1. 「地産地消を進める会」の創設にあたって
人間は他の生きものと同様に、食べなければ生きることができません。そして子孫を残すこともできなくなります。最近の日本人の食べ方は、飽食といわれるように様々の食材を世界中から集め、その上その廃棄物に悩まされている現状にあります。
こういった食生活への反省から、生きものの本来の姿であった地場主義「地場でとれたものを地場で消費する」運動を1996年7月20日に秋田の地で起こすことにしました。
フード・マイルス(food miles)や食料のグローバリゼーションが食料・農業機関(FAO)の非政府機関(NGO)で再三話題になります。農産物の産地から店頭や食卓までの距離のことですが、遠ければ遠いほど運ぶエネルギー(化石燃料)や使われる防腐剤(化学物質)などが増えてきます。そして商品化され陳列された食料からは生産現場が見えにくいばかりか、農業や農家の窮状を知らない人が増え続けました。そこで、どこで誰がどのようにして作ったのか顔の見える関係(地場主義)が望ましいとされるようになってきました。
会の創設にあたり名称にずいぶん悩みましたが、目的が一番わかりやすい「地産地消を進める会」としました。創設に関わった人々は農家や主婦・公務員・出版業・酒店・有機無農薬宅配グループ・大学関係者と多岐にわたりました。私は秋田県職員労働組合において1990年までに「農業を考える自治研究会」を主催しその成果を発表したのち、自治労傘下の「全国自治体・農ネットワーク」とともにしばらくは政府への政策提言などの諸活動に専念していました。幸い地元で活躍する仲間を得てこの会の準備から立ち上げまでにかかわることができたのもこういった活動背景にささえられてのことでしたが、なかでも強い牽引力となったのは現在の代表幹事である谷口吉光秋田県立大学助教授(生物資源科学部生物環境科学科)です。そして私たちメンバーが強く望んだことはこの会の継続性にあったので、その魅力である「地元でとれるいいものを地元で食べよう」をキャッチフレーズに美味しい地場ものの発掘発見に努めてきました。その運営や交流を図るため、5回を重ねた総会はいずれもこの会独自の「ウタリ方式」と称して議案審議の前に各地の地場ものの賞味賞賛からはじまります。総会会場へ会員が各自持参した地場ものの食べものは単なる空腹を満たすだけでなく、その地域でいつどのようにして採れ、どんな時食卓にどのような調理方法で供されるかなど話題は尽きないのです。また共に飲み共に食べる楽しみは堅苦しい議案審議も和気藹々のものとなり、1年間の会の企画や運営に様々なアイディアが創出します。特に話題になったのは加入にあたっての賛助団体・団体会員のことですが、この会の独立性・固有性を保ち市民・草の根のネットワークを図るためあくまでも個人会員のみとしました。現在は創設時のメンバーの職業にさらにJA職員・流通業(スーパーや市場関係者)・生協・豆腐製造業・酒製造業・医師・栄養士・漁業関係者など110名の会員となりました。
2. 地産地消が施策化される
この地産地消のスピリット(精神)は決して日本でも新しいものではありません。各時代において時の施策者は富国強兵とあわせて怠りなく実践してきた歴史があります。しかし第2次世界大戦後の急速なグローバリゼーションの進化によって日本はかつてない飽食の恩恵に浴し続けています。その結果不幸なことに先進国最下位の食料自給率(40%)となってしまいました。
私は1995年にカナダケベックを会場に開催された国連のFAOが主催する食糧安全保障大会にNGOとして参加する機会をえました。また代表幹事の谷口吉光氏はその6ヵ月後、やはりFAOが主催する東アジア地域会議に日本代表として招聘されました。いずれもFAOが創立50年を期に現在の食料の現況と新しい食料戦略をたてるためといえましようが、この会議は1996年のローマでの「食料サミット」、1999年の「シアトルWTO閣僚会議」の前哨戦となりました。「食料は人権である」と「食料主権」がNGOから提起され、「自国の食料を自国で生産する原則と食料の価格競争や農業破壊をもたらす自由貿易から食料をはずせ」を主張する内容となりました。この世界的潮流の中で日本政府は食料自給率の向上や農業の多面的機能を中心に新たな食料・農業・農村基本法を国民的合意のもと昨年制定しました。また今回の「沖縄サミット」においても食料の自由貿易促進側のケインズグループを代表するアメリカと日欧の主張する貿易問題は平行線をたどったようでした。
秋田県において本年は「21総合発展計画」元年でもあり、日本での穀物自給率第2位の面目をもつ食料基地として「新世紀あきたの農業・農村ビジョン」を策定したところです。4つの理念と7つの政策からなるビジョンの底流には「ちさんちしょうのココロ」が詳細にわたり描かれています。(資料新世紀あきたの農業・農村ビジョンパンフ:参照)この施策化には県知事への要請活動や県議会での発言、そして審議会をはじめ行政分野に関わる多くの会員である仲間によるところがあります。まさに市民運動の政策参加といった様相でしょうか。これからはその施策の具体的実現において点在する会員の中心的活躍が期待されるところです。
3. 地域経済再生のために地産地消の果たす役割
日本は経済大国と言われて久しいのですが、その背景には都市への労働力の集中や地方の過疎化があります。このため農村で生産された農産物の多くは大消費地である都市向けの出荷をめざしてきました。その結果都市市場向けのロットに見合う、経済効果のともなう農産物のみ単品的に栽培される傾向が顕著になりました。地域には代々伝えられてきた農法があり、遺伝資源があり、食文化と食生活があったのですが、その生産され流通し消費される場面が年々縮小されてきました。くわえて“M”などの外資系のハンバーグチェーン店や、“L”や“S”のような中央資本のコンビニが地方の隅々まで進出してくるにいたっては、食材や加工品は世界中もしくは日本中のどこのものとも品質に差がありません。農家が最寄りのコンビニで昼食を調達する姿さえ見受けられる事態になりました。わずかに残った地域マネーでさえも中央に環流するシステムが浸透し、農家ばかりか商店さえも危機に陥っています。
こういった中で唯一の希望があります。それは農村の女性達が起こした農産物直売所の動きです。地域でとれたものを地域の消費者へ地域の食べ方を伝えていくという動きが10数年前からはじまり現在隆盛をきわめているといっても過言ではありません。秋田県においては販売額では16億4千万円に達しようとしています。(148ヵ所・農産物直売所153農村女性起業(加工・製造)平成11年実績)この動きの底辺には、身近なものは安心・安全、そして安いという消費者ニーズがあり、一方には生産者の市場出荷ではコストがかかるばかりで利益が少ないといった実状や米価の下落などが背景にあります。消費者・生産者ともに利害が一致している現状こそ産直や直売の隆盛をもたらしているのでしょうが、果たしてこの利害主義はいつまで続くことができるのでしようか。
新農業基本法議論のなかで多くの要請があった施策は条件不利地域の所得保障(デカップリング)でした。それは中山間地の農林業を再建し、地域経済の発展を期待したものです。この理念こそ都市住民が農産物や農村環境などを経済性のみで判断することなく、農村・農業の必要性を認識し生産者・農林漁業者を励まし支え合う思想でした。「地産地消」についても身近で頑張っている生産者を励まし、お互い作ったものを食べ合うこと、地元の食べものを自信と誇りをもってつたえていくことは、地域の価値の認識すなわち教育であり地域の文化の伝承であるわけです。真の豊かさには経済性は(カネに換算できる)無視できないまでも、栄養にもとづく健康と長寿であり、また自国や地域の文化に誇りのもてる教育と知恵と友愛が生かされる地域共同体の生活と思います。そのために利害を越えた消費者・生産者の活動として「地産地消を進める会」の運動をすすめていきたいと思います。そしてその普及のために「地産地消を進める会」の活動概要を次に紹介します。
