1. はじめに
私たち松江市労働組合連合会(松江市労連)は1997年6月に「21世紀すこやかプロジェクト」を発足しました。そして市立病院の移転・新築と併せ整備されることになっている「総合福祉ゾーン」について、市民誰もが「いつでも、安心して」受けられる総合的な福祉・保健・医療サービスの拠点としての体制づくりを目指し、運動を展開してきました。(第一次提言については、第27回地方自治研究全国集会にて報告)
その後、建設予定地から出土した遺跡の保存を求める市民運動がおこり、市民を二分する問題に発展しました。このことは、私たちの運動にも少なからず影響をうけることになりましたが本年9月、遺跡の大半を残す部分保存の方向で決着することになりました。今後は2004年度完成に向けて事業がスタートします。
松江市労連としても、ゾーン整備事業の進捗状況も把握しながら、引き続き運動を展開していきます。
2. 第一次提言について
「総合福祉ゾーン」をその拠点として整備し、市民誰もが安心して暮らせる21世紀の地域づくりを進めることが少子高齢社会をむかえる中、緊急の課題であるとの基本的考え方にたち、組合員や市民の参加のもと政策要求「3つの原則・12の提言」としてまとめ、提言活動などの取り組みをすすめてきました。具体的には、
① 福祉・保健・医療の総合化による、市民が利用しやすい「すこやかの丘」づくり
② 市民参加、市民主体で進める「すこやかの丘」づくり
③ 安心して暮らせる地域づくりを進め、支える拠点としての「すこやかの丘」づくり
を基本に、総合相談機能などのソフト面の充実はもとより、市民の憩いの場としての公園整備、痴呆老人や介護者を支えるグループホームなど市民参加の拠点整備、体験型バリアフリー住宅の設置など様々な機能をこのゾーンに整備することにより、この「すこやかの丘」を松江市における福祉・保健・医療の総合化の要として位置づけ政策提言を行ってきました。
3. 具体的な取り組み
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職場対話集会(1997年11月) |
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市民アンケート(1997年11月~12月) |
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開業医との意見交換(1997年11月) |
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福祉講演会(1997年12月) |
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すこやかフォーラム(1998年1月) |
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前市長への提言(1998年2月) |
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すこやかシンポジウム(1998年3月) |
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リーフレット作成・配布 |
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まつえ地域政策研究センターの設立(1999年10月)
労働組合として取り組んできた政策研究活動をより一層強化するために、松江市労連組織内議員を所長として設置しました。 |
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すこやかまちづくりセミナー(2000年7月)
長野県諏訪中央病院長 鎌田 實先生を講師に講演会を開催しました。 |
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今後の取り組み
組合ゾーン整備事業が現実にスタートする段階をむかえ、第一次提言を豊富化することと併せて市民にもわかりやすい内容にして第二次提言とします。また、第二次提言にむけた市民参加のシンポジウムを開催していきます。
さらに、政策の実現にむけて新市長への提言を行っていきます。
今後も、市民が自分たちのものだと実感できる「すこやかの丘」をつくるため、息の長い運動として取り組んでいきます。 |
4. 第二次提言にむけて
第一次提言は「3つの原則・12の提言」としてまとめています。しかし、提言が介護保険導入前であったことなど、今日までの経過において状況が変化したものについては見直しも含め豊富化をしていく必要があると感じています。以下、12の提言のうち第二次提言にむけて現在議論中の主な内容を報告します。
提言2 「わかりやすい総合相談を」
1. 現状と問題点
“心と体の健康”に焦点をあて相談事業の概略(年間)をみただけでも、以下のように膨大でわかりにくい。そして、それぞれが縦割りの単独活動になっている。
● 庁内健康相談 245回 125人 (庁内)
● 地区健康相談 47回 2,252人 (公民館・集会所)
● 重点健康相談 100回 1,045人 (福祉センター・保健所等)
(老人・糖尿・歯科)
● 母子健康相談 352回 2,070人 (公民館・庁内)
(乳幼児・妊婦)
高齢者調整会議のように、介護支援センターを中心に他のエリアとの情報交換がもたれているところもあるが、それも公と民間との連携や把握が十分といえない。
「どこにいって相談したらいいのかわからない」「どんなサービスがあるかわからない」「相談にいったら、たらい回しにされた」というような実態は想像に難しくない。
2. 今後の課題
相談窓口の一本化とサービスの総合化(コーディネートの役割をもたせる)
● これまで各セクションにわかれていた相談やサービスの提供を、「すこやかの丘」を拠点として、必要なときに必要なサービスが利用できるように、福祉・保健・医寮が相互に連携した総合相談事業としての窓口を一本化。
● 従来の行政窓口の対応を逆転させて、一人の利用者を中心に行政担当者が動くしくみの構築。
● ゾーン内相談窓口の土日・祝祭日開設。
● 公民館など地域に出向いての「出前総合相談」事業の実施。
