1. はじめに(1) 検討の趣旨
いま、官民を問わず全国の医療機関で、深刻な経営危機を背景に厳しい合理化の嵐が吹き荒れています。民活論などを根拠として厚生省が打ち出したアウトソーシング、全国の自治体で推し進められている行政改革がこれに輪をかけています。
折りしも山梨県の中核病院としての伝統をほこる山梨県立中央病院は、がんセンター機能の整備、周産期医療センターの整備、救命救急センターの充実を柱に、病床数を530床から680床に増床し、2001年第一期開院とする全面改築が行われることとなりました。
当然、新病院の定数、運営方法等が重要な課題となるわけですが、2001年の増床に備えた看護職員等の前倒し採用のための定数条例の改正(1999年3月議会)の際に、県当局は、オーダリングシステムの導入による事務部門の定数削減とともに、「検査、栄養給食、看護補助、施設管理等」の民間委託の推進など定数抑制を行う考えを表明しました。そして、まだ県当局から正式な提案はありませんが、検査部をはじめ、院内各セクションの定数削減の為の検討が着々と進められています。
当局の検討が進められる中で、院内の各セクションに不安が走り、一部には県当局の定数削減の動向などからして、もはや定数削減は既成の事実ではないかといった意見も生じました。こうした意見は検査部でも例外ではありませんでした。
同時に、現場の意見を無視したまま削減が進められるのを医療人として見過ごすことはできない、やみくもに定数削減に反対するわけではないが、中央病院の使命からどのような検査部であるべきかといったことを無視して削減されるのは納得できないという声が高まりました。こうした中で、検査部と県職労中央病院支部とが一体となって、中央病院検査部のあり方を検討する取り組みが開始されました。
(2) 検討委員会の設置
検討に当たっては、全職員の参加をめざして検査部検討委員会を設置することとしました。その構成と、検討内容は次のとおりです。
① 特別検討委員会
委員長 総技師長 1名
副委員長 技師長 3名
事務局長 技師長 1名
委 員 技師長 7名
② 検討部会
部 長 上記委員(技師長) 1名
副 部 長 検査部職員 1名
部 員 検査部職員 適宜
③ 検討内容
● 「中央病院における検査部の在り方」
● 「財政上からの観点」
● 「正規職員と委託社員の違い」
● 「新病院に向けての業務改善」
● 「運営形態・組織論」
● 「他院との比較」
● 「提 言」
(3) 検討の経過
検討には、全職員の参加を心がけました。それは、すべての職員が参加することにより、みんなの英知が結集されより良い検討結果が得られるということと同時に、検査部職員の意識変革なくしてより良い検査部づくりはできないという考えからです。
検査部は、他の院内のセクションと同様、人事異動が少なく同一職場で気心の知り合った仲間と長期にわたって働いているという特徴から、医療技術の進展とは裏腹に、業務面では極めて保守的であるという側面を持っています。
従って、検査部のあり方を見直しあるべき検査部を作り上げていくためには、何よりも職員の自己変革が求められます。そうした趣旨から、全職員の参加を得るため、技師長による特別委員会の下に、個別の課題を検討する検討部会を設置し、各部の検討結果を持ち寄って提言を作成することとしました。そしてこの各部の検討に当たっては、技師長がチーフとなり中心的な役割を果たしました。7月当初から連日、各部ごとの検討が夜遅くまで行われ、当初はどこから手をつけて良いのかわからない状態の中からあるべき検査部の概要が、検査部職員の中に徐々に形作られていきました。
この報告は、まだ不完全なものですが、私たちの検討の現在の到達点として、全国の仲間への問題提起として報告するものです。
2. 中央病院検査部の創設と発展の流れ
検査部のあり方を考えるための検討は、中央病院検査部の歴史と伝統を抜きにしては語ることはできません。そこで、わが検査部の歩みを簡単に振り返ることとします。横山宏元院長が「検査部門の創設と発展の流れ」というタイトルで執筆されていますので、これを引用させていただき、検査部の創設の目的から現在までの検査部の歴史を追いかけてみます。
(1) 検査部の創設 ― 昭和編 ―
昭和28年3月28日に失火のため山梨医学研究所および付属県病院外来は、灰燼に帰したが、幸いに建設中だった新病院は火災を免れたので、昭和28年8月26日に待望のオープンとなりました。
その後、29年12月に条例が改正され、昭和30年4月から病院は医学研究所から分離し、山梨県立中央病院として再び独立することになりました。この時の病院処務規定の組織にすでに『臨床検査科』なる1科が各診療科に伍して明示されています。このことについて横山元院長は、「当時の管理者の方々の識見に敬意を表する」と書いています。といいますのも、終戦後の病院管理にアメリカのシステムが急速に導入され、各科分散の形態から中央化がすすめられ、検査業務も昭和32年頃から中央検査部制度を採り入れる病院が次第に増加していましたが、大学病院のような大病院に限られたもので、地方の一病院にして昭和30年当時にすでに臨床検査科が他の診療科と並列で組織図に位置づけられていたことは驚嘆に値することだからです。
昭和33年1月から技師が1名、検査室に配属になりました。その後、昭和35年からは、実績が認められ検査技師が3名、業務員1名の増加となり、年間検査件数も格段に増え、需要は増加する一方でした。
昭和35年より検査室の強化が急ピッチで進められ、昭和36年4月からは病理検査が始められましたが、その当時は、県内の基幹病院でありながら病理解剖は行われていませんでした。病理解剖室がないと医療法では総合病院の認定が受けられません。そのため、横山元院長が病理解剖認定医になるべく、東大分院へ研修に通い、その間に病理解剖室をつくり、昭和38年8月にようやく、総合病院として認定を受けました。
昭和38年からは検査技師も増員されて5名になりましたが、検査件数の急増するなかで検査項目の拡充にも努めたため、人手不足は慢性化し、ようやく昭和44年に17名に増員されましたが、毎晩遅くまで残らなければならない状況が続きました。
昭和44年からは細胞診もスタートし、この年の5月からは、第一臨床検査科(生化学、一般、病理、細胞診)、第二臨床検査科(血液、血清、生理、細菌)の2科となりました。
昭和40年頃から病院の老朽化と進歩する近代医療に対応するために、県病院の新築が内外から望まれる中、昭和43年には新病院建設が決定しました。昭和45年10月に新病院へ移転、臨床検査部門は生化学検査科、病理細胞検査科、血液生理検査科、微生物血清検査科の4科で構成することになり、検査機器等も最新機器を導入し、充実の一途をたどっています。検査技師も実績を踏まえて漸増し、昭和47年には30名となり、業務員3名、事務担当2名で総員37名になっています。
昭和51年11月北側新館増築工事が完成し、病床数は400床から580床に増床されたのに伴い、検査技師数も40名となりました。
かねてからの懸案であった「検査の手引き」も昭和51年1月に第1版を発行し、さらに検査項目の増加にあわせて、改訂を重ね、現在では第7版を発行しています。