「地産地消を進める会」の概要
1) 設立趣旨(全文)
世界中から食べたいものがいつでも好きなだけ安く買える ― この魅力的な言葉に消費者が酔っているうちに、日本の農産物、水産物、林産物は輸入品に負け、次々に姿を消していきました。
豊かな食卓 ― こんな華やかな言葉とは裏腹に、食卓には食品添加物づけの食品やまがい物があふれています。
私たちは、こんな食生活はまちがっているし、また決して長続きするものではないと考えます。
しかし、これまで食生活と農業を変える希望をになってきた有機農業運動や産直運動は、今や輸入有機農産物との競争にさらされ、大きな転機を迎えています。「安全な食べもの」や「顔の見える信頼関係」といういままでの理念だけでは乗り切れない現実が迫っています。
こうしたなかで、私たちは「地場生産地場消費」という言葉をもう一度見直し、地域の自然環境と生産者の生活を守る食生活を作り出す手がかりにしようと思います。きたるべき21世紀は食料不足と環境危機の時代だといわれています。その時の食生活は地産地消を基本としたものになるはずです。
地産地消は食生活の基本となる考え方です。
「地産地消をすすめる会」は以上の認識に基づいて、地域の資源、地域の生産者、地域の価値観を活かし、環境を守り、健康を高める食べものを、地域の中で作り、分かち合い、食べていくための、生産・流通・消費の仕組み作りを考え、実現していくための会です。 |
2) 会の方針(規約より)
第2条(目的)
この会は地場生産地場消費に基づく食べものの生産、流通、消費の仕組みを研究し、これを実現するための方法を探ることを目的とする。
第3条(活動)
この会は目的を達成するために次の活動を行う。
1. 地場生産地場消費に基づく食生活に関する研究
2. 地場生産地場消費に基づく食生活を実現するための実験
3. 会員の経験の交流
4. 通信の発行
5. 上記の目的のために必要な活動
3) 「地産地消をすすめる会」の創設から今日までの活動内容
事業内容
① 1996年7月20日 (秋田市)……設立総会
② 1997年10月25日 (秋田市)……遺伝子組み換え食品をめぐる講演会とシンポジウム
③ 1999年10月23日 (大潟村)……食べよう秋田の豆腐と大豆
④ 2000年2月26日 (平鹿町)……こだわりの日本酒の未来
⑤ 2000年6月24~25日 (岩手県)……身土不二いわてとの交流会
⑥ 2000年8月19日 (秋田市)……安全な食料を国内でつくろう
(日本子孫基金:大江正章・神山美智子・小若順一)
⑦ 2000年予定
……地産地消の食材でつくるサマーディナー
4) 「地産地消通信」の発行
① 創刊号(1996年9月20日発行)・B5 8ページ
「地場生産地場消費 ― のココロを語ろう」
● 地産地消をすすめる会は何をめざすのか
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(代表幹事:大学教職員 谷口 吉光)
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● 土地に生きる先人の知恵に教えられて生きたいものだ
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(会 員:出版業 鐙 啓記)
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● 皆さんお元気ですか
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(会 員:主 婦 谷口 篤子)
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● 無 題
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(会 員:大潟村有機農業研究会
早津勧一郎・祐子、
本荘市有機栽培農家 岩出 健市、
主 婦 藤井美夕紀)
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② 2号(1997年10月20日発行)
● 特 集
:遺伝子組み換え食品シンポジウム
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谷口 吉光
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● ニュース
:有機米ガイドライン施行「大きく変わる有機米の表示と流通」
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谷口 吉光
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● 新 連 載
:おらほのうまいもの「男鹿のアジ」
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船木 晶子
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● 会員紹介:実るほど頭を垂れる稲穂かな
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嶋森 悦子
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家業のこれからを考えて
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石塚さえ子
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私の関心事も変化してきた
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長谷川敦子
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思いが天に通じ
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工藤 忠
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その土地でしか作れない野菜が食べたい
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鐙 啓記
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● 情報の広場:食べもの、農薬、環境、地域に関わる情報を紹介していきます
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③ 3号(1998年1月17日発行)
● 報 告 :遺伝子組み換え食品シンポジウム
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● リレーエッセイ:おらほのうまいもの「地粉のクッキー」
