道路管理業務の、現行「委託契約」方式(単価契約)の違法性について      

福島県本部/福島県職員労働組合OB・佐藤 啓二


1. はじめに

 全国各地の公務職場で、職員が担当する「業務」は多岐に亘るが、ここで述べる業務は道路(国道・都道府県道・市町村道)の管理業務(道路維持補修)であることから、職員が直接担当すべきこの業務を、ここでは再度「未出来現象[みしゅったいげんしょう]=多くは現業職員が担当してきた」と位置づけ、今回は新たな視点を加え、再度論じる事にしたい。
 即ち、過去2回この問題を論じたが、検討課題が多岐で不十分な論理構成であったが、新たに「財務規則」を加え、従来から取り上げた「地方自治法」「民法」も併せ検討した結果、本県委託方式の違法の事実が、更に明確に出来たものと思慮します。
〔※
出来[しゅったい]とは、ある事態が発生する「意」であるので、委託するこの目的を未出来現象とした〕

2. 現行の「委託契約」とは、どの様なものか。

 我が福島県で行われている「契約」とは、驚くなかれ「単価契約」なのである。
 しかし、職員が直接処理してきたこの業務とは、次の3.で示すとおり、約30の工種に分けることが出来るが、はじめに、で述べたとおり「未出来現象[みしゅったいげんしょう]なのである。
 又、職員が担当する「業務」を第三者に委託する(但し、委託契約が有効に成立するのであれば…)場合は、事前に相手方と契約の締結(本来は請負契約で)が必要となるが、ここで問題は「契約目的と数量=欠陥現象」をこの時点で「把握」する必要がある事です。
 つまり、契約が有効に成立する為には、契約内容(目的・数量)に可能性、そして確定性が必要で、この現象が発生しない限り契約の締結は出来ない事が分かる(架空の目的になる為に)のであるが、この肝心の点(禁止される契約目的)が全く見落とされている事です。
 即ち、本県では「禁じられた契約の締結」によって、公金が支出されている事です。

3. 次に、「道路」に発生するであろう、欠陥現象(未出来現象[みしゅったいげんしょう])とは…?

() 天然・自然現象によって発生し、直ちに補修、除去等が必要となる作業。  8工種
 ①道路の上に崩落土が発生した、②路面が陥没した、③道路に立木が倒れ通れない、④同、落石が発生し危険、⑤道路法面が崩れた、⑥側溝の集水枡が詰まった、⑦側溝が詰まり路面内に水が流れ出た、⑧路肩が崩れ危険等。
() 主に経年によって路面に発生する(補修・取り替え等)作業  4工種
 ①アスファルト路面に穴ぼこ発生、②側溝蓋不全(破損蓋の取り替え等)、③橋梁すり付け面(橋台パラペット部に段差)のAS合材での補修、④路面損傷部のAS合材補修。
() 事故(人為・自然)対処(損壊施設の処理、撤去、排除等)作業  5工種
 ①事故死小動物(狸・猫・野ウサギ)の死骸処理、②側溝、河川等への流失油処理、③安全施設の損壊の片づけ、④破損標識処理、⑤台風(豪雨)襲来時の緊急出動。
() 日常の管理行為として、欠かせない管理作業  11工種
 ①不法投棄ごみ処理、②街路樹の剪定、樹木の枝払い、③側溝の溢水、④同、浚渫泥浚い、⑤暗渠詰まり処理、⑥落ち葉処理、⑦地下道・歩道橋等の清掃、⑧苦情申し立て時の道路パトロール、⑨常置排水ポンプの点検、⑩交通止め等の標識の設置、⑪砂利道路の点検補修(グレーダー作業含む)。
() 主に、冬期間に必要となる(自然現象に左右されるが…)作業  4工種
 ①除雪作業、②凍結防止剤の散布、③スノーポールの立て込み、撤去、④融雪設備設置路線の保守点検。
 以上の様な作業の多くを「
未出来現象[みしゅったいげんしょう]」と位置づけた。

4. これらの作業は、単なる「事実行為」である…と、本県では主張

 これらの現象の多くは、突発的に道路に発生し、安全性の確保の上からも迅速確実な処置行為(交通規制等を含めた公法上の行為)が必要な事と、これらの未出来現象[みしゅったいげんしょう](道路管理者に課せられた、具体的な義務にも当たる)の多くは、通行者にとっては事故の誘因にもなりうる「危険な現象」であり、かつ、これらの現象は通行者の生命に関わる事態でもあり、仮に通行者に危害が及んだ場合には、道路管理者(出先の担当者)に対しては、法律上の責任追及もあり得る(国家賠償法第2条の国賠責任=無過失責任と個人の過失責任=刑法上の責任追求にも連動する)業務と位置づけできるので、私たちは、管理業務=管理行為と位置づけたのである。
 しかし、本県では「事実行為」の委託で「管理行為」の委託ではないと強弁し、全く取り合わず、問題の先送りに終始するので、仕方なく地方自治法第242条(住民監査請求)の規定に従い、退職職員が県監査委員会宛に、措置請求書を提出した処である。

