【代表レポート】
佐賀県市町村合併モデル案の行財政
シミュレーションから見えたもの |
佐賀県本部/佐賀県地方自治問題研究所 徳光 清孝
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はじめに
佐賀県内は、現在7市42町村の合計49市町村が存在する。このうち、6月議会で法定協議会を設置した地区は以下の3地区である。
・佐賀市・佐賀郡(諸富町、川副町、東与賀町、久保田町、大和町、富士町)
・唐津市・東松浦郡(厳木町、相知町、北波多村、七山村、浜玉町、呼子町、鎮西町、玄海町、肥前町)
・杵島郡東部6町(大町町、江北町、北方町、白石町、有明町、福富町)
また、小城地区は、6月議会では小城町議会が否決したものの、7月に臨時議会を開いて可決、その後8月に残る3町が臨時議会で可決した。
・小城郡(小城町、三日月町、牛津町、芦刈町)
この4地区で合計27市町村となり、合併すれば、これが4市に減り、県内は26市町村と半減することになる。
さらに6月に任意協議会を発足させたのは以下の4地区である。
・鳥栖市・三養基郡(基山町、中原町、上峰町、北茂安町、三根町)
・神埼郡(神埼町、千代田町、三田川町、東脊振村、脊振村、三瀬村)
・武雄市・山内町・鹿島市・藤津郡(嬉野町、塩田町、太良町)
・伊万里市・西松浦郡(有田町、西有田町)
これらの動きや枠組みに入らないのが多久市の1市のみである。
佐賀県内で現実に動き出している合併パターンごとに平成12年度会計決算の数値をもとに「類似団体別市町村財政指数表」を活用して行財政のシミュレーションを行い、シンポジウムなどで提起してきた。その中から、①都市と町村、②町村同士、の合併シミュレーションを報告する。
1. 資料の説明及び前提条件、注意事項など
(1) 使用する資料
使用する資料は、県内分が県内各自治体の「平成12年度決算状況(決算カード)」と「公共施設状況調」で県の市町村課(地方課)で入手できる。比較する類似団体の資料は、「類似団体別市町村財政指数表」で、平成12年度決算版が今年3月に発行されている。発行は財団法人「地方財務協会」で定価が5,524円(消費税別)である。各県の官報販売所で購入できる。
(2) 注意事項
① 合併後の自治体が類似団体指数表に該当しない場合が出てくる。その場合は、最も近い類似団体の指数を使用する。
② 指数表に選定されている団体数が少ない場合がある。指数は選定している団体の平均値であるので、あまり選定団体が少ないと参考にならない場合がある。
③ 今回のシミュレーションでは、次の数値は、人口1人当たり数値で比較している。人件費総額、公債費、地方税、地方譲与税、地方特例交付金。これらの「類似団体」欄には、類似団体の人口(住民基本台帳H13.3.31)に乗じた数値、「合併後団体人口」の欄は、合併後の人口(住民基本台帳H13.3.31)に乗じた数値である。
④ 職員数は、人口千人当たりの数値を使用している。佐賀県の場合は、県内3自治体を除いて消防は広域消防なので、職員数からは、消防職員数を除いて比較している。
⑤ 類似団体の「普通交付税」は類似団体の基準財政需要額から基準財政収入額を引いた数値を記載している。
⑥ 財政力指数の数値は、3年間の平均ではなく、その年度の数値を記載しており、正確には「財政力」である。
⑦ 佐賀の比較では、歳入総額、歳出総額、実質収支は項目をあげていないが、追加したほうが比較し易い。その他、人口1人当たりの地方債現在高や積立金現在高も比較するとおもしろい(参考表として追加している)。
2. 都市と町村の事例 ― 佐賀市と佐賀郡の7市町シミュレーション
都市と町村が合併した場合のシミュレーションとして、佐賀県中央部の佐賀市と佐賀郡6町(諸富町、川副町、東与賀町、久保田町、大和町、富士町)の事例を見る。この地域は、6月に法定協議会が発足した。報告は主に職員数や議員数、施設、地方交付税や合併特例債など財政上の課題について行う。
(1) 組織など
① 職員数(消防職員を除く)は、現在合計で1,727人となる。これを合併後の人口規模239,156人で類似団体と比べると、人口千人当り職員数では、1,507人となる。つまり、合併すれば220人程度職員を削減しても業務に支障はないということになる。特に本庁の職員数が類似団体より多くなり、合併後は、役場を支所として残すため、急激に職員の削減を行うことはできないが、10年以上かけて、類似団体並みに200人程度削減することを当局は考える。その分の人件費が削減できるとしても、住民サービスとの関連でサービスが低下しないかどうかの不安が残る。また、人口規模や面積が増えるため、施設の整備も必要となることが考えられ、その人員増も当然必要であり、これをどう調整していくかが課題である。
