1. ふるさとプロフィール
青森県の八戸市をとりまく岩手県よりの十町村で三戸郡を構成しています。その三戸郡の1つが「ニンニク日本一」で有名な田子(たっこ)町です。
田子町は、青森県の最南端に位置し、山間部で冬は寒く、夏はヤマセが襲うというような厳しい気候風土のまちです。その厳しい自然条件を田子町の先人たちが自らの知恵と汗とで克服し、子々孫々のために、美しい大自然を大切にするとともに、新しい先進的なまちづくりをたゆまなく進めて、今日の住みよい田子町を私たちに与えてくれました。
四角岳のブナの森、放牧牛の並ぶ田子高原、大黒森の山ツツジ、森から湧き出る名水、原生林に包まれた「みろくの滝」、清流にすむイワナ、森に生息するさまぎまな動物たち、豊かな山菜やきのこ、田園に舞うホタル、こんなふるさとの息づかいが聞こえてきます。
また、いまもしっかりと受け継がれている田子神楽・石亀神楽、集落の盆踊りで流れる「ナニャドヤラ」、継承される農村伝統工芸、定着した「にんにくとべごまつり」など生き生きとした人々の息づかいも聞こえてきます。
田子町は、縄文人たちの活躍の跡が刻まれているまちでもあります。まちのなかのいたるところで縄文文化跡が発見されています。ところで、「たっこ」という地名は、アイヌ語のタプコプ(小高い丘)に由来しているともいわれ、縄文時代からタプコピア(理想郷)を築いていたのかもしれません。
田子町は、岩手県・秋田県の両県に接する県境のまちで、国立公園である十和田湖の近いところに位置しています。昔から県境のまちの特徴を活かし、また太平洋と日本海を結ぶ鹿角街道の要衝の地であったことから交流活動が盛んに行われ、内陸部のまちでありながら開かれた地域性をつくりあげてきました。
田子町は、起伏に富んだ農山村のまちですが、昔からその地形を巧みに利用して、土づくりを基本とした耕種農業、高原を利用した畜産、自然の恵みを活かした林業など各産業が盛んです。
米、にんにく、トマト、きゅうり、大根、葉たばこ、肉牛、酪農、きのこなど、さまざまなものが生産され、にんにく日本一の名声をはじめとし、有機低農薬米「ゆきこ」や黒毛和種「田子牛」などそれらの品質は高く評価されています。
とりわけ、ブランドイメージ日本一の田子産「にんにく」の生産と販売普及、「にんにこちやん」・「ニンニクラーメン」などのにんにく製品の製造販売に力を注いでいます。
2. 田子町の現況
(1) 平成12年3月末現在の田子町の人口は以下の通りです。
町の人口 7,866人 男 3,828人 女 4,038人
(平成7年国勢調査人口 7,681人)
(2) 平成12年3月末現在の田子町の世帯数は以下の通りです。
世帯数 2,335世帯
(平成7年国勢調査世帯数 2,265世帯)
(3) 田子町の簡単な沿革を紹介します。
① 西暦1191年(鎌倉時代初期)南部氏が入部。
② 大区小区の制度が敷かれ、明治6年田子は第8大区第6小区となる。その頃、田子は田子村外8ヵ村(相米、原、石亀、茂市、山ロ、関、夏坂、遠瀬)と称されていた。
③ 明治22年市制・町村制が敷かれ、田子村と上郷村が生まれた。
④ 昭和3年11月田子村が田子町となった。
⑤ 昭和30年3月田子町と上郷村が合併となる。
⑥ 昭和52年1月町民憲章制定。
⑦ 昭和61年3月第3次総合計画策定(目標年度平成7年度)。
⑧ 平成8年3月第4次総合計画策定(目標年度西暦2005年度)作成し、現在に至る。
(4) 田子町の地勢、気候等は以下の通りです。
① 総面積は242.10km2、東西19.6㎞、南北17.0㎞の扇型となっています。
② 役場所在地の位置は、東経141度9分、北緯40度20分となっています。
③ 町の西部一帯に山岳が連なっていて、そこから源を発する種子川、相米川、熊原川がまちを南北に四分する形で東へ向かって流れています。これらの流域に沿った平地に水田が広がり、集落が点在し、その扇状の要の位置に市街地が形成されています。
④ 総面積の79%が林野で、しかもそのうちの半数以上が国有林で占められています。山地中の比較的平坦なところは、牧野として放牧に重要な立地を提供し、古くから夏山冬里方式の畜産が定着しています。また、集落上の台地は、水田・畑・民有林として利用されています。
