地方分権時代におけるまちづくりのあり方
~市民と行政のパートナーシップと非営利団体の役割について~

石川県本部/小松市職員組合

 

■はじめに

 バブル崩壊以後右肩あがりの時代は終わり、税収が減り財政は危機的な状況になってきている一方で、地方分権一括法が施行され地方への権限委譲のスタートは、ある意味では自治体間の競争のスタートといえる。例えばアイデアがない自治体は、箱物等のハードを整備したが、後に残ったのは借金だけというところも少なくない。その競争に勝つためには、地方自治体の自立は不可欠であるとともに、利用者側に立った市民主体のまちづくりを進めていくことが重要である。
 ここでは、「地方分権時代におけるまちづくりのあり方」として、「市民主体のまちづくりの進め方」、「まちづくりを進める上での行政のあり方」、さらに「市民と行政の中間に位置する非営利団体(まちづくりNPO等)の役割」について、石川県の事例をふまえて、2、3提案します。

■市民主体のまちづくりの進め方

(1) 地域の宝物探しとワークショップ
  日本全国において、まちづくりで成功している所を見渡すと、長浜、小樽、川越にしろ、新しい物を作るのではなく、その地域にしかない「歴史的資産(地域の宝物)」をうまく保全・改修しているようである。こういった意味で、これからまちづくりを始めようとか、あるいは商店街を活性化しようとか、まちづくり活動の初動期には、その地域にしかない宝物を発見し、その宝物をまちづくりに生かすことが、最初のステップとして大切ではないだろうか。
  そうした宝物探しを行うときによく使われる手法が、ワークショップです。このワークショップとは「あるテーマについて様々な人が技術や知恵を出し合い、グループ作業によりデザイン等の提案を行う方法で、大勢の人が参加し、共同作業によりデザインする方法」【1】である。

(2) まちづくりは小学生から始めよう
  欧米では、まちづくりについて早くから学校の授業で教育を行ってきているが、日本では、子どものころからそういう訓練を受けてきていないため、大人になっていきなりまちづくりを行おうとしても、どうしたらよいかわからず戸惑うのが現実の問題ではないだろうか。今後は、学校教育のカリキュラムとして、まちづくりに関する授業を取り入れることが望まれる。
  石川県では、学校教育とまでは進展していないが、まちづくりのイベントを実施しているので紹介します【2】、【3】。

 
まちづくり大好き人間養成事業

【事業目的】
● 住民参加のまちづくりに向けて、21世紀を担う子どもたちに早い段階から都市計画やまちづくりに関心を持ってもらう。

● 子供たちが、自分たちを取り巻く地域や環境について学び、また問題意識を持ち、まちづくりを身近に体験しながら、各自が地域に貢献できる能力を養う。また、地域と関わるきっかけとなり、地域や環境への愛着を生み、さらには人格形成の場となる。
【実施主体・対象者】
実施主体:石川県都市計画課、関係市都市計画課、(財)いしかわまちづくりセンター
対  象:小・中学生

■まち・再発見フォトラリー(平成9年度から実施)
  各チームごとに使い捨てカメラを片手にまちを歩き、まちの「好きなところ」、「嫌いなところ」を撮影する。この写真を模造紙に張り、コメントを付け加え、また「このまちをこうしたらよくなる」といった絵を描き、まちづくりの提案をする。

■子どもまちづくりフォーラム(平成9年度から実施)
  まち・再発見フォトラリーで作成したポスターをもとに、各チームごとまちづくりの提案を発表する。その他まちづくりの講話として、まちづくりを実践している団体の方から講演をしていただく。

■子どもまちづくり塾(平成11年度から実施)
  小・中学生を対象に、OHPやスライドを用いたまちづくりの授業や道路・河川の現場を見学する。

 

■まちづくりを進める上での行政のあり方

(1) 説明責任と早期の市民参加
  まちづくりを進めていく上でも、行政が市民に対して秘密にしていることが多々あるが、その多くは説明責任の回避である。本来、行政が行うことで住民に知らせていけないことは、個人のプライバシーに関する以外は何もない。むしろ、行政がいま何をしようとしているかを、市民に分かりやすく説明すべきである。
  情報公開もなくまた市民を蔑ろに進められてきた計画が、結果をみれば、「行政に騙された」、「行政不信」などと罵られ、未だに結論もでないまま、平行線をたどっている場合も少なくない。
  市民参加が、計画の段階から行われていたらどうであったか。市民参加は、行政側からみれば、時間も労力も情熱も必要であり、それほど容易なことでない。しかし、平行線をたどり住民への「説得」を続けるほうが、結果として、時間も労力もかかるのではないだろうか。

