東京都は、1999年7月29日政策会議で「行政改革の取り組みの基本方向」を決定しました。その中で行政改革の大きな柱として行政評価制度の導入を明らかにしました。11年度、12年度の試行を経て、13年度から本格実施を行うことを明らかにしています。
この評価制度は、15年ほど前からこの制度を軸に「行政改革」を成功させたといわれるイギリス、アメリカ、ニュ-ジ-ランド等の国にならって日本でも導入をはじめているものです。すでにこの4~5年の間に、三重県、静岡県、大阪府、岩手県など多くの県や都市で導入あるいは導入の検討がされています。
この間自治労都庁職は、行政評価・PFI対策委員会を中心に学習会や都当局からのヒアリングなどを含め調査研究、資料集の発行を続けており、建設支部は積極的にその活動に参加するとともに、建設当局との意見交換など不十分ながら行政評価制度に対する取り組みを行ってきました。
この間の東京都の行政評価制度の試行に対する若干の取り組みを踏まえ、行政評価制度の問題点について提起します。
1. 建設局に関わる11年度行政評価制度の試行内容と結果について
(1) 若干の経過
東京都では、青島知事の時代1998年12月、新行革大綱として「東京都行政改革プラン」を策定しました。このプランの「Ⅲ期待に応える都政へ」の中で行政評価制度導入の考え方を初めて明らかにしました。そして1999年4月、就任した石原知事は平成11年度第2回都議会定例会での施政方針の行革の取り組みの中で、行政評価制度導入を明らかにしました。
これを受けて99年7月29日、都政策会議は「行政改革の取り組みの基本方向」を発表し、99年8月26日、「行政評価制度の試行について」を決定。翌日27日には「行政評価制度の試行実施方針」を決定し、8月29日には試行開始を各局に通知しました。わずか2ヵ月弱の短期間の各局の作業を経て、同年12月、平成11年度行政評価試行の評価結果を発表しました。
【都全体の11年度試行内容の概要】
東京都は、行政改革の新たな取り組みの1つであるとねらいを明らかにし、実施を指示しました。(資料1参照)結果は以下のとおりです。
① 政策評価2件
● 「環境優先の自動車交通対策」 総合評価内容(略) 施策に関わる事務事業評価 3件
● 「いつまでも安心して住み続けることのできる住宅の整備」
総合評価内容(略) 施策に関わる事務事業評価 7件
② 事務事業評価37件
総合評価(今後の方向) |
A:維持又は拡大して実施が適当 |
1事業 |
|
B:規模等内容を見直して継続が適当 |
18事業 |
|
C:再構築又は他事業との統合等が適当 |
11事業 |
|
D:廃止又は休止が適当
総合評価保留 |
6事業
1事業 |
(2) 建設局に関わる11年度試行内容の概要
建設局に関わる評価対象政策・事務事業は以下のとおりです。(評価結果は資料2参照)
① 政策評価 ―
環境優先の自動車交通対策
② 事務事業評価 ―
政策評価に関連する事務事業 ―
「道路沿道環境対策事業」
各局共通課題「都民との協働」に関する事務事業
― 「緑の公園フェスティバル」
各局個別課題に関する事務事業
― 「駐車場整備関連事業」
2. 建設支部の取り組みと制度試行の問題点について
建設支部は、試行結果を受け建設局に関わる行政評価試行作業と結果についての説明を求め、○都市計画局の課題「市街地再開発事業」、住宅局の課題「木造住宅密集地域整備促進事業」や「緊急木造住宅密集地域防災対策事業」について、事業局である建設局の評価がないのはなぜか。○建設局課題「道路沿道環境対策事業」の2次評価の評価項目の評価と今後の方向及び評価結果について整合性があるのか理解しかねる。何が問題なのか。等々意見交換を実施しました。
前記の取り組み等も踏まえ、担当した立場で以下のとおり問題点を指摘しておきたいと考えます。
(1) 試行期間が短すぎる。選定された局の評価対象事業については事前の相談がないまま決められ、評価対象事業の変更はできず、都の一方的な強権的対応がされた。
(2) 施策評価指標の作成に当たって明確な基準がなく、事業局に任されるなど職員も大変な苦労をしているが、アウトプット指標であり、都民の声が反映されない評価指標となっているといわざるを得ない。