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弘中 敦子
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● 会員紹介 :共にいきてゆけるルールを
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暮らしをつくるたまごの会
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自己紹介
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安田 一政
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● 情報の広場
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④ 4号(1998年6月25日発行)
● 報
告:遺伝子組み換え大豆を使わない豆腐屋さんのリストづくり(幹事会)
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● 会員紹介:花咲農園宣言
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戸沢 藤彦
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インターネットで地産地消を
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青山 佳子
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⑤ 5号(1998年10月15日発行)
● 報 告:豆腐店アンケートを発送
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谷口 吉光
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● リレーエッセイ:おらほのうまいもの「なっつ」
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山野内キミ子
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● 会員紹介:雲南は“地産地消”と“夢の国”
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高原とみ子
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● 県南で「直売フェスタ」開かれる
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青木 育子
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⑥ 6号(1999年9月15日発行)
● 高まる地産地消への関心
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谷口 吉光
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● 報
告:地元産大豆・非遺伝子組み換え大豆を使った豆腐店のリスト
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● 会員紹介:地元の米を使った地酒造り
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岩渕 一男
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もっと怒りを(アイソトープ研究所誘致反対)
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亀井 慶子
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WTO事前交渉とNGO交流へのお誘い
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長谷川敦子
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⑦ 7号(1999年12月6日発行)
● 特
集:食べよう、秋田の豆腐と大豆
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大豆畑・加工センター見学、試食会、車座討論会
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● 感 想:総会と集会に参加して
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小玉真知子
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地産地消を改めて考える
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弘中 敦子
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● 会員紹介:大人物なのかノーテンキなのか
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佐藤 肇
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地産地消の実践のすすめ
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秋生 光子
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⑧ 8号(2000年6月1日発行)
● 今年度は新しい企画が盛りだくさんです
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谷口 吉光
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● 報 告 :こだわりの酒の未来を考える
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● ニュ ー
ス :地産地消が秋田県の政策に
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● 会 員 紹 介:私と有機農業
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渡辺果樹園
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● 集会の感想:日本酒・地酒ってなんだろう
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弘中 敦子
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