Ⅰ 高山市の現況
高山市は、岐阜県の北部飛騨地方の中央「高山盆地」に位置し、東に乗鞍、穂高の北アルプス連峰を眺め、西に加賀の白山を望み、中央を南北に流れる宮川をはさんで市街地を形成している。極端な都市化が進まず残されてきた古い町並みが、昭和40年代以降観光地として脚光を浴び、春、秋の高山祭りと共に「日本の心のふるさと」として毎年多くの観光客を迎え入れている。
近代における市街地形成の流れとしては、昭和9年の高山本線の全線開通により宮川と高山本線の間に市街地が拡大され、昭和40年代の国道41号線バイパスの整備、さらに、その周辺における宅地開発等により、更に西側に市街地が発展してきた。
現在、人口は約6万7千人で、世帯数は2万4千世帯である。近年の人口と世帯数の推移を見ると、世帯数の増加率が人口の増加率を上回っており、世帯分離が進み、単身世帯、核家族世帯が増加している。
交通条件としては、東海圏と北陸圏を結ぶJR高山本線、国道41号と、福井、松本を結ぶ国道158号の交差点にある。平成9年には、中部縦貫自動車道の一部である安房トンネルが開通し、長野県と岐阜県との通行が通年可能となり、主に首都圏からの車両の流入が増加している。
図1
Ⅱ 中心市街地の現状と課題
高山市の中心市街地は、図1のように、宮川の東側に位置する古い町並みから駅前にかけての観光及び個人商店街を中心とした地区と、交通網の整備と共に市街化が進んだ高山駅周辺地区とを合わせた地区といえる。その現状と課題は、以下のとおりである。
1. 人ロ
① 居住人口
市全体の人口は、平成元年4月1日現在の64,658人(20,524世帯)から、平成10年4月1日の66,069人(23,200世帯)へと、1,411人(2,676世帯)の増加がみられるものの、中心市街地においては、1,803人(66世帯)の減少となっており、中心市街地における空洞化の要因となっている。
表1 高山市の人口と中心市街地の人ロとの比較
単位:人、世帯
年 月 日 |
高 山 市 全 体 |
中 心 市 街 地 |
人 口 |
世 帯 数 |
人 口 |
世 帯 数 |
平成元年4月1日 |
64,658 |
20,524 |
15,015 |
4,967 |
平成10年4月1日 |
66,069 |
23,200 |
13,212 |
4,901 |
増 減 |
1,411 |
2,676 |
△1,803 |
△66 |
② 高齢化・少子化
市全体の高齢化率は、平成2年の13.9%から平成7年の18.7%へと、2.8ポイントの増加であるのに対し、中心市街地においては、18.9%から23.1%へと4.2ポイントの増加がみられ、市全体に対し中心市街地において、より高齢化の進行している様子がうかがえる。
表2 高山市の高齢化率と中心市街地の高齢化率との比較
年 次 |
高 山 市 全 体 |
中 心 市 街 地 |
高齢者数 |
高齢化率 |
高齢者数 |
高齢化率 |
平成2年 |
9,055人 |
13.9% |
2,825人 |
18.9% |
平成7年 |
11,030人 |
16.7% |
3,243人 |
23.1% |
増 減 |
1,975人 |
2.8P |
418人 |
4.2P |
また、中心市街地においては、平成2年から平成7年にかけて年少人ロ(15歳末満)が572人(23%)減少し、総人口に対する構成比も2.4ポイント減少しており、少子化が進行している。
表3 中心市街地における年少人口の推移
年 次 |
中心市街地総人口 |
中心市街地年少人口 |
総人口に対する年少人口の構成比 |
平成2年 |
14,918人 |
2,482人 |
16.6% |
平成7年 |
14,040人 |
1,910人 |
14.2% |
増 減 |
878人 |
△572人 |
△2.4P |
中心市街地における高齢化・少子化が、様々な分野における後継者不足の要因となり、町内会・子供会の運営等地域コミュニティの形成にも影響を来している。
2. 土地利用
① 低未利用化の進行
中心市街地での、居住人ロ・世帯数の減少が、空家・空き店舗・空き地を生み出し、歯抜け状態となっている。空家となった建物は再利用計画の無いまま取り壊され、暫定的に駐車場へ転用されている状態が多く見られる。