② 地方議会の地方議員実定数は、合計すると130人となる。合併後の人口規模では、2003年1月1日以降の法定定数で38人となるので、議員数は現在よりも最終的には92人減ることとなる。このことで歳費の節減ができる。
これを合併後に旧自治体の枠ごとに何人の新議員を選出できるのか予測したものが下記の表である。これは、前回の投票率を参考にして算出し、38人の議員定数で割り戻して予測した。
自治体名
|
有権者数
|
投票総数
|
新議員数
|
現議員数
|
佐 賀
市
|
128,442
|
91,425
|
25
|
36
|
諸 富
町
|
9,581
|
8,403
|
2
|
16
|
川 副
町
|
15,123
|
12,815
|
3~4
|
20
|
東与賀町
|
5,793
|
4,772
|
1
|
12
|
久保田町
|
6,155
|
5,443
|
1~2
|
12
|
大 和
町
|
17,298
|
13,441
|
4
|
20
|
富 士
町
|
4,137
|
3,800
|
1
|
14
|
合 計
|
186,529
|
140,099
|
38
|
130
|
このように、東与賀町、久保田町、富士町は、全員が同じ地域の候補者に投票したとしても、1人程度しか新議会へ送り出すことができなくなる。地方議員は、地域の利益代表者というものではないが、新しい自治体へ旧自治体の住民の意見が反映しにくくなるのではないかという住民感情や不安はなくならない。そのためには、旧自治体ごとの審議会の設置などが不可欠となる。
③ 一部事務組合(広域行政)については、消防、広域圏、介護保険、自治会館、市町村消防団員公務災害補償組合、市町村交通災害共済組合は、すべての市町が加盟をしているので、合併後自治体で再加入ということで対応できる。
町村職員退職手当組合については、合併後に市になるため脱退することになる。それまでに納付した負担金は事務費やすでに支払われた退職金などを差し引いて、還付される。還付金を新しい市でどのように処理するのかが課題となろう。
町村議会議員公務災害補償等組合と町村非常勤職員公務災害補償等組合については、脱退することになる。
火葬場については、1つにまとまるか、これまで通りでの配置となろう。
問題は、厚生福祉、塵芥処理、し尿処理、水道事業である。
厚生福祉では、大和町と富士町が共立病院を一部事務組合で設置している。合併すれば、一部事務組合は解散し、そのまま新しい自治体立の病院となるのが通常である。特に公的病院の配置を見ると、佐賀市内には県立病院、佐賀医科大学病院、国立病院、社会保険病院と4つが地域的にバランス良く配置されている。そこで中山間部の医療体制として公立病院として共立病院を存続させることが必要である。しかし、佐賀市は行政改革でかなりの業務を民間委託する方向性を打ち出しており、注意が必要である。
塵芥処理は、単独実施と一部事務組合に分かれている。川副東与賀清掃は同じ自治体となるので良いが、脊振塵芥と天山塵芥は佐賀地区以外の自治体と一部事務組合を構成しているため、調整が必要となる。佐賀市の単独実施に吸収された場合は、脱退した一部事務組合が運営上成り立つのかどうかが検討されないとならない。塵芥処理は、県段階で広域化計画が作成されているので、その計画の進行状況とも調整が必要となる。
同じようなことがし尿処理と水道事業に当てはまる。水道であれば給水計画の見直しなど十分な事前の調整が課題となる。
④ 施設関係については、そのまま継続されるものの、新たに設置あるいは、統廃合などが必要となるケースも考えられる。保育所数は類似団体と同じ程度であるが、幼稚園は倍以上になる。佐賀市では保育所の待機児童が存在し入所率も最終的には120%程度まで高まるため、今後は幼稚園から保育所への転換なども考えられる。小学校も再編成が起こるケースも出てくる。
また、公共下水道は、開始していない地区が多いが、合併すれば直ちに計画ができると言うものでもない。公共下水道には莫大な経費を必要とするため、合併しても慎重な対応が考えられる。
⑤ 公共的団体では、土地開発公社は佐賀市、川副町、富士町が設置しているが一本化される。しかし、それぞれの財政状況によって課題が出てくる可能性がある。社会福祉協議会はそのまま一本化される。