⑤ 気候は、町域が分水嶺から東へ広がっているため、太平洋岸式の気候で内陸性の気候となっています。しかし、西部の山地は、多雨多雪の日本海岸式山地気候に近いといえます。平均気温、降水量とも県内では恵まれた地域といえますが、ヤマセの出現率がやや高いことから、その農作物への影響が心配されるところです。
⑥ 交通条件は、町を東西に走る国道104号線により、車でJR三戸駅まで14㎞、また八戸市までは40㎞で結ばれています。
(5) 田子町の地域産業の現況は以下の通りです。
① 田子町の産業について、就業人口でみると、平成7年(1995)の国勢調査で4,355人となっています。その就業人口を産業別構成比であらわすと第1次産業が40.5%、第2次産業が25.2%、第3次産業が34.3%となっています。これは、平成2年(1990)の調査と比較すると、第1次産業が4.5%の減、第2次産業で2.5%増、第3次産業では2.1%の増となっています。
② 生産額で平成4年度で第1次産業が43億2千9百万円、第2次産業が43億8千9百万円、第3次産業が63億3千百万円となっており、第2次産業の生産額が第1次産業を上回っています。
3. にんにくの生産と新商品の開発
(1) 田子町第3次総合計画
昭和60年度に第3次田子町総合計画書「タプコピア」が策定されました。この「タプコピア」を中心に田子町の新しいまちづくりの幕開けとなりました。
また同じ年に、町とにんにくシンポジウム実行委員会が主催した全国的規模の手づくり型の地域おこしイベント「にんにくシンポジウム」が農業者トレーニングセンターで開催され、各方面から注目を浴びました。
第3次総合計画の策定では、行政施策の基本をハード重視からソフト重視へ移行し、心がかよいあうぬくもりのある地域社会をつくるための計画とし、その基本理念は、夢と希望に満ちたふるさと(ファイン・タプコピア)の創造にありました。人づくり・組織づくり・地域づくりがアクションプログラム(行動指針)となり、「タプコプふるさと村をつくる」、「加工産業をおこす」が、シンボル事業として掲げられました。その中心がにんにくの生産振興とにんにく加工産業をおこすことにありました。
そして、新街区整備事業、タプコプ創遊村の建設、ガーリックセンターの建設、タプコピアンプラザの整備などふるさと創生事業をはじめとする地域単独事業として着々と実施されてきました。また、基盤整備では、農林道の整備やほ場整備が進み、畜産では黒毛和種の「田子牛」がにんにくとともにまちの特産に成長しています。
(2) 田子町ガーリックセンター
① 目的
田子町ガーリックセンターは、日本一のにんにく生産地としての田子町の総合的なにんにく振興拠点施設であり、田子にんにくに関する様々の情報提供による人材育成や交流活動さらには、にんにくの町「田子」のブランドを一層確固なものとするために整備されました。
② 事業費及び規模
田子町ガーリックセンターは、事業主体を田子町とし、管理を平成5年4月に設立された財団法人田子町にんにく国際交流協会が行うことで、事業費1億3百万円の予算で木造2階建ての490.37㎡の広さをもって平成5年にオープンしました。これは、平成3年度農業農村活性化農業構造改善事業として事業費の半額が国庫補助金として交付されています。
③ 利用計画
田子町ガーリックセンターは、にんにくに係わる国内及び世界の加工品等を常時展示し、一般来館者へ情報提供します。また、町のにんにくによる国際交流の情報や、各種の資料の展示紹介等日本一のにんにくの産地としてそのあらゆる情報を発信し、総合的なにんにく振興の拠点とする計画となっています。
にんにく料理に係わる加工実習室や講習・交流活動の場としての交流室の他、国際交流、むらづくり活動等(タプコプ町民塾活動他)の場としてにんにくによる町活性化の拠点施設として活用しています。
④ 効果
田子町は、にんにくの町というイメージが浸透し、国際交流やイベント等積極的に参加する等地域住民に自信と誇りが生まれ、町の活性化につながっています。
また、にんにく加工品等の展示や情報提供するなかで、新たなにんにく加工に取り組み、普及・PRしようとする動きが生まれてきました。
(3) 田子町における「にんにく」への取り組みの歩み
