奥多野・下仁田型グリーン・ツーリズム手法の研究

群馬県本部/群馬県庁職員労働組合 

 

1. 研究テーマ

 奥多野・下仁田型グリーン・ツーリズム手法の研究

2. 調査・研究目的

 近年日本でも、都市生活者の余暇の過ごし方として、グリーン・ツーリズムに関心が高まってきている。グリーン・ツーリズムとは、農村特に中山間地の緑豊かな自然や美しい景観、郷土芸能農村文化との触れ合い、農作業体験等を通じて農村の人々や農業農村の良さを理解する旅である。
 私どもが担当している地域(藤岡は奥多野、富岡は下仁田南牧)は、このグリーン・ツーリズムを実践するにふさわしい地域であり、これの実現が本地域の活性化につながる可能性は十分にある。
 しかし、現状では農村の施設整備や農業者の理解、関係行政、農業団体等の対応が十分ではなく、都市生活者の要求にあったものになっていない。そこで、ヨーロッパの受け売りではない、群馬のこの地域にふさわしいグリーン・ツーリズムの手法を探り、中山間地域の活性化に役立てたい。

3. 調査・実践研究内容

(1) 背景
  グリーツーリズムの歴史は1970年代以降、特に1980年代に入ってから、フランス(グリーン・ツーリズム)、イギリス(ルーラルツーリズム)、イタリア(アグリツーリズモ)等のヨーロッパ先進諸国に急速に広がった。その背景は農産物の過剰問題、農村地域の環境問題の解決と農村の就業機会の増大、農家所得の向上等につながり、行政面からの強力な支援と農業者の積極的な対応が農村地域の新しいビジネスとして定着した。
  日本でグリーン・ツーリズムが本格的に議論されたのは、1992年に農水省が「新しい食料・農業・農村政策の方向」を発表し、この関連で「グリーン・ツーリズム研究会中間報告」が公表されてからである。
  翌年から農水省によるグリーン・ツーリズム支援対策として「農山漁村でゆとりある休暇を」推進事業や農家民宿の整備法「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」の施行等による環境整備が始まった。
  群馬県では片品村や水上町の民宿が90年代半ば頃から、始めていたようであり、グリーン・ツーリズムを始めた民宿経営者は農家出身者等が多く、既存の施設や技術を活かして取り組めたものと思われる。

(2) 今なぜ奥多野地域(万場町、中里村、上野村)でグリーン・ツーリズムなのか
  奥多野地域は、ご存じの通り山間地であり耕地も少なくかつ急傾斜地が大半であり、基幹産業は農林業であるが、担い手も高齢化し、新規就農者もほとんどない。また交通の面でも国道299号があるが、温泉や名所旧跡等大きな観光資源に乏しく道路整備も遅れ交通量も非常に少ない状況である。町村の過疎化も進み中里村は1,000人以下となってしまった。
  しかし、反面奥深い山間地であり、定住人口も少なく、観光客も少ないことは豊かな自然があることを意味する。また各種書籍(奥多野残照等)で紹介されているように多くの民話や郷土芸能、郷土食等個性的な農林業・農村生活や伝統文化が豊富にある。
  そこで、奥多野地域のこのような状況を踏まえ、グリーン・ツーリズムの調査研究目的の冒頭にあるように、都市住民の要求「農村特に中山間地の緑豊かな自然や美しい景観、郷土芸能農村文化との触れ合い、農作業体験等を通じて農村の人々や農業農村の良さを理解する旅である。」を実現できる可能性が十分あると考えた。

