじめとして、「ゆうやけの里」を誰もが安心して暮らせる地としていくための多様な活動が展開されています。このように恩方地区には新たなコミュニティ形成のモデル的実践にチャレンジしていく可能性が秘められているといえます。
そんな想いから、今回「ゆうやけの里・地域福祉フォーラム」を企画しました。恩方の地域の明日の暮らしを支え切り拓く、多彩な人々との出会いの場を私達市民・労働者の手で生みだし、様々な提言や意見交換を積み上げ、市民のアクションにつないでいく事を期待しております。多くの皆様の参画と協力をお願い致します。 |
2. 成功した地域実行委員会方式
~住民主体のフォーラムの運営へ~
フォーラムを開催するにあたっては、地域実行委員会方式をとることとし、次の様な開催要綱を確認してきました。
(1) 目 的
八王子市恩方地区(中学校区)を中心とした地域の福祉・保健・医療およびまちづくりの問題点と課題を探りつつ、恩方で暮らし働く人々のネットワーキングの促進を図る。
(2) 運 営
地区及び周辺地域の人を中心に賛同人・賛同団体を随時呼びかけ、フォーラム実行委員会に参加してもらい、実行委員会が企画・運営にあたる。実行委員会は隔月に1回定期開催する。
(3) 事務局
実行委員会の事務局は、自治労都庁職民生局支部八王子福祉園分会気付けとする。
初年度は、実行委員長と事務局長のいずれもが分会の役員で、地域の福祉関係者や住民有志・生協関係者を中心スタートしたフォーラム実行委員会も、2年目からは、委員長が地域で活躍している建築士の方が、問い合わせ先も地域作業所となり、地域に根をおろした実行委員会体制となりました。3年目を迎えた今年は、恩方地区住民協議会をはじめ、地域の医療法人や八王子福祉園も共催する形となり、すっかり地域に定着したフォーラムとなりました。
3. フォーラムを重ねて
~地域の課題を掘り起こす~
フォーラムは、1997年には5回開催されました。八王子福祉園分会の目指す「施設の抜本改革構想」の提起を皮切りに、実行委員会で興味のあるテーマが設定され、多彩なゲストの方から各地の実践を含めた問題提起と参加者との話し合いが重ねられてきました。
【1997年のテーマとゲスト】
第1回 3/17 「恩方地区の福祉施設と住民活動に求められていること」
● 民生局支部調査部長 伊藤 勲 ● 特別養護老人ホーム園長 青木 泰信
● たすけあいワーカーズ事務局長 稲田 広子
第2回 5/24 「八王子市地域福祉計画から見えてくる恩方地区の課題」
● 在宅介護支援センター所長 秋間 直次 ● 八王子ヒューマンケア 事務局長 中西 正司
第3回 7/27 「さまざまな人と共に生き働く場を恩方地区に」
● 地域作業所 結いの会代表 中川 恭 ● おちかわ屋所長 志野 雅子
第4回 9/20 「恩方地区に福祉オンブズマンを」
● 湘南福祉ネットオンブズマン 高山 直樹
第5回 11/30 「恩方地区における保健・医療・福祉の連携を求めて」
● 老人保健施設ゆうむ 関根 知恵子 ● 精神病院ワーカー 北川 裕道
4. 「よりあい会議」として
~まちへの想いを語りあう~
2年目を迎えて、実行委員会でフォーラムを出来るだけ参加者主体で運営していくことを大切にしていくことになりました。そこでフォーラムを「よりあい会議」として運営していくことをめざしていくこととしました。
「よりあい会議」は、①立場を越え、個人の素朴な思いを自由に話せる場、②情報を共有し、参加者の意見をもとにした提案をつくる、③どこがやるのか誰がやるのかではなく何をやるのかを考える、④理想をかかげつつ、実現できる具体的な提案をする場にしていこうというのが、申し合わせたことでした。実際の運営は必ずしも期待通りとはいっておりませんが、志は熱く抱き続けています。
「よりあい会議」は1998年8月から開始し、今年の6月までに8回開催されてきています。
第1回98・8/29 「八王子福祉園の施設公開と意見交換
― 施設への疑問と期待」
第2回 10/4 「車椅子でも介護者なしでデートしたい
― ジョイプロジェクト・渡辺さんを囲んで」
第3回 12/6 「八王子の介護保険を考える
― 八王子市役所・杉山さんのお話」
第4回99・3/7 「八王子の介護保険を考える その2
― 八王子市介護保険対策室との対話」