(2) 財政について
① 決算状況
2000年度決算で合計すると、歳入規模が約866億円、歳出規模が約848億円となり、佐賀市の財政規模の約1.5倍となる。実質収支は約11.1億円の黒字となる。基準財政収入額は、佐賀市の1.3倍、基準財政需要額は、1.6倍、標準財政規模は、1.6倍となる。普通交付税は、佐賀市の約2.2倍になり、交付税に依存する傾向が若干強くなる。
② 財政指標
財政力は、合併後は0.55となり佐賀市にとってみると財政力は弱まることになるが、佐賀郡6町にとってみると強まることになる。経常収支比率は、最高が富士町の88.5%、最低が久保田町の74.2%で合併後は81.6%となる。ほぼ現在の佐賀市と変わらない水準となる。公債費比率は、最高が大和町の20.2%、最低が久保田町の8.3%である。佐賀市が現在12.8%だから合併後も大きくは上昇しないだろう。起債制限比率は、最高は大和町の12.9%、最低は、久保田町の5.2%である。これは、合併後は10%を下回ると考えられるので現状では問題ではない。いずれも最低の久保田町にとってみるとかなり上昇することになるが、水準としては、大きな問題ではない。この数値は今後も上昇することが考えられるために、合併による数々の事業に起債をどの程度するのか十分に検討されないといけない。
地方債現残高は合併後に約863億円となり、歳入規模に匹敵する。それに対して積立金現在高は、約166億円となる。うち、財政調整基金と減債基金の合計は約72億円である。人口1人当たりの地方債現在高は、最高が富士町の976千円、最低は東与賀町の213千円であり、格差は4.6倍となる。これが、合併後は人口1人当たり361千円となる。東与賀町と久保田町にとってみるとかなり上昇することになる。人口1人当たりの積立金現在高は、最高が富士町の428千円、最低が大和町の26千円で格差は16.6倍にもなる。合併後は69.39千円となる。そのうち、財政調整基金と減債基金は、最高が富士町の280千円、最低が大和町の14千円で格差は20倍にもなる。合併後は30千円である。これらからすると、東与賀町、久保田町にとって見ると人口1人当たりの借金額は1.5倍以上に増え、貯金は半分程度に減ることになる。各自治体間での格差が大きいため、合併に至るまでの期間の財政運営についても、十分な協議が必要となる。
③ 類似団体との比較
類似団体との比較は、2000年度決算である。合併後の類似団体は都市型Ⅴ-3となる。これは、人口が23万人以上43万人未満で産業構造が第Ⅱ次、Ⅲ次が85%以上95%未満、Ⅲ次が55%以上の団体である。全国に7団体あり、すべて選定して財政指数を算出している。よってあくまでも7団体の平均数値であるので、そのことを考慮する必要がある。
基準財政収入額は、類似団体よりも約130億円程度少なく、基準財政需要額も約83億円少ない。人口1人当たりの基準財政収入額は、類似団体が122千円なのに対して当該団体は100千円である。つまり、財政力は類似団体と比べて弱い。人口1人当たりの基準財政需要額は、類似団体が171.8千円に対し、当該団体は180.9千円と多い。佐賀市以外は、人口が小規模団体の合計であるため需要額が多く算定されており、合併後は、類似団体の数値に近いものとなる。当該団体の人口に類似団体の人口1人当たり基準財政需要額を乗じると基準財政需要額は411億円となる。現在の基準財政需要額が433億円であるため、現在交付されている地方交付税は、少なくとも22億円程度削減される可能性が強い。削減率は11%となる。
財政力指数は類似団体が0.74で当該団体は0.55となり低くなる。類似団体より標準財政規模は13億円、経常一般財源は120億円、経常経費充当一般財源は60億円程度少ない。経常収支比率は、類似団体の75.3%に比べて81.6%と高くなる。
人件費総額は、人口1人当たりの額に当該団体の人口を乗じると類似団体と変わらない。地方税は類似団体の人口1人当たりの額に当該団体の人口を乗じると354億円となるが、80億円程度当該団体が少ない。地方債現在高と積立金現在高は、類似団体よりも少ない。
このように見てくると合併後の財政としては、類似団体よりも税収が少なく財政力としては弱いこと、経常収支比率が若干高いこと、地方交付税が22億円程度削減されることなどが課題として見えてくる。そこで、次に合併に伴う財政優遇措置との関連で財政全体を見てみる。