(2) 市民への支援(お金を出すが、口を出さない)
  行政は、○○補助金、××融資等、市民にお金を出すが、その代わりにそれ以上に口を出す傾向がある。しかし、行政が口を出し過ぎて作った施設で、まちが活性化した事例は今まで聞いたことがない。長浜の㈱黒壁や大分県の湯布院にしろ、民間主導型であり、民間の企画・運営力と行政の資金面での支援(行政はあまり口を挟まず、サイドからサポートする黒子)といったように、活性化する目的に向かって、市民と行政とのパートナーシップが確立されていたから、成功したのであろう。
   行政は、お金を出すが口を出さない、その代わり市民に責任を持たせることが必要ではないだろうか。この「お金を出すが口を出さない」事例として、石川県の成功事例(金沢市の金沢市民芸術村)を紹介します【4】。

 
金沢市民芸術村

 金沢市は、大正末期から昭和初期に建設された煉瓦づくりの倉庫群を改修整備し、市民の新たな芸術創造の場として、平成8年10月に金沢市民芸術村を開設し、オープン以来賑わいを見せている。芸術村は、演劇(ドラマ工房)、音楽(ミュージック工房)、芸術(アート工房)など芸術関連の練習室が3つ、環境に関する活動を支援する場(エコライフ工房)、憩いのためのオープンスペース、そしてレストラン(れんが亭)などから構成される。
 倉庫群の保存・改修だけなら小樽の倉庫群や長浜の黒壁の真似でしかないが、この芸術村は、「自主管理方式」を導入するなど、全国でも例をみない画期的な運営方法をとっていることからも全国の自治体などの視察が絶えない。この施設の管理・運営面においては、次の3つの特徴が挙げられる。

         金沢市民芸術村の外観                     アート工房      

 ① 年間365日24時間可能(「いつでも、気軽に利用可能」)
   これにより、会社帰りや深夜から朝にかけて練習したい人にとっても、充実した練習時間をとることが可能となって
  いる。
 ② 最小限の規則と利用者自身が責任を持って使用してもらうための自主管理方式
   利用者の制作活動における時間の自由、規則の自由を保証するためには、利用者が管理するのが一番であるとの結論で自主管理方式が導入された。当然のことであるが、自由と責任は表裏一体のものである。ただし、芸術村からの約束事は、「火の取り扱いの厳重な注意」と「現形復旧」のみに留め、最大限の自由を保障した。この現形復旧とは、元通り修復して返せば、創作上の都合で柱や床を切っても壁に穴を開けても使用することを可能にした。
 ③ 経済的負担の軽減
   学生や若年層のために利用者の負担を軽減する料金設定を導入した。施設の基本料金は、6時間1,000円(音楽施設2時間300円)であり、1日借りても4,000円でこと足りる。

※「なぜ金沢市は、このような施設を作ることができたのか」という問いに、市民芸術村の細川村長に実際に会って聞きましたところ、金沢市長の理解が大きいと言われた。その金沢市長は、「行政マンは文化に素人なんだから口出しするな。市民に任せろ。」とのコメントでした。

 

■非営利団体による支援

(1) 今後、期待されるまちづくりNPO(【5】)
  まちづくりに対する住民の関与の仕方は、1960年代の反対運動に始まり、70年代の都市計画、開発計画の策定過程への「参加」を経て、「主体的活動」へと変化してきた。そして、住民が主体となって地域社会の生活環境などの改善を図る「まちづくり」を推進する組織が「まちづくりNPO」とよばれるようになった。市民の価値観が多様となった今日では、市民まちづくりは、都市計画の施策としての商店街活性化(中心市街地の活性化)や地域振興でなく、もっと広い意味で、自分たちの住んでいる地域を、いかにプロデュースして、住みよくしていくかといった課題から出発する場合が多い。これは、公平主義・前例主義・縦割り主義の行政やまた利益を追求する企業ではできないさまざまな課題に対して、今後まちづくりNPOの成長が期待される。


