生涯学習推進における        
「地域教育政策づくり」と「学社連携」

―「支部自治研活動」と「教育関連労組連絡会」の取り組み ―

大阪府本部/大阪市職員労働組合・教育支部


はじめに

 国における生涯学習推進については、臨教審('8487)を経て、「生涯学習体系への移行」論議が活発となり、文部省の筆頭局としての生涯学習局が設置('88.7)されました。そして、「生涯学習振興整備法」が制定('90.6)されるところとなりました。大阪市でも、市議会の議論もあっていち早く「生涯学習推進会議」が設置('8811)され、社会教育委員会議の意見具申('91.2)もふまえて、「生涯学習大阪計画」(以下、「大阪計画」)が策定('92.2)されました。「大阪計画」策定と93年秋までの教育支部の取り組みについては、第25回地方自治研究全国集会(熊本)で「『生涯学習大阪計画』における拠点施設構想と社会教育(施設)の再構築」として報告していますので、本稿では、それ以降の大阪市の状況としての「区における生涯学習」や、支部自治研活動としての「学社連携」の取り組み、「教育関連労組連絡会」結成などについて報告することにします。「大阪計画」にもとづく「生涯学習主要施策の進捗状況の概要」と「支部自治研活動の足跡」については資料としてまとめましたので、ご参照ください。

1. 「大阪計画」と区における生涯学習推進

() 生涯学習支援システム
  「大阪計画」では重点計画として、市民の生涯学習活動を支援するシステムを「地域」「ターミナル」「広域」の3つの段階に分けて構築し、それぞれに拠点施設を整備することにしています。このことは、さまざまな自治体で策定された「生涯学習計画」の中でも大阪市の大きな特色のひとつとなっています。
  「地域システム」では、小学校区を基礎に、行政区をひとつのまとまりとして、学習・文化・スポーツ等の活動を通じた心豊かな地域コミュニティづくりをめざしています。拠点施設としては、地域の学習センターともいうべき小学校を開放し、住民の身近な学習の場となる「生涯学習ルーム」を、現在262校(全297校)に整備してきました。また、各小学校で実施されている「児童いきいき放課後事業」と「学校体育施設開放事業」もあわせた「地域に開かれた学校づくり」は、大阪市児童育成計画(なにわっ子すくすくプラン、'98.4策定)の当面の重点課題ともされています。
  「ターミナルシステム」では、「地域」と「広域」を結ぶ連結システムとして、大都市大阪の特徴を生かして、梅田・天王寺・難波など主要ターミナルを中心に形成される社会・経済的な生活圏をひとつの生涯学習圏としてとらえ、情報・学習・交流を中心とした支援システムを構築することにしています。この拠点施設が「市民学習センター」で、既設の弁天町・阿倍野・難波につづいて、城北(仮称)が予定されています。
  大阪市全体をカバーする「広域システム」では、生涯学習推進の中核施設として情報、学習、交流、研究、研修等のセンター機能をもった「総合生涯学習センター(仮称)」と、生涯学習に関する人・施設・事業などの情報をオール大阪で共有する「生涯学習情報提供システム」を構想しながらも、財政状況などの影響で未だ実現しないままとなっています。また、生涯学習に関わる基盤施設として「中央図書館」「中央体育館」がともに96年に建て替えられ、それぞれ各区にある地域図書館・スポーツセンターの中央館として、機能整備が図られました。さらに新博物館(2001年完成予定)が、“大阪市博物館ネットワーク”の要として整備されようとしています。

() 区における生涯学習推進
  「大阪計画」では、「地域システム」として行政区をひとつのまとまりとして位置づけながら、区における具体施策としては十分な内容がともなっていませんでした。そうした中、9312月に労使による「区行政検討委員会」が設置され、「高齢社会対策」「コミュニティづくり」「人権施策」などとともに「生涯学習」も検討課題のひとつとされます。これについては、9512月に最終報告が出され、96年4月には全区の区民室に生涯学習担当主査が配置されることにつながりました。また、「大阪市行財政改革実施計画」('96.11)の「新たな区政の展開」の項でも区の生涯学習推進がしめされ、昨年4月には「生涯学習相談員」が配置されるとともに、「区における生涯学習モデル計画」や「区における生涯学習情報提供・相談」の検討がなされてきました。また昨年4月には、大阪市社会教育委員会議から「区における生涯学習の推進について」の意見具申が提出され、今後は区・地域・学校を含めた十分な連携が求められており、「生涯学習区民会議(仮称)」の設置や「区生涯学習推進計画」の策定などが予定されています。