(3) ホ-ムペ-ジ等で公開したとしているが、都民の声がどれだけどのように反映されるのか疑問である。
第1次評価は建設局長、2次評価は総務局長の評価がされたが、事業担当局と行革推進室の評価の乖離が目立った。当局の財政危機克服を中心とした事業の見直しが前提となっており、評価のスタンスが違うことが明らかになった。
(4) 「緑の公園フェスティバル事業」については、多くの都民に利用をしてもらうことも公園事業の役割であり、都民サービスの観点からは当然継続すべき事業と考えているが、次年度予算のマイナスシーリング方針で予算要求困難が明らかで、都当局が見直しを考えている事業を選定し且つ総務局の2次評価でD評価を行い、必要なしとなった。12年度の予算査定で、この事業が廃止となったのである。試行実施方針でも事業の見直し、予算編成にできるだけ反映させるよう明らかにしているが、行政評価制度の都のスタンスを明確にしたものと言えないだろうか。
(5) 事務事業評価では視点別評価として、達成度、効率性・経済性、必要性、代替性、妥当性を設定し、総合評価で今後の方向性を示している。しかし視点別評価の基準が曖昧であり、都当局の政策判断で評価がされるといわざるを得ない。
(6) 事務事業所管局部のコメント項目では、事務事業を縮小した場合の問題点、廃止した場合の問題点、民間委託した場合の問題点、コスト削減余地など記述を求めており、まさにコスト縮減や事業見直しなど、経済性効率性にウエイトがおかれていることが明らかである。
(7) 制度構築に向けた外部専門家のおもな意見として、マッキンゼー東京支社の上山氏などから意見聴取しているが、都民の立場からの意見がないこと。
3. 行政評価制度に対する今後の対応について
自治労本部は、自治体改革闘争の一環として、市民の立場からの「総合的行政評価システム」を提起しています。一方では、政府・資本の側からの「行政改革の重要な柱」として「行政評価制度」が位置づけられていると考えます。この間東京都が打ち出している様々な政策や収集資料の一部を紹介します。
(1) 石原知事就任後初の平成11年度第2回都議会定例会での石原知事施政方針
(行革への取り組み)
今日の都政は、……職員の危機意識が極めて不足、都庁全体の意識改革の必要性を痛感。一般的に公務員のリスク感覚やコスト意識が欠如するのは、行政システムの体質そのものに根本的な原因がある。
職員定数の削減や給与関係費の見直しなど内部努力、民間委託、外郭団体の見直しなどに、これまで以上の危機感をもって即応的に対処し、都自ら不断の改革を進めることが重要。
改革の第一歩として、……バランスシ-トは財務体質の診断に不可欠。これと相まって、行政活動の成果について政策の達成を検証・評価する制度も導入する。
(2) 99年11月 東京都危機突破プラン
第3章都庁を改革する・Ⅰ都庁は体質を変える・Ⅱ都政を客観的に評価する
行政を客観的に評価するしくみとして、政策上の課題を示した「東京都政策指標」を策定し、行政評価の基本的な指標に位置づけることにより、制度の充実を図った行政評価制度を実施する。
Ⅲ執行体制を見直す・組織の見直し、監理団体の改革、アウトソ-シングの推進を通じて、スリムな都政を実現し…・Ⅳ仕事の進め方を変える・Ⅴ自治体連携を強化する
(3) 99年12月 都政改革ビジョンの策定について
都庁改革をねらいとして②一人ひとりの職員が成果の重視、スピ-ドの重視、コスト意識の徹底の視点にたち仕事を進めていくシステムの確立③都庁改革を確かなものにするための仕組みをつくる。そのスキ-ムは組織改革、能力成績主義の人事給与制度確立、仕事の進め方の改革として成果の重視、スピ-ドの重視、コスト意識の徹底の視点を中心に見直す。具体的な課題の1つに行政評価制度の充実とPDCA(PLAN
― DO ― CHECK ― ACTION・計画 ― 実施 ― 点検 ―
見直し)サイクルによるマネ-ジメントの確立、また民間との役割分担としてアウトソ-シングを徹底していくとの方向性を示した上で当面の具体策を明らかにしていく。
