はじめに
本年5月、通常国会(第147回国会)において、都市計画法がおよそ30年ぶりに大改正され、それにともなって建築基準法も改正された。現行の都市計画法は1968年(昭和43年)に制定されたもので、この間にもその時々の状況の変化に対応して改正がされてきたが、今回は都市計画制度全般にわたって見なおしが行われたものである。
今回の改正は順次述べるように、規制緩和と規制強化の両面があり、したがってその評価も分かれるが、改正法批判だけに終始するよりは、市区町村のまちづくりにどのように生かしていくか、分権時代のまちづくりにどのように対応していくべきかが大切だと考えている。
これはそのような立場からのレポートであるが、まったく個人的な意見ではなく、市民活動法人・東京ランポの一員としての活動や、市民がつくる政治調査会(市民政調)に参加して行った「国会の円卓会議」(市民政調が主催し、国会議員がコーディネーターとなって省庁と意見交換を行う)などを踏まえたものであることをお断りしておきたい。
1. 地方分権と都市計画法改正の背景
まずはじめに、ここ10年ほどの都市計画法の改正を簡単にたどっておきたい。その流れは基本的には地方分権に沿ったものということができる。
1989年 |
立体道路制度創設(道路法等一部改正)にともなう改正 |
1990年 |
地区計画等として住宅地高度利用地区計画の追加にともなう改正 |
1991年 |
生産緑地法一部改正にともなう改正 |
1992年 |
用途地区の8種類から12種類への変更、市町村マスタープラン創設などにともなう改正 |
1993年 |
中核都市制度の創設(地方自治法一部改正)にともなう改正 |
1996年 |
沿道整備計画を沿道整備地区計画に改称することにともなう改正 |
1997年 |
地区計画等として防災街区整備地区、および高層住宅誘導地区を追加することにともなう改正 |
1998年 |
特別用途地区の種類を具体的都市計画の中で定めることとする改正 |
1999年 |
地方分権一括法にともなう改正 |
地方分権一括法にともなう改正で特筆されるのは、都道府県都市計画地方審議会を都道府県都市計画審議会に改称し、市町村都市計画審議会を創設したことである。各地の市区町村は本年3月議会までに都市計画審議会設置にともなう条例を制定または改正した。市民活動法人・東京ランポの調査によれば、東京地域、23区27市においては1区1市を例外として、条例の改正が行われた。その条例も、多くは政令の条項に沿ったものであったが、中には委員公募、公聴会の規定など、地方分権にふさわしい条例改正を行ったところもあった。
さて、今回の大改正の背景として都市計画中央審議会はその答申の中で、次のように述べていた。
<都市計画中央審議会第2次答申から>
○ 現行都市計画法制定後30年を経過し、少子高齢化、モータリゼーションの進展等、都市をめぐる社会経済環境は大きく変化……「安定・成熟した都市型社会」の到来
○ 地方公共団体が主体となって、地域特性に応じた都市の整備と環境の保全に取り組み得るよう、都市計画制度を見直し、再構成する必要。
「地方公共団体が主体となる都市計画制度の見直し」が行われたのかどうかが、すなわち地方分権の時代にふさわしい都市計画制度となったのかどうかが、このレポートの一番のポイントである。
2. これまでの都市計画制度の課題と都市計画法・建築基準法改正の論点
都市計画中央審議会は、「現行都市計画制度」の課題を次のように指摘していた(都市計画中央審議会第2次答申から)。
① 目指すべき都市像の明確化
② 都市計画の根幹をなす線引き制度およびそれを支える開発許可制度の都市型社会に対応した見直し
③ 既成市街地の土地の有効高度利用
④ 自然的環境や景観の保全・創出など質の高い都市環境の確保
⑤ 都市計画区域外における開発行為および建築行為の増加への対応
⑥ 都市計画決定における透明性および地域の実情に応じた柔軟性の確保
実際の法改正は、中央審議会答申どおりに行われたとはいい難い。上記の6点から評価すれば次のようにいうことができる。
(1) ①の「目指すべき都市像の明確化」として答申は、都道府県全域を対象としたマスタープラン創設を目指した。しかし反論が多く、実際には都市計画区域のマスタープランとなった。
(2) ②③⑤の「線引き制度、開発許可制度の見直し」「規制市街地の高度有効利用」「都市計画区域外における開発行為、建築行為増加への対応」は、条例制定による自治体権限の拡大はあるものの、規制緩和と規制強化の両面があり、とりわけ規制緩和に対する批判が強い。
(3) ④の「自然的環境や景観の保全」は都市計画基準に「自然的環境の整備又は保全への配慮」が追加されたことは評価できるものの、「緑地などの地方公共団体による買取りなどの財源措置や、関連税制のあり方」などの総合的な取り組みは先送りされた。
(4) ⑥は「都市計画手続を条例により付加できる」制度など、新たな制度が導入されることになった。自治体の取り組み如何ではあるが評価できる。
すでにこれまで、規制緩和と規制強化の両面があることを述べてきた。今回の大改正に対する批判は、この規制緩和をとらえたものである。そこで、危惧される課題を列挙しておきたい。
● 都市計画区域のマスタープラン……関係市町村の意向が十分反映されるか否か。自由度の高い市町村マスタープランの枠組みが維持できるかどうか。
● 市街化区域と調整区域の区域区分(線引き)の都道府県の選択性……線引きをなくすことで開発圧力が防げなくなるのではないか。
● 特例容積率適用区域制度の創設……土地の高度利用を促進する制度であり、最近の主要駅周辺のマンション建設ラッシュなどを考えると、規制緩和の最たるものになる。
● 隣地側に壁面線の指定等がある建築物についての建ぺい率の緩和……密集市街地を想定したものとはいえ、適用は全地域になる。また東京の木造密集市街地(木密という)は、過小宅地・行き止り道路・無道路地・高齢化などの問題をかかえており、簡単には整備はすすまない。
