市民球団としてのJリーグ

山形県本部/山形県地方自治研究センター 

 

1. 社団法人が運営する「モンテディオ山形」の概要

 「モンテディオ山形(MONTEDIO YAMAGATA)」はJリーグ・ディビジョン2(J2)に所属し、山形県をホームタウンとするサッカーチームである。
 1984年に山形日本電気のサッカー同好会として発足し、鶴岡地区社会人リーグに参加した。 その後1992年に山形県で開催された「べにばな国体」に向けて強化を行い、鶴岡地区リーグ、山形県社会人リーグ、東北社会人リーグ(4年連続優勝)と順調に昇格し、1994年の旧ジャパンフットボールリーグ(JFL)昇格決定戦で日本電装を下し、東北地区のチームとしては初のJFL昇格を果たした。
 その後、1999年より始まったJリーグ2部に参加するため、運営会社の法人化を目指したが、大手企業の少ない山形県では株式会社形態での法人化が困難であったため、山形県や地元企業が中心となり、Jリーグクラブとしては初の社団法人による運営主体「社団法人山形スポーツ振興21世紀協会(通称:スポーツ山形21)」を1998年2月に設立した。
 この「社団法人山形スポーツ振興21世紀協会」はモンテディオ山形の運営に留まらず、陸上競技など山形県内における各種スポーツ振興の推進を目的とし、1999年にはモンテディオ山形に続く2つ目の競技チーム「スポーツ山形21山形女子駅伝チーム」を創設し運営活動を行っている。
 またもう1つの特徴として、社団法人の運営が地元自治体や地元企業そして山形県民を中心とした会員制度により支えられていることがあり、Jリーグの目指す地元密着型スポーツクラブの実現を目指している。
 (以上資料 モンテディオ山形 ホームページ http://www.montedio.or.jp/index.html より)

◆ 「モンテディオ山形」チーム名の由来
  MONTEDIO(モンテディオ)は、イタリア語の造語で「山の神」を意味しており拠点とする山形県の霊峰出羽三山と頂点を目指すチームを表している。
  「MONTEDIO」は「MONTE」と「DIO」という2つの単語を組み合わせた造語で、語源はイタリア語にある。MONTE(モンテ)は山を、DIO(ディオ)は神を意味し、全体の意味は「神の山」となる。この由来は、山形を代表する霊山としての出羽三山(月山、湯殿山、羽黒山)にちなんだものとなっている。また、「MONTEDIO」には、意味的に「神秘の郷 山形」を表現するだけでなく、山頂すなわち頂点を目指してたたかうチームになって欲しいという多くの県民の夢と希望が込められている。このチーム名は1996年2月に、山形県民を中心とした投票により決定された。

2. 地域スポーツクラブ

 さて、地域スポーツクラブに関係し、教育白書「我が国の文教施策」平成11年度版においては、以下のような施策がうたわれている。引用としては長くなるが、地域スポーツクラブの概念について整理するために、あえて掲載する。なお、紙幅の関係上、途中省略部分があることを了承願いたい。

(1) 地域におけるスポーツ活動組織の必要性
  従来、我が国のスポーツは学校を中心に発展してきており、学校がスポーツの振興やトップレベルの選手の育成等、様々な役割を果たしてきた。しかし、その反面、多くの国民にとっては、学校を卒業してしまうとスポーツに親しむ機会が著しく減少してしまう状況になっている場合が多い。また、勤務先の企業等でもスポーツクラブがあるものの、その性質はトップレベルの選手を対象としていたり、あるいは、サークル的なものであっても、スポーツニーズに十分対応していない場合が多い。
  こうした状況を改善するには、地域においてスポーツ活動を可能とする組織が必要となってくる。地域でだれもがスポーツを行うことのできる組織があれば、学校を卒業し、社会に出た後も、継続的にスポーツを楽しむことができるのである。