● 現在行われているサービスのPRや情報提供の必要性から、関連機関とのネットワーク化をすすめ、インターネットやファックスなども活用。
● 多様なニーズや高齢社会に対応するため、サービス部門の充実。
このように、「すこやかの丘」においては窓口の一本化と柔軟に速やかな対応ができる福祉・保健・医療の連携の整った、総合的な相談事業の実施が求められている。 |
提言3 「地域を支える拠点に」
1. 現状と問題点
現在松江市においては、福祉部・社協を中心に福祉に関わるイベントが毎年開催されているが、地域に溶け込んだボランティアの参加や障害を持って暮らす人たちの積極的な参加を得るに至っていない。「街づくり」について行政と市民とのパイプ役がどこにあるか不明瞭であるために、イベントが十分に生かされていない。
また、松江市におけるボランティアの育成は社協と各小学校校区で設置されている公民館単位で行われている。しかし、各ボランティア団体・公民館どうしの横のつながりも生まれたばかりであり、今後の「街づくり」に向けその重要性と、社会全体で取り組まなければならないといった市民意識のひろがりもこれからの段階である。
2. 今後の課題
「心のふれあう参加型福祉社会」の基礎は健康な住民が、そこで暮らす障害者や高齢者の不自由さ、不便さを実感することからはじまる。そのことをいかに市民、企業、諸団体に対してどのようにコンセンサスを得ていくのかが重要な課題となってくる。
● 市民啓発がはじめの一歩として考え、地域リハビリテーション講習会や市民参加のレクリエーションの開催。また、地域で行われるイベントへの行政の積極的な参加。
● 「すこやかの丘」を福祉・保健・医療の視点から支援するための拠点として、人材やマニュアルなどの提供。 |
提言4 「利用しやすい介護施設を」
1. 現状と問題点
家族と本人が家庭介護にはじめて接するときが既に家庭での介護の実践となる。また、介護者は強い不安や戸惑いを抱えて介護をすることになる。松江市においてはこのような状況に対して支援する体制が、ソフト・ハード両面で不足している。とくに、痴呆性老人や障害者に対する介護施設あるいはショートステイなど整備が十分でない。
2. 今後の課題
家庭介護について理解を深めたり、経験したり、専門的なアドバイスを受けることのできる場が必要である。また、痴呆老人を抱える家族も含めて、家庭介護をする家族同士のつながりと、社会全体で支えるシステムを市行政が中心となってつくる必要がある。
● 体験型バリアフリー住宅(民家風)の建設と有効的な活用方法。
● 多機能型介護入所施設の必要性と機能の検討。
「すこやかの丘」は来る人にやさしく、あたたかい街でなくてはならない。バリアフリー住宅を中心に公園やコンビニ、図書館等が並ぶ「すこやかプロムナード(散歩道)」をつくるなど、市民誰もが利用できる環境整備が必要である。 |
提言9 「病(後)児保育を」
1. 現状と問題点
近年核家族化が進み、また働く女性が増えてきているなかで、子育て行政に対する市民ニーズは多様化している。その一つとして病(後)児保育があげられる。
松江市では、現在このような時に子供を預けることができる施設は日赤乳児院だけであり、保育所では行われていない。
2. 今後の課題
病(後)児保育は医療との連携が不可欠であることから、すこやかの丘で市立病院との連携のもとで実施していくことが望ましい。その推進については行政が主体となり、計画策定段階から保母・看護婦・医師・栄養士など専門的なスタッフの積極的な参加、協力が必要である。
● 子育て行政について官民の役割分担の明確化。
● 各医療機関・保育所等の理解とネットワーク化。
● 保母・看護婦等互いの専門分野の理解を深めることの必要性。
「すこやかの丘」ではその他にも、保健・医療を中心とする子育て相談や夜間緊急時対策も含め、地域に展開する子育て支援の拠点機能を果たすことも求められる。 |
提言12 「計画策定段階での広範な市民参加と、事業段階での市民(利用者、介護者、ボランティア等)事業の積極的導入」
1. 現状と問題点
市民参加、市民主体がどこまで貫けるかが、「すこやかの丘」づくりの成否を決めるといっても過言ではない。当然、「21世紀すこやかプロジェクト」の活動の基本でもある。アンケートやシンポジウムにおいても「ボランティアとして参加したい」「市民みんながボランティアに参加できる環境をつくってほしい」といった意見もあり、具体的に事業が動き出した今、わたしたちも運動の基本を再度確認し進めることが必要である。
2. 今後の課題
まじかに迫った21世紀にむけ、自治体は地方分権と市民自治の実現を図っていくために、「市民としての地域住民の意見をもとに、総合的・個性的な行政サービス」を行っていく必要がある。いかに市民参加を貫いていけるか、市民の意思を行政に反映させるシステムをどう作り上げていくかが課題となっている。
● 講演会やシンポジウム、市民講座等の開催など、行政と市民がともに学び、考えていく場の提供。
● 広報や新聞等での特集やインターネットの活用、ミニコミ誌の発行等による情報の堤供。
● 市民の自主的運営が相応しい事業は、財政面も含めその体制づくりへの支援。
「すこやかの丘」は、行政だけの力ではなく多くの市民やボランティアがいろいろな分野で関わりをもつことにより、運営されなければならない。 |
5. おわりに
「総合福祉ゾーン」整備事業の実質的なスタートをむかえ、わたしたちの運動も新たな段階に入ろうとしています。
これまでの取り組みから、「すこやかの丘」づくりに対して市民の関心が非常に高いことを感じてきました。市民の意見を幅広く聞くことや、それがどのように事業に反映されたかフィードバックすることは、市民参加の第一歩であります。まず、市民シンポジウムや職場対話集会等を行いながら第一次提言を豊富化し第二次提言につなげていきます。
それらの成果をもとに市長への政策提言を行っていきます。
今後も、「21世紀すこやかプロジェクト」の活動がこれからの松江市の「街づくり」の施策に少しでも反映できるように、また、わたしたち労働組合が進める政策活動が市民に広く理解されるように、運動を展開していきます。
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