臨床検査部門が病院管理面に積極的に協力し貢献した業績も多大なものですが、特筆すべき点は、病院感染防止対策の推進と職員の健康管理の推進です。すなわち、昭和46年頃から病院感染の防止が病院管理の上で重要な課題となり、微生物検査室等が協力し、昭和50年9月に中央病院独自の「病院感染防止対策要綱」が策定され、「病院感染防止対策委員会」ならびに「専門委員会」が設置されました。また、病院職員の健康管理のために「院内衛生委員会」の要請により、職員の血液生化学的検査、血液学的検査、尿検査をはじめ昭和50年からはB型肝炎関連抗原検査も定期的に実施し、職員の健康管理に成果をあげています。
昭和48年には、超音波診断装置が導入され、それ以来、循環器系の検査も充実して生理機能検査の強化も図られており、また、この間に細胞診士は国際細胞診士試験を受験し、見事に難関を突破するなど技術の向上に努めています。
医療には救急体制は不可欠であり、臨床検査部門も医療チームの一員である以上は、救急対応の体制を確立することは当然のことです。そこで、臨床検査部門では昭和47年から休日は午前10時から午後2時まで技師2名が勤務し、外科の救急診療当番日には平日と同じ時間帯に2名が日直として勤務しました。昭和51年9月からは、中央病院の第3次救急医療体制の確立に伴い、上記日直や残業者のほかに技師2名を当番として、自宅待機をさせて、オンコール体制をとることになりました。
昭和59年4月より第3次救急医療体制を強化することになり、当直医師1名の増員に伴い、臨床検査部門も2名が日宿直を行うことになりました。
輸血に関する業務は検査部、薬剤部、臨床と多岐にわたって行われていましたが、昭和58年より輸血管理室を設置し、これら輸血に関する業務を統合および一元化しました。これにより業務を円滑に行うことが出来、省力化も図れ、返還血液製剤の損失もなくなりました。昭和61年からは組織上では、臨床検査部から分離して輸血管理科となりました。
(2) さらなる飛躍 ― 平成編 ―
臨床検査における情報処理システムの進歩は著しく、当院でも生化学検査室において昭和52年から自動分析装置にデーター処理装置を導入し、検査項目の登録、属性の入力、ワークシートの作成、さらには報告書の打ち出し、精度管理、院内正常値設定などの作業をするコンピュータの導入を試みました。
さらに昭和64年より検査システムの構築を2年計画で実施し、平成2年度に全ての検査室での一応の完成をみました。この検査システムの導入により、精度の高い検査結果の迅速な結果報告、データ検索への速やかな対応、および台帳管理整備等を可能とすることが出来ました。
検査部の情報を病院内外に提供する為、平成8年から検査部通信を発行しています。検査検体の提出時における注意事項、新規導入になった検査についての知識、感染症情報、技師の学会発表の内容、検査部からのお願い等、検査部の現状を知ってもらい他部門にむけて開かれた検査部をめざし、相互の理解と信頼をより深めてきました。
基幹病院の検査部として県内の検査技師の指導的役割を果たし、日本臨床病理学会関東支部学会(2回)、全国自治体病院学会、日本臨床衛生検査技師学会関東甲信地区学会、その他検査関連学会等、多数開催しました。山梨医科大学付属病院が開院してからは交歓会等を持ち、情報の交流を行っています。そのことによって各々の検査技師のスキルアップをめざし、検査部全体のレベルアップを図ってきました。
新病院建設については平成6年より取り組んできました。高度基本構想策定委員会がまず院内で発足し、検査部もこれに参加し取り組んできました。その後種々の委員会が設けられ、それらに参加し検査部のめざすべき方向性を模索してきました。また院内他部門の意見を広く聞くことにより医療スタッフとしての自覚も深まりました。情報収集のため病院で企画された高度病院視察参加のほかにも平成8年に検査部独自で、同規模の各分野で先進的な病院を見学し、可能なところは積極的に取り入れるように、高度化に向けての準備を整えてきました。
現在は運営システム委員会、情報システム委員会、移転部会等に積極的に参加し、高度化された新病院検査室のあるべき姿をめざして日夜取り組んでいます。
3. 中央病院における検査部のあり方
今回の検討に当たって、新病院での希望に満ちた検査部構築のために、私たち検査部の総意として、次の基本理念及び使命等を掲げることとしました。
(1) 検査部の基本理念
私たちは県の基幹病院の検査部として、患者の診療とアメニティーの向上に貢献するために、医療スタッフとの連携を図り、常に専門的知識と技術の向上に努め、医学の進歩に対応した、質の高い検査情報を提供、管理します。
(2) 検査部の使命
① 基幹病院としての取り組み
県内の医療の中心的役割を担い、医療水準の向上を図るとともに県民から信頼される病院における検査部として、新たな需要に答えるべく日進月歩の医療技術をとりいれます。
② 医療チームの一員としての取り組み
検査のプロとしての自覚を持ち、たゆまぬ自己研鑽を積むとともに医師、看護婦をはじめとする病院内スタッフとの連携を図ります。
③ 高度医療への対応
当院に要求されている高度医療に応える検査体制を確立し、熟練した質の高い技術と、精度の高い情報を提供します。
④ 救急医療への対応
医療に救急体制は不可欠であり、県内唯一の3次救急医療を担う病院として、検査部も24時間検査体制をとり対応しています。
⑤ 研修指定病院としての使命
当院は研修指定病院として、多くの医師を受け入れ、さらに薬剤師、臨床検査技師等有用な医療人の育成に検査部としてもこれに対応し、協力しています。
⑥ 地域医療への貢献
山梨県のみならず全国での臨床検査技師会の先導的役割を果たし、各種学会、講演会、研修会等を開催して積極的に山梨県の地域医療に貢献しています。
⑦ 災害拠点病院としての対応
公立病院として、災害時における救急医療を確保するため、検査部門も試薬の備蓄、機器の整備等、常に危機管理体制を整えています。
(3) 検査部のあり方
医療をめぐる環境は厳しく変化してきています。その中にあって患者サービスと経済効率の両立が求められ、さらに医療の高度化も要求されています。医療の高度化とはただ単に病院の高度化ではなく、それに携わる人間の高度化が重要です。そのため検査技師も、自己を高め生きがいにもつながるよう積極的に業務への取り組みを行うことが大切です。
① 臨床検査技師としてのアイデンティティ
時代とともに検査技師への社会的ニーズが変化しているなかで、多くの患者に信頼される温かい医療のプロフェッショナルとしての意識をもち、多方面の医療スタッフと双方向のコミュニケーションをとり院内各分野と理解を深め、専門知識と技術によって医学的効率性を高める診療支援を行います。一方においては業務の機能性と効率性を高め、病院の収益を念頭においた運営面におけるコスト意識をもつことが必要です。
② Good Laboratory Management(GLM)の実践
GLMとは、患者がよりよい医療を受けるための良質な検査成績を提供するための検査室の効率的な運営・管理であり、私たちはこれを実践していかなければなりません。GLMには人材の育成が必要であり、優れた人材のいる検査室ではGLMの達成が容易です。そのためにもさらなる自己研鑽、それと同時に人材教育も必要です。
③ これからの臨床検査技師に望まれるもの
いま、医療の質が問われている時代である。医療の質とは、技術的要素、人間関係的要素、アメニティー要素それぞれが独立したものでなく、相互作用的に問われるものです。
