2025/01/08
1年前の元日午後4時10分。能登半島を襲ったM7.6の大地震は、地方の衰退・人口減少、公共サービスの貧困という、日本社会の地盤の脆さを直撃した。「能登を見捨てるな」。自治労組織内参議院議員の岸まきこと、被災経験のある自治労組合員が語りあった。
座談会メンバー
岸 まきこ(きし まきこ)
自治労組織内参議院議員。北海道・旧栗沢町職労(現岩見沢市職労)出身。「3.11」のときは自治労北海道本部空知地本の専従役員。その後、2013年に自治労本部役員に就任し、東北被災三県支援に従事。2019年に参議院議員に。「1.1」では、発災直後から立憲民主党の災害対策局の一員として情報収集にあたる。3月4日には自治労石川県本部に同行し被災自治体を視察した。
藤田 陽子(ふじた ようこ)
自治労石川県本部・七尾市職労委員長。市役所では福祉課に勤務。「3.11」のときは産後休暇中。自宅が沿岸部にあるため、津波に強い不安を覚える。「1.1」には配偶者の生家への新年のあいさつから自宅への帰路で遭遇。乗っていた車が激しく揺れた。津波を心配し、子どもを連れ夫の生家に避難。発災3日目から小学校に設置された避難所の運営に従事した。
日蔭 丈朗(ひかげ ともあき)
自治労岩手県本部書記次長。宮古市職労出身。「3.11」には出張先の釜石市で遭遇する。宮古市田老地区の自宅は津波で流失。発災後は自身が避難した避難所の運営に従事する。「1.1」は田老地区の高台に新築した両親宅で知り、「3.11」の記憶が蘇る。自治労の呼びかけた能登半島地震の被災地支援行動の第3グループに参加し、3月16日から七尾市で活動した。
司会:八巻 由美(やまき ゆみ)
自治労総合企画総務局長。福島市職労出身。「3.11」の発災時は、市民税課の職場で確定申告の業務中。経験のない避難所設置の指示への対応、不安な市民からの問い合わせの殺到などの大混乱の中に身を置く。2019年に自治労本部役員に就任。「1.1」は帰省先の福島で知る。発災後直ちに本部に出勤し、対策本部の立ち上げなどに携わる。
震災で恒常的人員不足が顕在化〈東日本に比して復興の遅れが顕著〉
八巻 能登半島地震から11カ月になります。この間、被災地の自治体現場で何が起こってきたのか、東日本大震災の経験も振り返りながら、自治労が能登の復興にむけてどう取り組んでいくのか、お集まりいただいた皆さんのお話をお聞きし、考えていきたいと思います。
まず、能登半島地震の被災自治体の立場で藤田さんから、発災から今日までの地域や職場の状況についてお聞かせください。
藤田 七尾市職労で委員長をしています。職場の状況は、とても落ち着いたと言えるようなものではありません。当初は、11月にもなればもう少し楽になっているだろうと思っていたのですが。
発災直後に私がまず困ったのはガソリンです。避難所に出勤という指示が来たのですが、車のガソリンを入れようにもスタンドが大渋滞。避難所で困ったのは水とトイレ。支援物資の仕分けも混乱していて、運んでくれた避難者の方が転んだりして大変でした。福島県相馬市の給水車が来てくれたときは、もう嬉しくて、拝んでしまいました。
職場の勤務で大変だった部署のひとつは水道の部署です。行政支援の職員も大勢入ってくれましたが、市民からは「いつ復旧するのだ」と電話が殺到して回線がパンクしそうでした。組合員からは、「もう40日も連続勤務だ。組合は何をしている」という声もあがりました。
組合では、最低でも週1日は休めるようにするよう、再三、申し入れをしました。その後も、税務や防災担当など業務が大変な部署が多いことから、災害対応に関わる業務について要求書を出しています。
正直、誰もが自分と自分の生活を守るので精一杯で「組合活動どころではない」状態でしたが、なんとかやってきた感じです。
最近問題なのは、健康を害して倒れる職員が出ていることです。メンタル不調が増えるという想定はしていましたが、脳梗塞などの病気で倒れる人も出ています。他県から入っている応援職員の数も、大勢来てくれてはいますが、人が足りていないと思います。
日蔭 能登半島地震と東日本大震災の復旧速度を比べると、能登の復旧は遅いという印象を持ちます。宮古市では8月にはすべての避難所を閉鎖し、10月31日には復興基本計画を策定しました。また11月には復興道路の工事が着工しています。
震災から11カ月目の2012年2月には復興庁が設置されて宮古にも支所ができています。翌年5月の連休には、盛岡で東北六魂祭という大きなお祭りがあり、私自身も参列しています。落ち着いたとまでは言えなくても、今の能登の状況より余裕があったように思いますね。
地理的な要因、災害の度合いや9月の豪雨災害など、東日本の被災との違いはありますが、やはり被災家屋の公費解体の遅れなど、厳しい状況だと感じます。また、人口減少のスピードも、東日本大震災当時より加速度を増していると思います。
岸 「3.11」と比べて能登半島地震の方が断層のずれ、土地の隆起が激しいですね。また、半島部で幹線道路が1本しかない。それが復旧の妨げになっていますが、政権の対応が一番の違いではないかと思います。
「3.11」のときは民主党政権で、全力を集中して東北被災地の復旧にあたりました。しかし今の自民党政権は、激甚災害指定をしながら補正予算は組まず予備費で対応するだけ。政治の責任で、人もお金も集中しないといけないと思います。
長時間勤務で職員の疲弊極まる 強まる《忘れられる》ことへの不安