2. 分権時代の地域教育政策

() 地方分権と今後の教育行政
 ① 国の状況
   1995年に「地方分権推進法」が制定され、地方分権推進委員会による勧告は第5次にまで至り、これを受けて一昨年5月に「地方分権推進計画」が閣議決定されました。その後、中央集権型行政システムの象徴であった機関委任事務制度の廃止を柱に、地方自治法改正をはじめとした関連法律475の改正を「地方分権一括法案」として国会に上程、昨年7月に成立、今年4月に施行されました。今後は、地方自治体においても関連条例の制定や改正の作業が必要になってきます。
   こうした地方分権の流れを背景に、
98年9月中央教育審議会と生涯学習審議会から相次いで答申が出されました。「今後の地方教育行政のあり方」についての中央教育審議会の答申では、小中学校の学級編制や教職員配置の弾力化、教育長の任命承認制度の廃止、保護者らによる学校評議員制の導入などについて打ち出しています。また、生涯学習審議会からは「社会の変化に対応した今後の社会教育行政のあり方」について、地方分権と住民参加の推進や、生涯学習社会におけるネットワーク型行政の推進などが提言されました。一方では、「国旗・国歌法案」の成立や教育基本法改悪の検討など、政府・文部省による、教育現場への国家統制を強める動きも顕著になってきています。
   また、
9811月に公表された、2002年の学校5日制に対応する学習指導要領改訂は、「ゆとりと自ら学び考える力」をめざして学習内容を3割削減するとともに、小学校3年生以上高校生までの全学年に、週3時間以上の「総合的な学習の時間」(2000年度より試行)を新設することにしています。
 ② 大阪市の状況
   98年4月に、大阪市の生涯学習、人権教育、スポーツにかかわる教育委員会の機構改革が行われました。人権教育企画室・社会教育部生涯学習課・スポーツ部国際競技課の設置を行うとともに、社会教育課と社会同和教育課の再編を行い、人権教育と生涯学習を一体的に推進する体制整備がなされました。また、昨年4月には、教育委員会指導部と教育センターにかかわる機構改革があり、指導部に教育改革担当部長が配置されるとともに、教育長の私的諮問機関として「大阪市教育改革懇話会」が設置されました。21世紀を展望した教育改革の基本方向の策定にむけて、2002年の完全学校5日制や教育の地方分権化の課題を視野に入れた協議が行われ、今年2月に提言がされ、さらにそれを受けて今年8月には教育委員会として「大阪市教育改革の基本方向」がまとめられました。今後は、これまでの教育施策を総合的に検討しつつ、具体的プランが「大阪市教育改革プログラム(仮称)」としてまとめられる予定です。

() 「地域教育政策」という視点で
  自治労は、分権・自治の時代において、国家統制のもとにある教育・学校を「いかに市民の手に取り戻していくか」との観点から、自治体政策としての対案づくりの端緒として96年に「自治研地域教育政策作業委員会」を設置しました。教育支部は大都市共闘教育部会の一員として、97年1月以来、学校用務、学校給食、学校事務などにかかわるメンバーとともにこの作業に参画してきました。その成果は、「子どもの権利条例をつくろう」「市民参加の決め手、“学校協議会”の設置を」「学校の裁量権の拡充をはかろう」「図書館・公民館・学校による地域教育のネットワークを」などを含む、「教育を地域に取り戻すために 15の提言」としてまとめられました。
  分権時代における自治体の教育行政は、市民生活に基盤をおいたものに転換されなければなりません。そのためには、総合施策としての「生涯学習」の観点と「地域教育政策」という視点で再構築されなければなりません。

3. 大都市大阪の「地域教育政策づくり」をめざして~「学社連携」を軸に~

 昨年4月に開催しました支部第8回自治研集会のテーマは「分権時代の教育政策・まちづくりをどう進めるか~学社連携と市民参加を視点に考える」としました。2005年目標の「大阪計画」のさらなる推進と、大阪市の地域教育政策づくりをめざして設定されたテーマです。友誼労働組合の参加も得た昨年の集会は、以下に記すような、支部の今後の課題を明らかにするものとなりました。