検査技師において技術的要素とは、検体検査では高精度機器を操作する能力、検査データを解析する力、生理検査や細胞診、微生物検査では知識と経験を積む事によって向上させた診断能力、また病理検査ではより正確な診断に結びつく組織標本を作る熟練した技です。
人間関係的要素とは、医師、看護婦そして患者との相互理解により培う信頼関係であり、これは正確な検査を行うための良好な検体の採取、診断や検体処理に必要な臨床情報および検査データの報告を円滑にやりとりするために不可欠な要素です。単に検査結果の報告だけにとどまらず臨床側に役立つ付加価値のある情報を発信し、患者に対しては専門分野だからこそ可能なフォローを行い、日進月歩の医療技術の進歩によって、多種多様化、高度化する医療の中、当然検査部も中央病院医療チームの一員として診療支援の重要な一翼を担う必要があり、そのためにたゆまぬ研鑚を積んでいかなければなりません。
医療の主役は患者であり、患者の満足度はすべての医療に携わる人々の総合力で評価されます。患者サービスの一環として検査情報を提供する検査部の役割も当然変革を余儀なくされています。旧態然とした、検査室に閉じこもったサービスから脱却して、患者により密着したサービスへと活動範囲を広げていき、積極的に臨床に関わることにより、患者のアメニティーを高める医療に取り組みます。
4. 検査部運営方式の経済的分析
(1) 検討の視点
① 背景
医療現場への外部資源の導入であるアウトソーシングは、医療経済の悪化と民間活力導入という世論を背景に急速に導入されつつあります。
従来から医療事務、施設警備管理等については外部委託が行われていましたが、平成4年の医療法改正により医療に直接影響を与える8業務での規制が緩和されてから、この動きはさらに加速されています。
こうした中で、新しい中央病院にアウトソーシングを導入することは可能か、また、現在の検査部のシステムにとって参考になることはないのかという視点から検討を加えてみました。
② 業務形態
アウトソーシングの形態としては、次の3つの方法があるといわれています。
ア 外注方式
基本的な検査は外部の検査機関(検査センター等)に外注し、院内で実施する検査は最小限の設備で対応できる緊急検査等に絞り込む形態。
イ FMS方式
業者が機器及び保守、検査試薬及び消耗品を供給し、病院職員により実施した検査の診療報酬を契約比率により按分する方式。
ウ 院内受託方式(ブランチラボ)
委託方式そのものであり、受託業者が院内の施設を利用し、契約に基づき検体検査業務を代行する受託形態。
(2) 外注方式
① 概 要
外注方式は、緊急検査や即日対応が必要な検査の一部は院内で実施する場合もありますが、基本的にはほとんどの検査を「検査センター」などの外部検査機関に検査依頼(外注)する方法です。
この方式は、わが国では診療所や中小の病院など検査技師を配置することが困難な小規模医療機関で採用されています。
ただし、著しく進歩発展をとげている臨床検査の場合、すべての検査を病院で行う事は困難となっていることから、大概の病院が一部外注委託に頼らざるを得ないのが実際で、部分的な外注との併用方式はほとんどの病院で採用されています。
当中央病院においても、検体数に季節特異性があるIgE、特殊な機械が必要なレニン・アルドステロン・コルチゾール・C-ペプチド、前処理に時間がかかるものや、人手のかかる蛋白分画・17-KS・17-OHCS、依頼が少ないβ2-マイクログロブリン・エンドトキシン・β-D-グルカンなどの一部検査については外注が行われており、このようなかたちでの外注方式は今後とも続くものと思われます。
そこで、ここでは、部分的外注方式ではなく全面外注方式について検討することとしますが、全面外注方式のメリット、デメリットは次のように言われています。
【メリット】
ア 検査部門のスペースが不要となる。
イ 利益の上がらない検査についても、外注単価は保健点数より低額となることが基本なので赤字にはならない。
ウ 検体検査部門の検査技師が不要であり、人件費の削減と労務管理の軽減が図られる。
【デメリット】
ア 院内検査に比べ検査結果の返却に時間がかかる。院内検査は少なくとも1時間以内に結果が返せるが(目標40分)、外注だと1日以上の遅れが出てくる。
イ 微量検体の扱いが困難となるため、小児等採血困難な場合、検査が不可能となる。
ウ 検査データの蓄積が行えないため経過を追って診療するような慢性疾患患者に適切な治療が行えない。
エ 検査データの信頼性を確保するため、精度管理のための特別対策が必要となる。
オ 院内に検査技術が蓄積されない。
② 中央病院における外注方式の検討
いかに病院検査機能を強化しても、多様化する検査にすべて対応することは不可能であることから、今後とも部分的外注方式は適切に採用し、効率的な検査の推進を図ることが必要と思われます。しかし、全面外注方式に関しては、中央病院で全検査を外注した場合、すでにある機器類はまったく無駄になってしまいます。
さらに検査結果の把握に時間がかかること、患者データの蓄積ができないことなど、結果的に患者サービスの低下につながる危険性をはらんでいます。同時に、検査に関する人的、機械的資源が存在しないことから、検査能力をもたない医療機関となってしまいます。また、検査部スペースの転用、検査技師の配置換等の課題もあります。
いずれにしても、県内の中核医療機関であることを自負する中央病院としては採用できない方式と考えます。
しかしながら全面外注方式でなく部分的外注方式に関しては新規検査導入の際に外注検査とするか機械購入をしても採算がとれるか等検討する事は必要と考えられます。
また、既に院内で行われている検査項目に付いても、機械更新の際等には、採算性も考えた上で検討する事が必要と思われます。
(3) FMS方式
① 概 要
FMS方式は、もともと外資系の検査機器メーカーが始めたリース販売方式の一種で、医療機関が生化学や血液の自動分析装置と専用試薬の一括提供を受け、料金は検査実施量に応じて請求されます。
料金の計算は、診療報酬をベースにした比例配分や検査件数をベースにした単価加算の他、試薬消費量をベースにした単価加算などの方式があります。
生理検査部門は直接患者に接する部門であり法律で委託業務が許されていないため導入されていません。将来的にも試薬販売が少なく業者の収益が確保できないため、導入されないでしょう。
最近では、医療経済の急速な収支悪化に伴い、大手の検査センターも参入した検体検査全体を対象とした契約が結ばれ、業者側が検査システムを含む検査設備、消耗品一切を、病院側が人・施設を分担して検査部門を共同運営する形態が増えてきています。
FMS方式のメリット、デメリットは次のように言われています。
【メリット】
ア 検査システムの導入、検査機器の導入、更新等の初期投資の軽減。
イ 機器を熟知した業者が維持管理の責任を持つので最小限のコストで最良の稼働状態を維持できる。また、業者は複数施設と契約することによりスケールメリットが生じ、料金が低廉化される。
ウ 技師が全員病院職員のため部門間の雇用格差がなくスムーズな業務連携ができる。
【デメリット】
ア 業者への料金自体が膨大な固定費であり、将来の医療経済や金利の変動に臨機応変に対応できない。