(3) 現地での活動
  グリーン・ツーリズム研究会の現地活動は次のとおりである。第1回活動として7月3日(土)、7月4日(日)、7月10日(土)、7月11日(日)の4日間開催した。上野村川和地区に体験農場を12アール設置し、午前はジャガイモ掘り体験、午後は不二洞探検、ポプリ、ドライフラワー、竹の馬づくり等に分かれ奥多野の一日を体験していただいた。梅雨の時期であったが、7月11日以外は天気もまあまあであり参加者は92名で県内各地からの家族づれが比較的多かった。
  第2回目の企画は、この時のアンケート等を参考にして、11月13日~14日の1泊2日の宿泊方式とし、18名の参加者があった。宿泊施設も民泊、民宿、ホテルに分け、2種目の体験(1日目は記念に残る物作り、2日目は食べる物作り)を組み合わせ、夕方は全員でキビ餅つきと試食、そして分宿し、翌日は中里村恐竜王国秋祭りが開催されており、地場産品の秋の味覚食べ放題に参加して、自由解散とする予定であったが、秋の味覚食べ放題が非常に混雑し、急きょ2日目予定を変更するハプニングも起きたが、何とか一通りの体験を終了することができた。また参加者の多くは県外者であり、宿泊先で独自の農業体験をした方もいたようであり体験者の評判は上々であった。

 先進地調査研究

 
1 課  題 先進地におけるグリーン・ツーリズム実践事例研修と地域定着手法の研究
2 実施期日 平成12年1月25日(火)~26日(水)  1泊2日
3 調査研究場所 長野県飯山市なべくら高原柄山 なべくら高原「森の家」
4 参 加 者 藤岡普及センター 中久木一夫、西形和義、高野美智代
富岡普及センター 清塚泰昭、清水千鶴
5 調査研究の結果

 ☆ネイチャースクール「森の学校」体験講座への参加による調査研究
  ○25日の講座内容……「生粉打ちそば(そば粉100%)」
  ○講    師……市民インストラクターの活用 そば茂店主 小林氏
  ○講師補助……森の家職員 2名
  ○体験用具・材料のセット方法

 ● 用具 長机の上に、卓上コンロ、雪平鍋、木しゃもじ、計量カップ、水差しポット(3組で使用)畳の上に白布を敷き、のし板、麺棒、麺切り包丁、添え木、まな板、バット(1組み毎に)
  ● 材料(3人前) そばのり用そば粉、3組分を1袋にまとめ用意
そば粉400g1組みに1袋

  ○体験の進め方
   ● 2~3人1組で実施
   ● 森の家流 自己紹介をして参加者が仲良くなってから体験を開始する。
   ● 講師の実演を見てから、体験に移る
       体験を進める過程で様々な説明をアドバイスがあった。
   ● 試食・交流(感想)
    ※● 多少説明でわかりにくい面もあったが、組み毎に楽しく体験できた。
      ● 実習会場は2階の大広間風の和室で、2階には水道も流しも無い。そばを茹でる調理場は1階にあり、狭いため交代でのそば茹で作業となった。手を洗う場所は1階のトイレの水道使用で、食品加工の場合は不都合な面が多いように感じた。

 ☆コテージ宿泊による施設・設備の調査研究

○暖   房

……

暖房費として1人当たり315円負担。洋室は暖炉とファンヒーター、ホットカーペットを併用。和室は大型の堀コタツ

○ キ ッチン 

……

電気炊飯器、電気ポット、冷蔵庫、流し台(給湯式)、調理台、食器、鍋、フライパン、まな板、包丁、箸、布巾等が備えつけられている。食材を購入または、食材を持ち込めば自炊が可能。お茶の葉等はセットされてない。

○ごみの処理

……

1棟当たりごみ袋代105円を負担。ビン・缶類、紙類等燃えるごみ、生ごみ、ビニール等不燃物の4種類に分別。(ごみ箱・袋で分ける)

○寝 室

……

2階のロフトの部分が寝室となっている。

○寝 具

……

敷き布団、羽毛掛け布団、毛布、枕、シーツ2枚(1枚は掛け布団の下に、もう1枚は敷き布団の上に使用)。洋室の棟は利用人員により、ソファーベットにベットパットを敷き使用。