① 昭和33年、JA青年部により種子20a分導入。
② 昭和44年、67名で生産部会を設立。
③ 昭和44年、生産農家67戸、栽培面積3ha、出荷量3t。
④ 昭和50年、生産農家282戸、栽培面積45ha、出荷量263t。
⑤ 昭和55年、生産農家715戸、栽培面積160ha、単収10a当たり940㎏、生産量1,500t、出荷量1,085t。この年、大冷害。強制乾燥始まる。
⑥ 昭和60年、生産農家696戸、栽培面積197ha、単収1,060㎏、生産量2,090t、出荷量1,900t。この年、第1回「にんにくシンポジウム」開催。
⑦ 昭和61年、「にんにくとべごまつり」スタート。
⑧ 昭和62年、JA野菜販売高10億円越える。
⑨ 昭和63年、にんにくが縁となり、ギルロイ市と姉妹都市締結。
⑩ 平成元年、生産農家583戸、栽培面積230ha、単収1,120㎏、生産量2,580t、出荷量1,674t。この年、にんにく加工企業進出。第2回「にんにくシンポジウム」開催。
⑪ 平成3年、生産農家563戸、栽培面積271ha、単収1,190㎏、生産量3,230t、出荷量2,030t。この年、にんにく出荷量ピークとなる。
⑫ 平成4年、にんにく交流が発展し、モンテチェリ市と姉妹都市締結。
⑬ 平成5年、生産農家493戸、栽培面積275ha、単収940㎏、生産量2,590t、出荷量1,580t。この年、大冷害により、水稲皆無作。「ガーリックセンター」オープン。中国産にんにくの輸入量急増し、市場単価が暴落する。
⑭ 平成7年、生産農家362戸、栽培面積150ha、単収980㎏、生産量1,470t、出荷量928t。この年、パウダー、チップ等のにんにく加工がスタート。
⑮ 平成7年度実績で、生産者362戸、栽培面積120ha、生産量1,045t、販売額6億2,942万円。
⑯ 平成8年度実績で、生産者323戸、栽培面積120ha、生産量534t、販売額3億5,562万円。
(4) にんにく加工食品
品質日本一の田子産のにんにくを使った加工食品の主要なものは以下の通りです。
① 元気シリーズ
● 元気の素(三升漬けにんにく)
● 元気たれ(醤油味焼き肉用たれ、味噌味焼き肉用たれ)
● 元気玉(毎日続けて健康に、黒砂糖にんにく玉と蜂蜜味のにんにく玉)
② にんにこちゃんシリーズ
● ハチミツ漬にんにく(ダイエット食としても最適)
● 梅にんにく(梅の風味と意外にマッチ)
● 黒砂糖漬にんにく(ミネラル分たっぷり)
● あんずにんにく(優しいあんずの甘み)
● しょうゆ漬にんにく(にんにくのうまさがさえる)
● もろみ漬にんにく(あったかご飯にピッタリ)
● みそ漬にんにく(そのままでも食材に)
● 梅酢にんにく(ほんのり梅酢がさわやか)
③ にんにくラーメン
にんにくラーメンは、田子町農協と八戸市の製麺業者が平成7年に共同開発し、ガーリックセンターを運営している財団法人田子町にんにく国際協会が販売しています。
小麦粉の他に田子特産のにんにくパウダーをめんに混ぜたのが、にんにくラーメンの特徴です。にんにくを入れることで、食欲が増進し、スタミナアップにつながり、にんにくの防菌効果によって保存性が高まるということです。
4. にんにくとべごまつり
昭和61年に始まった「にんにくとべごまつり」は、これまで11回を数えています。平成9年10月12日、13日の両日、大福山公園広場をメイン会場とし、例年より約1ヵ月遅れて実施されました。2日間とも天候に恵まれ、バーベキューコーナー、縁日テントは連日、親子連れや若いカップル、グループでにぎわい、約4,500人の人達が県内外から訪れました。
昨年のまつりにも、姉妹都市のアメリカ、ギルロイ市からガーリック・クイーンのクリスティン・ライヤスさんら3人のほか、韓国瑞山市の3人もまつりに参加し、国際色豊かなまつりとなりました。
この「にんにくとべごまつり」には、町から2日間で総勢300人のボランティアが協力し、にんにく100㎏と田子牛5頭の焼き肉のサービスを始め、さまざまなイベントの裏方としてまつりを支えました。期間中のイベントは、ものまね大会、歌謡ショー、にんにく皮むき大会、綱引き大会などです。
5. にんにくを通じた国際交流