イ 機器や試薬が経済性を優先して選択されるため、業務の内容が制約されるとともに、検査サービスの質の確保が新たな業務となる。
ウ 最大経費である人件費の軽減にならない。
エ 技術革新に対応した最新の技術を採用しにくく、研究的な業務は困難である。
② 中央病院におけるFMS方式の検討
中央病院ではすでに基本的な機器類は整備されており、初期投資の回避という点ではまったく効果がありません。むしろ、試薬だけを合理化しようとするのならば「一括試薬リース方式」の方が合理的といえます。
しかし、FMS方式にせよ、一括試薬リース方式にせよ、使用量に応じて請求されるため、現在の直接購入方式とほとんど差はないと思われますし、現に経済性のみを目的としてFMS方式を導入した病院では、期待したほどの経済的効果が得られず、とりやめた事例が多いようです。
中央病院が、山梨県の高度医療を担っているという実態からするならば、機器や試薬の選択に制限を受けるFMS方式を採用することは問題が多いと言えます。
(4) 院内受託方式(ブランチラボ)
① 概 要
ブランチラボ方式は、医療機関におけるアウトソーシングの規制緩和とともに登場した方式で、受託先が院内のスペースを利用して、機器とスタッフを持ち込み、臨床検査部門の人件費その他の費用、機器の購入費、減価償却費、試薬等のランニングコストその他の検査部運営の費用等、考えられるすべての業務を請け負うというものです。名前のとおり院内に独立した検査センターが設置されるのと同様の意味をもちます。
ただし、法改正により導入が可能になったと言っても、まだ生理検査部門にアウトソーシングは認められておらず、検体検査部門に限られています。
ブランチラボ方式のメリット、デメリットは次のように言われています。
【メリット】
ア 検体検査人員の削減が可能で、最大のコストである人件費が削減でき、収益の安定確保につながる。
イ 病院とすると労務管理から解放される。
【デメリット】
ア 院内に2種類の検査技師集団が存在し業務の連携が難しい。つまり、受託者の職員は受託会社の指示で業務を行うものであり、病院が直接指示をすることができない。
イ 検体検査部門の業務を行わないため、検査部としての技術水準の維持が困難になる。
ウ 臨床診療部門との連携をはじめとしたチーム医療への検査の参加が困難になる。
② 中央病院におけるブランチラボ方式の検討
中央病院でブランチラボ方式を採用した場合には、すでに基本的な機器類は整備されていますがこれを業者が賃貸するかどうかは不明であり、業者が機器を持ち込んだ場合には既存の機器類は無駄になってしまいます。
また、検体検査部門の職員を配置転換しなければなりませんが、安易な配置転換には断じて同意することはできません。また、少数精鋭の本県で10名以上の検査技師を吸収できる職場もないと思われます。そして何より、検体検査については外部に委託してしまうわけですから、検査技師としての技術や機器に対する知識は院内には蓄積されないことになってしまいます。
ブランチラボは委託そのものですから、その業務は請負契約に基づいて行われるものであり、委託者(中央病院)は受託先の職員を指揮監督することはできません。特に労働者派遣法が成立して以来、委託者の直接指示は厳しく禁止されています。ですから、医師をはじめとした病院職員が検体検査部門の職員に指示するときには、直接指示ではなく受託業者の責任者を通じて指示しなければならないことになります。
このように、中央病院としての検査水準を維持していくためにも、様々な技術職員がいったいとなってチーム医療を推進していくためにもブランチラボ方式はふさわしくない方式と断定することができます。
(5) 直営方式の経済的分析
以上のように、FMS方式もブランチラボ方式も中央病院にふさわしくない方式となると、直営方式しかあり得ません。しかし、私たちは従来の直営方式に安住するのではなく、その問題点は厳しく分析し、困難な経営環境を打開する取り組みに参加しなければなりません。そのような観点から、まず当検査部の費用分析を行いました。
① 費用分析の方法
ア 人件費
客観性を持たせるために、「病院概要」の人件費からの按分と、平成11年度の人事委員会勧告資料の給与をベースにした積算と2通りの分析を行いました。結果はほぼ同じ数値となりました。
イ 検査試薬・医療材料費
検査部で把握している病院実績により積算しました。
ウ 減価償却費
平成11年度病院概要の数値を基に算出しました。
医療器械は、耐用年数5年、病院建物は60年、その他建物及び付属設備は30年、構築物は30年、車両は6年とし、定額法で計算した数値を建物分については面積割りその他については職員数割で付与しました。
エ 水道光熱費
病院全体経費を面積按分しました。
(6) 収入との比較
上記の経費を病院収入と比較すると約5千万円の赤字という結果になりました。
しかし、実際の検査には、いわゆるマルメで診療報酬として請求できない検査、あるいは診察料に含まれるため請求できない検査等が多数有ります。こうした検査も含めて比較するため、検査部各科の実際の検査件数を基に試算したところ、検査部で実施している検査がすべて診療報酬に反映されたとすると、実際の収入金額は約1.5倍になるということが明らかになりました。
これは、現在の診療報酬のしくみがいかに不合理であるかということを示しています。
つまり、診療報酬に跳ね返らないマルメ対象の検査を整理できれば、当然試薬、診療材料費等も減少しますから検査部の収支は大幅に改善することが期待できます。
しかし、研修指定病院の中央病院としては、ある程度の検査は当然甘受しなければならないという考え方もあろうかと思います。
こうした考え方のいずれを重視するかは、中央病院の位置づけをどうするかによって決められるべき問題であり、病院として整理すべき課題と思われます。企業会計の中央病院としての経済性を維持しつつ、同時に県民医療の中核病院としての役割を発揮していくためには、どのような検査方針をもつべきかについて、病院全体として確認し、確認した事項を職員に徹底していくための機関が必要と思われます。
同時に、試薬あるいは機器等についても定期的にローリングし、経済面、品質面の両面から見直しを行うことも必要かと思います。このような検討を不断に行う中で、職員個々人が何が問題かを見抜く能力が身に付き、初めてコスト意識も徹底できるものと思われます。
5. アウトソーシングについての検討
(1) 医療に関連するアウトソーシングについて
医療に関連するアウトソーシングには、大きく分けて2つに分類されます。1つは、医療法に定めたアウトソーシングで、医療に直接影響を与える8業務を、厚生省令の基準に合致する業者に委託出来るように規制緩和されました。2つ目は、これ以外の医療機関の一般的な業務で、法的な規制は特にありませんが、年々、拡大しています。
① 医療法で定めたアウトソーシング
院内業務の業務委託についての規制緩和は、病院業務の一部を外注することが認められたもので、
● 検体検査業務
● 滅菌消毒業務
● 患者給食業務
● 患者搬送サービス
● 厚生省令で定める医療機器の保守点検
● 院内医療用ガス供給設備の保守点検
● 寝具類の洗濯賃貸業務
● 院内清掃
の8業務が対象となっています
② 医療法の規定外のアウトソーシング
規制緩和とは直接に関係はありませんが、次のものは委託率が高い分野となっています。
● 医療事務