(4) 平成12年5月 「機能するバランスシ-ト(中間報告)」
― 東京都の経営を考える冷徹な用具 ―
7行政評価と「機能するバランスシ-ト」の連携
政策評価と事務事業評価のレベルに大きく分け、政策評価を首長の責任、上級マネ-ジメントの責任とに分ける。そして事務事業評価をマネ-ジメントの事業執行責任と個別目標遂行責任とに分ける。各段階における業務の遂行責任は、説明責任と能力評価を義務づけた体系とするのが、この組織経営体の機能的活性化への方向と考えられている。
「機能するバランスシ-ト」を十分活用甲斐のあるものとするためには、この行政評価の方法と連携させた経営組織にする必要がある。東京都の行政コスト計算書は、行政の仕事を構成する最小単位である事務事業についても費用(コスト)を把握し、行政評価のための1つの資料を提供する。
資料1 「公共経営の創造 地方政府の確立をめざして」 PHP研究所 宮脇 淳 北大教授
宮脇淳氏は、昨年12月東京都のPFIセミナーの講師になっていることに注目。
第1章 政策評価と自己組織化
「財政危機の深化の克服、金融システム改革への対応、参加型民主主義の促進などの……ために、地方自治体を中心に評価手法(政策評価)を体系的に導入している。」
1.政策評価導入への4つの視点、(1)「PFI論議は、政策評価と一体となって施設等の建設実現と同時に、……地方自治体に採算性も含めた政策評価制度と有償資金も含めた政策展開の枠組みの多様化を定着させる」・4.プロジェクト評価2)諸外国の政策評価プログラム、(2)イギリスの政策評価・「……以上のようなVFMの精神と可変的な行財政制度が存在してはじめてエージェンシーやPFI等の制度が有効に機能する。」
資料2 「行政評価の時代」 NTT出版 上山 信一
上山信一氏は、今回、都が行政評価を実施する際の「外部の専門家」として役割を果たしていることに注目。
「行政評価とは、行政に数値による目標管理の考え方を導入し、民間企業の改革のノウハウを行政にも導入しようとする手法である」・「行政評価の最大の成果は、第1に、外部への情報開示による改革の気運づくりである。第2に、首長と議会に行政を監視する材料を与えることである。第3に、行政官(公務員)に改善への自助努力のインセンテイブを与えることである。……ボーナスを与えたり、マイナス5~プラス10%の個人差をつける」・米国(クリントン政権)の行政評価の成功要因は、「トップダウンと外部からのチェックが鍵である」・「オレゴン州などは、…………行政ができないことは、NPOに補助金を出したり、住民に努力を呼びかける」・「事務当局が各部局の意見をまとめる積み上げ型の評価指標づくりは、愚の骨頂である。……仮説的な大胆な方向づけを首長、もしくは部門長が最初の段階でやっておかないと、毒にも薬にもならない評価制度ができてしまう」・三重県の例を紹介しながら……「実際に行政評価制度を導入しようとすると、組合との関係、また議会……が足を引っ張る可能性がある。
組合に対しては、行政評価の持つ明るい面を説明すること。人員削減、民営化して公務員の身分を剥奪する、といった暗いイメージに繋がりやすい」
以上、若干の建設支部の取り組みや調査からも、現在の地方財政危機という各自治体の重要課題及び資本の側の不況対策すなわち公共部門を資本投下の場とするとともに、行政に市場原理を導入しようとしている情勢を踏まえる必要があると考えます。各自治体の労使関係によるところもありますが、少なくとも東京都の場合においては、行政評価制度の導入や、バランスシートの導入は、VFM(ヴァリューフォーマネー資金投入に値する事業かどうかというチェックあるいは投入資金に対する事業による受け取り価値の価値の最大化)の根拠としてこの制度を補完する重要なセクターとなるでしょう。さらにはアウトソーシングの手法としてPFIという事業手法を導入する際の、判断や評価基準になるといわざるを得ません。
建設支部として、行政評価制度の12年度試行に対する取り組み等を通じて、さらに問題点等を明らかにし取り組みを強めるため、職場全体の運動にしていく決意を表明し報告とします。
|