3. 交通
① 道 路
中心市街地における道路は碁盤目状に整備されているが、幅員が狭く、一方通行道路が目立ち、観光客にはわかりにくく、駐車場も探しにくい状況である。
歩行者空間については、一部商店街などで歩道整備がされているが、その他は未整備のところが多く、歩行者及び自転車利用者はもちろん高齢者や障害者など交通弱者の安全に配慮した交通安全確保など良好な交通環境整備が重要課題となっている。
② 公共交通機関
自家用自動車が主流となり交通渋滞などが引き起こされている中で、市民や観光客が気軽に利用でき、買い物などが楽しめるようコミュニティバス等自家用自動車に替わる公共交通機関の充実を図ることが重要課題となっている。
また、高齢者や障害者などの公共交通機関の利用における利便性の向上にも配慮する必要がある。
4. 商業
郊外型大型店の出店や増床が著しく増加すると共に、消費者ニーズの多様化、モータリゼーションの進展など、商業を取り巻く環境が大きく変化している。
中心市街地においては、現在10組織の商店街振興会で商店街が形成されている。現在、これらの商店街の総売場面積は約27,000㎡で市全体の小売業総売場面積の約24%、商店数でも約30%を占めているのに対し、販売額は16%にとどまっており、販売効率及び集客力が低下している。
また、販売効率において高山市平均と商店街平均とを比較してみると、1商店当たり、従業員1人当たり、売場面積1㎡当たりとすべての面において商店街平均は高山市平均を下回っている。
表4 商店街の販売効率
単位:万円
|
1商店あたり |
従業員1人あたり |
売場面積1㎡あたり |
平成6年 |
平成9年 |
平成6年 |
平成9年 |
平成6年 |
平成9年 |
商店街平均 |
4,717 |
4,618 |
1,449 |
1,435 |
84 |
73 |
高山市平均 |
8,042 |
8,663 |
2,045 |
2,098 |
121 |
108 |
5. アメニティ空間
① 自然資源
中心市街地の東部には、城山公園などの豊かな自然が貴重なアメニティ空間として利用されているが、平坦部においては街路樹等も一部にしか見られず、緑が不足している。適正な緑地を配置すると共に、市のシンボルである宮川を中心とした空間を市民の憩いの場として環境整備する必要がある。
② 公共・公益施設
現在、回遊性のある中心市街地形成を目指した整備が進められているが、人々が集まり、交流するイベント等の開催が可能な空間(文化施設、広場等)が不足している。今後は、にぎわいのある地域形成に向けた公共・公益施設の整備が課題となる。
Ⅲ 市街地活性化の基本方針
Ⅱ章で現在の中心市街地の課題を列挙したが、これらはあくまで高山市の平均レベルと比較した結果を提示したものであり、活性化の基本方針を決定するためには、まず中心市街地のあるべき姿を定義する必要がある。つまり、すべての面で高山市の平均レベルであることが中心市街地のあるべき姿とは言えない。
では、活性化した市街地のイメージとは、どんなものであろうか。一般的には、商店街がにぎわい活気がある状況がまず思い浮かぶ。しかし、これは必要条件ではあるが十分条件とは言いがたい。つまり、商店街が魅力あるものになったからといって、必ずしも市街地全体が元気良くなるわけではない。郊外に居住する若い世帯が昼間買い物に集まって来たとしても、まち中に高齢者ばかり住んでいる状況では、健全なコミュニティが形成されず地域社会ににぎわいが生まれない。
また、にぎわいのあった古き良き時代の市街地に、ただ逆戻りすることを夢見てみても意味はない。つまり、新たに形成された住宅地や大型郊外店を中心とする商業地も、既に守り育てていかなくてはならない大切な新市街地となっているわけで、これを否定し無視するような中心市街地の活性化などはありえないと言えよう。したがって、新市街地と共存あるいはゆるやかに住み分けする形での活性化を目指さなければならない。
そこで、中心市街地活性化の基本方針を「幅広い年齢層にとって魅力的であり、実際に人のにぎわいがあるまち」とし、次のような3項目を、活性化推進の目標とする。
① 多くの人が集まり、交流する空間(施設)の創出