● 病棟クラーク
● 経営コンサルティング
● 駐車場の管理警備等
特に、最近になって目立つのが、物品在庫管理です。薬品や診療材料の在庫圧縮や期限切れを防ぎ、ロスを削減。請求漏れ防止などの多大なメリットがあります。
医療法
(昭和23年法律第205号)改正・平成4年法律第89号
第15条の2
病院、診療所又は助産所の管理者は、病院、診療所又は助産所の業務のうち、医師若しくは歯科医師の診療若しくは助産婦の業務又は患者、妊婦、産婦若しくはじょく婦の収容に著しい影響を与えるものとして政令で定めるものを委託しようとするときは、当該病院、診療所又は助産所の業務の種類に応じ、当該業務を適正に行う能力のある者として厚生省令で定める基準に適合するものに委託しなければならない。 |
③ アウトソーシングの問題点
中央病院においても現在、院内清掃や医療事務、駐車場の管理警備等が委託されています。ただし、何でも委託が望ましいということではなく、先に述べたように法的根拠などが必要です。では、規制緩和により今後増大するであろうアウトソーシングの問題点になると思われる点にふれてみます。
厚生省健康政策局長通知
平成5年2月15日健政発第98号
「医療法の一部を改正する法律の一部の施行について」
改正 平成5年 厚生省令第3号(昭和23年法律第205号)
改正 平成4年法律第89号
平成4年7月1日付けで公布された医療法の一部を改正する法律(平成4年法律第89号。以下「改正法」という。)のうち、(中略)病院、診療所等の業務委託に関する規定(中略)等については、(中略)本年4月1日から施行されることとなった。これに伴い、医療法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備に関する政令(平成5年政令第7号。以下「改正政令」という。(中略))が本年1月22日付けで、医療法施行規則等の一部を改正する省令(平成5年厚生省令第3号。以下「改正省令」という。(中略))が本年2月3日付けでそれぞれ公布され、(中略)たところである。これらの施行に当たっては、特に下記の事項に留意の上、その運用に遺憾なきを期されたい。(以下略)
第3 業務委託に関する事項
1. 業務委託全般について
(1) 趣旨
病院、診療所又は助産所の管理者は、新政令第4条の6各号に掲げる業務を委託する場合には、業務の種類に応じ、それぞれ新省令第9条の8から第9条の15までに規定する基準に適合する者に委託しなければならないものであること。
(2) 受託者の選定
病院、診療所又は助産所の管理者は、新政令第4条の6各号に掲げる業務を委託しようとする場合には、受託者の有する標準作業書、業務案内書等により、当該受託者が、業務の種類に応じ、それぞれ新省令第9条の8から第9条の15までに規定する基準に適合する者であることを確認した上で、受託者を選定すること。
(3) 労働者派遣契約との関係
新政令第4条の6各号に掲げる業務の委託は、請負契約に基づく業務委託であって、労働者派遣契約とは異なるものであるので病院、診療所又は助産所の管理者は、業務委託に際し、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示(昭和61年4月労働省告示第37号)」に留意されたいこと。 |
この局長通知に書かれている『(3)労働者派遣契約との関係』がその部分です。
④ 派遣と請負
民間委託に関係する法律といえば、先に述べた医療法のほか労働者派遣法や職業安定法が関連します。労働者派遣事業とは「派遣元事業主」が自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下にかつ派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うことをいいます。つまり、労働者からすれば派遣会社の社員として雇い主でない派遣先のもとで働くことをいいます。
従来は派遣事業が出来るのは政令で指定された26の業務(適用対象業務という。下記参照)に限られていましたが、改正により原則自由化となりました。
また、適用対象業務についても事業を行うに当たっては、労働大臣の許可を受けるか、または労働大臣に届出を行い受理される必要があります。労働者派遣事業には、2種類があります。(ア)常用労働者だけを派遣する特定労働者派遣事業(届出になります)、(イ)それ以外(登録型や期間雇用など)の労働者が含まれる一般労働者派遣事業(許可が必要)です。派遣元は、派遣労働者や派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望・能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上等を図るための必要な措置を講ずることにより、福祉の増進に努めることとなっています。
従来の適用対象業務(数字は政令の番号です) 期間3年
1
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情報処理システム開発関係
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1-2
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機械設計関係 |
1-3
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放送機器操作関係 |
1-4 |
放送番組等の制作関係 |
2 |
事務用機器操作関係 |
3 |
通訳・翻訳・速記関係 |
4 |
秘書関係 |
5 |
ファイリング関係 |
6 |
調査関係 |
7 |
財務関係 |
8 |
貿易関係 |
9 |
デモンストレーション関係 |
10 |
添乗関係 |
11 |
建築物清掃関係 |
12 |
建築設備運転等関係 |
13 |
受付・案内・駐車場管理等関係 |
14 |
研究開発関係 |
15 |
事業の実施体制の企画・立案関係 |
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書籍等の制作・編集関係 |
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広告デザイン関係 |
18 |
インテリアコーディネータ関係 |
19 |
アナウンサー関係 |
20 |
OAインストラクション関係 |
21 |
テレマーケティングの営業関係 |
22 |
セールスエンジニアの営業関係 |
23 |
放送番組等における大道具・小道具関係 |
派遣事業の対象業務を港湾運送、建設、警備と政令で定める業務(医療関係、物の製造 その他)を除き自由化となっており、現行の26業種を除き派遣先は同一業種で1年を超えて継続的に、派遣労働を受け入れてはならない(既存職種の契約期間最大3年)ことになっています。
また、同一労働者が1年を越えて同一派遣先で働いていて、かつ労働者が直接雇用を望む場合、労相は派遣先に対し直接雇用を勧告することが出来ますし、勧告に従わなかった場合は、その旨を公表できることになっています。しかし、公立病院である以上は、職員として採用することはできません。