5. “単価契約”で、委託の法律効果は発生するのか…

 この業務を第三者に委託し、相手方が行う場合の「道路維持補修作業」とは、公共施設(地自法では、公の施設)に対しての「役務の提供」で、様々な工事(作業)の積み重ねにより構成され、役務の提供による作業の完成は、①「請負契約」を取り交わすべきです。
 即ち、「請負契約」又は「委託契約」を締結すべきものを、「単価契約」としていることは、契約の名称に、②民法第95条(錯誤)に当たり、③契約書式も財務規則第226条に違反しています。
 同じく、本契約締結に係る事務手続きとして、④財務規則第
255条に違反して「入札予定価格」が決定されているため、本契約は形式的には成立しても、⑤契約自体が意図した「法律効果」は全く発生しない事を、次の6.と7.でその「事実」を述べることにします。

6. 何故に「単価契約」では、委託の法律効果は発生しないのか…

 まず単価契約とは、本県の会計事務(必携211ページ)には、ガソリン、砂利、事務用品等の購入に適用と、即ち、物品等の納入に(所有権の移転)用いる契約と記されています。
 しかし、この「適用」の誤りを全く認めずに、他県も実施している、と先送りを繰り返してきました。
 又、単価契約では、予定価格を単価で設定し、単価により入札する(同じく必携の316ページ)事が必要と書かれています。しかし現行の積算と入札方法は、事実としては存在しない、⑥架空(禁じられている事は、言うまでもない…)の目的と数量の積算総価格で入札し、落札(何と…その金額で契約の締結はしないのです)後に補正し直し、単価契約書としています。
 しかし、この様な契約は先で指摘したとおり、「財務規則」と「会計必携」を無視した契約であり、次の7.さいごに、の3点の指摘(論拠)から、法律効果は全く発生しない事が理解戴けるものと考えます。

7. さいごに

 第1点として、先の5の②で指摘したが、肝心の「契約の名称」が、⇒【道路維持補修業務委託単価契約書】では、意思表示の「錯誤」に当たることです。即ち、「委託」と「単価」の言語の持つ意味が異なる点です。つまり、全く異なる2つの言語を並べた意思表示は、法律行為の要素の「錯誤」に当たり、この様な「名称の契約」は無効に当たり、法律効果は発生しないこと。
 第2点、先の6の⑥で指摘した、入札に付す「目的と数量」が「架空」である事実から、「禁じられた契約の目的」となり、同じく法律効果は発生しないこと。
 第3点、地方自治法第234条(契約の締結)の規定を、実質形骸化に当たる点です。
 即ち、前6の⑥の「架空の目的」入札から、法の規定の「競争入札」に当たらず、です。つまり、契約内容上の効力発生要件(必携
271273ページ)である⇒「内容の可能性」「確定性」「適法にして妥当性」を全てに抵触することから、法律効果は発生しないこと。
 以上の論拠から、本県方式は「公序良俗に反する契約」に当たり、従ってこの3点から「無効の契約」となる事が、ここに導き出せたものと確信します。

<資料-Ⅰ>


(案)

2000年8月21

  福 会 様

 私は、地方自治法第242条第1項の規定により、住民監査請求を致します。

1.  請求者
 住所 福島県福島市飯坂町字原37番地  氏名 佐藤 啓二 印  職業 無職
2.  請求事項
 県に在職中に(土木部の出先機関)私が担当した、「道路維持補修」業務の民間委託の契約方式が《法律効果の発生しない契約の締結》に当たり、措置請求するものです。
3.  請求要旨
 第1点、当該「業務」の民間委託の契約方式が、単価契約を用いている事です。
 本県会計事務必携(P211)によれば、単価契約とは、ガソリン、砂利、事務用品の購入等、いわゆる物品納入(所有権の移転)等に用いる契約とされています。
 
しかし、道路維持補修作業は、公共施設に対しての役務提供で、様々な工事の積み重ねにより構成され、役務の提供による作業の完成は「請負契約」を取り交わすべきです。
 即ち、「請負契約」又は「委託契約」を締結すべきものを、「単価契約」としている事は、契約の名称に「錯誤」と、契約書式も財務規制第
226条に違反している事です。
 第2点として、同じく本契約締結に係る事務手続きとして、財務規則第
255条に違反して「入札予定価格」が決定されている為、本契約は形式的には成立しても、契約自体が意図した「法律効果」は発生しない事を、以下5点の事実から述べます。
 まず、単価契約では予定価格を単価で設定し、単価により入札する(会計事務必携P
316)必要があり、現行の積算と入札方法は、事実として存在していない架空(禁じられている)の目的と数量の積算総価で入札、落札後に補正し直し、単価契約書としています。これは、①「禁じられた契約の目的」であり、又、②入札成立要件を具備せず、です。
 この点については、平成
11年度土木部職員専門研修(講師・監理課の松本主幹)のテキスト(P7)でも、単価契約の場合、単価についてその予定価格を定めると記載しており、これまでも話し合いの場でこの点を指摘したが、意味不明な見解を毎年繰り返すだけで、客観的な見解は全く述べられません。その真意は僭越ながら以下に記します。
 即ち「必携」第
12章(P271273)第1契約の意義、第2契約の成立と、その最後に記されている、「公序良俗に反する無効の契約」と密かに危惧している為と考えます。
 更に加えて、地方自治法の第
234条(契約の締結)の、③「競争入札」の原則を実質形骸化(架空目的入札=契約内容と数量が未確定)の事実、即ち、契約内容上の効力発生要件である「内容の可能性」「確定性」「適法妥当性」の全てに欠け、従って本県では、④「無効力の契約締結」で、⑤公金の支出が10年公然と行われている、事実。
 以上、この民間委託の契約が、県財務規則と会計事務必携を遵守してない事の是正と、地方財務行政の公正な運営確保を求めるに当たり、措置請求要旨とします。

  以  上