2024/11/01
自治研だからできる課題の乗り越え方
誰もが「いい仕事」をしたいと願う。日々の仕事を縛るものをどう越えるか。「はたらく」「つなぐ」「自治」をキーワードに、3人が熱く語り合った。
「働き方」研究家。自治労の集会には初登場。(有)リビングワールド代表。企業の伴走支援、ワークショップ開催、執筆などを手がける。
自治労東大阪執行委員。し尿収集の公共民間法人に勤務。防災士、防災トイレアドバイザー。日本トイレ研究所研究員。
立教大学准教授。専門は地方自治、特にごみ清掃。自らパッカー車、バキュームカーに乗り仕事を体験する「地べた系」研究者。
すべては「安心」のため
西村 前田さんの仕事における「挑戦」とは何ですか?
前田 「安心」ということです。「職場の安心」「地域の安心」です。入職したとき「ここは安心な環境じゃない」と感じました。パワハラが多かったのです。和ませようとロールケーキを手づくりして配って、笑われたり、蜂の防護服を自作したり。お客様の安心にもチャレンジしました。敬語を使えない職員ばかり。そこで利用者に「ご迷惑をおかけします」と声かけを1人で始めたら、周りの職員も真似し始めました。
西村 トイレは水洗化が進んで、いまやくみ取りは1%しか残っていない。でもタワーマンションなどにも水洗が使えない時に備えて地下にし尿を溜める仕組みが必要ですよね。
前田 問題は、それをくみ取る作業員がいないことです。どれだけのマンションにマンホールトイレがあるかのデータもない。私たちの協会が調査しているところです。「どうする、どうする」がたくさんある。私たちの協会では職員が講習会で話せるよう訓練し「次世代のくみ取り」を語ることで仕事を増やしています。
《境界線》を踏み出す
西村 「これが仕事です」の範囲を越えるのですね。
藤井 前田さんが本音で仕事に向かいあっているところに共感を覚えます。
西村 仕事の中で「これ、誰がやるんだろ」みたいな中間領域の仕事にはなかなか手が出ない。職域の《境界線》を出ることを、前田さんはやってきました。
藤井 私は大学の教員になる前は大学の事務職員で、入試問題の印刷をしていましたが、面白くない。そこで、入試問題の傾向を予備校で話すことを始めたら予備校には好評で、お呼びがかかるようになったんです。ところが、部下には付き合いきれないと不評でした。
前田 防災のことを始めたら、会社の全員と行政の担当者が反対しました。でも、災害時にもくみ取りに行けと言われる。知らないで行くのはやばいだろと、防災士とトイレアドバイザーの資格を取った。被災地の地域防災計画のデータを収集し情報共有する中で、行政の担当者とも信頼関係ができました。
藤井 公共部門の仕事の付加価値を作ることで民間委託を止めることができます。前田さんはし尿収集のノウハウを防災に生かし発展させています。
西村 人は、安心できる環境を半歩出たり戻ったりを繰り返すことで、安心できる領域を広げる、という考え方があります。関心を持って動くことで見えてくる領域があるのですね。
(機関紙じちろう2024年11月1日号より転載)