2023/02/20
自治労は2月にカスタマーハラスメント予防・対応マニュアルを発行した。作成に携わった専門家の一人、内藤忍さんに労働組合に求められる対応を聞いた。
内藤忍さん (独)労働政策研究・研修機構副主任研究員、専門分野は労働法。
約4分の3の職場でカスハラが発生。自治労調査2020年10月実施より。
自治労の調査では、迷惑行為や悪質クレーム(カスタマーハラスメント)が約4分の3の職場で発生し(上記グラフ)、カスハラを受けた職員の約3分の2が強いストレスを感じています。さらには休職に至るケースも報告されています。
被害者のケアは当然ですが、次の被害者を生まないための職場のサポート体制を整備することが必要です。過去の事例を生かすことに加え、予防も考えることができなければ解決にはつながりません。そのためには、職場全体として事案を把握するための中立的な相談窓口を設置し、相談を促すことが求められます。
労働組合は使用者に指針で示された対応(別記下線)を求める一方で、マニュアルで示した「カスハラに該当しうる例」を職員に周知し、受けた行為が「ハラスメント」と気付かせることが大切です。被害者からの相談を待つのではなく、職員の健康面のケアの一環として積極的に状況を把握することも欠かせません。また、一般的に「強い」と見られる男性の管理職は「男性のあるべき姿」にとらわれがちな傾向があり、そのため、かえって被害を相談しにくい現実があることも押さえておく必要があります。
別記 自治労「カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル(2023年2月)」より抜粋
●自治労のカスタマーハラスメントの定義
「公共サービスの利用者等(労使以外の第三者)による必要かつ相当な範囲を超える言動によって、労働者の就業環境が害されること」
※「公共サービスの利用者等」には、地域住民をはじめ各種議員や他の行政機関、取引先企業などすべての第三者を含む。第三者とは、職員がその仕事の一環として関わりをもつが、職員と同じ使用者に雇われていない者をさす。
●カスタマーハラスメントの法的位置づけ
パワーハラスメント防止を義務付けた改正労働施策総合推進法(2019年)の附帯決議の中で、カスハラの防止にむけた必要な措置が盛り込まれた。これを踏まえ厚生労働省が作成した指針に事業主に求められる望ましい取り組み事例(相談窓口の設置・周知、相談等を理由とした不利益取り扱いの禁止、被害者への配慮の取り組み、マニュアルの作成や研修の実施など)が示されている。
信頼感の醸成と住民への発信
相談窓口の設置は重要ですが、厚生労働省の調査によるとカスハラを受けた後に「何もしなかった」との回答者は24・3%と、かなりの割合でいます。「何もしなかった理由」としては「何をしても解決にならないと思ったから」が57・4%と最も高くなっています。
あらゆるハラスメントに言えることですが、過去に相談された案件は相談者のプライバシーを守った上で、適切に対応されたことが見えるようにして、あらかじめ職員の信頼を得ておかなければなりません。
公共サービスの現場では民間と比べて毅然とした態度を取ることが難しいことでしょう。自治体は住民に対して「公共サービスを適切に届けるために職員をハラスメントから守っている」というメッセージを発信し、予防への理解も得ていくべきです。