※NPO(nonprofit organization)とは、さまざまな非営利活動を行う民間組織であり、株式会社など営利企業とは異なって、収益を上げてもよいが個人に収益を分配しないような組織を意味する。

(2) まちづくりセンターによる支援
  まちづくりセンターとは、市民等の自主的なまちづくり活動に対して、財政的、技術的、人的支援を積極的に展開することを目的としており、行政と市民の間の中間・中立的な立場で、まちづくりをバックアップしている機関であり、専門知識と情報、組織力を持たない市民を支援する組織として期待されている。まちづくりセンターは設立主体により、行政セクターと市民セクターがある。ここでは石川県における行政セクター「財団法人いしかわまちづくりセンター」を紹介します【3】。(市民セクターについては、現在のところ石川県にはない)

 
財団法人いしかわまちづくりセンター

【設立主旨】
 地方分権の進展に伴い、まちづくりを進める上で市町村や地域住民の役割が増大している。このため、住民主体の取り組みに応え、かつ市町村が進める都市計画づくりに対し、住民と行政の中間に入って非営利な立場でまちづくりを支援する機関として、財団法人いしかわまちづくりセンターが平成9年11月に設立された。(事務所は石川県庁に構える)
【主な事業内容】

① まちづくり情報の提供
 ● まちづくりライブラリーの設置(専門図書の貸し出し)
 ● まちづくり専門家の紹介(人材リスト等を保管)

② まちづくりの啓発と指導
 ● まちづくり専門家の派遣(まちづくり団体、市町村等へセンターの費用で現地へまちづくり専門家を派遣)
 ● シンポジウム・講習会の開催(中心市街地活性化、歴史的資産の保存と活用等、最近話題となっているテーマを題材)
 ● 広報誌「まちづくり View」の発行(最近の課題、全国的な動向、先進地等を紹介)
 ● 子供を対象にしたイベントの開催(まちづくり大好き人間養成事業)

③ まちづくり検討業務の受託
 ● 専門的知識を要する調査・計画を市町村等から受託

 

■おわりに

 以上、地方分権時代におけるまちづくりのあり方として、市民の進め方、行政のあり方、市民と行政の中間に位置する非営利団体の役割などについて述べたが、まとめとしてその3者の理想的な相互関係を図に示す。

まちづくり(舞台)図


 この図より、まずまちづくりを進めていく主体は市民で、舞台に例えると主演者である。以前は、行政の目的のために市民は協力するという構図であったが、使うのは市民であるから、まちづくりの主体は市民である。一方行政は、主演者を陰でサポートする黒子役であり、両者はお互いにパートナーとして認識することが必要である。また両者の中間に位置するNPOやまちづくりセンター等は、両者を指導するプロデューサー的立場であるのが理想である。このように市民と行政のパートナーシップの確立とNPO等によるプロデュース(コーディネート)がうまく作用することがまちづくりを進めていく鍵ではないだろうか。
 最後に、地方分権は市民が主役である。このため自治体職員は、国(県)あるいは政治家ではなく、住民に目を向けて、住民に対し説明責任と情報公開を怠らず、ワークショップ等工夫を行いながら住民のニーズを探り出し、その地域に最もふさわしいまちのビジョンをつくり、これを住民と共有することが大切である。このようなことが実行できて、初めて地方分権のまちづくりといえるのではないだろうか。

<参考図書>
【1】三船康道+まちづくりコラボレーション[1997]「まちづくりキーワード事典(市民まちづくり手法P234)」学芸出版社
【2】(財)いしかわまちづくりセンター[1999]「まちづくり View 第6号(特集21世紀を担う子どもたちへのまちづくり学習 P1~P3)」
【3】(財)いしかわまちづくりセンターのホームページ
   http://www.pref.ishikawa.jp/machicen/index.htm
【4】細川紀彦(金沢市民芸術村村長)[1998]「CREATIVE EVENT 1998.2(自由と責任を重視する金沢市民芸術村 P6~P8)」社団法人 日本イベント産業振興協会
【5】山内直人編[1999]「NPOデータブック(まちづくりNPO:住民と行政のパートナーシップ P168~P169)」有斐閣