2024/01/09
1月5日、自治労は昨年12月22日に政府が閣議決定した「2024年度政府予算案および地方財政対策」について、下記の通り談話を発出しましたので掲載します。
2024年度政府予算案・地方財政対策に関する談話
1.政府は2023年12月22日、2024年度政府予算案を閣議決定し、一般会計の歳出総額は112兆717億円と2年連続で110兆円を超える大規模な予算編成となった。前年の歳出総額約114兆円より2兆3,000億円程度減少しているが、これは5兆円あった予備費を1兆円に減額したことによるところが大きく、予備費を除けば、本来の予算自体は膨らんでいることになる。政府はこの間、「歳出構造を平時に戻す」との立場をとってきたが、コロナ禍以前の当初予算が100兆円を下回る水準にあったことと比べれば、財政健全化に本腰を入れているとは言い難い。
2.歳入における公債依存度は30%を超えており、2025年度とされるプライマリーバランスの黒字化目標には遠く及ばない。また「金利のある世界」に戻り、利払い費の想定金利が1.1%から1.9%に引き上げられたことなどにより、歳出における国債費は27兆90億円と過去最高になっている。これは歳出全体のほぼ4分の1が借金の返済にあてられていることを示しており、今後、日本の財政がより硬直化していくことも危惧される。こども・子育て支援など新たな政策、また新たな有事的対応を余儀なくされた場合など、補正予算の編成も含め、時々の財政需要に柔軟に応えられるのか、そのための強固な財務体質を整える責任が政府には問われる。
3.こども・子育て支援に関しては、2028年度までの3.6兆円分の施策充実と財源確保の枠組みを盛り込んでいる。これに伴い、その財源について社会保険制度を通じて拠出する「支援金制度」を創設するとしているが、給付の可能性なく負担のみ生じる層が想定されること自体、保険制度として馴染むのか大いに疑問が残る。見た目の増税感、負担感の軽減を意図するものと映るが、現役世代の負担であることには変わらず、公正な配分となり得ていない。しかも2024年度における財源不足分0.2兆円については「こども・子育て支援特例公債」を発行するとしている。今後、政府予算の硬直化も想定される中、同制度を発足したことで、結果的にこども・子育てに関する財源不足額は国債に頼ればいいという、負担の先送りを招くこととならないか懸念が残る。一方で防衛費は、2023年度が対前年当初1.1兆円増、2022年度が対前年当初1.4兆円増と、この2年間、極めて堅調に増額されている。安心・安全の市民生活にむけて、一体何を優先すべきなのか、税と社会保険料の役割分担も含め、徹底的な予算の組み替えが求められる。
4.一方で、「物価に負けない賃上げ」の実現に向けた措置として、医療・介護・障害福祉サービス、保育士、教職員など公的部門を含め、幅広く予算対応している点については評価できる。本来、賃上げは使用者側と労働者側、双方の交渉に基づき改善がはかられるべきであるが、近年は結果として長期に渡り労働者の賃金が低く抑えられてきた。こうした現実を転換させる一つのきっかけにはなり得る。これらの措置が正規・非正規を問わず、公共サービス分野における実際の処遇改善に結び付くのか、自治労としても、その効果検証、実態把握に取り組まなくてはならない。
5.2024年度地方財政対策については、社会保障関係費や防衛費の急激な伸び等による影響も危惧されたが、一般財源総額が約62.7兆円(前年比0.6兆円増)と前年度を上回る水準が確保されている。地方税の歳入減も見込まれるなかで、地方交付税総額は18.7兆円と対前年比0.3兆円増、臨時財政対策債の発行も0.5兆円と対前年比のほぼ半分に抑制するなど、地方財政の健全化にも配慮されている。依然として財源不足が生じていることについては、引き続き、地方交付税の法定率引き上げなどによる抜本的な対応を求めるが、全体として地方の要望に応えるものとして評価する。
6.なお、定額減税による地方での減収について、個人住民税分は全額国費により補填されたものの、所得税減税による地方交付税の減収について、直接的な補填はされなかった。地方交付税の総額自体がプラスとなっていることから、その影響は限定的であったともいえるが、実際にしわ寄せはなかったのか。そもそも地方交付税は地方固有の財源であることから、国の減税施策によって損なわれることがあってはならない。定額減税が実施される際は、地方における影響や混乱が生じないよう、特段の配慮を求める。
7.今回、社会的な賃上げ基調に対応し、地方公務員の給与改定分として0.3兆円、会計年度任用職員の勤勉手当支給分として0.2兆円が確保されている。
また、2024年度の地方財政収支見通しによると、地方公務員の給与関係経費は20兆円を超え、1.6%増加している。とくに、給与関係経費上の地方公務員数は233.2万人と前年より1.4万人の増員が見込まれており、これらをもって十分とまでは言い難いが、各自治体における会計年度任用職員の処遇改善また人員確保闘争の活性化に結び付く内容となっている。引き続き、自治労における主体的な取り組みの強化が問われることとなる。
なお、定年延長の制度完成にむけ、並行して行われる新規採用にも配慮した財源や社会的にも重視されている継続的な賃上げ基調を踏まえた財源確保が今後も必要となることを、あわせて指摘しておきたい。
8.とくに、こども・子育て政策にかかり、地方単独事業に対して1,000億円増額したことは高く評価する。この間、一般行政経費においては国の事業に対応する補助分を手厚くし、地方単独分における伸びは抑制的に措置されてきた。しかし、こども・子育て政策における、地域の実情に対応した事業のあり方を認め、普通交付税の費目に「こども・子育て費(仮称)」を創設したこと、また新たに導入される「こども・子育て支援事業債(仮称)」についても地方における事業実施にむけた大きな弾みとなることを期待する。なお、実際の普通交付税算定方法などについては、引き続き注視する必要がある。
9.地域の活性化にむけて、その存在意義が改めて重視されている地域公共交通をめぐり、コロナ禍を踏まえての交通事業債(経営改善推進事業)を創設したことは、自治労の求めてきた継続的な経営支援策として評価できる。引き続き、こども・子育て政策と同様、普通交付税の個別算定項目に地域交通政策に関する項目を位置付けることを求めていく。
10.地方創生推進費についても1兆円が確保されている。これにより旧まち・ひと・しごと創生事業費分は当面維持されることとなるが、地方創生推進費を含めた地方一般財源総額はすでに自治体にとって標準的な規模となっていることから、今後も恒常的な確保を求める。なお、その一部において採用されている行革努力分による算定指標も継続されることとなるが、これは標準的な行政水準を保障するという地方交付税制度の趣旨から逸脱するものである。また、マイナンバーカードの交付率を地方交付税の算定方法に組み入れる措置も継続されているが、こうした政策誘導は慎むよう求める。
11.2024年度地方一般財源総額は、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)における、2021年度地方一般財源総額との同水準ルールに基づき確保されているが、2024年度はその最終年度にあたる。今後はインフレの動向にも注視しつつ、安定的かつ地方の財政需要を踏まえた、より積極的な地方財政の確立にむけて、協力国会議員団、立憲民主党をはじめとする協力政党、地方6団体など広範な連携をめざしながら、引き続き、取り組みを進める。
2024年1月5日
全日本自治団体労働組合
書記長 伊藤 功