「田子町にんにく国際交流協会」がにんにくを通じて行ってきた国際交流が、平成8年度の「先進的な地域国際化推進のまち部門」にて自治大臣表彰を受賞しています。受賞の対象となった活動は以下の4項目です。
(1) 地域産業・経済の活性化の活動
① 田子町ガーリックセンターにおける世界のにんにく製品展示
平成5年度から運営開始したガーリックセンターは、にんにく文化をより掘り下げ、世界ににんにくの町を目指す拠点施設です。建設にあたっては、姉妹都市ギルロイ市の設計者に設計を依頼しました。世界のにんにく文献の整備や加工品の展示、販売等を行っています。
② にんにくラーメンの製造販売
平成7年7月から販売開始した「にんにくラーメン」は、ギルロイ市からとりよせた100種類以上のにんにく加工品を参考にして、日本式の加工品の創出に取り組んで生まれたニンニクラーメンです。スープにではなく、麺の中ににんにくを入れたのは本邦初の製品です。
(2) 教育・スポーツ・文化の活動
① 田子高校生海外派遣
直接異文化にふれ、国際的視野を広げることを目的として県立田子高校生をギルロイ市に毎年7月下旬に派遣しています。平成8年度は、カリフォルニア州立大学での英会話教室、ギルロイ市での高校生との交流、シニアセンター訪問等を行っています。
平成12年度も田子高校の16人がギルロイ市へ研修に行きました。
② ギルロイ高校コーラス部コンサート
姉妹都市締結7周年を記念して、平成元年度、4年度に続き平成7年5月28日に3回目を開催しました。一行が滞在中の運営全てを(財)「田子町にんにく国際交流協会」が中心となり、高校生も含めた町民主導で行っています。
③ コーラス部一行の民間交流
コーラス部一行が田子町に滞在中は、一般家庭にホームステイし、ウェルカムパーティ、コンサート、親善ソフトボール大会等盛りだくさんの交流を行っています。その中には、福祉施設を訪問したいというコーラス部員の希望により平成7年にオープンした高齢者保健福祉支援センター「せせらぎの郷」の見学交流も行いました。
(3) 地域の人材育成
① ギルロイの青年招致
姉妹都市ギルロイ市から国際交流員として平成3年度から青年を採用しています。町の様々な行事への参加、英会話指導、ギルロイ市との緊密な情報交換等を通して、両市町の相互交流の推進を図っています。
(4) その他
① にんにくとべごまつり
「にんにくとべごまつり」は、町の特産品であるにんにくと田子牛(黒毛和種)の販路拡大を目指し、毎年9月に開催される町をあげての一大イベントです。このまつりにギルロイ市で選出されたガーリック・クイーンが毎回訪町し、まつりに花を添えては、大いににぎわいを見せています。
6. 今後の課題
このように田子町は行政と町民が一体となってにんにくを中心にしたまちづくりを進めてきました。昭和44年に始まったにんにくの生産も、生産農家、栽培面積、生産量、出荷量とも順調に伸び続けました。
しかし、生産農家の戸数は昭和60年をピークに減少し続けているのを始め、栽培面積が平成5年、生産量と出荷量も平成3年をピークに減っています。そのため、にんにくの生産量日本一の座も他の自治体に奪われています。
しかし、にんにくの単に生産量日本一というのではなく、とくに質の面で日本一のにんにく生産地となるべく努力してきました。
現在、田子町産業課とJA田子では、にんにく日本一奪回を目指して、生産農家の生産意欲の向上のためのアンケート調査を実施し、病害虫に侵されないウイルスフリーのにんにくの開発、水田減反に伴うにんにく畑への転向促進などを働きかけています。また、政府に対してもにんにくの価格対策として、中国産などの輸入品への対応と価格保持を要請しています。
とりわけ、にんにく生産における大玉生産のための種の品種改良と深耕栽培や連作障害を避けるための水田減反によるにんにく畑作転換の積極奨励を行い、生産農家の自立によるにんにくの大玉生産とゆるぎない日本一のにんにくブランドの実現を目指して公民一体の取り組みを続けています。
しかし、平成8年度から11年度までは、ほとんどこれまでの取り組みの延長線であり、今後は真の意味でのニンニク日本一を質量ともにめざす具体的な生産者と自治体が一体になった取り組みを進め、さらには職員組合としても町づくりを進めることが求められています。 |