はじめに
自己決定(自己責任)の理念は、社会福祉をはじめ介護、保健、医療など社会サービスの仕組みや方法を大きく変えつつある。対等な関係・利用者主体として「契約制度」への転換が進むなか、「対等」という概念が強調されればされるほど、その前提となる基盤整備、そして情報の公開・合意(インフォームドチョイス等)や「自己決定支援」、そして「権利侵害への救済」が大きな課題となる。
千葉県本部自治研実行委員会は高齢者にとどまらず、「こども」や「男女平等参画」などをこの「人権と自己決定支援」の仕組みをどう政策化していくのか、市民自治の視点でどう構築していくのかを視点に取り組みを進めている。今回は「地域福祉権利擁護事業」に焦点をあてた。
1. なぜ創設されたか
従来の高齢者や障害者の意志決定を支援する仕組みは、禁治産制度など「保護と権利制限」に重点が置かれていた。このため契約を前面に押し出した介護保険制度のスタートとあわせ、「新たな成年後見制度」をスタートさせる準備が進められた。そして、法律行為援助の後見人制度と並行し、サービスの「利用援助」として「地域福祉権利擁護事業」がまさに緊急に創設(99年10月)されることとなった。
【10/1開始にむけた準備の状況-「事後研修」がよくわかる】
10/4、5 厚生省・運営要綱提示
10/19、20、21 関東ブロック都県の専門員研修、担当者会議
11/9 生活支援員研修
2. 実施主体
都道府県「社会福祉協議会」にセンターを設置し、広域行政圏の基幹的な市町村社協に業務を委託する。(この形が基本とされ一般的であろう、但し社協以外でも設置は可能)
千葉県では、県社協が「センター」を設置し、基幹的社協として千葉、松戸、柏の3社協に事業を委託、「広域後見支援センター」が設置された。
センターのカバー領域は、ちば(千葉市、習志野市、八千代市、市原市)、まつど(松戸、市川、流山、鎌ヶ谷)、かしわ(柏市、野田市、我孫子市、関宿町、沼南町)であり、文字どおり実に広域であり、域内人口は70万人から100万人を優に超える。また、船橋は市独自で「センター」を設置した。
3. 利用対象者
自己決定能力が低下しているものの、契約の内容と結果を認識し、判断する能力を有している者となる。(この有しているがポイントであり、判断能力なしと判定されれば、成年後見制度等を利用することになる)
4. サービス内容
① 福祉サービスの利用援助
② 日常的な金銭管理
③ 財産保全サービス
④ 弁護士等の紹介
⑤ 関係機関との調整
5. サービス提供の仕組み
契約に基づき、専門員による「支援計画」に沿って、支援員がサービスを提供する。
6. 苦情の対応と評価
① 利用者は、この事実に関する苦情を県センターにおかれる第3者機関「運営監視委員会」(2000年7月に委員を公示)に申立てすることができる。運営監視委員会は、利用者からの苦情を調査し、解決策を講じるほか、県センターの業務を監視し、提言、勧告する。県センターは、市センターの業務を監督し、市センター専門員は生活支援員の業務を監督する。
② 契約締結ガイドラインにより、3か月毎に利用者の判断能力などの評価を実施する。
7. 事業体制
県後見センターの委託金は、年間で約700万円で概ね専門員1、2名、プラス嘱託、臨時職員という体制である。急ごしらえのため、市派遣と市退職者という構成が多い。
8. 制度の利用状況
資料参照
9. 利用状況からみた問題点
① まず、実行委員会は、各権利擁護センターの概況を明らかにするとともに、先行市(この制度以前の)との比較や課題の明確化を行った。
② そして
ア 相談件数の少なさや契約へのネック
イ サービス基盤の整備状況や地域ネット
ウ 成年後見との関係
などから実例検討と分析を行った
詳細な情報の入手は困難であり、限られた情報からであるが、問題点を整理する。
(1) 制度そのものが地域に知られていない
① 10月~2月末迄では、この制度の利用に関する相談は30件で、その他の相談件数が73件となっている。のべ相談件数と実人員と整理した場合、6ヵ月間の実人員は42人(柏の例:月平均6、7人)であり、千葉なども概ね同傾向である。
② 4月~6月末でも各センターとも、ちば34人、まつど22人、かしわ16人(全体で155人)と月10人程度の相談にとどまっている。
③ 相談内容も、成年後見制度にたいする問い合わせが最も多く65件(42%)で、本事業に関する問い合わせ29件(18.7%)、日常的な金銭管理等が25件(16.1%)と続いてる。
制度に対する問い合わせが多く、しかもサービスの具体化に結びつく内容は金銭管理を除いて少ない。