● 道路、河川等の都市施設を整備する立体的な範囲の都市計画決定……すでに立体道路の制度があるものの、河川、公園等の区域の地下利用が促進される恐れがある。
● 都市計画区域外における開発行為及び建築行為に対する規制の導入……高速道路インター付近などの無秩序かつ大規模な開発を規制することを目的としているが、逆に開発を促進するおそれもある。
3. 自治体における条例制定の取り組み
さて今回の改正のもう1つの側面は、法改正の多くが自治体の条例に委ねられていることである。改正法をみただけで、次のように9つの条例制定(改正)が考えられる。
● 開発許可の技術基準に関する条例(都市計画法第33条第3項、第5項)
* 地方公共団体(指定都市等および事務処理市町村以外の市町村は、条例を定めようとするときは、あらかじめ都道府県知事と協議し、同意を得なければならない)
● 開発地域において予定される建築物の敷地面積の最低限度に関する条例(都市計画法第33条第4項、5項)
* 地方公共団体(同上)
● 市街化区域内に隣接する土地の区域内における一定の開発行為に関する条例(都市計画法第34条第8号の3)
* 都道府県
● 開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められる建築物等に関する条例(都市計画法第34条第8号の4)
* 都道府県
● 風致地区条例(都市計画法第58条第1項)
* 地方公共団体(これまでは都道府県が条例制定が可能となっていた。したがって改正で小規模の風致地区は市町村も条例を制定し、都市計画として決定することが可能となる)
● 特定用途制限地域内における建築物の用途の制限に関する条例(建築基準法第49条の2)
* 地方公共団体
● 日陰条例の改正(建築基準法56条の2)
* 地方公共団体
● 地区計画に関する条例 ― 第3項にもとづく「案の申し出の方法」の追加(都市計画法第16条第2項、第3項)
* 市町村
● 都市計画決定手続を付加する条例(都市計画法第17条の2)
* 都道府県又は市町村(都道府県または市町村が、…条例で必要な規定を定めることを妨げるものではない)
そこで、どのような条例をつくるかが問われることになる。行政当局の力量、市民参加プロセスが問われるとともに、市民サイドからの積極的な提案も必要となるはずである。ここでは次の3点にしぼって、どのような条例が可能かを提起したい(この原稿を書いている時点では政省令が示されていない。したがって、あるいは若干の見こみ違いがあるかも知れない)。
(1) 風致地区条例
これまで風致地区は「広域の見地から決定すべき地域地区」として、すべて都道府県決定となっていた。しかし法改正によって、小規模(おそらく10ha以下)な風致地区は市町村が決定できることになる。現行の都道府県条例は条例準則どおりに策定されているところが多いが、条例そのものは10条程度で比較的簡素なものである。
問題は小規模とはいっても、市街化された地域で新たに指定することは容易ではないことである。また「買取り請求権」の保障がないこと、地区の土地所有者等に対する優遇制度がないことなど、制度自体の問題もかかえている。
今後、市区町村がそれぞれのまちづくりの制度や課題と連携して、市民の合意形成をふまえながら、制度(条例 ― 建築規制の基準値など)運用を行っていくことが期待される。
(2) 地区計画条例
現在も都市計画法第16条の2において、「地区計画等の案の内容となるべき次項の提示方法、住民等の意見の提出方法」について条例を定めることになっている。今回の改正により、この条例に「住民等から市区町村への案の申し出の方法を定める」ことができることとされた。
すなわち、住民・市民の発意で地区計画等(地区計画、住宅地高度利用地区計画、再開発地区計画、防災街区整備地区計画、沿道地区計画、集落地区計画)の策定を求めることができることになった。「申し出の方法」は、「住民全員の合意」も「住民1人の発意」も可能というのが建設省の見解であり、どのような方法をとるかはまさに市区町村の条例に委ねられる。
この条例も、市区町村と、議会や市民の考え方が条例に反映されるのであるから、市区町村のリーダーシップも問われることになろう。
(3) 都市計画決定手続条例
市区町村が自主的に都市計画決定の手続を付加できるとされたことは、個人的にいえば今回の改正で最も評価できるところである。都市計画は、都市計画法の難解さも手伝って、一般の市民にはきわめて難しいと思われている。しかし、市区町村が独自の手続を条例によって定めることによって、まちづくりへの市民理解と合意形成の一助とすることが可能になると考えるからである。
建設省が「市民政調」などに対して示している「付加手続き」は、次のようなものである。
● 法定手続きでは、必要があると認められる場合に開催する公聴会を義務づける。
● 同様に、2週間とされている都市計画案の縦覧期間を1ヵ月にする。
当然それだけでなく、法律や都道府県条例では一定の条件がある「環境アセスメント」をすべての都市計画案に義務づけること、公聴会などで提出された市民の意見に対する応答を義務づけること(現在は概要を都市計画審議会に報告するのみ)など、地域の実態に応じて様々な手続きが考えられる。
おわりに ― 総合的なまちづくり条例を
最後に、今後の課題として「総合的なまちづくり条例」制定の必要性について言及しておきたい。現在、各地で策定されている「まちづくり条例」は、地方自治法に根拠をもつものの、都市計画法や建築基準法の委任を受けたものではないために、開発許可や建築確認には「連動しない」という指摘が建設省等からされている。
そのような限界性を克服するとともに、総合計画や個別計画との総合化、複数の部局にまたがる行政課題の総合化という要請に応える条例の制定が必要である。そのために、今回の条例制定を多用した法改正を活用し、まちづくり条例やまちづくり基本条例におり込んでいくことを検討すべきではないかというのが私の提案である。
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