それでは、請負により行われる事業とはどのようなものでしょうか。請負とは、通常、労働の結果としての作業の完成を目的とするもので(民法632条)あり、注文で主との請負契約に従い請負業者が自らの業務として自己の裁量と責任の下に自己の運用する労働者を直接管理使用して仕事の完成に当たるものをいいます。通常、県で行っている契約はこの請負契約です。
ですから、労働者派遣は、労働者を「他人の指揮命令を受けて、その他人のために労働に従事させること」であり、この有無により、労働者派遣を業として行う労働者派遣事業と請負により行われる事業とが区分されるといえるでしょう。
つまり、「③アウトソーシングの問題点」で指摘した問題になるであろう点はまさしくこの部分であります。何らかの指示を出す場合であっても、県の場合は請負契約ですから、請負業者に対して指示書等により指示をします。労働者派遣ではありませんので、会社(請負業者)に対してです。派遣された職員(個人)に対しての指示ではありませんので、不都合が生じることは明白です。
(2) 臨床検査業務からの検討
医療制度がいかに変化しても医療の本質は変わらず、より高度な質が問われています。医療における業務委託についての規制緩和は、病院業務の一部を外注する事が認められたもので、中央病院においても現在、院内清掃や医療事務、駐車場の管理警備等が委託されています。検査部門においても、検体検査業務がその対象となりました。全国各地において、検査部の改革はアウトソーシングに振り回され、長年培ってきた病院検査部は外部組織を導入することで捨て去られようとしています。このことは、そこで働く職員の意欲を減退させ、検査部ひいては病院全体の質の低下が懸念されます。
① 検査精度に関すること、結果報告の迅速性
当検査部においては、日常業務を遂行するに当たり、精度管理には充分注意をはらい、日本医師会、県医師会、日本臨床衛生検査技師会が行う精度管理調査に参加すると同時に、日常的にも独自に精度管理を行い検査に当たっています。本来の(真の)精度管理とは、患者の検体を採取した時点から、結果を報告するまでが管理されていなければなりません。すなわち、患者の病態を把握して検査にあたり、結果を速やかに臨床側にフィードバックすることだと考えます。そうした中で患者データの精度管理を行うことは、検体の取り違えや、採取のミスを防ぐと同時に、異常値のチェック、時系列(検査データの推移)の検討を行うことにより速やかに治療に反映することが可能となります。さらに、パニック値については、即座に臨床側と連絡をとり、同時に他のデータとの比較をして、次にどのような検査を進めるべきかの情報を提供(診療支援)することにより、より迅速で的確な質の高い診断が可能となります。しかし、委託検査では診療前検査やルーチンでの精度管理、提出された検体に対するデータの高い精度は期待できますが、パニック値に対しては契約業務のため展開した検査にはいたらず、充分な診療支援ができず、そのため、診断や治療が遅くなることが懸念されます。
例えば、妊婦検診時の胎盤機能検査において異常低値が出た場合、母子共に危険率が高いので早急に情報を電話連絡して迅速対応しています。一方、病理検査室では、手術中の迅速組織診断を行って患者のQOL向上と手術費用の軽減に役立っています。
② 検査責任の所在に関すること
外注や委託検査の導入はもっとも簡便な経営改善策と考えられてきていますが、医療の現場にまったく異なる組織が参入することは、いわば治外法権の部署ができる危険性をはらんでいます。労働者派遣は、労働者派遣を業として行う労働者派遣事業と、請負により行われる事業とに区分されます。県の場合は請負契約であって、請負業者に対しての指示書等により指示をすることになります。派遣された社員に対しての直接の指示はできず、迅速で質の高い検査は望めないので、不都合が生じることは明白です。中央病院においては委託検査にはならない生理検査、またなりにくい病理検査、微生物検査の占める割合が多く、またその業務に対する期待度は多大なものがあります。そのニーズに応えるためにもレベルを一定に保つために技師の教育、育成が大切です。それにより、信頼度の高い検査結果の報告も可能となり、また、人員面での不測の事態にも十分に対処できます。
③ 新しい業務への取り組み
近年、医療を取り巻く環境には厳しいものがあり、当然ながら、臨床検査においても効率的な検査が求められていることはいうまでもありません。臨床検査の効率性を向上させるということになると、2つの観点からこれを考えることができます。1つは経済的な効率性をいかに向上させるかということがあります。もう1つは、経済性とは別に医療の本質である質の高い医療を提供するために、臨床検査をどう効率的に使ったらいいかということです。最近、多くの病院でクリティカルパスを活用した医療を展開し始めています。医療におけるクリティカルパスとは、医療の中心である患者が望む治療効果を患者とともに考え、その効果に向かって、どの専門職がどの時期にどのように関わることで、いかに質と効率を上げ、その目的を達成できるかを追及することであります。
このような考えのもとに、中央病院においてもクリティカルパスが構築されようとしており、検査部門も医療チームの一員として参加すべきと、考えています。例えば、糖尿病治療においてその難しさの1つは、患者が自己管理しなければならないことです。患者が医師の指示を正しく理解して療養生活を送るには、医療スタッフによる療養指導が不可欠です。患者の健康維持を支援する専門職としての糖尿病療養指導士として参画する準備をすすめています。また、眼科領域においてはすでに、微生物検査が治療の一環として取り込まれていてよい効果をあげています。
このように、ある疾患に対して最小で最大の治療効果のある検査の必要性を提案していくこと、それがめざすところであります。
④ 救急医療における対応
中央病院は県の基幹病院として、救命救急センター・周産期医療センターとしての機能、また、臓器移植法における臓器提供指定病院として当然検査の果たすべき役割は大きなものがあります。このような場合の緊急手術等にすみやかに対応する為のハイリスク感染症検査(梅毒、肝炎ウイルス・エイズウイルス)に対しては、24時間体制で対応し、手術スタッフの感染予防、また術後の器具の洗浄方法省略に伴うコストダウンに大きく貢献しています。輸血に関しても生命に関わるような大量出血の患者さんのために緊急マニュアルを作成し、迅速な対応ができる体制を整えています。
⑤ 災害時に於ける検査部の体制
災害時においての県立中央病院の取り組みは、大規模災害拠点病院としての病院マニュアル(1999年 山梨県立中央病院・救急業務委員会作成)により、1人でも多くの救命を行うため、適切な医療救護活動を実施していき、このマニュアルで想定されている災害は主として地震等の大規模災害が対象とされており、阪神淡路大震災以後、災害医療がクローズアップされています。
検査部においても、病院マニュアルに従い、手当・処置に積極的な介助・支援ができるように検査試薬の備蓄、検査機能の整備等、危機管理体制を整えて、災害時対応に備えておりますが、検査部としてのより詳細なマニュアルや体制づくりを検討しています。