④ これは制度そのものがほとんど地域に知られていないこと、しかも財産保全が大きな課題となっていることが原因と思われる。制度のPRは、市広報、社協だよりなどで行われた。しかし、このような文字広報主体では、「知ること」さらに権利擁護も含めてサービスの内容を「理解する」ことには遠い。
⑤ そして、広域対応として、カバー人口の多さもきめの細かい対応から離れる要因と思われる。地域でのセンターづくりが課題と思われる。
(2) 契約に結びつかない/この「契約」へのネックはなにか、分析が重要である。
① 契約までの道は、相談 一
専門員による調査 -
県契約締結審査会とかなりの複雑な手続きを要する。
② この制度を利用できるのは「判断力が低下している」が「利用契約に際してその内容が理解できる能力のある人」とある。しかし、この「理解能力の判定」はどのように行われるのであろうか。本人の意思表示(自己決定)そして、この制度で提供されるサービスが他の制度に委ねることのできない必要性が最終的な決め手になるのだろうか。
③ しかし現実には必要とする人が、本人自ら拒否する場合もある。「自己決定支援」と「擁護」のはざまなわけだが、どう理解してもらえるか「信頼」が決め手になるのだろうか。この「理解」への支えをどうつくるかも重要である。
④ 昨年12月のある日における千葉県内の相談件数は、全相談件数125、制度に関する相談件数75、契約締結(準備含む)4であった。大阪府は、145、104、39、神奈川県では88、44、10だという(聴取)。先行実績のある両地域と同傾向となるか注視した。
⑤ 11年度末では相談人数285、契約了承9、12年4月~6月末迄では155、契約了承6、各センター1、2件の契約数である。
(3) 権利擁護とサービス基盤整備
① この制度では「福祉サービスの利用援助」が中心となる。財産管理では日常的金銭管理、金庫保管などかなり限界のある制度となっている。「福祉サービス」をはじめ「代行」と「代理」権など課題は多い。
② 相談内容は、上記のとおり「制度にかんする問い合わせ」と「日常的な金銭管理」25(16.1%)、財産保全11(7%)が大半を占めており、「今後の生活」が10(6.5%)、福祉サービスの手続きは4(2.6%)と少なく、苦情相談は虐待等の相談が1件あるほか0であり、オンブズ機能には遠い。
③ 権利擁護を文字どおり機能させるためには、その周辺の生活支援サービスの充実がが必要である。「他の制度に委ねることができない」と「委ねるべき制度が欠けている」ことは同義ではない。
④ また、サービスの変更申立てなど本制度が本人の意思を援助するような有効性が必要である。
(4) ニーズの把握と地域ネットワークづくり
① それだけにニーズの把握が重要である。県全体の統計だが、民生委員、支援センター、福祉施設、福祉事務所、医療機関からの問い合わせが多い。「連絡会議」等を通じて、地域的なネットワークづくりの形成へつながる可能性はある。
しかし、このネットワークづくりの主役は、基幹社協ではなく、単位社協或いは地区社協とすべきだろう(またはNPOか)。
(5) ヘルパーとの連携
① ただ、2月の調査時点ではヘルパーの問い合わせが皆無であり、4月~6月迄も1にとどまっている。
② 生活支援ではもっとも網の目があり、関わりがあると思われるヘルパーとの連携をどうしていくか検討が重要である。
③ しかし、このことはなにを意味しているのであろうか。介護保険制度のもとで、そして「契約」サービス体系のなかで、ヘルパーやケアマネの働き方・社会的役割の検討が必要であろう。
(6) 法人後見人
① 現在のところ、社協が法人後見人となっているところは存在しない。各市で検討が進められている。法律行為を援助していくためには、「後見人」となることが必要である。判断能力喪失後も引き続き援助が可能である。しかし法人後見人となっていくことを、この事実のなかでどう位置づけていくべきだろうか。県社協という性格と監督人の位置付けが妥当かどうかの検討も必要である。
② むしろ、前述の地域ネットワークやNPOが監督人を担えるのかが課題となる。
10. 今後の取り組み
① 実行委員会は、調査や課題の検討と整理を、現場の担当者、市民、NPO、議員とともに行った。
② その後、市議会での質問や各団体とのやりとりなどを行ってきた。
今後の取り組みとして、さらに課題に迫りつつ、
ア 基幹社協だけでなく、地域での権利擁護センター利用ノートづくり
イ 各団体間の比較と検討
ウ オンブズ機能を重視した機能強化への提言
エ NPOによるセンターづくり
などの協働作業を行いつつ、市民立法としての「権利擁護条例」づくりなどを行っていきたい。
(資料)地域福祉権利擁護事業実施報告書 |