④ 財政優遇措置と今後の財政について
今回の市町村合併に関しては、これまでになく数々の財政優遇措置がつけられている。佐賀市と佐賀郡が合併した場合は、以下の通りの財政支援が受けられる。
・合併特例債関係(10年間)
事業費613.8億円(起債583.1億円、交付税措置408.2億円)
・合併市町村補助金(3年間) 10.2億円
・合併直後の臨時経費への交付税上乗せ(5年間) 29.4億円
・県からの合併市町村交付金(5年間) 10億円
【合計】 事業費663.4億円
(起債583.1億円、交付税・交付金457.8億円)
※このほかに「新たな特別交付税(3年間)」があるが、それを除いている。これは、10万人と10万人の合併で12億円、5万人と5万人の合併で9億円、1万人と1万人で6億円程度と言われている。
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以上の規模の事業ができ、交付税などで手厚く措置されていることになる。これ以外に大きいのが、地方交付税の特例措置で合併後10年間は合併前の自治体ごとに算定した交付税の合算額を下回らないようにし、その後5年間は激変緩和を行い、16年後に本来の算定額まで交付税を減らすというものである。
それでは、これらの地方財政支援措置を含めて総合的に合併後の財政を考えるとどうなるであろうか。上記の支援措置の内、今後返済が必要な合併特例債を中心に見る。これらの償還計画と交付税措置を予測したのが、別表である。合併特例債で事業費の95%をまかなうことができ、借入限度額の70%が交付税に参入されるとしても、30年間で713億円の返済が必要となり、うち215億円が一般財源から返済しなければならないことになる。しかも返済のピークは合併後14年から21年までであり、その期間は、地方交付税の特例措置が切れて、地方交付税が大幅に減額される時期と重なってしまう。佐賀地区で最低20億円程度は地方交付税が削減されると予測できる。そうなると合併後10年ほどは財政的にしのげるとしても、それ以降は、再び財政がひっ迫していく可能性がある。結果的に、財政の苦しさを10年後以降に先送りすることになりかねない。合併特例債の利用は慎重に行うことが求められる。また、合併しても合併しなくても、地方財政制度を大幅に改革し、国から地方へ税財源を大幅に移譲しなければ、財政的問題は解決しないのである。
⑤ 住民負担について見ると市町民税については、個人均等割に格差があり、現行は、佐賀市が2,500円、その他の町は2,000円である。合併すれば、人口規模から2,500円となり6町の住民にとってみると増税となる。4年間は不均一課税が認められているため、おそらく5年後に増税とするであろう。法人住民税関係でも佐賀市が制限税率まで徴収しており、その他の町は標準税率である。これも合併すれば、制限税率で徴収することになり、法人住民税も増税となる。これらの情報は住民に対して、あまり提供されておらず、十分な情報提供と説明が必要である。
⑥ その他、国民健康保険税、水道料金、下水道料金については、各市町で格差が大きい。住民負担の水準をどこに合わせるのかが大きな調整課題となる。給付水準は高いところに、負担水準は低いところにあわせると言われるが、そうなると財政負担はますます重たくなり、財政を圧迫することにもなりかねない。【資料参照】
3. 町村同士の事例 ― 神埼郡の6町村シミュレーション
町村同士が合併した場合のシミュレーションとして、佐賀市の東部に位置する神埼郡6町村(神埼町、千代田町、三田川町、東脊振村、脊振村、三瀬村)の事例を見る。
合併後は人口が51,474人となり、市に昇格する。類似団体は、都市型Ⅰ-2となる。以下、報告については、職員数、議員数、施設、地方交付税、合併特例債に絞って行う。
(1) 組織などについて
① 職員数(消防職員を除く)は、現在合計で491人となる。これを合併後の人口規模51,474人で類似団体と比べると、人口千人当り職員数では、422人となる。つまり、合併すれば70人程度職員を削減しても業務に支障はないということになる。削減率としては、町村同士の方が小さくなる。合併後は、10年以上かけて、類似団体並みに70人程度削減することを当局は考える。その分の人件費が削減できるとしても、住民サービスとの関連でサービスが低下しないかどうかの不安が残る。また、人口規模や面積が増えるため、施設の整備も必要となることが考えられ、その人員増も当然必要であり、これをどう調整していくかが課題である。