第5回 8/7 「アメリカ・カナダからの福祉レポート
― 北米の権利擁護活動から学ぶ」
第6回 9/18 「みんなでつくろう! 高齢者介護基本条令
― 直接請求実行委からの呼びかけ」
第7回 12/13 「縛らぬ介護の取り組みを考える
― 上川病院からの報告を受けて」
第8回00・6/3 「施設に入らないくらし方 ―
茅ヶ崎「翔の会」の取り組み」
第9回 10/7 「八王子のまちに重い障害を持つ人の生活寮を」
「よりあい会議」には、福祉・医療施設関係者に加え、恩方地区の町会役員や民生委員の方々も常連として参加されてきましたが、会を重ねる毎に、地域の高齢者や障害当事者・家族の参加も急速に増加し、参加者も100名を越えてきています。
5. 市民自治型福祉をめざして
~地域福祉計画策定への参画~
フォーラムで取り上げられた課題のいずれもが、まちの暮らしのあり様を問い直すものでした。そして、そうしたまちの悩みや期待とダイレクトに向き合うことの少なかった福祉施設に地域の風を吹き込む機会となってきています。さらに、1998年12月から設置された八王子市地域福祉計画審議会にフォーラムの初代実行委員長が審議委員に選出され(八王子市職労推薦)、市の計画策定に直接関与することが可能になりました。
新地域福祉計画策定にあたっては、高齢者計画(介護保険事業計画含む)・障害者計画・児童育成計画の各分野で増大し多様化している市民ニーズへの対応をどうするか、市政を取り巻く厳しい行財政の環境にあって、市民に開かれた市政の展開をどう進めるかが焦点となってきました。
フォーラムでの様々な市民の提言の実現は、審議会への文書意見や協力委員会議での意見反映、介護保険条令直接請求の運動の高まりとして試みられました。その結果、2000年3月に策定された新計画に、地域ケアのネットワークづくりや重度知的障害者のグループホームの重点的整備、子どもの権利宣言検討委員会や子ども会議の設置がもりこまれるなどの新たな施策の芽だしをすることができました。
6. 地域を変え、施設を変える
~「地域生活移行支援連絡協議会」の発足~
「八王子福祉園抜本改革構想」=大規模隔離収容型施設から多様なグループホーム集合型施設への転換が中心=を八王子福祉園分会が提起したのは1996年11月でした。当時の園は現行体制の維持を基本にした改革をめざし、園長は労務管理優先・組合排除を露骨に示していました。そうした状況を打破するために、分会は園運営の是正を求めるとともに、不毛な労使対決より、地域住民との協働の関係づくりを重視することに力を注いできました。
この5年間で職場内外の状況は一変しました。分会の「抜本改革構想」はその後園の「基本構想」に全面的に取り入れられ、12年度から、高齢・虚弱者に対応できる重介護棟の設置、地域自立とグループリビングの促進のための「園内生活寮体験室」の開設、指導訓練棟の地域活動センターへの転換、デイサービス事業や医療・福祉相談等の各種地域支援事業の実施が具体化してきています。分会も職場内合意の形成とフォーラムを通じて形成してきた地域との太いパイプ役をはたしてきています。また、福祉局と民生局支部との間で、この間継続的に設置されてきた施設改革にむけた「検討協議会」の活動も、本年3月に「重度知的障害者の自立支援に向けた入所施設のあり方について」の報告をまとめました。この報告は都の施設施策の歴史的転換を打ち出したものといえます。
そして、「12年」9月からは、都外施設や民間施設の代表、各区・市の担当者、通所・生活寮の代表者の参加を得ての「地域生活移行連絡協議会」が発足します。その中に、都内5地区を対象にした分科会が設置され、各地区の状況把握とモデルジ事業の立上げが目指されることになっています。八王子地区もその1つとして分科会がもたれ、重度生活寮の展開や入所施設と重度生活寮の中間形態の施設として位置づけられる「地域生活チャレンジホーム」の構想の具体化が検討されることになっています。
いよいよこれからが本番です。この間の長かった助走期間を通じ、職場・地域で蓄積してきたノウハウを都や地元自治体、民間施設や当事者団体との連携のもと個別具体的に実践する時を迎えています。
<資料>
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