(2) 総合型地域スポーツクラブ
  総合型地域スポーツクラブとは、主にヨーロッパ諸国等に見られる地域のスポーツクラブの形態で、地域住民が自主的に運営し、子どもから高齢者、障害者までの様々なスポーツを愛好する人々が参加できる総合的なスポーツクラブであり、以下の特徴を有している。
 ① 単一種目だけでなく、複数の種目を行っている。
 ② 青少年から高齢者、初心者からトップアスリートまで、様々な年齢、技術・技能を有する者が活動している。
 ③ 活動拠点となるスポーツ施設・クラブハウスを有しており、定期的・計画的なスポーツ活動の実施が可能となっている。
 ④ 質の高いスポーツ指導者を配置し、個々のスポーツニーズに対応した適切な指導が行われる。
  ヨーロッパ諸国では、スポーツが生活に根付いており、地域住民の多くが地域の総合型スポーツクラブに加入している。住民は単にスポーツを行うだけでなく、クラブハウスが社交の場にもなっており、クラブは地域コミュニティの基盤となっている。また、クラブに加入していることで、地域住民は地域の一員として、地域に対する誇りを有し、このことは地域の活性化にもつながっている。

(3) 総合型地域スポーツクラブ育成への様々な取り組み
  様々な形態で総合型地域スポーツクラブの育成が取り組まれており、競技団体の中にも総合型地域スポーツクラブ育成の取り組みを行っている団体もある。
  (社)日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)では「百年構想」の下、総合型地域スポーツクラブの育成に取り組んでおり、所属する各クラブにおいては、サッカー以外の競技の振興も行っており、バスケットボールやバレーボールの教室などを開催している。

3. 社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会

 この地域スポーツクラブの実践例が、社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会である。ただし、協会の活動理念は、単なる地域スポーツクラブの振興だけには留まらない。協会が目標にするのは、21世紀におけるスポーツ文化の形成であり、その牽引役としてJリーグに加盟するプロサッカーチーム「モンテディオ山形」と「スポーツ山形女子駅伝チーム」の運営を行っている。協会はプロスポーツチームを運営する全国初の公益法人として1998年2月に活動を開始した。
 協会設立の大きな理由としては、冒頭で述べたとおり、モンテディオ山形がJリーグ2部に参加するための運営会社の法人化にあった。しかし、もうひとつ設立の理由としては、少子高齢化の時代を迎えており、スポーツを楽しむ世代間のアンバランスの解消と、世代間で共通で話題にできることが求められていたことによる。また、県外にむかって発信できるもの、すなわち地域の魅力を創造し、地域をおこし、情報を発信することができるものもまた必要とされていた。それを具体化させるもののひとつが、スポーツであり、プロサッカーチームであった。協会を公益法人として設立させた背景には、このようなねらいがあった。そのような「地域力」の向上のため、地域スポーツの振興を公益事業としてとらえ、振興を図る法人が設立されたのである。
 ただし、運営は厳しく、事務局11人でモンテディオ山形の運営を含め、各種事業を展開している。運営資金をどう確保していくかが最大の課題と言えよう。