八巻 先ほど藤田さんから職場の健康問題のお話がありましたが、日蔭さんのご経験はいかがですか。
日蔭 東日本大震災以降、業務量は明らかに増えました。倍以上だと思います。体の具合を悪くする方も大勢いましたね。通常時の2倍まではいかないまでも数割増でしょうか。
応援職員も来ていたのですが、それでも超過勤務が増えました。当時、単組の執行部ではありませんでしたが、組合からはそのような状況の中、振替休日を取れるようにという要求がされていました。また、そういう中で応援職員の方には仕事だけでなく、イベントを企画してもらうなど、支えになってもらいました。感謝しています。
藤田 「能登が忘れられてしまう」ことへの強い懸念、不安が、職員の中にあります。能登についての報道も減ってきています。みんな必死で働いて、それでも復旧が進まない中で、職員も住民もストレスを溜めています。「わかってもらえていないんじゃないか」「応援派遣の職員がいなくなったら、この職場は回せるんだろうか」と思ってしまいます。
新規採用の応募を、職員皆で呼びかけようと人事課が言うのですが、こんな職場に入って「一緒に働こう」と、若い人に言えないと思ってしまいます。でも実際に今年採用した人と話すと「こんなときだから頑張ります」と言ってくれるので、私たち中堅以上の職員も頑張らなくてはと思えるんです。
岸 通常業務を回すので精一杯の人員でやってきていること自体が問題ですよね。そもそも人がいない中に災害対応が加われば、回るわけがないんです。だから「自治体には職員が必要なんだぞ」って、要求し続けていかないといけません。
近年、現業職員の採用がありません。直営部隊がいないから災害後の対応も遅れてしまう。応援職員はあくまでも応援なので、そこをあてにするような災害対応は無理があります。
八巻 原発事故での避難が解除されて住民が戻り始めた太平洋沿岸部の福島の自治体では、福島以外の出身の人が職員に応募してきます。福島に新しいふるさとを作りたいという気持ちで来ているのです。
震災後、何年も大勢の退職者が続いていたので心配していたのですが、最近では心強く思っています。必ずそういう人は出てきますよ。
今必要なのはプッシュ型の支援~みんなで何でも《話せる場》の大切さ
藤田 石川県本部が組合専用の支援物資を持ってきてくれたことは嬉しかったです。目の前に支援物資があるのに、職員はもらえないんです。自治労の仲間が物資を送ってくれたことは、「思い」も一緒に伝わって元気に繋がりました。
組織内議員が市議会で職員の過重労働、健康問題を取り上げてくれて、他の議員さんも言ってくれるようになりました。自分たちを代弁してくれる人がいることの大切さ、それができる組織の意義を実感しています。
国会に岸さんがいてくれることも、とても心強く思っています。
日蔭 私自身、自治労の支援ボランティアが宮古に来てくれなかったら、休みをとれませんでした。自分自身も被災して精神的にも厳しい中で、大勢の自治労の仲間が応援に来てくれたことは、本当に心の支えになりました。改めて感謝申し上げます。
これらも、自治労の組織を通した被災地産品の購入あっせんや、支援行動に参加した組合員のネットワークを作って、能登の産業、例えば蔵元を応援するなど、長期的に活動ができたらいいなと思っています。
藤田 現地にいると、今起きていることが普通のことなのか、異常なことなのか、よくわからないんですよね。「これって、言っていいんだろうか。どこまで言っていいんだろうか」って、判断がつかないんです。
岸 政治に関してはなんでも全部、言いたいことは言えばいいんです。それをどう取り上げるかは政治家の方が考えればいいんです。
被災自治体の皆さんが水道の問題、特にトイレと洗濯が大変だとおっしゃったので、移動式のトイレ、移動式のコインランドリー、自衛隊のお風呂の支援継続を、私は国会で取り上げました。
支援物資のことは、3月に被災自治体に行ったときに、「福島も3.11のとき職員は物資がもらえなかったから、これ必要だよね」と、石川県本部と相談して進めたんです。自治労の取り組みの蓄積があったからできたのです。
総務省に地方公務員のメンタルヘルス対策事業という制度があるのですが、自治体から申請しないと動かないんです。「待っていたら来ませんよ。プッシュ型でやってください」と、私は総務省に要請しています。例えば、「総務省側から『医師を、この日にこの自治体に派遣します。職員は全員、健康診断を受けてください』と言ってください。メンタル不調の職員が自分の不調に気がついて、自分から相談に来ることなんてありませんよ」と伝えています。福島でもそうでした。
災害から住民を守る。そのために不可欠な自治体職員を守るのが私の役目だと思い、国政の場で提起して発信していきます。
藤田 こうやって話す場もすごく大事だなと思います。職場でも、話したいけど話せない問題を話すことができる場を作ることが、組合としてできると思います。
6月に久しぶりに執行委員会をやったんですよ。こんな忙しいときに時間を取って、みんな残業しているのにと思ったんですけれど、震災から今までの話を1人ずつ話してもらったら、やっぱりみんな大変だったよね。あの時をよく超えたよね。もうちょっと頑張ろうって思えるっていう。そういうの、大事なんだなと思っていたんですけど、今まで忘れていました(笑)。
頑張ります。ありがとうございました。
(実施日:2024年11月4日/都内)
(機関紙じちろう2025年1月15日号より転載)