() 教育関連外郭団体労働組合との連携 
  支部は、自治労の「地域公共サービス産別の形成」方針もふまえ、大阪市教育振興公社労組('92~)、大阪市スポーツ振興協会労組('98~)の結成以来、生涯学習施策・スポーツ施策にかかわって連携をはかってきました。また、大阪市文化財協会労組(99年自治労加盟)とは、現在建設中の「新博物館・考古資料センター(仮称)」の開設について、双方の組合員も含む「建設準備室」を立ち上げるなど、共同の取り組みを進めています。これらの外郭団体の労働組合とは、支部の組合員が出向して多くの職場を同じくしていること、また、大阪市の教育行政を共に担う公共セクターとしての互いの組合員の認識も一層共有を図らねばならないこと、などからさらに連携を深めていかなければなりません。
  支部自治研集会のテーマでもあった「学社連携」関連事業としても、教育振興公社では、びわ湖青少年の家における「自然教室」(
2000年度からは事業改編)や、キッズプラザにおける幼稚園・小学校教員との共同プロジェクトである「校園プログラム」開発などがあげられます。スポーツ振興公社の事業としては、大阪体育大学と連携した科学的なスポーツ指導の普及をめざす「OSPAスポーツ大学」や、港区での「総合型地域スポーツクラブモデル事業」などが実施されています。また、文化財協会の「学社連携」事業としては、「難波宮発掘体験事業」や「文楽鑑賞教室」などをあげることができます。
  このように、外郭団体労働組合と支部は、互いの労働の基盤が共通であることから、大阪市の生涯学習・社会教育施策が市民生活をより豊かなものにするため、
98年秋以降に情報交換や交流の機会を重ねてきました。昨年10月には、これら外郭団体労働組合との連絡組織の結成をめざして「連絡会準備会」を結成しました。そして、12月には教育長に対して「連絡会準備会」として、「2000年度大阪市教育予算編成に関する申し入れ」を行いました。この取り組みは、教育委員会当局や外郭団体理事者に対して、外郭団体の各現場で固有職員が、施設職員・プール指導員・文化財調査員として市民ニーズを実現する労働を担っていることを認識させることとなりました。また一方で、教育の領域で公共サービスを担う責任主体として、労組の互いの連携をさらに深める必要を自覚させることにもなりました。そして、自治労大阪府本部や大阪市職本部の支援のもと、今年2月24日、3労組と支部で「自治労大阪府本部市内第2ブロック教育関連労働組合連絡会」が結成されました。

() 学校教育との連携
  2002年の完全学校5日制や「総合的な学習の時間」の導入が迫ってきました。また、地方分権のうごきの中で、地域における学校の管理運営のあり方が問われています。地域や家庭における子どもの危機的な状況がさまざまに伝えられています。学校教育をより豊かなものにするために、社会教育の側からできることは何だろうか、という視点で開催した、昨年の支部自治研集会では、キッズプラザ大阪や文化財保護課の取り組みなどが紹介されました。また、図書館見学や調べ学習への支援などに取り組んできている図書館分会からは、「学校と公共図書館の連携研究会」のまとめとして、今後の課題などが報告されました。
  こうしたことを背景に、今年8月には、大阪市教職員組合(市教組)の夏期合宿のプログラムのひとつとして、支部から「ともに担う教育改革~社会教育の現場から」との報告をさせていただき、交流を深めてきました。先に記した「大阪市教育改革の基本方向」でも、「学社連携」を改革の柱のひとつとして掲げている状況も受けて、労働組合としても「現場から」「地域から」の発想を大切にしながら、学校関係労働組合との具体的な連携が今後ますます必要となってきます。
  前述しましたように、「地域に開かれた学校づくり」が「大阪市児童育成計画(なにわっ子すくすくプラン)」の当面の重点課題とされています。教育振興公社では、近年中にも全小学校での開設となる「生涯学習ルーム」や「クラフトパーク」の運営を受託しており、スポーツ振興協会では、近年中に全区での開設となる「スポーツセンター」や「屋内プール」を受託しています。また、文化財協会が市内各地で実施している文化財発掘調査事業や、構想中の「新博物館・考古資料センター」も含めた、これらの施設や事業などが学校教育をどう支援できるか、「学社連携」がどうすすめられるかも教育行政の大きな課題となります。前述しました「教育関連労組連絡会」の取り組みがますます重要となってきます。

() 市民参加と情報公開
  地方分権時代の行政施策については、市民参加と情報公開が前提となります。とくに生涯学習施策や「地域に開かれた学校づくり」は市民参加を促進すべき施策として想定されていることから、「特定非営利活動促進法(NPO法)」の施行('
98.12)を受けた、大阪市としてのNPO支援施策とも連携していく必要があります。また、昨年自治労が「自治体改革闘争」の一環としてその考え方を提起した「総合的行政評価」については、行政施策についての情報公開・市民参加のシカケとしてとらえる必要があります。
  大阪市の行政施策は、
2005年を目標とする「総合計画21」にもとづいて展開されてきていますが、「総合計画21」の最終5年間を前に、新たな「中期指針」と「行財政改革実施計画」が策定されようとしています。また、大阪市でも「事業評価システム」の導入が進められていますが、これらの動向への対応について、なにより職場・支部からの主体的な検討が必要です。自らの仕事の自己評価である「事業評価」と、今後想定される外部評価もあわせて、要員・予算ともに限りある時代における、“施策の重点化”こそを、共通の目標としなければなりません。

【資料1】 「生涯学習大阪計画」主要事業の進捗状況、【資料2】 教育支部自治研活動の足跡(1993年以降)