○雪かき

……

コテージ毎に宿泊者が行う。玄関に用具が備え付けてある。

○コテージの掃除

……

備え付けの掃除機利用。

○風呂は無し、シャワールーム有り

  ※● コテージに移動する前に、森の家職員より、使用するコテージ名、寝具の利用方法、ごみの処理方法等の説明があった。職員によるコテージまでの案内誘導はない。建物の1棟貸しで、コテージに入ってしまえば、そこは借りた人の自由な空間となる。借りた人の全くの自主運営となる。1泊だけであったからかもしれないが、コテージ内での生活は特に不自由は感じられなかった。(さすがに冬はシャワールームに暖房が欲しいと感じたが)
    ● 通りの雪は職員が圧雪車で処理をしてくれるが、コテージ玄関周辺の雪かきは宿泊者が行う。雪かき体験もでき、飯山のあるがままの自然を楽しめた。
    ● 職員1名がターミナルハウスに宿泊。今回の宿泊体験で、グリーン・ツーリズムには必要以上のサービスは不要であることがよく理解できた。

 ☆朝食自炊体験による食材と調理器具等の調査研究

○食  材 …… 白米、紫米(両方で1人当たり1合)、即席みそ汁に具としてネギ、ふ、カットワカメ、生卵、塩サケ切り身、カップ入り納豆、味付け海苔、野沢菜佃煮、漬け物(野沢菜漬け、たくわん)
○調 味 料 …… しょうゆ、ソース、油、塩
  ※● 紫米は「みゆきの紫米」として飯山市の特産品、優良土産品として扱われている。
       主食のご飯は紫米を混ぜたご飯であった。また、野沢菜の漬け物・佃煮も利用されており、食材の中に長野の味、飯山の味、特色が生かされていた。
       特に、紫米のご飯は印象的に残るもので、上手な食材提供ありかたであると感じた。

 ☆研修会「飯山市と森の家のグリーン・ツーリズムの取り組みについて」
    講師 森の家 木村支配人
   ● 飯山市……人口2万7千人、中山間地域、基幹産業は農業(キノコ、アスパラ、米)
   ● 冬場は出稼ぎが多かったが、昭和20年代に家族離散状態を解消する手段として、観光開発、特にスキーに力をいれた。民宿、ペンション、ホテルの開業。
        スキー客は平成2~3年をピークに現在は半減している。
   ● グリーンツーリズムの芽生え……昭和50年代、飯山みゆき農協が、都会への野菜のダイレクト販売を実施。観光やスキーではなく、都会の人に田舎体験・農業にふれてもらうことを発案。生協や労働組合連合会に働きかけを行った。
   ● 森の家……国のグリーン・ツーリズム事業を利用。市が90%、商工会・観光協会・JAで10%出資。市より運営委託をされている財団法人である。敷地面積6ha、3年前に4億6千万円をかけて出来た。年間3万人の入り込み客がある。
   ● 職 員……地元の人では地元の良さがわからない。地元のマイナスイメージを変えるため5人全員を地元以外から採用した。
   ● コテージ宿泊でベットのみ提供(風呂無し、シャワーのみ)。自炊にした理由は地元の民宿、ペンション等との競合を防ぐためである。食事付きが良ければ民宿やペンションへ、温泉(風呂)付きが良ければ旅館・ホテルを利用してもらう。
   ● 体験について……あくまでも、地元住民に参加してもらえる内容、料金設定をおこなっている。「森の学校」という名称で地元向け体験計画を組み、新聞折り込みをしている。
   ● 市民インストラクター制度……現在130人。半日当3,000円、全日当6,000円、交通費、保険加入無し。
   ● PRの方法
     地元は新聞折り込み。その他コテージ宿泊者へのダイレクトメール、新聞、テレビ、雑誌への売り込み、広報の利用。
   ● 森の家の運営には年間7,000万円の経費が必要となっている。職員(指導員)に対しては、体験受入に要した、準備時間、準備時の自動車使用の有無等の原価計算を、その都度行うよう指導している。職員一人ひとりが経営者的感覚を身につけるよう、また、いづれは森の家を巣立って、独立出来るよう指導している。
   ● 現在はJAの自然体験教室でも修学旅行生の参加を受入ている。
   ● 飯山市なべくら山のブナ林に最近ツアー等の観光客が入るようになり、山林の保護が必要になっている。「飯山ブナの森クラブ」を発足。官民一体で、百年後のなべくら山が良い状態で残るよう検討を始めた。
   ● 今後は、加工施設と体験施設の設置。新規就農者のための宿舎の設置等も検討していきたい。
  ※● 地元の民宿・旅館業との競合を避け共存共栄をねらい、食事・バス無しのコテージとしたことや、森の学校の講座内容・料金を地元向けに設定している事など、地元第一の考え方が大変参考になった。
    ● 市民インストラクター制も、森の家のグリーン・ツーリズムの取り組みに対して、理解と愛着を持ちやすく、また、様々なジャンルの体験メニューの設定も参考になった。
    ● PRの方法についても、地元には森の学校のチラシを新聞折り込みで配布。また、マスコミ等を上手に利用するとともに、足と顔で稼ぐ営業活動など、大変参考になった。
    ● グリーン・ツーリズムを地域に定着させる大切な点は、体験者としての参加やインストラクターの立場で指導者としての参加等々、様々であっても、地域住民皆が参加でき、理解し認めあう活動としていることが重要であると感じた。