被災地となった兵庫県では、(社)兵庫県臨床衛生検査技師会が中心となり、検査部独自の災害マニュアルを作成しました。自らが被災者となりつつも、医師会や全国の技師会の協力のもと、大きな犠牲を伴ったつらく悲しい試練をのりこえ、その体験と教訓を生かした“災害に強い医療・検査体制づくり”をコンセプトにした内容は、具体的な対応や医療従事者としての心構えを教えてくれます。自分や家族を犠牲にしてまで取り組む姿勢は、医療従事者として、公務員としての使命を果たすべく責任感にあふれています。
地公法30条の規定にあります「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」を常に念頭に置き、私たちも公務員の使命を果たせるように努力していきます。
6. 組織と運営について
(1) 検査部の組織と構成
平成12年現在、検査部組織は、病院組織図において次の4科4部門に構成されています。
図入る
また、これまでに総検査技師長1名、検査技師長11名が発令されており、検査部長1名、各科長には、それぞれ内科医師が兼務で発令されています。
一方、実際の検査業務は、次のように各部屋ごとに進められています。
1:生化学検査室
2:血液検査室
3:生理検査室
4:一般検査室
5:血清検査室
6:病理検査室
7:微生物検査室
8:細胞診検査室
当院の場合、昭和30年臨床検査科発足以来、病院の機能拡大に伴って拡大してきました。同45年、現在地へ移転、新館の増床開院に伴い、4科に組織拡大し、今日に続いています。この間、検査部長、各科長は医師が兼任し、主任臨床検査技師を中心に臨床検査業務を遂行してきました。
検査の中央化の促進に伴い検体検査部門のシステム化の推進、細胞診スクリーナの養成、第3次救急体制への対応等、部長を中心にしながらも技師同士が良く相談しながら業務を進めるのが大きな特徴でした。
平成4年、初めて臨床検査技師長が4名発令されました。兼任医師の各科長の下で、院内各種会議や委員会に出席する等新たな役割も果たすこととなりました。
(2) 組織の問題点
検査部の組織は、検査室発足以降、検査項目の増加への対応や検査の中央化への対応、検査の専門化への対応等をへて出来上がってきたものですが、検査対象あるいは検査材料別に分化しているのが特徴です。
その結果、病院組織図の4部門の構成とこれら実際の業務を遂行している組織単位とが合致していないという実態となっています。また、部長や4科長は発令されているものの、兼務発令であるし、指示・監督の範囲も分掌上で明確になってはいません。各科の業務内容等を整理してみたところ、科長分掌業務が明文化されているものはありませんでした。さらに、今年度初めて発令された総技師長も、権限・業務範囲の内容が不明確で、特に、検査部長との関係や対外的に検査部を代表する場合の立場・責任等が明確ではありません。
(3) 望ましい運営のあり方
① 基本理念を軸とした運営
組織の運営は、何よりも組織の価値観に基づくことが重要です。ここで言う組織の価値観とは、中央病院運営の基本理念であり基本方針で、その背景として、山梨県の「幸住県構想」があり、それを取り巻く社会的、経済的、文化的環境があります。検査部運営の基本は病院の基本理念に立脚し、チーム医療の一員として、検査技師自らが役割業務の遂行、良質な検査室運営・管理(Good Laboratory Management)に基づいた臨床検査の「質」の標準化、患者さんのアウトカム(期待される結果)達成に関わっているという意識を常に持って責任を果たす事にあります。こうした運営を行う為には、技師一人ひとりの認識が重要で、全てにわたる判断の基準とするために、新人を始めとした各種の教育プログラムの導入、また、迅速で正確で安全な業務遂行のために、各種のシステム、マニュアルの整備、責任体制の明確化が必要となってきます。
② 責任体制を明確にした運営
検査部が、「チーム医療」の一員としてその役割を果たしていくためには、技師による組織の責任体制を明確にしたうえでの対応が重要です。
つまり、業務実態に合った科制に組織再編し、科長が部門責任者としての業務を執行していくことが大前提となってきます。他部門のみならず部内においても意志の疎通を図ることが大切であり、また、院内各部門との協力・調整等の対応については、特に組織の価値観に裏打ちされた各部門責任者の存在は必要不可欠です。部門責任者はその部門の業務に精通するばかりでなく、部下の要望にも適切に対応できるような資質を持ち合わせていることが必要です。加えて臨床検査業務の水準が一層向上するためには、認定臨床検査医が専任で配置されることが渇望されます。検査部から発信する大量の検査情報の統括的管理と、他部門及び院外からくる検査情報についての質問に、回答・助言・指導できる体制を整えて運営に当たることは、これからの臨床検査部にすぐにも必要な条件だと言えます。
③ 継続した改善運動を行う運営
検査部の運営に新たに求められることは、「継続した改善運動」です。システムやマニュアルに基づいた業務の標準化と教育による、臨床検査の「質」の向上を維持継続し改善していくためには、到達目標の設定や実行プログラム策定などを日常業務の1つとして位置づけて実行していく必要があります。
④ 災害時に対応可能な運営
地域における災害時の検査体制を整備しておくことが求められています。山梨県の「災害発生時等職員初動マニュアル」には、災害時の配置体制と各部局の業務分掌が明記されていますし当院の「病院災害対応マニュアル」にも、病院の配置体制と各部門の対応事項とが明記されています。検査部としては上記の2つのマニュアルに基づいた災害時対応をすることになっていますが、阪神大震災等の教訓から検査部独自の「災害時対応マニュアル」の整備は、災害時の検査体制を確保し、チーム医療の役責を果たすためにも必要不可欠です。さらに、県職員の立場から、院内検査部だけの対応にとどまらず、職能団体である山梨県臨床衛生検査技師会を取り込んだ、地域における大規模災害時のマニュアルの作成、検査・協力体制の整備についても積極的に貢献することが求められています。
7. 業務改善
(1) 検査部の業務の概要
医学における臨床検査の学問としての地位は確立され、医療の現場では大きな役割を演じていますが、病気を診断するためには、打診、聴診、触診などの診察診断学と臨床検査による検査診断学(画像検査を含む)の2つが重要な地位を占めています。この2つは車の両輪のようであり、どちらも同じ大きさを持ち、同じように回らなければ、正しい診療を行うことは出来ません。
検査部の業務としては、大別すると血液、尿、便、喀痰、など体から採取されたものを対象とする検体検査と人体そのものを対象にした生体検査、たとえば心電図、脳波、超音波検査等の検査があります。
診断に必要な検査計画に従い依頼された検査項目を迅速かつ正確に、24時間体制で結果報告をしています。
(2) 各部門の業務
現在は各検査室が分散しているため、検体の受付窓口がそれぞれに有り、人手による運搬は複雑ですが、病棟の検体集めは午前8時30分、10時に検査室が行い、それ以後は看護助手によるラウンドで運び込まれます。各外来も検査室で検体集めに出向き、至急検体は直接、看護部門が運びます。運び込まれた検体はそれぞれの部屋毎検体処理され検査されます。生理検査は当日検査と予約検査があります。
業務概要図入る
(3) 新病院に向けての業務改善