◆ 社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会
 ① 設立の趣旨(設立趣意書より抜粋)
   心の豊かさが重視される時代にあっては、文化が地域のイメージをつくり、地域を評価する際の1つの目安となっている。そのため、私たちの生活にとって極めて重要な文化の1つであるスポーツの振興を図ることは、魅力ある地域づくりにとって大切な課題である。
   山形県と姉妹州であるアメリカ・コロラド州には、野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケー、そしてサッカーのプロチームがあり、老若男女が思い思いに競技場に出かけ、郷土チームの勝敗に一喜一憂しながら、州民がスポーツ文化を共有する姿を見るとき、我が県にもそういったコミュニケーションの媒体があればと思うのは、私たちだけではないであろう。一口にスポーツ文化といっても、風土や地理、習慣、経済、産業などの違いによって、地域の性格はさまざまであり、それぞれの地域に住む人々のライフスタイルも一様ではない。
   現在、山形県では21世紀につながるスポーツ界の更なる活性化が求められる一方で、その牽引力となるべき競技スポーツにおいては、次世代の目標となる全国トップレベルの社会人チームの存在が強く期待されている。また、生涯スポーツの振興の面においては観るスポーツの果たすべき役割がこれまで以上に重要になっているものと考えられる。
   これらを踏まえ、県民の関心が高い、サッカー・駅伝競争・野球やバレーボール・バスケット・スキー等その他の競技も視野に入れて、全国を舞台に活躍できるチームの設置、育成や「観るスポーツ」の機会を広く提供することにより、山形県の新しいスポーツ文化の形成に資するために、多くの方々が参加、交流することができる地域スポーツのシンボルとして、全国に先駆けた社団法人組織のもとで当協会はその運営を開始した。
 ② 設立の時期
   平成10年1月19日(事業開始平成10年2月1日)
 ③ 実施事業
  ア 県民スポーツ意識の向上
   ● サッカーチーム「モンテディオ山形」の運営
   ● 「スポーツ山形女子駅伝チーム」の運営
   ● その他チームの設置運営
  イ 地域スポーツ活動の推進
   ● 各種スポーツ競技の招致・開催
   ● スポーツをとおした福祉の推進
  ウ ジュニアスポーツの振興
   ● 指導技術交流会の開催
   ● スポーツ指導者の派遣・育成
   ● 地域指導員の派遺によるスポーツ少年団、中学校、高校チームの指導
   ● サッカーユースチームの運営
  エ スポーツ青少年の育成 スポーツ教室開催
   ● J2リーグホームゲームヘの県内小中学生の無料招待
   その他、交通安全運動キャンぺーンなど、地域貢献活動を全県各地で積極的に展開している。

4. モンテディオ山形の運営の特徴

(1) ホームタウン
  Jリーグが理念とするチーム運営はホームタウン。つまり、地域に根差し、愛されるチームを目指している。「モンテディオ山形」は、山形県内全域をホームタウンとしている全県型のチームである。
  Jリーグ運営支援活動(運営サポーター活動)として、県民のチームとして、ホームゲーム運営に関わる様々な業務について、サッカー協会をはじめ住民自らが運営に参画している。特にボランティアによる運営サポートとして、ボールボーイ・医務担架・会場設営撤去、当日券やハンドブックの販売、ゲート出入口でのチケットのもぎり・入場者数カウンター・ビンカンの持込み規制、そして場内アナウンスや電光掲示板オペレーション、チーム、会場、ドクターなど。これらは全てボランティアで運営されている。

(2) 会員制度による社団法人経営
  当協会の運営基盤は大口スポンサー特定の企業に依存する片寄った収入に頼らず、広く「モンテディオ山形」をはじめとする競技スポーツの運営事業を行う協会に賛同する、個人、行政、企業・団体が三位一体となり、その会費収入を基本として運営しており、財政基盤の多くは、会費収入及び地方公共団体補助金に依存している。住民一人ひとりによって支えられるヨーロッパ型のクラブ経営を目指して活動している。
  財政構造としては、試合収入、会費、広告費、県市町村がそれぞれ約4分の1ずつとなっている。会員としては、「正会員」(協会の目的に賛同して入会した個人・法人及び団体、年会費は1口500,000円)、「賛助会員」(法人の事業を援助する法人及び団体、年会費は1口50,000円)、「後援会員」(法人が設置育成するスポーツチームまたは選手を支援する個人、年会費は大人1口10,000円、ユース1口3,000円)となっており、会員はホームゲーム無料となっている。

(3) Jリーグ公式戦(ホームゲーム)への県内義務教育児童・生徒等の観戦招待
  子供たちにプロのトップレベルの試合を観戦してもらうことにより、子供たちのスポーツヘの関心を高め、県内スポーツ文化の高揚を図っている。そして、これからも「スポーツ文化」も「芸術文化」も同レベルのものとして、試合のみならず色々な機会に義務教育児童・生徒達にその文化に接する機会を多く提供していく。また、福祉施設入居者等もモンテディオ山形のJ2ホームゲームに無料入場できるようにしている。