② 地方議会の地方議員実定数は、合計すると82人となる。合併後の人口規模では、2003年1月1日以降の法定定数で30人となるので、議員数は現在よりも最終的には52人減ることとなる。このことで歳費の節減ができる。
これを合併後に旧自治体の枠ごとに何人の新議員を選出できるのか予測したものが下記の表である。これは、前回の投票率を参考にして算出し、30人の議員定数で割り戻して予測した。
自治体名
|
有権者数
|
投票総数
|
新議員数
|
現議員数
|
神 埼
町
|
15,327
|
11,874
|
11
|
20
|
千代田町
|
9,808
|
8,582
|
8
|
16
|
三田川町
|
7,594
|
6,051
|
5~6
|
16
|
東脊振村
|
4,382
|
3,849
|
3~4
|
10
|
脊 振 村
|
1,609
|
1,540
|
1
|
10
|
三 瀬
村
|
1,391
|
1,350
|
1
|
10
|
合 計
|
40,111
|
33,246
|
30
|
82
|
このように、脊振村、三瀬村は、全員が同じ地域の候補者に投票したとしても、1人程度しか新議会へ送り出すことができなくなる。地方議員は、地域の利益代表者というものではないが、新しい自治体へ旧自治体の住民の意見が反映しにくくなるのではないかという住民感情や不安はなくならない。そのためには、旧自治体ごとの審議会の設置などが不可欠となる。
③ 施設関係については、そのまま継続されるものの、新たに設置あるいは、統廃合などが必要となるケースも考えられる。保育所数、幼稚園数は類似団体と同じ程度である。小学校も再編成が起こるケースも出てくる。
また、公共下水道は、開始していない地区が多いが、合併すれば直ちに計画ができると言うものでもない。公共下水道には莫大な経費を必要とするため、合併しても慎重な対応が考えられる。
(2) 財政について
① 類似団体との比較
類似団体との比較は、2000年度決算である。合併後の類似団体は都市型Ⅰ-2となる。これは、人口が3.5万人以上5.5万人未満で産業構造が第Ⅱ次、Ⅲ次が85%以上95%未満、Ⅲ次が55%未満の団体である。全国に58団体あり、うち57団体を選定して財政指数を算出している。
基準財政収入額は、類似団体よりも約1億円程度少ないぐらいで、ほとんど変わらない。基準財政需要額は、約41億円多い。これを人口1人当たりで見ると基準財政収入額は、類似団体が107.3千円なのに対して、当該団体は87.9千円である。つまり、財政力は類似団体と比べて弱い。人口1人当たりの基準財政需要額は、類似団体が191.7千円に対し、当該団体は241.0千円と多い。人口が小規模団体の合計であるため需要額が多く算定されており、合併後は、類似団体の数値に近いものとなる。当該団体の人口に類似団体の人口1人当たり基準財政需要額を乗じると基準財政需要額は98.7億円となる。現在の基準財政需要額が124億円であるため、現在交付されている地方交付税は、計算上25億円程度削減される可能性が強い。現在の地方交付税合計額から32%以上削減されることなる。都市と町村の合併のケースよりも町村同士の合併の方が地方交付税の削減率は、かなり高くなる。
財政力指数は類似団体が0.570で当該団体は0.365となり低くなる。もともとが財政力の小さい団体同士の合併であるから、当然ながら合併後も財政力は小さい。
② 財政優遇措置と今後の財政について
今回の市町村合併に関しては、これまでになく数々の財政優遇措置がつけられている。神埼郡が合併した場合は、以下の通りの財政支援が受けられる。
・合併特例債関係(10年間)
事業費302.2億円(起債287.1億円、交付税措置201億円)
・合併市町村補助金(3年間) 6億円
・合併直後の臨時経費への交付税上乗せ(5年間) 7.1億円
・県からの合併市町村交付金(5年間) 9億円
【合計】 事業費324.3億円
(起債287.1億円、交付税・交付金223.1億円)
※このほかに「新たな特別交付税(3年間)」があるが、それを除いている。これは、10万人と10万人の合併で12億円、5万人と5万人の合併で9億円、1万人と1万人で6億円程度と言われている。
|
以上の規模の事業ができ、交付税などで手厚く措置されていることになる。これ以外に大きいのが、地方交付税の特例措置で合併後10年間は合併前の自治体ごとに算定した交付税の合算額を下回らないようにし、その後5年間は激変緩和を行い、16年後に本来の算定額まで交付税を減らすというものである。