4. 現状の課題及び解決策

 手探りのなかで、夏と秋にグリーン・ツーリズムを実践し、冬には先進地に学び、関係者や会員ともに、何か手応を感じた1年であったように思う。
 しかし、まだやっと糸口をつかんだ程度であり、多くの課題があり、次年度以降一歩ずつ解決し、本地域にふさわしいグリーン・ツーリズムを推進したい。以下は当面の課題と解決策を述べる。

当面(現状)の課題

解  決  策

1 グリーン・ツーリズムの意義や実践することの必要性について、行政当事者特に首長や責任者の理解不足が甚だしく、町村行政の主体的な動きが乏しいため、行政当局者並びに地位住民への積極的な働きかけを行う。

1 グリーン・ツーリズムの成果を出し、この取り組みが山間地の振興に必要欠くべからざることを示しかつ、大いに宣伝をする。

2 グリーン・ツーリズムの情報発信の方法はパブリシテイが中心であり、不特定の対象者のため、事業推進の安定性を欠きがちであった。そこで、この取り組みを理解し、供に活動できる目的集団(生協、くらしの会等)や観光業界(Aコープ観光等)との連携による事業の安定推進。

2 県生協、姉妹都市、くらしの会、Aコープ観光等と企画の段階で密な連携により、効果的な宣伝と参加者の意向を反映したグリーン・ツーリズムの推進を図る。

3 グリーン・ツーリズム基礎的条件作りの推進。特に、事業内容を充実させるためには体験指導者(インストラクター等)の確保と充実、並びにその体制整備の推進。

3 地域内には野草に詳しい人、キノコ採り名人、魚取り名人、郷土料理の達人など多彩な人材が埋もれているはずであり、これらの人々を発掘して役割を与えることで、グリーン・ツーリズム人材面の充実を図る。

4 基礎的条件作りの一つであるグリーン・ツーリズムの各種体験ができる核施設の設置推進。

4 現状では既存の公的な施設を体験内容に応じて借用しており、内容によっては不適切な場合もあった。
  活動の拠点ができることで、活動の運営や事務処理の一体化が図れ、関係者の密な連携、情報発信等多様なかたちで役立つ。当面は市町村担当者等と連携して、国の補助事業を検討してみる。

おわりに

 グリーン・ツーリズムの先進地は、地域の個性を生かして、行政等関係機関と実践者が十分な連携を図り、地道な努力を積み重ね成功に導いている事例が多い。特に、「森の家」の場合は、木村支配人の指導力と情熱が地域を動かしており、組織運営なり地域の活性化には良きリーダーの存在は欠かせないことを痛感した。また積極的な行政の後押しもありこの点も重要である。奥多野、下仁田地域においてもこの点を踏まえて本地域にふさわしいグリーン・ツーリズムを推進したい。