(4) 人材の派遺地域巡回指導(サッカー教室)
  山形県内の学校や地域ヘサッカーを通したスポーツのレベルアップや楽しさを伝えるため、広く学校・スポーツ少年団・各種団体に、当協会所属の監督・コーチ・選手を指導者として派遣している。また、J2ホームゲーム開催日に試合前にサッカー教室の開催市町村名を冠したサッカー教室を試合会場で開催し、指導している。さらに地域振興イベントヘも参加を図っている。

◆ サッカー以外の競技スポーツチームの設置運営
  サッカー競技のみならず、他競技スポーツチームも設置運営し、山形県民のスポーツ意識の高揚と一体化を図り、県内のスポーツ文化の活性化を目指している。1999年からは、新たに「スポーツ山形女子駅伝チーム」を発足させ活動をスタートした。
  「全国都道府県対抗女子駅伝競技大会」など全国レベルの大会で優秀な成績を収めることを目的に平成11年4月に設置した。現在、監督コーチに加え3名の選手で構成している。今後、県内企業等との連携のもと、毎年、2~3名の選手を確保・補強していく予定。

5. まとめ

 まとめの意味で、教育白書「我が国の文教施策」平成11年度版から再び引用する。

(1) 総合型地域スポーツクラブの方向
  総合型地域スポーツクラブは、地域住民が自らのスポーツ活動のために自主的に育成・運営するものである。したがって、継続性の確保の観点からも、できる限り会員による会費収入やクラブの収益で運営することが望ましい。
  しかしながら、総合型地域スポーツクラブは、地域における公共的な役割を果たすものであり、行政の支援もその実情に応じて適切に行われることが望ましい。
  特に施設については、クラブ自身で建設・運営を行うことは困難であり、総合型地域スポーツクラブの育成には、公共スポーツ施設・学校体育施設の優先的利用といった行政の支援も必要である。例えばドイツでは、クラブが公共スポーツ施設の運営を請け負う代わりに優先的に施設を使用できる場合が見られる。
  また、生徒が各自の多様なニーズに応じてスポーツ活動を行うことができるようにするためには、総合型地域スポーツクラブと学校の運動部活動の適切な連携も重要である。なお、総合型地域スポーツクラブなどにより地域で活発にスポーツ活動が行われている場合は学校の運動部活動の一部を地域のスポーツクラブにゆだねることも考えられる。

(2) プロスポーツの振興
  プロスポーツは、「観るスポーツ」として幅広い年齢層に支持されており、スポーツへの興味・関心を高めることから、スポーツ全体の振興に寄与するとともに、プロスポーツ選手が有する高度な競技技術は我が国の競技力の向上に資するものである。とりわけ青少年にスポーツに対する夢と感動を与え、自らがスポーツを行うきっかけとなることから、青少年の健全な育成やスポーツの裾野を広げる役割も果たしており、プロスポーツの意義は極めて大きいものがある。
  アマチュアスポーツとの関係では、近年、オリンピック大会での野球、サッカー、バスケットボール競技においてプロスポーツ選手の参加が認められたように、世界的にプロ・アマ間の垣根が低くなる傾向にあり、プロスポーツにおける競技力の向上が我が国の国際競技大会での成績に直結する状況も生じつつある。
  このようなプロスポーツの意義や状況を踏まえれば、今後、プロスポーツが健全に発展していくことは、我が国のスポーツ全体の振興を図るためにも極めて重要である。
  地域スポーツクラブおよびプロスポーツについては、個々に検討すると様々な課題があると思われるが、ここでの論議は割愛したい。とにかく、地域スポーツクラブとプロスポーツを結び付け、地域振興を図るという新たな試みとして、社団法人山形県スポーツ振興21世紀協会の活動は注目される。また、公益法人という形態は、行政が直接関わるより自由度の高い活動ができるという点も着目すべきであろう。住民と行政の協働の場としてその存在意義は大きい。特にプロサッカーチームの活動を中核とする本協会の場合は、サポーターやボランティアによる組織的な協働を図ることができる。このように、山形県スポーツ振興21世紀協会の意義と可能性は非常に高いものがある。なおレポート作成にあたっては、資料提供を含め、協会事務局長の佐藤嘉高さんに大変お世話になった。感謝申し上げたい。