【自主論文】

第32回北海道自治研集会
第Ⅱ-③分科会 地域からつくる保健福祉のしくみ

根室支庁管内における介護保険施行状況について


北海道本部/全北海道庁労働組合・根室総支部・青年女性部 加賀 正浩

1. 介護保険情勢について

 全国で高齢化の進行や介護を必要とする者が増加する中で、根室支庁管内も例外ではなく、着実にその数を伸ばしており、それに比例して、微弱ながら管内の居宅介護サービス事業者数も年々増加しています。一方、介護保険施設に関しては、介護・医療療養病床の削減や、特別養護老人ホーム及び老健の床数の増減がほぼ頭打ちであることなどの理由により、施設入所待機者の発生・増加に拍車をかけており、それらの問題は一部新聞などでも取り上げられているところです。
 今後、さらに進む高齢化に対応するため、安定的な制度の構築・運営は必要不可欠であることから、国や地方公共団体は、速やかに法や条例などの整備を進めなければなりません。とりわけ、今世間を騒がせている「介護難民」や「老々介護」と言われる問題については、如実に統計上に表れてきているわけですから、この問題に対する解決へ向けた努力も、決して怠ってはなりません。
 また、近年、高齢者専用賃貸住宅や有料老人ホームなど、老人福祉法上の施設についても多様化してきており、最近では有料老人ホームの宣伝CMがテレビに流れ、また施設見学に訪れる人も多く、その需要と供給は年々増しています。このことは、事業所及び施設経営者の努力によって、現在存ずる制度や資源などを活用し、新たな道を切り開いていく時代であるということの現れではないかと感じます。
 他にもまだまだ介護保険制度に関する問題は山積していますが、根本に、制度の本質や時代の流れが大きく絡み合っているため、それぞれが容易に解決できるものではありませんが、先日開催した管内の介護保険会議において出された意見や情報及び統計結果について検証し、せめて地域単位の問題を解決するための糸口となればと思っています。

2. 根室管内は要介護認定率が低い

 管内1市4町は、別添資料のとおり、全道平均値と比較すると認定率が低く推移しています。特に2007年度の根室市においては11.9%と、全道一認定率が低いという結果となっています。
 この結果は、65歳以上の第1号被保険者に占める元気な高齢者の割合が、比較的多いという推測ができるわけですが、ではなぜ管内には元気な老人が多いのか。今までこの具体の数値については把握していたものの、明確な根拠を見つけ出すことができず、細かい分析までには至らなかったのが現状でした。
 しかし、管内各市町の介護保険担当者から、認定率が低い理由として一次産業が盛んであることが直接の要因になっているのではないかという仮説が立てられました。確かに、管内においては漁業を中心として、酪農や農業などの一次産業が盛んであることは言うまでもありませんが、ではその仮説を定説に変えられる根拠は見つかるだろうか、またそのことが認定率にどのような影響を与えているのか、という疑問が生じます。
 代々一次産業を担ってきた高齢者は、少しずつ体力は消耗しているとはいえ、その多くは若い頃から体力仕事をしてきた分、生涯体を動かす機会が無い高齢者とは体の作りが違います。故に、比較的健康な状態を保つことができるということが推測されるというわけです。
 さらには、「若いもんには負けてられない」と言わんばかりに、65歳を過ぎても現役漁師や海女として働いている高齢者もいると聞きます。また、昆布干し・昆布拾いなどにも、高齢者が駆り出されることがあるそうで、結果、それが「介護予防」につながっているのではないかという見方もできます。
 ここ数年、要介護状態とならないよう老人の生活習慣や体力の向上を目的とした「介護予防」の概念が取り入れられ、各市町村では主に「地域支援事業」という名目で介護予防に係る事業が実施されています。根室市ではこの事業に加えて、一部で漁師や海女として働く場があることで、最大の介護予防が実現しているという環境が存在しています。
 私個人としては、充分に要介護認定が受けられる状態であるにも関わらず、「他人の世話にはならん」と認定申請をしない、浜の男特有の「負けん気が強い高齢者」がいるということも、認定率が低い理由の一つとなっているのでは? と感じるところもあります。

3. 管内介護老人福祉施設の現状

 昨年12月21日、北海道新聞(朝刊)の地方版紙面に、管内の特別養護老人ホーム(以下、「特養」)の待機者が施設定員より多く存在しており、1、2年ほど待たなければ入所できない、という内容の記事が掲載されたところです。管内には根室市、別海町、中標津町、羅臼町に各1施設の合計4施設が存在しますが、4施設の定員合計が248人に対して、325人もの待機者が存在する(昨年12月末現在)とされています。
 では新たに特養を新設してしまえばいいのではないかというと、そう一筋縄ではいきません。政府は社会保障費抑制のため療養病床の削減を提唱し、高齢者に居宅での生活を進めています。また、施設新築や既存の施設の増床により利用者が増えた結果、介護給付費が増加し、それに比例して65歳以上が支払う保険料に跳ね返り、併せて市町村が負担すべき公費額の増加につながってしまいます。事実、介護保険施設の整備枠を設定する管内市町においては、保険料の増加や市町の一般財源からの繰出額が住民の家計や地自体財政の圧迫につながるため、当該整備枠の新たな設定についてはここ数年控えているのが現状です。
 その上、介護報酬単価が低いため、経営が軌道に乗らない施設も全国的に多く、経営者としても、施設の新規立ち上げ・増床等を行うには、相当の覚悟が必要となります。「昔は老健、その次は療養病床、さらにその次は在宅介護と、国の施策が短いスパンで変化し、その度にハシゴを外されていくのでは、安定した事業所・施設経営をしろというのが無茶な話だ」などという、管内施設担当者や自治体担当者からの切実な声が出されています。
 今後、さらに高齢化が進む中で、今まで以上に自治体における多種多様な介護施策が必要とされてきます。もちろん、国が言うような在宅介護の充実も必要となりますが、同時に団塊の世代と言われる、比較的安定した収入が得られた老人も増えることになるため、プライバシーが守られた有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅などの整備も必要です。
 現在多く存在する管内の施設入所待機者は、今後も増加することが大いに予想されますが、前述のとおり、政治努力が必要であることはもちろんですが、地方自治体においても高齢者のニーズに合わせた在宅介護や新たな居住空間の確保に向けた施策を独自に考えていかなければならない時代になっているのではないかと感じています。

別添資料

1. 根室支庁管内高齢化率推移

2. 根室支庁管内における1号被保険者数及び認定者数

北海道新聞(2007年12月21日朝刊)