1. そのはじまり
介護保険が話題になった頃、京都の市民の反応は決して大きくなかった。強いていえば、「医療保険がパンクしてきたから、また別の形で、保険料を取るのだろう」と受け止める空気だった。
京都に本部を構える「呆け老人をかかえる会」は、呆け老人の介護が新しい保険制度の中でどう位置づけられるか、強い関心を示してはいた。
1万人市民委員会の発足は、大きな刺激を与えた。文字通り一市民の立場で、何人かの市民が参加した。大阪を中心に、「1万人市民委員会・関西」の集まりがもたれ、京都からも会員が参加した。しかし、京都在住者が横の連絡をとることはなかった。発足以来2年間、会員が寄って話を交わすのは、東京か大阪だった。1万人委員会に個人として参加する会員を10名近く数える「高齢社会をよくする女性の会京都」は、京都府下全市町村に対し要望書を出した。しかし、関心の強かった「介護保険事業計画策定委員会の委員公募」に対し、どの市町村も公募することはなかった。
介護保険の実施がいよいよ1年後という時期に至って、ようやく京都の市民は動きを開始する。
堀田力氏が理事長をつとめるさわやか福祉財団の会員で構成する「京都さわやか会」が、1999年7月「介護保険をよくするための市民会議」結成の呼びかけを論議する。9月に入り、NALC(高畑敬一会長)会員でもある弓倉雄三の働きかけを受けて、京都さわやか会代表の梶宏(自治労OB)が弓倉と連名で、1万人委員会に参加する京都在住者に呼びかける。以降下記のとおり、進展をみることができた。会議の場所は、自治労京都府本部会議室を使わせてもらった。
1999.10.12. |
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第2回準備委員会。オンブズマン制度化及び市民的受け皿について論議 |
10.23. |
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第2回全体会。京都市介護保険準備室白須担当課長の話を聞く。 |
11.10. |
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第3回準備委員会。会の趣旨と目的及びシンポジウム開催について論議。 |
11.20. |
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第4回準備委員会。 シンポジウム開催決定。 |
12.13. |
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第5回準備委員会。会の名称を「介護保険制度をよくする会」と検討。 |
2000.1.12. |
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第6回準備委員会。趣意書を決定。シンポジウム後援依頼活動に入る。 |
2. 8. |
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全体会。自治労京都府本部羽室武委員長より「京都市介護保険事業策定委員会に参加して感じたこと」と題して話を聞く。準備委員代表に梶寿美子を選出。 |
2.23. |
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第7回準備委員会。第1回総会を6月15日に開催することを決める。会の名称は「きょうと介護保険にかかわる会」とすることに。 |
2. シンポジウムの開催
きょうと介護保険にかかわる会
準備委員代表 梶 寿美子
講演とシンポジウム「いよいよ介護保険-市民参画実現の道筋」(ご案内)
堀田力・樋口恵子両氏を代表とする「介護の社会化を進める1万人市民委員会」は、介護保険制度をつくる上で、大きな役割を果たしてきました。しかし、制度実施後は、この制度を真に住民が納得し、住民の福祉に役立つものとするため、地方において、自治体住民が、それぞれの自治体で行われる制度の運営に対し、積極的に参画することが求められています。
したがって、京都在住でこの委員会に参加してきたものが中心となって、今回「きょうと介護保険にかかわる会」を結成し、京都における介護保険制度の実施が円滑に行われ、納得のいく住民福祉が実行されるよう、自治体行政に参画していきたいと考えます。ついては、広く一般住民の方々が、介護保険の内実を深めるため、積極的に自治体行政に関わっていかれることを期待し、そのきっかけのひとつとして、下記のとおり、記念講演会及びシンポジウムを開催しますので、ご案内申し上げます。