中心市街地に不足している広場・文化施設等の整備に努めると共に、適正な公園・緑地配置を行う。また、商業・業務施設、文化交流施設、情報発信機能を備えた施設、生涯学習施設等を整備し、人々が集まり、交流するにぎわいのある空間をつくりだすと共に、誰もが生涯にわたり学習し、気軽に文化や芸術にふれることのできる環境を整備する。
② 住みたくなる、住みつづけられる住環境の整備
若者定住のため、若者が住宅を取得しやすい条件整備に努めると共に、高齢者の生活形態をふまえた高齢者にやさしい住宅を確保する。また、高齢者や障害者が安心して快適に暮らせるまちは、すべての人にとって住みやすいまちであるという考えを基本に、きめ細やかなバリアフリー環境整備を進める。
③ のぞいてみたい店、他にはないものがある商店街の形成
市民や観光客に喜ばれる地域の特性を活かした個性ある商品・店舗づくりを行い、大型店にはない魅力と活気に満ちた商店街を形成する。
Ⅳ 市街地活性化に向けた施策
前述の活性化目標を実現するための具体的な施策を検討する。
1. 街なかにぎわい創出支援
① 市庁舎跡地利用
市街地東部に位置する市庁舎跡地(現在、市営駐車場)及びその周辺の公共用地を活用し、人と文化との関わり合いの場を提供し、市民が生涯にわたりいきがいを持って楽しく健康的に過ごすことができるような施設の建設や情報サービスなど、ハード・ソフト両面にわたって、総合的に整備を進める。
② 駅周辺土地区画整理
高山駅周辺土地区画整理事業によって改築されるJR高山駅舎と一体となった自由通路(人工地盤施設)の築造を行い、鉄道により分断されていた東西交流の活性化を図る。また、JR西側市街地に集中している大型郊外店との一体化を意識した整備を行う。
③ 宮川河川整備
古い町並みに隣接して流れる宮川を整備し、都市景観の向上と親水機能の向上を図り、人々の憩いと交流の場とする。
④ 空地利用
空家解体により市街地各所に点在する空地の緑化を推進する。さらに、地域の小公園として整備し、地域住民のコミュニティの形成を図る。
2. 住環境整備支援
① 密集住宅市街地整備
老朽化した木造住宅が密集している市街地において、地域住民との話し合いを行い、耐火性能の高い中層建築物への共同・協調建替えを進めることにより、防災面や居住水準の向上を図る。また、その中で生み出された余地を利用して、若者向けの共同住宅の建設を図る。
② 街なみ環境整備
生活道路・公園など地区施設の整備、防火水槽など地区防災施設の整備、集会所など生活環境施設の整備、修景施設の整備などを進め、景観に配慮しながらも安全・安心で快適に暮らせる住環境の整備を図る。
3. 商店街活性化支援
① 個店業態化
個性的な店舗づくりをめざす起業家を募集して、ノウハウ蓄積の場となる実験店舗を提供したり、資金の融資をして商店街各個店の業態化を促進する。
② 空き店舗利用
空き店舗を借上げ、前述の実験店舗や、地域FMのサテライトスタジオ、地域情報の発信場所などに活用して、商店街のにぎわいを回復する。
Ⅴ 市街地活性化推進の課題
市街地活性化に向けた諸施策を進めるにあたっては、次のような課題があると考えられる。
1. 行政の推進体制
Ⅳ章に挙げた諸施策をみれば、市街地の活性化は既成の行政組織の枠組みを超えた対応が必要となる。したがって、これらの施策を効率的に進められるよう中心となる部局を定め、各部局間の連携を図らなければならない。
2. 民間組織との協働
どの施策も、行政が予算化して実行すれば完結するようなものではない。施設整備にしても魅力ある商店街づくりにしても、そこで元気よく活躍してくれる市民がいなくてはならない。したがって、まずは市民との協議会を組織するとか、既成のNPO団体や商店街の人たちと話し合い、ひとつのビジョンを持った上でことを進める姿勢が大切である。高山市では、平成10年度の住宅マスタープラン策定時に市民に呼び掛けて結成したボランティアグループ「高山市まちづくり・住まいづくり研究会」が現在も活発に活動している。まずは、この団体との協働体制の中で、市街地活性化に向けての取り組みを始めることが有効ではないだろうか。
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