現在、検査室をとりまく環境は厳しく、今までのように検査技師が検査だけをしていればよいという時代は過ぎました。今回、検査部は現在の業務を見直し、新病院に向け「患者本位の医療」を第一に考え、質の高い情報を提供すると同時に経済的な感覚を持ちながら業務改善を検討しました。
① 組織の検討
その結果、組織については、技師が主体性を発揮できる検査技術部の独立と技師からの部長選出を提起することとしました。また、具体的組織については、次のようにすべきと考えます。
図入る
新病院の特色としては、検体種別に分かれた組織となっており、業務分担が明確化され、検体及び患者の流れが改善されています。
また、採液室とインフォメーションセンターの新設により、より一層の患者サービスの向上を図っています。
② 人員の検討
また、人員については、次の観点を中心に望ましい人員について検討しました。
当検査部において、現在は血液検査室、生化学検査室、血清検査室、一般検査室等、検体系の検査室は個々に分かれているため、検体の取り扱い、人員配置等で省力化出来ない部分が多く、また同一患者の検体もそれぞれの部屋に提出されるため、より多くの検体量が必要になります。病理検査室、細胞診検査室においても同様のことがいえます。
新病院においては、このような部分の改善をするために検体検査室をワンフロア化し、検体受付を一本化することと、可能な限りの自動化を行います。そのことにより検体部門の人員削減を図り、その人員を生理検査部門に配置転換し、中央採液室を新設してその運営に当たります。このことは生理検査の予約待ち期間を短縮し、診察前検査の導入など大いに患者サービスにつながります。
ここでは、現状の業務と新病院に向けた業務とを比較検討し、必要な人員等を考えてみます。
ア 検体検査
各部屋ごとに行われている検体受付は非常に煩雑ですが、新病院においては外来患者の採血、採尿は新設の中央採液室で行い、入院患者の検体はリニア搬送により、受付窓口を一本化することができ、検体の扱いが単純になり、わかりやすくなります。また、細分化されていた検査室の時には、1人の検査結果が断片的にしかとらえることができませんでしたが、検体検査室のワンフロア化により、データ管理も多方面から検討することができ、より質の高い付加価値をつけて臨床側に提供できます。
オーダリングシステム、検体搬送システムの導入により人手の削減と検査の迅速化が大いに期待でき、さらに、コンピュータシステムの効率的な運用により診察前検査および、40分報告が可能となります。
このことは患者にリアルタイムの情報を提供でき、より適切な診断と治療方針の決定が可能となり、患者の満足度を上げることができます。
基幹病院の役割として、不明毒劇物の検索および薬物血中濃度測定などを積極的に行います。また、血液疾患患者の、骨髄像の鏡検を医師主導から検査室主導で行い、さらに特殊染色や細胞分類装置(フローサイトメータ)を活用して、迅速かつ正確で精密な結果報告を行い、治療支援に役立てます。
イ 微生物検査室
微生物検査においては、オーダリングシステムにより、細菌同定、感受性の自動分析機装置により、リアルタイムに結果が画面上で見ることができ、いままでのような中間報告の問い合わせが無くなる。特に緊急のグラム染色は検体提出から10分以内に臨床側が画面で見ることができ治療に必要な薬剤選択の参考となります。また1999年7月「結核緊急事態宣言」の発表された結核菌についても、迅速培養検査の充実をはかることで従来4~8週間かかっていた培養期間を2分の1に短縮でき、更に薬剤感受性試験についても早期報告ができます。このことは患者さんのQOLの向上に大いに役立ちます。
遺伝子検査(PCR検査)については現在は結核菌のみですが、今後はその他の非定型抗酸菌についてもPCR検査を採用し、結核菌との鑑別をすることにより、早期の診断・治療に役立てます。またその他種々の感染症病原体のPCR検査も導入していく必要があります。
院内感染防止対策に関しては、統計処理の充実を図り、基幹定点として感染症発生動向調査に協力すると共に全検体についての厚生省サーベイランスに参加します。また院内感染情報を月毎に委員会を通じて発表し、院内感染の有無・原因菌を追求し、その結果を公表することよって、職員の認識を高め、環境検査、職員の鼻腔・手指検査などを行い、院内感染防止の一端を担う職場として役割を果たしていきます。
ウ 病理細胞診
自動化しにくい部門であるが、自動染色装置を増やすことにより省力化をはかり、一方でより正確で詳細な診断に有用な「組織免疫染色」を積極的に取り入れます。また、術中迅速診断に関しては組織検査はもとより、細胞診を同時に実施することにより精度を高め、さらに標本作製装置をふやすことにより、依頼件数の増加と同時複数の依頼にも対応できるよう整備します。
将来的には業務支援システムを導入することにより、さらなる省力化を図るとともに、省スペース化と診断の迅速化を行います。また、同システムの画像処理機能を活用して診断に画像情報を附加し、カンファランスの実施などと合わせて、臨床医が病態を多面的に認識することを可能にします。これにより、より的確で有効な治療を行うことが期待でき、患者の苦痛の軽減と医療費の節約に大いに貢献することをめざします。
エ 「生理検査」
生理検査は患者に直接接し、1対1で行う検査であるため自動化が困難な部門です。心電図検査以外は検査に時間を要するため、そのほとんどを予約で行ってきました。
しかし、患者、特に初診の方にとってはその時点の状態を検査して、診断を受けそれに応じた治療を早く始めることが望ましい姿であると思います。ところが、人員の問題、検査機器の問題等でそれもままならず予約で行わざるを得ませんでした。
近年は検査内容の急激な進歩と需要の増加に対応して人員増がなされてきて、ある程度予約待ち期間が短くなり、この要望に答えられるようになってきていますがいまだ充分ではありません。
新病院においては、検体検査系の自動化、ワンフロア化により、生理検査室への人員の配置転換が可能となり、新規に超音波検査装置(心臓、腹部各1台)の導入も決まっています。それにより検査をより効率的に行うことができ、予約待ち期間短縮、さらには当日検査が可能になります。このことにより、肝炎など経過観察患者の検査の間隔が短くなり、癌などの早期発見にもつながります。また、移動困難な患者に対してはベッドサイドに出向いての検査も可能となる事が考えられます。
超音波検査は、検査する技師の技量により検査結果の信頼度に差が生じてきます。その差を小さくするためには技術レベルを一定に保つ事が肝要で、技師の教育、養成は必要不可欠であり、さらなる人員の増加が見込まれればこれも可能となります。
8. 誇りのもてる検査部の確立に向けて
望ましい検査部のあり方を求める私たちの検討は、まだ緒についたばかりです。いま、「提言」の作成に向けて全職員討議を実施しています。
私たちは、今回の検討により、常に意識的に自己革新に取り組まなければ、病院という巨大組織の中で日々の惰性に埋没してしまう危険性と隣り合わせているということを実感しました。同時に、その気になればみんなの力を引き出すことも可能だということを学びました。
もちろん、実際の作業は紆余曲折ですが、その一つひとつの曲がり角が成長の一里塚であることを胸に刻み、「提言」の作成に向けて取り組むつもりです。
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