記
と き 2000年3月18日(土)午後1:30~4:30
と こ ろ 京都社会福祉会館(上京区竹屋町通堀川西入・℡075‐801‐6301)
記念講演 「いよいよ介護保険-市民参画実現の道筋」
講師/西村周三京都大学経済学部教授
シンポジウム 「中立的第三者機関をどうつくっていけばいいか」
コーディネーター 山井 和則(やまのい高齢社会研究所所長)
パネラー 山田 尋志(健光園園長・京都市老人福祉施設協議会会長)
白須 正(京都市介護保険準備室担当課長)
一般市民
主 催
きょうと介護保険にかかわる会
後 援 京都府、京都市、京都府社会福祉協議会、京都市社会福祉協議会ほか |
当日は予想を上回る200名の参加者があり、当日の入会希望者も20名を超えた。シンポジウムの模様は読売新聞京都版に大きく報道された。
3. 「きょうと介護保険制度にかかわる会」呼びかけ
趣意書起草委員会は、次の通り「呼びかけ」を作成した。
本年4月1日より介護保険制度が実施されます。5年間の年月をかけ、紆余曲折をへて今日に至り、私どもも実施によってどのような事態が起こるか、充分な予測がつかないところではあります。しかし、多くの関係者の英知を集めて実施されるに至ったこの制度は、今後住民参加を具体化させることによって、地方分権を本物にすることにつながる可能性をもっています。
信じがたいほどの金融不祥事、ここまで後世につけを残してどうするのかといいたくなる国家財政の危機。こうした事態をひきおこした原因はいろいろありますが、根本的な原因も、実は私たち国民の無関心にあったではないでしょうか。
政治に対しては「参加するよりも、もたれかかり」「関与するよりも、遠くから批判するだけ」「専門家に任せておけばいい」という考え、そして、「企業は、まるごと生活を支えてくれる」「行政は、優秀な官僚がいるから安心だ」私たちはそういう考えにのめりこんでいたのではないでしょうか。
介護保険制度も、企業や行政に任せ、私たちが制度の受益者だけだったり、起こってくる問題に対し抗議を申し立てるだけでは、必ずや早晩破綻するでありましょう。
これからは、あなた任せではなく、自分たちの生活や自分たちの社会は、自分たちの手でつくる時代なのです。制度の創出もその運営も、自分たちで考え、自分たちでつくり、自分たちで実践し、自分たちで責任をとるという時代がやってきたのです。
率直にいって、介護保険制度について私たちは、不安な思いをもっております。しかし、だからといって、不備を訴えるだけ、欠陥を指摘するだけ、まして抗議するだけですむものではありません。
私たちがもっとも望まないのは、声の小さいひとが無視されること、力の強いひとが不当な利益を得ること、制度の不備によって不当な差別が生ずること、人間を忘れた機械的な処理が行われることなどの事態です。つきつめていえば、人権が守られ、公平性が貫かれることを望むものです。
そのためには、私たちが、制度の内実を詳しく知る努力をすべきであり、そのために行政からは、情報を的確に提供してもらわなければなりません。同時に、私たち自身で情報ももちよって、提供することも積極的に行おうと考えます。
新たな時代にふさわしい行政と住民の新しい関係を創造することが、いま求められているのです。この関係を具体化するため、私たちは、介護保険制度の実施に当たって、住民の英知を集め、自らも汗をかき、介護保険を自分たちの制度として実感をもてるよう、そして、自分たちのことは自分たちで決めることによって、今後さらに進み行く高齢社会をともに安らかに生きて行きたいと考え、下記の諸活動をともに進めてまいります。趣旨に賛同される方々のご参加を訴えるものです。
活動内容
1. 介護をめぐる現状把握とオンブズマン活動
2. 介護に関する公平性追求のための提案
3. 住民の自己決定を進めるための諸活動(2000年3月)
4. きょうと介護保険にかかわる会2000年度活動方針(2000年6月15日決定)
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市民一人ひとりが寄りあって、入会者は50名を超え、次の通り活動方針を決めた。
4. 介護保険制度実施直後の市民をめぐる状況
介護保険制度は、多くの問題をはらみながらも何とか本年4月、全国一斉にスタートしました。これから市民参加の内実が深められ、さらにそれが地方分権を大きく前進させることに結実したとき、いまを生きる私たちは、後の世に誇れる歴史的瞬間をもつことができたといえます。