それでは、これらの地方財政支援措置を含めて総合的に合併後の財政を考えるとどうなるであろうか。上記の支援措置の内、今後返済が必要な合併特例債を中心に見る。これらの償還計画と交付税措置を予測したのが、別表である。合併特例債で事業費の95%をまかなうことができ、借入限度額の70%が交付税に参入されるとしても、30年間で351億円の返済が必要となり、うち113億円が一般財源から返済しなければならないことになる。しかも返済のピークは合併後14年から21年までであり、その期間は、地方交付税の特例措置が切れて、地方交付税が大幅に減額される時期と重なってしまう。神埼郡で最低25億円程度は地方交付税が削減されると予測できる。その率は、都市が入った合併ケースよりも大きく、財政に与える影響は大きい。【資料参照】
4. 佐賀県での合併特例債の規模
現在、法定協議会が設置された4地区で合併特例債の規模を見ると下記の通りである。
(単位:億円)
地 区 名
|
事業総額
|
合併特例債
|
償還金総額
|
交付税措置
|
地方負担額
|
佐賀地区
|
613.8
|
583.1
|
713.6
|
528.9
|
215.4
|
小 城 郡
|
239.2
|
227.3
|
278.1
|
199.6
|
90.5
|
唐津地区
|
612.2
|
581.6
|
711.7
|
522.4
|
220.0
|
杵 島 郡
|
366.2
|
347.9
|
425.7
|
305.5
|
138.5
|
合 計
|
1,831.4
|
1,739.9
|
2,129.1
|
1,556.4
|
664.4
|
注:事業総額には基金造成含む。交付税措置には、合併直後5年間の措置を含む。
上記以外で検討されている合併ケースでの合併特例債の規模は以下の通り。
地 区 名
|
事業総額
|
合併特例債
|
償還金総額
|
交付税措置
|
地方負担額
|
鳥栖地区
|
554.5
|
526.8
|
644.6
|
464.9
|
207.4
|
神 埼 郡
|
302.2
|
287.1
|
351.3
|
253.1
|
113.4
|
伊万里地区
|
274.0
|
260.3
|
318.5
|
229.3
|
102.9
|
武雄鹿島地区
|
627.9
|
596.5
|
729.9
|
525.0
|
236.4
|
合 計
|
1,758.6
|
1,670.7
|
2,044.3
|
1,472.3
|
660.1
|
仮に県内すべてで合併が成立するとすれば、総額は以下の通りとなる。
地区名
|
事業総額
|
合併特例債
|
償還金総額
|
交付税措置
|
地方負担額
|
8地区計
|
3,590.0
|
3,410.6
|
4,173.4
|
3,028.7
|
1,324.5
|
4地区だけが合併したばあいは、事業費は最大10年間で1,831億円となり、うち合併特例債は1,740億円が発行される。交付税措置は、30年間で1,556億円となり、単純平均すると毎年50億円程度となる。地方負担額は30年間で664億円となり、単純平均で毎年20億円程度が地方負担となる。
5. まとめ
以上のことから、類似団体との比較による合併シミュレーションで次のことが課題として提起できる。
(1) 合併後の職員数は、10~15%程度が削減される。傾向として、合併する町村数が多いほど、あるいは町村の人口数が少ないほど削減率が高い。
(2) 地方議員数は、3分の1から4分の1へ激減する。人口が5千人前後の町村からは新議員は1人程度しか選出できない。よって、地域審議会の設置は必要不可欠となる。
(3) 一部事務組合や施設などは、合併を契機に統廃合や民間委託などが打ち出される可能性がある。
(4) 財政的には、大きな格差がある中での合併となり、住民連帯の意識がつくれるかどうかが重要。
(5) 地方交付税は1割から3割程度削減される可能性が強い。
(6) 合併特例債を限度額まで借りると地方交付税の特例措置が切れる時期と償還ピーク時期が重なり、施設の維持管理費の増大も合わせて、財政危機に陥る可能性がある。合併特例債の利用は慎重に検討すべき。
(7) 住民税均等割は合併すれば町村住民は増税となる。
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