1. はじめに
戦後社会福祉制度の根幹であった「措置」によって作られた施設「収容」というシステムが、「利用契約型」の社会福祉基礎構造改革の中で大きく転換されようとしている。介護分野への市場原理の導入の中であらためて「サービスの質」が問われることになる。これまで「(利用者の)生活と(施設職員)の労働の見直し」作業を基軸に施設のありようを問いなおしてきた我々にとってそのことの意味は大きい。事業実施により現場としてどう取り組んだのか以下報告する。
2. 導入までの経過(民生局支部「サービス評価基準の評価と支部の基本方針」より抜粋)
1998年12月、東京都心身障害者対策協議会は「精神薄弱者等今後の対策」という答申の中で「権利擁護機関」の設置を提言し、今日の「ステップ」となった。この時、民生局支部は、施設利用者の権利侵害問題に対する権利擁護のあり方が提言に盛り込まれていないことを批判するとともに支部として独自に対応することを表明した。その後、全国で初めて都立民営多摩療護園にオンブズマンが設置されたのについで都立民営の清瀬療護園にもオンブズマンを設置した。
そして当時都立直営であった日野療護園では分会が主導的な役割を発揮し、入居者自治会との共同の取り組みとして、人権ガイドライン=「日野療護園入居者権利・義務ガイドブック」の作成を実現してきた。しかしその中で日野療護園にオンブズマンを導入すべきという要求には、園および障害福祉部からは「都立施設には施設オンブズマンはなじまない」との立場から具体化を拒否してきた。
しかし、1998年6月1日、東京都福祉局は(当時)都立直営施設を含む全ての障害施設にオンブズマンを導入とサービス評価基準による自己チェックを含んだ、「心身障害者(児)入所施設サービス評価事業」を実施すると突然打ち出した。
その背景には、都関係施設である聖ヨハネ学園での体罰事件や白河育成園での人権侵害事件等の問題が続いたことが背景にある。当初、11施設をモデル実施として始まったこの事業も3年目を迎え、都内(外)施設全てが取り組んでいる状況にある。
3. 実施による現場での状況(日野療護園の場合)
日野療護園における「心身障害者(児)入所サービス評価事業」への取り組みについては、以下のような方法にて行った。
(1) 自己点検の方法
① 1年目については、一次評定者を「入居者から抽出した10名(男女5名ずつ)、生活課ローテ職員から無作為抽出した10名(男女5名ずつ)、看護婦から無作為抽出した1名、入居者自治会、分会、園長」の合計21名の個人と3機関に設定した。
② 記入は、すべて匿名とし、自力記入が困難な方については管理課事務職員が内容説明と代理記入を行うこととし、配布・回収は管理課が担当した。
③ 最終評定については、園管理者、自治会代表、分会代表計13名による「日野療護園サービス評価事業推進委員会」にて、「各評定者の評定結果について、評価が一階差以内のものは、一次評定者の多数決で、二階差以上のものは個別に協議の上決定した。
④ 2年目については、無作為抽出の入居者と職員を増やした他は1年目の方法を原則踏襲して行った。
(2) 日野療護園サービス点検調整委員会(オンブズマン)の設置・運営
① オンブズマンについては、日野市社協、分会、自治会の推薦により3名にお願いした。引き受けていただいたのは、市内社会福祉施設理事、弁護士、障害当事者で日野療護園退所し自立生活センター日野運営委員の方々である。
② 相談は、月1回で原則入居者自治会室で行う。相談受付は、原則として前日までに管理係に受け付ける。相談者本人の希望があれば、職員含む第3者を同席させることができる。
③ 相談内容が、事実の確認や園のサービス改善等必要な場合は、オンブズマンは、園に指示し、園は原則として次回までに文書で回答をすることとした。
オンブズマンの活動も年数を経てくる中で、いわゆる苦情・相談のほかに入居者との関係をさらに深めたいとの意向により「オンブズマン報告会」の実施と「やすらぎ」(園内の喫茶室兼リビングのようなところ)等でお茶を飲みながら懇親を深める取り組みが現在されている。
(3) オンブズマンによるサービス評価基準による点検
① 1年目(1998年度)については、就任後間もないこともあり園内の状況について把握しきれていないことから困難であると考えたが、園からの事業概要説明・分会、自治会との懇談を設けた。また、各設問等の背景の説明と自己点検1次評価集計分(最終評価はオンブズマン評価に影響を与える恐れがあるためこの時点では提供せず。)について提供し説明を行いオンブズマンだけで検討し報告書をまとめている。
② 2年目については、オンブズマン独自に評価を行い、自己評価とのすり合わせを委員会の中で行った。
(4) 改善すべき事項への取り組み
自己評価については、分会は執行部+分会機関である「生活と労働の見直し推進委員会」を中心に行った。自らの介助労働と園運営について客観的に見直す機会と捉え「辛口」に徹し行った。同時に園・自治会も個別に自己評価を行っているが「大きな差異」こそ認められなかったが「園評価」はどちらかと言えば「評価が高かった」といえる。
最終評価の結果での改善策等今後の取り組みについては、次のとおり。(紙数の関係から前段部分のみ抜粋) 改善策については、1年目の評価をベースに取り組み2年目についてもやりきれなかった部分をさらに取り組むという形で進んでいる。