大阪府では、準備がすすめられていた「介護保険市民オンブズマン機構大阪」が発足し、オンブズマン養成講座が開始されました。受講者定員50名に対し、受講希望者は247名もあり、63名が、5万円の受講料を支払って8月末まで40時間の講義を受けることになりました。介護保険をだれか専門家や行政におまかせするというのではなく、市民が積極的にかかわり、責任ももっていこうという大きな流れがいま生まれつつあるのです。
京都府でも、京都市や長岡京市などで、今後の介護保険制度等の運営についてかかわる協議会等に、一般市民からの公募委員が加わることになりました。京都府は、ボランティア社会をつくろうという「さわやか福祉財団(堀田力理事長)」の理念に賛成し、3年前から若手府職員を1年間の研修に参加させ、今年度で4人目を数えています。京都市は、平成11年度から総合企画局内にパートナーシップ推進室を設け、市民と行政との関係に新しい展開を計ろうとしています。私たちの運動は、無名の1市民が寄りあった小さな活動ですが、権威や名誉そして利権と無縁であることをこそ私たちの誇りとし、自由に発言し、公平で自律性のある社会をつくるため、その存在を世に示すとともに、社会的貢献を果たしてゆきたいと考えます。
5. かかわる会の姿勢
(1) 政治に対する姿勢
私たちは特定の政治的立場をとりません。しかし、政治のもつ不合理性だけをあげつらって、政治との距離をもつことにアイデンティティを求めるのではなく、いい政治家が、弱い立場のひとびとに目を向け、公平な社会をつくることに努力されることを期待し、そのために、私たちが政治に背を向けるのではなく、自らが政治さらには政党を自分たちに近づけるための努力を惜しんではならないと考えます。
(2) 行政に対する姿勢
行政の中にみられる官僚性に対してはその弊害に目を向けます。しかし、官僚社会を構成している個人の、人間としての善意は信じたいと考えます。例えば、介護保険実施のため、日夜を分かたず仕事に精励された公務員の努力は積極的に評価します。そして、その努力が、社会に貢献する結果をうることができるよう、協力を惜しみません。
(3) サービス提供者に対する姿勢
私たちは経済中心主義を打破しなければならないと考えます。しかし、経済を無視して事業は成り立ちません。必要なことは、社会貢献と経済のバランスが保たれることです。事業者には事業内容や財務状況を公開する姿勢を求めるとともに、それを理解する能力を私たち自身が身につけなければならないと考えます。
(4) 利用者に対する姿勢
利用者はともすれば弱い立場と位置づけられます。現状は確かに利用者のもつ情報は豊富といえず、強い選択権があるとはいえません。しかし、介護保険の主人公は本来利用者なのです。私たちは当面、弱い立場にある利用者の代弁を行うことにエネルギーを向けますが、基本的には、市民として自立し、自分のことは自分で決める利用者をつくるという視点をもたなければならないと考えます。
6. 当面の活動
(1) 行政に対する提言
全国的な情報収集や勉強会の積み重ねの上に立って、行政に対し提言を行います。
(2) サービス提供者の実態把握
行政や他の関係団体との有機的な関係協力をもとに、サービス提供者の実態把握につとめるとともに、会員の創意工夫による、告発型でない「勝手にオンブズマン」を実践してまいります。
(3) 現場で働くひとたちとの交流
行政及び事業の中で働くひとたちの本音を知ることは何よりも大切なことです。一方的な立場をとらない私たちは、直接的な利害関係ではなく公平に判断する立場であることを踏まえ、働くひとたちとの交流を行います。
(4) 利用者からの相談と苦情処理
公的に保障された市民オンブズマンの制度化をめざすとともに、当面、会員は利用者との接触を積極的に求めることとし、そのために研鑚し、実践につとめたいと考えます。
(5) 内部体制の整備
私たちの会を活性化させるため、内部につぎのとおりプロジェクトグループをおきます。
企画プロジェクトグループ(講演会・勉強会の企画、政策提言、会員増計画等)
事業プロジェクトグループ(施設見学、事業者との接触、オンブズマン実施計画)
広報プロジェクトグループ(各種情報収集、情報発信、機関紙発行)
和音(No.11 APRIL-2000.4月号)
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