自己評価での評価の悪かった部分への対応策については、園、分会、自治会三者の協議により決定してきた。しかしその過程のなかで、評価事業の実施による「マイナス面」がみえかくれした。
① 評価項目は、どちらかというと「知的障害」向けの設問になっており、設問に沿って評価するとDランクになってしまうものがあった。(たとえば集団的レクリエーションの実施や椅子やソファ等置いているか等)
② ノーマライゼーションといいつつも一方で、施設に喫茶室や銀行窓口、理髪等の機能を充実させているかという設問もあり、この間我々が追求してきた「地域の中であたりまえに」「地域の資源を使って」生活することと逆行するものであり、①とあわせ設問の改善について他都立療護とともに設問の再検討を要請した経緯がある。これについては、残念ながら、明確な形で改善されることはなかった。
③ 自己評価への改善策内容については前記した表によるが、そこに至るまでに表現された園管理者の発想は、かなり「管理的」なものがあった。たとえば、「挨拶リーダーを設置し挨拶をしその出来を評価する。」「引継ぎ前に月目標を唱和する。」「全入居者について記録する。」他。施設そのものの本質的な問題をどのように改革していくかという前提がないまま評価項目を従順に高めていこうとすればするほど「職員」「利用者」管理に行き当たるのではないかと一方で思うことが多かった。
④ 改善案は作ったものの、その進行管理や責任分担があいまいに進んできたために、2回目の評価前に振り返った際あらためて改善がすすんでいないことに気がついた。ともに進めてきた分会としても責任を感じたところであるが、あらためて組織的に定着させる必要性を感じ提起してきたところである。
⑤ あわせて2回目の評価意向、園管理者3名全員が異動により変わっているのだが、改善策で示した管理者の対応部分(園長の昼食への参加や遅番、夜勤等への勤務把握等他)についてあらためて対応を渋っている節が見受けられることも見逃せない。また、異動により改善が進まないというのでは、組織そのものが問われることになる。
⑥ 一方で、職員倫理規定として「日野療護園職員の基本姿勢」を作成した。作成過程の中で、自らの介助についての理念を確認しあうとともに入浴や食事や就寝等各介助場面ごとに割り振り、個別的な理念を出し合い確認、まとめた。その過程の中には、たとえば裸になり被入浴介助体験をするグループもあった。また、当園では画期的なことなのだが、介助職員のみならず、診察室、事務、運転職員も参加し自らの業務遂行に関しての理念を出し合ったことの意義は大きい。上位下達式に「こうするべき」ではなく現場レベルで話し合い確認しあうことは意義深く、今後毎年課題を替えて協議・作成することとした。
反面、管理者から「そんな事書いたらみっともない」など感想が出てくるなど、評価事業そのものについての理解を疑わねばならないような状況も一方にある。
⑦ オンブズマンに対しては、分会として推薦した障害当事者と弁護士さんが引き受けていただいたのだが、任務の重要性を鑑み、「独自性」が守られるようこの間配慮してきた。この間オンブズマンと分会との間で2度の懇談会を設けてきた。その中であげられた現段階の問題点として、「特に言語障害のある方のコミュニケーションが難しい」「施設でおこる問題の背景について理解しづらい」という大きくは2点があげられていた。
分会としては、「報酬が、月1万円と安いため、月1回以上の対応に限界があること」、「入居者の生活フィールドは地域の中で展開されているのに、「園長の私的諮問機関」という位置づけであること」、「定期的な学習の場が保障されていない、また他のオンブズマン等との交流等の必要があること」等改善すべき点が多いと感じており、予算要求項目としてやり取りしているところである。
4. おわりに
すでに、国の「障害者・児施設のサービス共通評価基準」が今年5月に明らかになっている。今後はこの基準をベースに動いていくものと思われるが、現段階では今年度のサービス評価は、都と国の両方に取り組むことが事業団交渉において明らかになっている。
国の評価基準作成にあたっては、療護施設利用者が入り作成が進められた。障害当事者が参画しての作成は画期的なことである。今後知的障害を持つ方、高齢者等様々な当事者や市民が参加したものや、都・国等の行政レベルだけでなく地域レベルのあるいは市民レベルの評価基準もあってよいのではないか。
加えて、それら評価基準とともに以下のような権利を保障しうるものにしていかなければならない。①施設入所そのものの本人同意や了解の保障の仕方、住居地の選択権の保障、②保護者にかわる権利擁護者の具体化、③統合教育の参加の保障や援護付き就労の促進、④男女交際や結婚・子育てへの支援、⑤施設で生活しても地域作業所等へ通所できる「二重措置」の解決、⑥施設から地域生活へ移行するためのシステムと予算措置 等々他である。あらためて施設を真の生活の場にしていく課題は多い。施設評価事業は施設改革をよりダイナミックに展開するひとつの手段としてとらえ、今後の運動にいかしていきたい。
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